カフェを出たあとは、リョウがよく利用する古着屋に向かうことになった。古着屋に向かう道中先頭を歩いていたリョウが口を開いた。
「これから行く古着屋は、この辺りでは一番大きいし、いろいろ揃うはず」
「古着か~けど、古着とかって有紗ちゃんには縁遠いものみたいな感じがするよね」
リョウの言葉に虹夏が有紗に視線を動かしつつ呟く。言うまでもなく有紗はお嬢様であり、中古の品を購入するというイメージは結びつきにくい。
そんな虹夏の言葉に、有紗は苦笑を浮かべつつ軽く首を横に振る。
「そんなことはありませんよ。必ずしも新品が優れているというわけではありません。特に衣服などで言えば、古着だからこそ出る味というものもあります。それに、普通に服を買いに行くのですと、どうしてもある程度好みの関係で似た形式の服が多くなりますし、古着屋などで普段なかなか自分では買いに行くことがない系統の服などに出会えるかもしれないのは、ワクワクしますね」
「……この、お嬢様。相当分かってる」
穏やかに告げる有紗の言葉を聞いて、リョウが感心したように頷き、虹夏もどこか楽し気に笑顔を浮かべた。
「有紗ちゃんって、もの凄いお嬢様だけど、なんていうかこういう庶民的な話にもお世辞とかじゃなくて、ちゃんと理解を示してくれるから取っつきやすいんだよね~ぼっちちゃんがメロメロになるのもわかるなぁ」
「めっ、メロメロになんてなって……なっ、ない……と、思い……ます」
虹夏の言葉に顔を赤くして反論しようとしたひとりではあったが、その途中で迷う様な表情を浮かべて言葉も尻すぼみになっていった。
(……いや、でも、その恋愛的な意味じゃなくて、友達としてとかって話なら……有紗ちゃんのことが大好きなのは間違いない。有紗ちゃんは優しいし、頼りになるし、言いきれないぐらい素敵なところがいっぱいだし、そりゃ好きに決まってる……その上で、友達、そう! あくまで友達として、有紗ちゃんの人間的な魅力にメロメロかって言われたら……メロメロと言える気も……)
有紗のいろいろな部分が好きなのは間違いないため、完全に否定しきることもできずひとりは困った表情を浮かべて言葉を探していたが、その様子にツッコミが入るより早く有紗がどこか誇らしげに口を開いた。
「私の方は、ひとりさんにメロメロですけどね」
「堂々としてる。どこか誇らしげですらあるよ……流石有紗ちゃん、強い」
あまりにも堂々とした物言いに、虹夏も思わず気圧されてしまった。そして有紗は、ひとりの方を向いて軽くウインクをする。
「そして、私もひとりさんを愛する者として、今後ひとりさんをメロメロにできるように日々努力を重ねていくつもりです。というわけで、ひとりさん。今後も、どんどんアプローチしていきますね」
「あぇ!? あっ、えっと……おっ、お手柔らかに……」
「無理です。この溢れる愛を抑えることはできないので、基本的に全力で参ります」
「即答!? あっ、あの、本当に私の心臓が持たないことも多くてですね……」
「とりあえず、第一歩として腕を組んで歩きましょう!」
「……あっ、駄目だ。話聞いてくれないモードに入っちゃった。あの、皆さ――いつの間にあんなに遠くにっ!?」
有紗が行動力MAXモードとも言うべき状態になったことを察したひとりは、虹夏たちに助けを求めようとしたが、虹夏たちは既にかなり離れた場所まで早足で移動していた。
そして、振り返って少し大きな声で告げる。
「……じゃあ、私たち先に古着屋行っておくから、存分にいちゃついて、落ち着いてから来てね~」
「あっ、ちょっ、虹夏ちゃん――わひゃっ!? あっ、有紗ちゃん!? 相変わらず行動力が……」
虹夏の言葉に唖然としていたひとりだったが、直後に有紗に腕を取られて手を組む形になった。普段から、よく手を繋いだりはしているものの、腕を組むとなると思っていた以上に距離が近く密着具合が上がるため、ひとりは恥ずかし気に顔を染める。
しかし、それでも、拒否したり腕を振りほどこうとしない辺り、なんだかんだで受け入れている感じはあった。
「なんだか、新鮮な感じですね」
「こっ、これは、流石に恥ずかしいですよ……え? ほっ、本当にこのままいくんですか?」
「ひとりさんが嫌なのでしたら、止めますが……」
「うぐっ、そっ、その言い方は卑怯です。本当に……うぅぅ、ふっ、古着屋までですからね!」
「はい。ありがとうございます、ひとりさん」
「うぅ、そんな眩しい笑顔をされると、文句も言えないです」
心の底から喜んでいる様子で、嬉しそうに笑う有紗を見て、ひとりは「しょうがないなぁ」と言いたげな表情で苦笑を浮かべたあと、有紗の要望通り腕を組んだまま歩いて古着屋へ向かった。
****
有紗とひとりがやや遅れて古着屋に入ると、丁度虹夏と喜多の服を古着屋に慣れているリョウが選んでいるところだった。
「あ、ふたりとも来たね。いまリョウに古着コーデを教わってたところだよ」
「リョウ先輩、凄く詳しいのよ」
「なるほど、それは頼もしいですね。私も是非アドバイスを貰いたいものです」
「……いや、有紗は正直何着ても似合うと……あっ、そうだ」
有紗の言葉に返答している途中で、リョウはなにかを思いついた様子で古着を漁り始めた。その行動に残る4人が首を傾げていると、少ししてリョウは一着の服を手に戻って来た。
「……有紗、勝負。流石に、これなら無理なはず」
そう言ってリョウが掲げたのはTシャツだった。謎の英字フォントが散りばめられ、正面には黄金の骸骨が描かれており、ところどころに謎の鎖の装飾が付いている思春期の中学生が好みそうなデザインだった。
自信満々に掲げるそのTシャツを見て、ひとりは目を輝かせた。
(え? かっ、カッコいい……いいなぁ、アレ、買いたいなぁ。破壊的なデザインが最高にバンドマンって感じで、凄くイケてる!)
