ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十五手魅惑のレディスーツ~sideB~

 

 

 大丈夫だと、そう思っていた。確かに前日こそ夢のせいで緊張して少しギクシャクしていたが、いつも通り優しい有紗のおかげでひとりは冷静を取り戻した。

 そして、翌日のスーツを着てのMV撮影に関しても、むしろ夢で予習している分気楽だと、そう思っていた……だが、得てして楽観視というのは外れるものである。

 

 現在ひとりはとても冷静な思考ができるような状態ではなかった。理由は目の前に居る有紗の姿……。

 

「どうでしょうか?」

「……あっ……えっ……そっ、そそ、その……かっ、カッコいいです」

 

 スーツを身に纏った有紗に対して、赤い顔かつ消え入りそうな声でそう返すのが精一杯だった。現在の有紗の格好は、事前に分かっていた通りスーツ姿ではあり、髪を邪魔にならないように首の後ろで一本に纏めている以外は、ひとりが夢で見た服装そのままと言ってよかった。

 

(あっ、あれ? なっ、なんで……夢で見た時よりも、カッコいい……)

 

 さもありなん。夢とはある程度曖昧なものである。確かにひとりは夢でスーツ姿の有紗を見てはいたし、夢の記憶もあった……だが、実際に目の前にすると衝撃は大きかった。

 有紗が容姿端麗なのは言うまでもないが、背も高く足も長いためパンツスタイルのスーツを着ると、そのスタイルの良さがより一層はっきりと分かった。

 まるでキラキラと輝いているかのような有紗を前にして、ひとりの心臓は五月蠅いぐらいに高鳴っていた。

 

(なっ、なにこれ、カッコよすぎてドキドキする……こっ、これがビジュアルの暴力……あばばば、かっ、顔熱いし、頭の中ぐるぐるして落ち着かないし……うぅぅ)

 

 本人も戸惑うほどのひとりの状況にはいくつか理由があった。最大の要因として、ひとりは有紗の凛々しい姿に弱い……というのも、有紗は普段穏やかに微笑んでいることが多く、雰囲気も優しげで柔らかい。

 ただ時折鋭い顔を見せることもあり、そういった際は大抵ひとりを守ろうとする時だ。江の島などでもそうだったが、不意にそういった凛々しい姿を見せられると胸が高鳴ってしまうのだ。一種のギャップ効果とでも言うべきものだろう。

 

 現在の有紗は表情こそいつもの優し気なものではあったが、スーツ姿であることで全体的な雰囲気が引き締まっており、その影響が凛々しさとカッコよさが際立っている。さらにある程度振り切ったとはいえ、少し前に見た夢の影響もあり、ひとりは顔に血が集まるのを感じつつもそれを押さえられないでいた。

 

「ひとりさんも、とても素敵でカッコいいですよ」

「はひっ! あっ、ああ、ありがとうございます!? あっ、有紗ちゃんもすごくカッコよくて素敵で……あぅ……あぅぅ……」

「……ぼっちちゃんが乙女の顔してる。いや、気持ちは分かるよ、有紗ちゃんのイケメン感半端じゃないし……」

「ビジュアルの暴力が凄まじい。ビレパン前とかに連れて行けば、ダース単位で女性ファン増やせそう」

 

 実際ひとりが真っ赤になってしまうのも納得できる程、スーツを着た有紗はカッコよかった。特に男装しているわけでは無いが、男装の麗人という言葉が思い浮かぶような雰囲気で、街を歩けば多くの人が振り返りそうだと確信できる程だった。

 

「しかし、本当にひとりさんのスーツ姿は素敵すぎて……正直これで、表に出たら、多くの人が集まってしまうのではないかと心配です」

「あっ、いや、それ絶対有紗ちゃんの方……」

「しかし、安心してください。そうなっても私がきっと守って見せますからね」

「はえ? あっ、はっ、はい……えっ、えと……よろしくおねがいします?」

 

