ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十七手遊泳のプライベートプール~sideB~

 

 

 更衣室で有紗が若干の暴走をしたことによりやや時間がかかったが、有紗とひとりは改めてプールに移動していた。水に入る際は少し怖がって有紗の手を握っていたひとりではあったが、入ってみればプールは浅めでありほっと安心したような表情を浮かべる。

 

「……あっ、このぐらいの浅さなら、大丈夫そうです」

「泳ぐことも可能ですが、基本的にはレジャー向きのプールですね。いちおうそちらに浮き輪などの貸し出しの品は置いてありますよ」

「とっ、とりあえず浮き輪は無くても大丈夫そうなので、このまま遊びましょうか?」

「そうですね。ひとりさん、隙ありです」

「はえ――わぴゃっ!?」

 

 有紗が不意打ち気味にかけた水にひとりは反応することが出来ず、綺麗に顔で受け止める。

 

「ふっ、不意打ちですよ!」

「ふふ、こういうのは定番ですし、やはり抑えておきたいですね」

「むっ、むむ……あっ、これだ!」

 

 楽し気に笑う有紗を見てひとりはなにか反撃の手段が無いかと周囲を見て、レンタルの浮き輪などと一緒に置いてあった水鉄砲を手に取った。

 そして素早く水を入れて、有紗に向けて発射する。

 

「きゃっ……ひとりさん、武器を使うのは反則では?」

「わっ、私と有紗ちゃんのスペック差を考えれば、これぐらいのハンデは必要なんです。ふっ、ふふふ、いくら有紗ちゃんが凄いとはいえ、水鉄砲の優位性はそうそう……」

「……甘いですよ、ひとりさん!」

「はえ? あっ、潜って……」

 

 手に比べると射程も連射性も勝る水鉄砲という武器を手に入れ、更には浮き輪などのレンタル品が置いてあるプールサイドを背にしていることで、有紗を牽制している状態。完全に有利といっていい状況に不敵に笑うひとりだったが、直後に有紗が水中に潜ったことで不意を打たれて困惑した表情を浮かべた。

 急に潜るという予想外の行動かつ、有紗の狙いが分からないという状態で虚を突かれた形になったひとりはすぐに行動することができなかった。

 その間に有紗は潜水状態のままで困惑するひとりをかわすように移動し、プールサイドに辿り着いてから顔を出し、置いてあったもうひとつの水鉄砲を手に取った。

 

「あっ、みっ、水鉄砲を……」

「これで、条件は一緒ですよ……それっ!」

「いっ、いや、一緒どころか、同じ装備だと勝ち目が――わぷっ!?」

 

 そもそも基本的な運動神経では、有紗が圧倒的に上である。正直あのまま手対水鉄砲で戦っていたとしても、なんだかんだで有紗が勝っていた可能性が高い。その状況で有紗も水鉄砲という武器を手に入れてしまった場合、ひとりに勝ち目はなかった。

 ……もっとも、そもそも勝ち負けを決めるようなものではなかったので、互いに水鉄砲で水をかけ合ってはしゃいだ様子で遊んでおり、有紗とひとりの表情には笑顔が浮かんでいて楽しげだった。

 

 

****

 

 

 水鉄砲である程度アグレッシブに遊んだあとは、プールサイドで少し休憩することになった。初めてのプールサイドチェアにひとりはややおっかなびっくりの様子で座る。

 

(えっ、映画とかでセレブやリア充が座ってトロピカルドリンクを飲んでいる謎のお洒落椅子だ。さっ、サングラスとかあった方がよかったかな……)

 

 家に置いてあるあまり使用機会のない星形のサングラスを思い浮かべているひとりの元に、有紗がペットボトルとコップを持って近付いてきた。

 

「ひとりさん、水でいいですか?」

「あっ、はっ、はい。あれ? それ、どこから……」

「ああ、更衣室とシャワールームの近くに専用の冷蔵庫があって、その中にドリンク類がありますので、そこから持ってきましたよ」

「なっ、なるほど……ありがとうございます」

 

 有紗が注いでくれた水の入ったお洒落なグラスをひとりが受け取ると、有紗もひとりの隣のプールサイドチェアに座り、タオルで軽く髪の水気を取る。その様子は非常に慣れた感じであり、動作に上品さを感じた。

 

「あっ、有紗ちゃんはやっぱり慣れてる感じですね。わっ、私は慣れないお洒落チェアにおっかなびっくりです」

「あまり気にせず気楽に楽しむのが一番ですよ。こんな風にしなければならないというルールがあるわけでもないですからね」

 

 少し硬くなっている様子のひとりに対して有紗は優し気に微笑んだあとで、軽く手を伸ばしてひとりの頭に手を置いて優しく撫でる。

 最初は驚いた顔を浮かべていたひとりだったが、少しして心地よさそうに目を細めつつ口を開いた。

 

「……きゅっ、急にどうしたんですか?」

「いえ、緊張が和らぐかと思いまして……」

「うぅっ、実際少し和らいでるのでなんとも言えない……」

 

 正直に言ってしまえば、ひとりは有紗に頭を撫でられる感触を非常に心地良く感じていた。

 

(うっ、こっ、これ癖になりそう。こうやって有紗ちゃんに優しく撫でられてると、凄くホッとするというか……滅茶苦茶安心できる。この感覚、好きだなぁ)

 

 ホッと心の底から安心できるような感覚に、幸せそうに眼を細めていたひとりだったが、ある程度経ったところで有紗が手を離すとつい反射的に寂しそうな表情を浮かべた。

 

「……あっ」

「……」

「あっ、いっ、いや、これはその、つっ、つつ、つい……」

「ふふ、私も少し名残惜しいと思っていたので、もう少し撫でていてもいいですかね?」

「あぅ、はい……おっ、お願いします」

 

