ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十六手支度の水着購入~sideB~

 

 

 ひょんなことから互いの水着を選ぶこととなった有紗とひとり、有紗の方は問題なくいくつかの水着を見て吟味しているが、ひとりは少々悩んでいた。

 ひとり自身のセンスは……正直お世辞にもいいとは言えないが、お洒落な水着が多い店であることと、自分ではなく有紗が着ると考えるとある程度イメージは湧いてきた。

 

(有紗ちゃんは、派手なものより清楚な感じのが似合うと思う。いっ、いや、まぁ、どの水着でも凄く似合うとは思うけど……白とか黒は合いそう。あと……青っぽいのとかもいいかも?)

 

 有紗のことを思い浮かべつつ考えると、普通に似合いそうなイメージを浮かべることができた。そのままいくつかの水着を見ていて、ひとりはある一着の水着を目にとめた。

 ベースは白色で縁取るように藍色の入ったビキニタイプの水着で、隣に青い花が描かれたパレオが置かれていた。

 

(あっ、こっ、これ絶対有紗ちゃんに似合う。えっと、この……なんだっけ? 名前は忘れちゃったけど、腰に巻くやつは有紗ちゃんのイメージだ! 絶対可愛いと思うし、綺麗そうだし……う、うん! これがいいな……)

 

 有紗用の水着を選び終えたひとりが、それを手に取って有紗の元に向かうと、有紗もひとり用の水着を選び終えていた。

 黒色の水着でトップに控えめにフリルがあしらわれているデザインで、シンプルながら可愛らしいものだった。

 

「ひとりさん、決まりましたか?」

「あっ、はい。こっ、これがいいかなぁって……」

「素敵な水着ですね。パレオも綺麗なデザインで可愛らしいです。私の方もひとりさん用の水着を選んだんですが、いかがですか?」

「あっ、あんまりキャピキャピした感じじゃなくて、着やすそうなので嬉しいです」

 

 もちろん水着自体がセンスのいいものであるというのもあるが、それ以上に有紗が自分に着てほしいと思って選んでくれたと考えると、不思議とその水着が一番いいものであるように感じられた。

 少しくすぐったいような感覚を覚えつつ、ひとりは小さくはにかむ様に笑みを浮かべた。

 

 

****

 

 

 サイズを確認して水着の購入を終えたあとは、映画の時間まで余裕があったのでふたりでショッピングモール内にあるチェーン店のカフェで時間を潰すことにした。

 話題となるのはやはり来月に迫る未確認ライオットのライブ審査についてだった。

 

「……あっ、有紗ちゃんから見て、どうですか? ライブ審査、通過できそうでしょうか?」

「振り分けが気になる部分ではありますね。過去の形式で考えるとライブ審査は、東京、大阪、名古屋は確定として、年によって福岡などのライブハウスも追加されて振り分けられたうえで審査になります。通過枠はひとつのライブハウスに付き概ね2組か3組でしょう。運営側の思惑としては、出来るだけ上位のバンドはバラけさせたいのではないかと思います」

「あっ、そっ、そっか……運営としては、ネット審査上位陣にファイナルステージに進んでほしいんですね」

 

 有紗の言葉を聞いてひとりは納得したように頷く。考えてみれば当然のことではあるが、運営としてもファイナルステージには集客力のある……すなわち人気の高いバンドに進んでもらいたいと考えているだろう。

 ネット審査上位陣でつぶし合いなどという展開はあまり望んでいないので、上位陣はライブ審査の会場はバラバラに振り分ける可能性がある。

 

「その上で考えるのは……まず確実にSIDEROSは東京会場だと思います。拠点が新宿かつネット審査1位通過なので、結束バンドも拠点が下北沢でTOP10入りこそしているものの、TOP5からは外れているので、同じ東京会場になる可能性は高いですね。あとはおそらく1組か2組、上位陣が同じ会場でしょうね」

「なっ、なるほど、東京拠点の上位陣は多そうですし、強敵揃いになるわけですね」

 

 そう話しつつ、有紗はライブ審査は中々に厳しい戦いになるとは感じていた。まず前提としてSIDEROSは完全に格上だ。結束バンドも十分に成長はしているが、SIDEROSも同じく成長を続けている。少なくともライブ審査までの1月半ほどで追いつくのは困難だ。

 

「ただ、有利な面もありますよ。結束バンドは名前が印象に残りやすいので、ネット審査でいい結果を残したことでライブ審査でも観客の思考にバイアスがかかる可能性は高いです。実際は知名度勝負ではあっても、ネット審査で上位であればあるほど、バンドとしての腕も上と感じる方は多いでしょうからね」

「なっ、なるほど、ネット審査上位通過のバンドと思って聞くのと、ギリギリ通過のバンドと思って聞くのだと、聞こえ方も変わってくるかもしれませんね」

「ええ、まぁ、いろいろ言いましたが……最終的にグランプリを目指すのであれば、SIDEROSも含めた上位陣を打ち破る必要があるので、やること自体は変わりませんよ。会場で最高の演奏をするだけです」

「そっ、そうですね。がっ、頑張ります」

「ええ、私も可能な限り協力しますので、頑張りましょう」

 

 グッと拳を握って決意を露わにするひとりを見て、有紗は穏やかに微笑みを浮かべていた。

 

 

****

 

 

 カフェで時間を潰し、映画の時刻が近づいてきたため有紗とひとりは映画館に移動する。入場前にドリンクなどを購入するために販売スペースに移動する。

 

