ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六手塵殺の七者面談~sideB~

 

 

 伊地知星歌が店長を務める下北沢のライブハウスSTARRY……そこでは、有紗とひとりを除いた結束バンドの面々、星歌とPAが向かい合うようにして座っており、有紗は明るい笑顔を浮かべながら口を開いた。

 

「初めまして、時花有紗と申します。今回は、ご招待いただきありがとうございます」

『……』

 

 そんな有紗の姿を見て、星歌たちはなんとも言えない表情を浮かべ……少しして星歌が、手をTの形にした。

 

「……すまん、少しタイムで」

「はい?」

 

 首を傾げる有紗とひとりをテーブルに残し、残る5人は離れた場所で小声で言葉を交わす。共通しているのは誰の顔にも多かれ少なかれ動揺の色が現れていることだった。

 

「……おい、予想外なんだが……もっとこう、地雷系とか見るからにメンヘラとか、そういうヤバ目なのが来ると思ってたら……キラッキラのお嬢様が来たんだけど!?」

「あ、あれ、聖真女学院の制服ですよ……超が付くお嬢様学校じゃないですか……」

 

 そもそも彼女たちの認識としては、ひとりを言いくるめて付き纏うストーカーを牽制するために呼び出したという側面が強く。当然なにか拗らせたような相手が来るとばかり思っていたのだが、来たのは暗さや陰湿さとは無縁の輝かんばかりのお嬢様であった。

 予想外の事態に動揺する星歌に、喜多も同じく驚いた様子で呟く。

 

「……金持ちオーラが凄い。たぶん、ウチと比べても5つはランクが違う」

「いや、リョウの感想はなんかズレてる気が……って、PAさん、大丈夫? 顔真っ青ですよ?」

 

 どこかズレたことを呟くリョウに虹夏がツッコミを入れるが、そこでふとPAが青ざめた表情で震えているのが目に付いた。他の面々も虹夏の言葉でPAの様子に気付き、視線を向ける。

 

「し、信じられません……そんな、馬鹿な……」

「な、なんだ? お前、もしかしてアイツのことを知ってるのか?」

 

 ガタガタと震えながら戦慄した様子で呟くPAを見て、ただ事ではないと感じながら星歌が問いかける。もしかして、自分たちはとんでもない相手と対峙しているのではないだろうかと、そんな予感を抱きながら……。

 その言葉に対し、PAは少し間を開けてから……呟くように告げた。

 

「……し、信じられません。あ、あの子……メイクしてる形跡が全然ないんですけど……う、嘘ですよね? さすがに、ナチュラルメイクぐらいしてますよね? あの美貌と肌艶でノーメイクとか言われたら、私、平静を保てる自信がないんですが……駄目なんですか? 所詮凡人が毎日美容に何時間かけたところで、ナチュラルボーン美少女には敵わないってことなんですかっ……」

「いや、お前はひとりだけなにと戦ってるんだ……」

 

 まったく関係のないところで勝手に戦って敗北感を感じているだけだったPAに、星歌は心配して損したと言わんばかりの目を向けたあとで、軽くため息を吐く。

 

「……はぁ、とりあえず、予想外ではあったが、私たちがやることは変わらない。アイツから話を聞いて、ヤバそうならしっかり釘を刺す……それだけだ」

 

 PAが変な動揺をしていたおかげで逆に冷静になった星歌は、話を纏めて再びテーブルに戻って有紗に声をかけた。

 

「ああ、悪かった。私は伊地知星歌。ここの店長をしている。今日は急に呼び出して、すまないな」

「いえ、お気になさらず。ひとりさんからお話は聞いていましたし、是非結束バンドの方々ともお会いしたいと思っていました。今回お呼びいただいた目的としては、顔合わせのようなものと考えてよろしいでしょうか?」

「ああ、まぁ、それもあるけど……ちょっと確認したいことがあってな。まぁ、とりあえず他の奴らの自己紹介が終わってからだ」

 

 星歌がそう言った後、結束バンドのメンバーやPAも軽く自己紹介を行う。それがひと段落したあとで、有紗は不思議そうな表情を浮かべつつ、星歌に尋ねた。

 