 キリッとした表情を浮かべる有紗を見て、ひとりが少し曖昧に言葉を返す。すると有紗はひとりの手を取り、その手の甲に軽く口づけをするような動作をしつつ、微笑みを浮かべる。

 

「ええ、お任せくださいお姫様……なんて、芝居がかり過ぎまし――」

「はひゅぅ……」

「――え? あれ? ひ、ひとりさん? 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 

 芝居がかった口調かつキメ顔での言葉、有紗にとって単に冗談だっただが、有紗を意識しまくっていたひとりにはとどめの一撃となり、爆発音でも聞こえそうな勢いで顔を赤くしたひとりは、そのまま目を回して意識を手放した。

 そんなひとりを慌てて介抱する有紗……なんというか、傍目に見ればバカップルそのものといえる光景に、なんとも言えない表情を浮かべていた喜多が「このふたりは放っておこう」と考えて、気を取り直すように虹夏に声をかけた。

 

「せっかく皆スーツ着てるんですし、あとで一緒に写真撮りませんか?」

「おっ、いいね。アー写のバリエーションにしよう!」

「リーダーの虹夏が真ん中として、全体のバランスをよくするためにビジュアルツートップの私と有紗が両サイドに回ろう」

 

 喜多の提案で、せっかく全員スーツを着ているのだから記念撮影しようという話になり、リョウがニヒルに笑いながら告げると、虹夏は感心したような表情を浮かべた。

 

「……凄いね、リョウ。よく、あの有紗ちゃん見て同格みたいな顔できるよね? そこまで行くと、その根拠のない自信も羨ましいよ」

「ふっ……あ、いやナンバー1とナンバー2の間にはそこそこ大きな開きはある。けど、ツートップはツートップだから……」

「さすがに日和った!?」

 

 いかに自信家のリョウであっても、有紗のビジュアルの凄まじさに対抗できるとまでは考えているわけでは無いようで、若干目を逸らしながら告げた。

 その様子を見て虹夏はツッコミを入れたあとで、吹き出すように苦笑する。

 

「……ふふ、でも、リョウも十分カッコいいと思うよ」

「……ありがと……虹夏も、その、スーツ似合ってる」

 

 明るい笑顔で賞賛する虹夏の言葉に、リョウは少々照れくさそうに頬をかきつつ返した。そのリョウの言葉を聞いて、虹夏はさらに表情を明るくして、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「え? 本当? ありがとう! いや、ほら、私って一番身長低いから、ちょっと不安だったんだけど……」

「……胸が小さい方がスーツは似合うっていうし」

「……あ?」

 

 ただ、途中で気恥ずかしくなって余計なことを言ってしまうのもいつも通りであり、最終的に虹夏に関節技を決められていた。

 ただ、それも傍目に見れば仲の良さを感じるやり取りであり……有紗とひとり、虹夏とリョウとセット状態になっており、喜多はなんとも言えない疎外感を覚えつつ、スマホを取り出して自撮りを行い。次子にロインを送った。

 

『MV撮影でスーツ着た。どうよ?』

『意外と似合うじゃん。けど、ロックバンドってよりジャズ味強くね?』

『あ~たしかにスーツだと、ジャズ感があるね~』

『つか、うちの服装も見ろし』

 

 すぐに返信がきて、少しするとヒップホップ用らしき服装の次子の自撮りが送られてきた。それを見て、喜多は思わず苦笑を浮かべる。

 

『いや、オーバーサイズのTはヒップホップっぽいけど、そのデカすぎなキャップはなによ?』

『ずるかわコーデで纏めてみた。ま、歌う時は邪魔だからポイするけど』

『自由過ぎ。けど、似合ってる』

 

 ずるかわ……オーバーサイズで可愛いコーデにしたと語る次子に、喜多はどこか楽し気に微笑みながら返信する。実際緩めの格好は性格的な要素もあって次子に似合っている気がした。