そのTシャツはひとりの好みにはガッチリ合っていた。黄金の骸骨も含めて非常にカッコよく映っていたのだが……。
「ちょっ、リョウ。どこで、そんなクソダサTシャツ見つけてきたの、酷すぎて面白いぐらいなんだけど」
「さすがに、これは有紗ちゃんでも着こなせないですよね。骸骨の主張が凄い……」
「こういうダサさが極まった服を、一度有紗に着てもらいたい」
どこか楽し気に話す虹夏たちの言葉を聞き、ひとりはショックを受けたような表情を浮かべていた。
(え? クソダサ? ダサさが極まった? ……あっ、あれぇ? だ、駄目かなあのデザイン……かっ、買うのは止めておこう)
ある意味ではここであまりの周囲の低評価を知ったことで、衝動的にあのTシャツを買うことを諦められたのは、ひとりにとっては幸福なことだったかもしれない。
リョウの持って来たTシャツを受け取りつつ、有紗は苦笑を浮かべて口を開く。
「では、せっかくリョウさんが持って来てくれたんですし、試着してみましょうか。これなら下はデニム系が合いそうですね」
「有紗は結構ノリがいいから好き」
ひとりを除き全員一致でダサいという評価が下ったTシャツを試着してみるという有紗。あくまでダサいと分かった上で、それを有紗が着ればどんな感じになるかという興味によるものだが、比較的ノリのいい有紗はそれに応じてズボンなどを選んだあとで試着室に入った。
「……こんな感じですかね?」
そして、試着室から出てきた有紗を見て虹夏、喜多、リョウの3人は戸惑ったような表情を浮かべる。有紗が着ているのは確かに先ほどリョウが渡したTシャツだ。下に少しダメージの入ったジーンズを履き、髪は服装に合わせてショートポニーにしているのだが……。
「……あの……なんか、カッコよく見えません?」
「……見える。あれ? なんで? さっき、Tシャツ単品で見た時はあんなにダサかったのに、有紗ちゃんが着ると絶妙な抜け感があって、これはこれでカッコよく見えてくる」
「……有紗、チートキャラ過ぎるだろ。それを着こなされたら、もう何も言えなくなる」
明らかにダサいTシャツだったはずが、有紗が着ると不思議と「これはこれでアリ、いや、結構カッコいいかも」という雰囲気になっており、予想と違った展開に戸惑っていた。
「あっ、たっ、たぶんですけど……有紗ちゃん、背も高めで手足が長いですし、プロポーションも抜群で姿勢もいいからじゃないですか?」
「ああ、なんか、モデルが着てる時にはカッコよく見えるのに、自分で着てみると微妙な感じになるアレだね」
「あっ、そっ、そんな感じです。なので、有紗ちゃんはなに着ても可愛いですし、カッコいいんですよ」
「う~ん。凄く納得した。本人のスペックが高すぎて、服のオシャレ度も上がってるんだね」
ひとりの言葉に虹夏がしみじみと納得した様子で頷いた。
有紗のスペックの高さを再実感したあとは、改めて古着を選ぶ先ほどまでと同じく虹夏と喜多に対してはリョウが、ひとりに対しては有紗が服を選んでいた。
「……迷いますね。ひとりさんの愛らしさであれば、どれを着ても最高に可愛いとは思うのですが……」
「いっ、いや、だから、有紗ちゃんは大げさすぎますって……あっ、このズボンはちょっといいかも……」
「それに合わせるなら、他はシンプルな方がいいかもしれませんね。上は無地かワンポイントぐらいが……一度試着してみませんか?」
「あっ、はい。そうですね。買うかどうかはともかく、試着ぐらいならいくらでも……」
「いくらでも?」
「あっ、うっ、嘘です。なんかいま、ものすごい数の服を持ってくる有紗ちゃんが見えた気がしたので、やっぱそこそこで……」
有紗としてはいろいろな服装のひとりを見たいという思いがあるし、ひとりも有紗が選んだ服であれば試着することに抵抗はなく、他の人に見せるのならともかく有紗相手にだけ見せるのなら恥ずかしさもさほどない。
ただ、ある程度制限を付けなければ本当に有紗はどれだけの服を持ってくるか分からないので、そこはしっかり釘を刺しておくことにした。
悩ましそうにひとりに試着してもらう服を選ぶ有紗を見て、ひとりはどこか楽し気に苦笑を浮かべていた。
時花有紗:相変わらずチートスペックなため、基本どんな服を着ても似合う。ただ本人は自分の服よりも、ひとりに着てもらいたい服を選ぶのに忙しそうである。
後藤ひとり:相変わらずのいちゃつき具合。メロメロであることは正直強く否定できない……普段から練習後にデートとかしてるので、下北沢ではそこそこ知られてそうな気もする。