「……それで、えっと……星歌さんと呼ばせていただいても?」

「ああ、かまわない」

「では、星歌さんが確認したいことというのは?」

「……ぼっちちゃんからいろいろ話を聞いてな。ちょっと気になったんだが……お前がぼっちちゃんのことを、いろいろ調べ回ったり、コソコソと付け回したりしてるんじゃないかって、そう思って確認のために呼んだんだよ」

 

 表情を鋭くして本題を切り出す星歌……彼女はまずはこの発言で有紗の出方を見極めようと考えた。つまり、有紗の行動が悪意無き無自覚なものか、ストーカー行為と分かった上で行っている悪意ある行為なのかを見極めるつもりだった。

 ……なお、星歌の発言に一番驚愕していたのは他ならぬひとりであり、頭に大量のハテナマークを浮かべていた。

 有紗は星歌の言葉を聞いて冷静に、彼女がひとりを心配し、己のなにかを疑った上で発言していることを察し……強い光の宿った目で言葉を返す。

 

「なるほど、お話の趣旨は分かりました。その上で発言させていただきます……見くびらないで頂きたい」

「う、うん?」

「確かに私はひとりさんの日々の行動をメモしたり、家でノートに纏めたりしていますが……ひとりさんの周囲に聞き込みしたり、ましてや興信所等を利用したりなどという姑息な真似は一切していません。全て、ひとりさんに直接聞いた上でメモしています!」

「……お、おぅ……えと、ぼっちちゃん? そうなの?」

「あっ、えっと……その日なにしてたとかは、よくロインで聞かれます」

 

 まず、有紗はひとりのことを調べ回る云々に関して、否定はしなかった……ただ、内容的には星歌が危惧していたようなものではなく、ひとりに直接聞くという正面突破をして得た情報ではあった。

 そして、有紗は迫真の表情のままでさらに言葉を続ける。

 

「そして、ひとりさんをコソコソ付け回すような真似も否定させていただきます。私のひとりさんに対する愛に、一片たりと疚しさなどありません! 私がひとりさんを付け回すのであれば、本人に宣言した上で正面から付き纏います!!」

「…………あ、はい」

 

 それは、まさに裂帛の気合と呼べるような迫力であり、清々しいほどの潔さだった。一回り以上年上である星歌も思わず気圧されて頷いてしまうほどには、有紗の放つ気配は凄まじかった。

 なお、ひとりはもう慣れたのか「いつも通りの有紗ちゃんだ」と言いたげな様子で遠い目をしていた。

 二の句が継げられなくなってしまった星歌を見て、喜多がやや緊張した様子で有紗に問いかける。

 

「……えっと、時花さんの気持ちはよく分かったんだけど……もし、ですよ? もし、そのアプローチで後藤さんが迷惑していたりしたら……」

「それは由々しき事態だと思います。ひとりさん、その場合は遠慮せずにお伝えくださいね。アプローチの方法を変えますので」

「あっ、はい……アプローチを止めるとは言わないのが、すごく有紗ちゃんらしいです」

 

 喜多の言葉にも一切動揺することなく即座に切り返す有紗……その堂々とした様子に動揺している者は多いが、ひとりはさして気にしていない。いつものことである。

 なにせ有紗は、初対面のひとりの家族に対して、ひとりの未来の妻ですと堂々と宣言するほどに強メンタルである。あの程度の発言で動揺するとは思えない。

 

(けど、それはそれとして……皆、なんか変というか……これ、一体どういう状況?)

 

 ひとりの認識としては、友達をバンドメンバーに紹介する程度だったため、ハッキリ言って現在の状況についていけていない。しかし、ひとりの思考が纏まるのを待つことは無く話は進み、次は虹夏が真剣な表情で問いかける。

 

「……じゃあさ、聞いていいかな? もし、そのアプローチの結果、ぼっちちゃんに嫌われたりしたら、どうするの?」

「そうですね。その時は仕方がありません。明日以降の私を好きになってもらえるように鋭意努力します」

「……あ、そ、そうなんだ……」

 

 欠片も揺らぐことなく言葉を返す有紗に、虹夏もそれ以上はなにも言えずに沈黙する。するとそのタイミングで、黙り込んでいた星歌が回復し……再び手をTの形にした。

 

「……すまん、もう一度タイムだ」

 

