ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十五手魅惑のレディスーツ~sideA~

 

 

 ひとりさんの言葉からの推測にはなりますが、ひとりさんは私の夢を見た結果、夢の中の私の強引なアプローチを思い出して恥ずかしくなってしまったという感じですね。

 夢の中の私がなにをしたのかは非常に気になりますし、夢の中の自分に負けているのもアレなので、可能なら夢を越えるアプローチをしたいものですが……まぁ、ひとりさんとしては触れてほしくない話題でしょうし、無理に聞きだしたりする必要も無いでしょう。

 

 あと、恥ずかしがってはいるものの、別にひとりさんは私を避けたりしているわけでもなく、休憩時間になると私の傍に来てくれました。

 若干気にしているのか、挙動がおかしい部分はありますが、私が特に夢の話題に触れないと分かると少しほっとした表情を浮かべてくれていて、アルバイトが終わるころにはほぼ普段通りに会話ができるようになっていました。

 

「それじゃ、皆お疲れ。虹夏、今日はスタジオ使うのか?」

「う~ん、明日も休みだし軽く練習したいんだけど……皆は?」

「私は大丈夫ですよ!」

「右に同じ」

「あっ、わっ、私も30分ぐらいなら大丈夫です」

 

 やはりというか、閉店後に軽く練習をする流れになるようでした。家の距離が遠いひとりさんは、終電の時間を確認していました。

 まぁ、ひとりさんが終電に乗り遅れた場合は私が送るので問題はありませんが……むしろ、追加でしばらくひとりさんと一緒に居られるので喜ばしくもあります。

 

 皆さんの練習風景を見学して、虹夏さんが宣言した通り30分で練習は終了となりました。ただ、そのあとで片づけをしながら、明日の予定について話すことになりました。

 

「明日は、いまあるオリジナル曲の最後の1曲、あのバンドのMV撮影だよ~」

「今回は有紗ちゃん主体で、私たちは演奏メインでしたよね?」

「うん。カッコいい路線で行く予定だからね」

「有紗は、スーツよろしくね」

「ええ、もう用意してあるので大丈夫ですよ」

「あっ、有紗ちゃんのスーツ!?」

『うん?』

 

 明日撮影する予定のMVで、カッコいい路線で行くということもあってスーツをレンタルして皆で着用するという話になっています。

 当然ひとりさんもその打ち合わせは把握しているはずなのですが、なぜか非常に驚いたような表情を浮かべていました。

 

「え? ぼっちちゃんにも伝えたよね?」

「あっ、そっ、そうですね……はい。だっ、大丈夫です。全然気にしてないですし、意識してないですし、恥ずかしくもないです」

「……ん~」

 

 目線を泳がせながら少し顔を赤くして告げるひとりさんを見て、虹夏さんは少し考えるような表情を浮かべたあとで、面白いものを見つけた猫のような表情を浮かべました。

 そして、心底楽し気に笑顔を浮かべながら、ひとりさんに話しかけます。

 

「ぼっちちゃ~ん。なんで、有紗ちゃんのスーツ姿にそんなに反応してるのか……聞 き た い な」

「……あっ、いっ、いや、それはその……なんでもなくてですね」

「なんでもないって顔してない」

「分かりやすすぎますね」

 

 ひとりさんの反応はなんでもないという感じではなく、明らかになにかしらを意識している様子でした。流石の私も、ひとりさんがどんな夢を見ていたかまではわかりませんね。

 ただまぁ、明らかに困っている様子のひとりさんを放置するわけにも行きません。もちろん私も夢の内容は気になるところですが、それ以上に優先すべきものがあるのです。

 

「皆さん、脱線はその辺りにしておきませんか? これ以上時間をかけると、ひとりさんが電車に乗り遅れてしまいますよ」

「あっ、有紗ちゃん……」

「う、確かにそれはまずいね……じゃ、話を戻して、明日は10時にSTARRY集合だからね。遅れないようにね、リョウ!」

「なんで私だけ名指しなのか、解せぬ」

 

 今回はそもそも時間が遅かったこともあり、ひとりさんの終電を理由にすることで簡単に話を終わらせることができました。

 そのまま手早く片付け終え、私はひとりさんと一緒にSTARRYを出て駅に向かって歩きます。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん……ありがとうございます、助けてくれて……あっ、あの、有紗ちゃんは、気にならないんですか?」

「気にならないと言えば嘘になりますが、無理に聞くつもりは無いです。まぁ、一点だけ……夢の中の私はどんなアプローチをしたのかというのは、知りたいところではありますね」

「あぇ? そっ、そそ、それは……えっと……」

「現実の私が夢の中の私に負けるのも癪なので、そこは夢以上のアプローチをしたいところですしね」

「そっ、それは絶対だめです! アレ以上とか、とんでもないことになっちゃいますから!」

「……そこまで言われると、本当に夢の私がなにをしたのか気になってきますね」

 

 慌てた様子で顔を赤くするひとりさんを見て、私は思わず苦笑を浮かべます、気になるというのは本心ではありますが、無理をして知る必要も無いと思います。夢は夢、現実は現実です。

 そんな風に考えつつ、私は慌てるひとりさんの手を握って微笑みます。

 

「ひとりさん、気にしなくて大丈夫ですよ。本当に無理に聞く気も無いですし……私個人としては、さして気にする必要のないことです」

「……あっ、そっ、そうなんですか?」

「はい。あくまで夢は夢です。現実の私は、私らしいペースでひとりさんにアプローチしていきますからね。気にせずとも、夢の私はいずれ越えられるでしょう」

「……ぷっ、はは……なんか、凄く有紗ちゃんらしいですね」

 

 私の言葉を聞いてひとりさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたあとで、苦笑を浮かべました。同時に、先ほどまでの緊張した雰囲気が和らぎ、肩から少し力が抜けたように感じられました。