 

『サンキュー。んで、MV撮影だっけ? うちとロインしてていいの?』

『あ~まだ撮影は始まってないし、微妙な疎外感がね……』

『うん?』

『いや、実は……』

 

 そのまま喜多はロインで次子に、他のメンバーがなんかいちゃいちゃしているといった感じの愚痴を溢し、しばしの間次子とのロインを楽しんでいた。

 

 そんなそれぞれ割と自由にしている結束バンドの面々を少し離れた場所で見ているのは、今回も撮影の協力をする予定の1号と2号である。

 1号は微笑まし気な表情で結束バンドの面々を見ており、2号はどこからともなく「百合しか勝たん」と書かれた鉢巻を取り出して頭に巻いた。

 

「……いや、外しなさい」

「え~」

 

 ……そして、即座に1号に鉢巻は没収された。

 

 

 ****

 

 

 外に出てMVの撮影を何か所かで行いひと段落したタイミングで休憩を行っていると、女性の2人組が有紗に近付いてきた。

 

「……あ、あの?」

「はい?」

「もしかして、芸能人の方とかですか? なにか撮影みたいなことされてましたけど……」

「ああ、いえ、インディーズバンドの者でして、動画サイト用のMVを撮影していました。結束バンドという名前で活動していますので、もし興味があれば検索していただけると嬉しいです」

 

 有紗の容姿は人目を引く。そして、現在はスーツ姿でどこかユニセックスな魅力もあり、更に纏う上品な雰囲気が得も言われぬ神秘的な美貌へと昇華されていた。

 実際、有紗と話す女性2人の頬は少し赤く、有紗の圧倒的な美貌に魅了されているのが伝わって来た。

 

「……」

「……ひとりさん?」

 

 状況としては別にいいはずだ。有紗の穏やかな対応とさり気ない宣伝で、女性2人は今後結束バンドのファンになってくれそうな雰囲気であり、バンドとしては得と言えるだろう。

 ただ、なんとなく……面白くなかった。有紗の容姿が圧倒的なのも、人目を惹き付けるのも十分理解していたが……それでも、少し胸の奥がモヤモヤとした。

 だからだろうか、ほぼ無意識にひとりは有紗の腕をギュッと抱きしめていた。2人組を睨んだり威嚇したりというわけでなく、どこか不安げに……有紗にどこにもいかないでほしいと甘えるかのような仕草だった。

 

「……そういうわけで、よろしければ応援してください」

「あ、はい」

「が、頑張ってください」

「ひとりさん、ジュースでも買いに行きましょうか?」

「あっ、はい」

 

 ひとりの様子を見て優し気な微笑みを浮かべた有紗は、2人組との話を打ち切ってひとりと一緒に移動していった。

 その後ろ姿を見送りながら、女性2人は少し呆けたような表情で呟く。

 

「……な、なんだろう、この気持ち……仲の良さが伝わってきて胸が温かくなるような」

「……うん。なんか、こう、癒される感じだったよね」

 

 有紗もひとりも容姿端麗であり、そのふたりが仲良さそうにしている姿に感じるものがあった様子の2人……そのふたりの肩を、菩薩のような笑みを浮かべた2号がポンッと叩いていた。

 

 

 




時花有紗:容姿はチート級、カッコいい路線も当然行ける。ひとりの気持ちをすぐに察して、最優先する辺りは流石である。

後藤ひとり:キリッとした有紗に弱い。よく分からないけど変にドキドキしたり、モヤモヤしたりした……それは恋だよ、ぼっちちゃん。

喜多郁代:なんか、絶妙な疎外感があったのでさっつーにロインした。百合度はまだ控えめだが、微笑ましさがある。

2号:ようこそ、新たな有後党の同志たちよ、歓迎しよう。正直、個人的な意見ではあるが、2号さんサブキャラの中ではぶっちぎりで可愛いと思う。
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