 そう告げて先ほどと同じようにひとりと有紗をテーブルに残し、5人は離れた場所に移動して言葉を交わす。

 

「……強いんだけど……見た目に合わず、猛将みたいなメンタルしてるんだけど……」

「言ってること、全部正面突破でしたねぇ……」

「呂布だ……呂布が居る」

 

 圧倒的なほどに強メンタルの有紗に対し、星歌はもうどうすればいいか分からなくなっていた。ともかくメンタルが強い上に、行動がどれも正面突破のみという猪突猛進さ、下手にコソコソやる相手よりよっぽど性質が悪い。

 星歌の言葉を聞いたPAとリョウも神妙な顔で頷き、虹夏も不安げな表情を浮かべるが、その中で喜多だけは、なにかを考えるような表情を浮かべ、少しして呟いた。

 

「……あの、思ったんですけど……これ、そもそもなんか根本的な部分に誤解が無いですか?」

「うん? どういうこと、喜多ちゃん?」

「いえ、そもそも、時花さんがストーカー云々ってのは、私たちがそう思っただけで、後藤さんから困ってるとか迷惑してるとか言われたわけじゃないですよね? その上で、さっきの時花さんの話や態度を見る限り……後藤さんのことを好きなのは間違いないでしょうけど、ストーカーじみた行為をしているって感じじゃなかったと思うんですよ」

 

 喜多の言葉を聞き、他の面々も考えるような表情を浮かべる。たしかに、話のインパクトや気迫は凄かったが、話した内容を考えてみるに……問題があるといえる行為は確認できなかった。

 

「……確かに、ぼっちのことが好きな行動的な子、ぐらいのイメージ」

「あの感じだと、自宅調べたりってのも、なんか私たちが思ってるのとは違った経緯がありそうだよね」

 

 喜多の言葉にリョウと虹夏も同意し、ここに来てようやく有紗のことを誤解していたかもしれないという考えに至った。

 5人が示し合わせたように視線をテーブルの方に向けると、そこではひとりと有紗が雑談をしている様子だった。

 

「……あそこのステージで演奏するとして、練習などはどちらで?」

「あっ、向こうに練習用のスタジオがあって……そっちで練習することが多いです。他のバンドが使うこともあるので、いつでも使えるわけじゃないですけど……」

「なるほど、あちらにあるのは?」

「あっ、アレは……」

 

 ライブハウスが珍しいのかキョロキョロと興味深そうにしている有紗に、ひとりがアレコレと教えており、コミュ症のひとりにしては珍しく、あまり緊張した様子もなくリラックスした雰囲気で話していた。

 

「……仲、よさそうですよね?」

「……これ、マジで私たちが先走っただけのパターンか?」

 

 ようやくと言うべきか、彼女たちは自分の認識が間違っていたかもしれないという結論に至った。そうなってしまえば、先ほどまでの疑いから曇っていた思考も晴れ、思考が先ほどまでとは違う方向に巡り出す。

 5人は顔を見合わせて頷き合ったあとで、再び有紗たちの居るテーブルに戻った。

 

「なんども、すまないな……それで、ちょっと聞きたいんだけど、ぼっちちゃんに初対面で告白したってのは?」

「それは事実です。街を歩くひとりさんに一目惚れしまして、プロポーズしました。あまりにも性急すぎて、ひとりさんを驚かせてしまったのは反省しています。結局、友達から友好を深めるという形で落ち着きました」

 

 星歌の言葉にスラスラと答える有紗の言葉を聞いて、5人の頭からひとつ目の懸念が消滅した。なるほど、確かに初対面で告白したというのは事実ではあったが、流れ的に衝動的にしてしまっただけのようで、本人も急ぎ過ぎたと反省している様子だった。

 それに納得したように頷いたあとで、虹夏がある意味メインとも言える疑問を口にした。

 

「……ちなみに、ぼっちちゃんの家の住所はどうやって知ったの?」

「ひとりさんの家の住所ですか? 最初に知り合った際に、連絡先と一緒にひとりさん自身から教えてもらいましたが……」

「えっ、そ、そうでしたっけ?」

「あら? ひとりさんは覚えていないのですか……確かにあの時、電車の時間が近いと慌てていた様子でしたが……」

 