 

「緊張が解けたようで、よかったです」

「うっ、やっ、やっぱりちょっと変に意識してましたね。けど、有紗ちゃんがいつも通りだったおかげで、なんか安心しました」

 

 ホッとした表情を浮かべたひとりさんは、私の手を握り返し笑顔を浮かべてくれました。やはり、ひとりさんには笑顔が似合いますね。アレコレと考え込んでいるよりも、いまの様子の方がずっと素敵です。

 そのまま、駅に向かって歩いているとふとひとりさんが小さな声で呟きました。

 

「……あっ、でも、今日は私が変に挙動不審だったせいで、有紗ちゃんとあまり話せなかったのは残念ですね」

「そうですね。私も少し惜しくは……」

 

 その言葉を聞いてふと思いつきました。別に必ずしも電車で帰る必要はない筈です。車で送ったとしても、ひとりさんの家に着くまでの時間はそれほど大きな差があるわけではありません。

 であれば、別に車で送ってもいいのではないでしょうか?

 

「ひとりさん、提案なんですか……私もひとりさんともう少し話がしたいので、車で送らさせていただけませんか?」

「え? あっ、わっ、私は、嬉しいですけど……いいんですか?」

「はい。ついでになにか軽く食べられるものでも買って行きましょうか? 車内で食べられるので……」

「あっ、そうですね。お腹もちょっと空いてますし……」

 

 アルバイトから練習とそれなりの時間が経っているのでお腹も空いているでしょうし、ひとりさんの家まではそれなりに時間がかかるので、近くのコンビニで軽食と飲み物購入してから私が呼んだ車にふたりで乗ります。

 なんだかんだで、こうしてふたりで車に乗ることも多いので、ひとりさんも私の送迎用車には比較的慣れた印象です。

 

「あっ、そういえば、明日のMV撮影、私もスーツなんですよね?」

「そうですね。全員スーツでの演奏になりますね。まぁ、音は別撮りではありますけど、普段と服装が違うので動きにくさに注意ですね。ただ、ひとりさんのスーツ姿は素敵そうなので、早く見てみたいという気持ちはあります」

 

 ひとりさんは普段は基本的にジャージなので、少し緩めの服装といった印象です。もちろんそれも最高に可愛らしいですし、ひとりさんの魅力がこれでもかというほどに詰まってはいますが、スーツのようなキッチリとした服はそれはそれで違う魅力があるものです。

 特に今回レンタルするのはパンツスタイルのスーツなので、ビシッとしたカッコいいひとりさんが見れるかもしれないと、いまから楽しみです。

 

「そっ、それをいったら有紗ちゃんの方が似合うと思います。夢で見た時もカッコよかったですし……」

「うん? 夢の中では、私はスーツを着ていたのですか?」

「え? あっ、そっ、そうですね。スーツ姿でした。たっ、たぶん、寝る前に見た映画の影響かなぁって思います」

「映画ですか、いいですね。どんな映画を見たんですか?」

「あっ、えっと、Aちゃんから借りた映画で……」

 

 とりあえず夢の話題に深く触れてしまうと、先ほどまでのようにひとりさんが緊張してしまう可能性もありますので、そちらはサラッと流して映画についての話をしていくことにしました。

 以前ひとりさんと見に行った映画も楽しかったです。隣にひとりさんが居ると思うと、普段以上に映画が面白く感じましたし、見終わったあとに感想を言い合ったりするのも楽しい時間でした。

 なんと表現するべきか……そう、同じ経験を共有しているのが嬉しいというか、そういう感覚です。

 

「……面白そうな映画ですね。私も見たことが無いので、また今度見てみましょう」

「あっ、はい。結構面白かったです」

「それとは関係なく、またふたりで映画館にも行きたいですね」

「あっ、そうですね。前に行った時は楽しかったです。なっ、なんていうか、映画を見ている時間もそうですけど、見終わったあとに感想を言い合ったりするのが凄く楽しかったです」

「そうですね。私も凄く楽しかったですし、また行きましょう。映画を見終わったあとに近くのカフェで見た映画の話をしつつのんびり過ごすというのは、素敵ですよね」

「あっ、はい。楽しそうです」

 

 ひとりさんも私と同じことを楽しいと感じていてくれたみたいで、とても嬉しいです。それに、ひとりさんも乗り気な様子だったので、また今度誘って一緒に映画を見に行くことにしましょう。

 今度は、ひとりさんの家からある程度近い横浜の映画館に行ってみるのもいいかもしれませんね。合わせて近場を散策しつつデートなどが出来れば素晴らしいです。

 

 そしてまだ、構想の段階ではありますが、出来れば夏休みにはまた、ひとりさんと一緒にどこかに旅行にでも行けたらいいなぁとそんな風に思います。夏の時期ですし、涼し目な軽井沢や北海道がいいでしょうか……軽井沢にはそれなりに伝手もあるので、宿の確保なども容易ですし……予定も含めて、いろいろ考えてみましょう。

 

 

 




時花有紗:基本的にぼっちちゃん第一なので、アレコレ詮索したりはしないが、夢の中の己にはちょっと対抗心を燃やしていた。ひとりとの楽しい夏休みに向けて、今からいろいろ考えている。

後藤ひとり:夢で見た有紗のスーツ姿を見ることになりそう。果たして冷静でいられるのか……それはそれとして、緊張したり挙動不審ではあっても、別に有紗を避けたりするわけでは無く普通に休憩時間とかも有紗の傍に居た。

伊地知虹夏:たまにはキツネ顔じゃなくてネコ顔もする。有紗関連だと、ぼっちちゃんが割と素顔に可愛い反応を見せてくれるので、たびたび揶揄ってはいる。
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