 寂しげに呟いたひとりを見て、有紗はその心を見透かすような微笑みを浮かべてもう一度ひとりの頭に手を伸ばして、撫で始めた。

 ひとりは恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、それでもやはりまだ撫でていて欲しかったのか、素直に有紗の手を受け入れ、再び心地よさそうに目を細めた。

 

 

****

 

 

 ある程度休憩をしたあとは再びプールで遊ぶ。今度は最初のように水鉄砲で遊ぶわけでは無く、のんびりと水に浸かって楽しむ形だ。

 ひとりが浮き輪に乗り、有紗がそれを軽く押す。

 

「あっ、こっ、これ、こうやって浮き輪に寝転がってるのってよく見ますけど、実際にやると……結構不安定で怖いですね」

「確かにひっくり返ったりという心配はあるかもしれませんが、いまは私が傍に居るので大丈夫ですよ。仮にひとりさんが落ちそうになっても、受け止めてみせますよ」

「なっ、なんでしょう? 頼りがいがある台詞ですし、実際に安心できはするんですけど……なっ、なんか受け止められたら、そのまま30分コースのような気が……」

「それは否定しません」

「しないんですね!?」

 

 ひとりが落ちそうになって有紗が抱き留めた場合は、そうそう簡単に離さないのではないかというひとりの言葉に、有紗は一切誤魔化すことなく同意する。

 相変わらずストレートで正面突破な有紗の言葉に、ひとりが思わず苦笑を浮かべると、不意に有紗はなにか考えるような表情を浮かべた。

 

「……ふむ」

「あっ、有紗ちゃん?」

「つまり、いまの私は、ある意味でひとりさんを抱きしめる形に移行できる権利を有しているというわけでもあるわけですね?」

「そっ、それ、私が浮き輪から落ちた場合のパターンですよね? だっ、駄目ですからね? わざと落としちゃ、駄目ですからね!」

 

 たしかに有紗の言う通り、浮き輪に乗ったひとりを有紗が動かしている現状であれば、その気になればわざとバランスを崩させることも容易だろう。ひとりの運動神経やバランス感覚はお世辞にもよいとは言えないので、有紗にかかれば簡単に浮き輪から落とすことができる。

 そうなれば、有紗はひとりを抱き留め……つまり、抱きしめることができる。有紗の言葉でその可能性に思い至ったひとりが、慌てた様子で言葉を発すると有紗は優しく微笑みながら口を開く。

 

「大丈夫ですよ。そんなことはしませんよ。そもそも、ひとりさんを怖がらせるような真似をする気自体がありませんしね。ハグについてはあとで別にやりますので」

「あっ、そっ、そうなんですね。よかっ……うん? あっ、有紗ちゃん? いま、最後になにか付け足さなかったですか?」

「え? ああ、そもそもの話として、ひとりさんを抱きしめたいのであればそのような回りくどい手を使わず正面から行きます」

「そっ、そうですね。有紗ちゃんって、そういう人ですよね……」

「なので、次の休憩の時に抱きしめます!」

「えぇぇぇぇ……とっ、突然過ぎませんか!?」

 

 たしかに有紗らしいと言えば有紗らしい。搦手のようなことはせずに、好意を示すときはストレートであり、ワザとひとりを落として抱きしめようなどとは考えず、どうどうとあとで抱きしめる宣言をしていた。

 ただ、有紗らしいと感じることと羞恥心は別であり、例によってひとりは顔を赤くして慌てだす。

 

「仕方ないです。ひとりさんを抱きしめたくなったので……」

「ちょっ、ちょっと前に更衣室で長々としたじゃないですか……」

「それはそれ、これはこれです」

「あっ、駄目だ。猛将モード入っちゃった……勝てない」

 

 鋼の意思とでも言うべきか、もう有紗の中で次の休憩でひとりを抱きしめるというのは確定した。こうなってしまったら、有紗の意思が揺るがないというのはひとりはこれまでに幾度も身をもって実感している。

 結局ひとりは諦めたような表情を浮かべて天を仰いだ。

 

「……あっ、いままで気づかなかったですけど、滅茶苦茶綺麗に青空が見えますねこのプール」

「最上階で上は強化ガラスですからね。夜に照明などを調整すれば星も見えますね」

「へぇ……なんか、凄く贅沢してる気分……いっ、いや、贅沢してました。ここ、スイートルームですよね。うっかり忘れそうになりますけど、このプールも部屋のオプションみたいなものなんですよね?」

「ええ、その通りです」

「きっ、聞くのが怖いんですけど、やっ、やっぱり、高いんですよね?」

「プライベートプール付きの部屋自体はピンキリです。安ければ数万円で泊まれる部屋もありますしね。ここはロイヤルスイートですが、いまは旅行シーズンではないので宿泊費は安めになっていますね」

「……いくらですか?」

「100万円ですね」

「ひぇ……」

 

 有紗は安めといったが、それは以前の花火の時の様に特別な行事や旅行シーズンの値段と比較してという話であり、一フロア丸ごとのスイートルームかつ全天型プライベートプールが付いている部屋が安いわけがない。

 凄まじい金額ではあるが、有紗にとっては大した金額ではないというのはひとりにも理解できており、ひとりはなんとも言えない表情で遠い目を浮かべていた。

 

 

 




時花有紗:猛将モード搭載のお嬢様。例によって回りくどい搦手は使わず、愛情表現は正面突破のストロングスタイル。

後藤ひとり:有紗と水をかけ合って遊んでいり、子犬感MAXで頭撫でられて喜んでいたり、浮き輪に乗っていちゃいちゃしていたりとリア充しまくっている。
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