 この発言により、ふたつ目の……そして最大の懸念が消え去った。なんのことは無い、本人が忘れていただけで住所を教えたのはひとりだったというだけの話である。

 つまり、有紗がストーカー行為によってひとりの家を突き止めたりとか、そういったことは無かった。星歌たち5人は、肩から力が抜けていくのを感じつつ最後の懸念を尋ねた。

 

「ぼっちの家の前で出待ちしてたってのは?」

「出待ち? 出待ち……ああっ、最初に一緒に通学した際のお話ですね。ひとりさんと一緒に電車通学してみたくて訪ねたのですが、ひとりさんが家から出るタイミングと完璧に合って、驚かせてしまった形ですね」

「あっ、あの時は、心臓が飛び出るかと思いました。ドア開けたらいきなり有紗ちゃんが居たので……」

「ふふ、驚かせて申し訳ありませんでした。ちなみに、いまも時々一緒に通学しています。流石に距離が距離なので、月に1~2度程度ですが……」

 

 そして三つ目の懸念、出待ちに関してもたまたまタイミングが合っただけということで、無事解決した。いや、出会って数日で片道2時間かかる県外に、一緒に通学するために早朝からきているのは十分おかしいのだが、とりあえず行動力が凄いという言葉で片付けられる範囲だ。

 

「……そうか……すまなかった!」

『ごめんなさい!』

「……え?」

 

 誤解は解け、星歌の謝罪を皮切りに次々と有紗に謝罪の言葉が飛び、よく分からない有紗とひとりは揃って首を傾げていた。

 その後、一通りの謝罪が終わった後で、星歌の口から今回の誤解について詳しい説明が行われ、話を聞き終えた有紗は納得した様子で頷いた。

 

「……なるほど、そういうことだったのですね」

「ああ、本当に申し訳なかった」

「いえ、気にしないでください。ひとりさんを思ってのこととあれば、責める気にはなれません。私の誤解を与えるような行動も問題でしたし……どうにも、昔から思い立つとすぐに行動してしまうところがありまして……私の方こそ誤解を与えてしまったことを謝罪します。できれば、わだかまりなどを残すことなく、今後皆さんと仲良くできれば嬉しいです」

「すっごく、いい子だよ! なんか、申し訳なさでいたたまれなくなってきた……むしろなにかお詫びさせてほしいぐらいだよ」

 

 疑っていた5人を責めたりすることは無く、今後仲良くできればと口にする有紗を見て、良心に大きなダメージを負った虹夏が申し訳なさそうに告げる。

 もちろん有紗が詫びなど望むことは無かった。そして誤解が解けてしまえば、受け入れるのも早く、特に結束バンドのメンバーたちと有紗はすぐに打ち解けることができ、連絡先の交換などを行うまでに至った。

 

「……奇妙な誤解はありましたが、結果として結束バンドの方々と会えたのは喜ばしいですね。ああ、聞くのが遅れてしまいましたが、ひとりさん……オーディションの結果は?」

「あっ、ご、合格でした」

「そうなんですか、おめでとうございます。それでは、いよいよライブも近く楽しみですね……そういえば、チケットノルマというのがあると伺いましたが、そちらは大丈夫ですか?」

「あっ、はい。ノルマは5枚ですけど、お母さんとお父さんと、ふたりとジミヘンと有紗ちゃんでちょうどです」

 

 有紗の問いかけに、ひとりは小さく笑みを浮かべて答えるが、それを聞いた有紗は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……えっと、ひとりさん。ふたりさんは未就学児ですが、ライブハウスによっては幼児も小児とみなしチケットが必要とするかもしれないので、それは置いておくとして……ジミヘンさんは、犬ですが?」

「……………‥そう……ですね」

 

 ノルマを達成した気でいたひとりだったが、有紗の一言によって残酷な現実へと引き戻されたのだった。

 

 

 

 




時花有紗:猛将。メンタルも鬼つよで、基本小細工無しの正面突破してくるストロングスタイル。誤解もなにもかも正面から突き破った。

後藤ひとり:……なぜ有紗がストーカー扱いされていたのか、これが分からない。とりあえず数ヶ月の間に慣れたので、有紗の発言も「有紗らしい」でスルー出来る余裕を見せた。

結束バンドメンバー他:なんだかんだで誤解は解けて有紗と打ち解けた。

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