「あっ、ここのポップコーンって、サイズが大きいですね」

「そうですね。ひとりで食べるには量が多いかもしれませんが、ふたりで分けて食べるならMサイズで十分だと思いますね」

「あっ、そっ、そうですね。一緒に食べればいいですね。あっ、有紗ちゃんはどの味がいいですか?」

「私は特にこだわりはないので、ひとりさんの好きな味で大丈夫ですよ。ひとりさんも特に希望が無ければ定番の塩味にしましょう」

「あっ、じゃあ、塩味で」

 

 ひとりの好きな味で大丈夫というだけではなく、希望が無かった場合の案も提示してくれる有紗の些細な気遣いにひとりは小さく微笑みを浮かべた。

 こういった些細な部分でも伝わってくる有紗の優しさは心地よく、こうして一緒に居ると楽しいと感じられる要因でもあった。

 そのままふたりでドリンクとポップコーンを購入して入場し、指定されたスクリーンに移動する。

 

 入場可能時間から実際の放映まではしばし時間が空くものであり、並んで席に座りつつ放映までの時間はポップコーンを摘まみつつ、他愛のない雑談を楽しむ。

 

「ひとりさん、どうぞ」

「はえ? あむ……ふたりの間に置いてあるポップコーンを食べさせる意味って……」

「私がやりたいだけですね」

「あっ、相変わらず清々しいほど潔いです」

 

 少しだけ照れつつも嫌なわけでは無いのか、有紗が差し出してきたポップコーンを食べてひとりは苦笑を浮かべる。

 そして、なんとなくではあるがお返しの形でポップコーンを持って差し出せば、有紗は嬉しそうにそれを食べる。

 

(有紗ちゃんは相変わらずというか、こういうことも本当に嬉しそうにしてくれるから、なんかまぁ、いいかなぁってなっちゃう気がする……ふふ、なんか、うん。やっぱり、楽しいな……)

 

 自然と笑みがこぼれるという様な感覚は少しくすぐったく感じたが、それでも不快さはまったく無く、ひとりの表情はどこか柔らかいものだった。

 休日でありそれなりに人も多いショッピングモールや映画館でこうしてリラックスして過ごせているのは、かつてのひとりから考えれば快挙といっていい変化だった。

 

「あっ、そっ、そういえば、今回の映画っていま話題のやつですよね?」

「ええ、最近公開されたばかりで出だしも好調で評判になっているものですね。流石に公開間もないこともあって客入りは多いですが、いい席が取れてよかったですね」

「あっ、ですね。スクリーンの正面でよく見えますね」

 

 そう話しながらひとりは周囲に軽く視線を動かす。休日かつ話題作ということもあって、多くの客が居てカップルらしき人や家族連れも多かった。

 

(……そういえば、最近カップルとか幸せそうな家族連れを見ても青春コンプレックスを刺激されなくなったというか、精神的なダメージを受けなくなってきた気がする。わっ、私も成長してるってことなのかな……江の島とか行った時は、結構ダメージ受けたんだけど……)

 

 こうしてふとした時に思い返してみると、己でも精神面の成長を実感できた。少なくとも去年の同じ頃の時期とはまるで違うのは確実だった。

 むしろ有紗と自然体で仲睦まじい様子は、虹夏や喜多を筆頭に周囲にある意味での精神ダメージを与えているぐらいではあるのだが……。

 

 そうこうしていると放映時刻が近づいたみたいで、照明が暗くなる。スクリーンに映る最新作の宣伝CMなどが終わって映画が始まると、ひとりもスクリーンに映される映画に集中した。

 内容としてはヒューマンドラマ寄りの感動系の話ではあったが、それなりに動きも多く展開にもメリハリがあってかなり面白い内容だった。

 

(……あたり前に思えていることが、本当は凄く幸せなことか……)

 

 その映画のテーマともいえることを考えつつ、ひとりはチラリと横を見る。スクリーンの明かりに照らされている有紗の横顔を見ると、その映画のテーマもなんだか実感できるような気がした。

 いつしかこうして有紗と一緒に居ることが当たり前になっているが、本当はそれは奇跡みたいに幸福なことであると、そう思ったからだろうか……自然とひとりは有紗の手を握っていた。暗い映画館の中で温もりを求めるかのように……。

 

 手を握られた有紗は特に驚いたような表情を浮かべたりすることもなく、少しだけひとりに視線を向けて微笑みを浮かべたあとで指を絡めるようにして手を握り返した。

 こうして当たり前のように手を握り返してくれる相手が居るというのも、本当に幸せなことだとそう実感して笑みを浮かべたひとりだったが、直後にふとあることに気が付いた。

 

(……あれ? 物凄く自然にされたから気付かなかったけど、こっ、これ、恋人繋ぎってやつでは? あわわわわ……あっ、有紗ちゃんはもう、本当に唐突にこういうことするから!)

 

 あとから気付いた事実に顔を赤くしたひとりだったが、映画を見ている途中に声を出すわけにも行かず、少し困惑するような表情を浮かべたあとで……苦笑しつつため息を吐いて肩の力を抜き、有紗の手を少し強めに握り返した。

 

 

 




時花有紗:パレオ付きの水着のイメージ。ぼっちちゃんとのデートはいつも心から楽しそうにしている。今回も一緒に映画を見たり、恋人繋ぎしたりといちゃいちゃしてた。

後藤ひとり:本人の服の趣味は壊滅的で、原作でも変な水着を購入していたが……有紗に似合うものを選ぼうと考えると、途端にセンスが良くなる。愛の力ですね、分かります。青春コンプレックスはほぼ完全に克服済み……なにせ本人が青春してるから……。
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