ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

125 / 211
六十八手幸甚のホテル宿泊~sideA~

 

 

 ひとりさんとプールで昼過ぎまで遊んだあとは、シャワーを浴びて昼食を食べに行く予定です。私の前で椅子に座るひとりさんの髪にドライヤーの風を当てつつ髪を整えていきます。

 

「すっ、すみません。手伝ってもらっちゃって……」

「気にしないでください。これぐらいお安い御用ですよ」

 

 現在私は、ひとりさんの髪を乾かすのを手伝っています。ひとりさんは髪が長いので、自身ですべてをやるのは大変でしょう。

 

「ああ、着替えた水着なのですが、乾燥機に入れて乾かしておきましょう。夜にも使う予定なので」

「あっ、あれ? 夜もプールにいくんですか?」

「ええ、実はあのプールはかなり幻想的にライトアップすることもできるので、夜は夜で違った雰囲気が楽しめますからね」

「なるほど、そっ、それは楽しみですね」

 

 それにしても、手触りのいい髪にシャワーを浴びた直後なのもあって、いい香りがしてひとりさんの魅力を際立させている感じですね。

 そんなことを考えていると、ふとあることに気付きました。ひとりさんを正面からハグする機会はそれなりにありました。先ほども事前に宣言した通り、プールから上がった後ハグを実行しました。

 

 しかし、思い返してみれば後ろから抱きしめるバックハグは少ないのではないでしょうか? 明確に覚えているのは、プリクラを撮影した時ですが、あの時は撮影時間の関係でゆっくりと抱きしめることはできませんでした。

 正面からのハグにも、後ろからのハグにも、それぞれに魅力があり素晴らしいものです。もしかすると、私は少々視野が狭くなっていたかもしれません。

 

「……失態でしたね。反省すべきことです」

「うっ、うん? 反省? なにがですか……」

「ただ一辺倒に正面からハグするばかりではなく、適度にバックハグなどのバリエーションを混ぜておくべきでした。そうでなければ、ひとりさんにも失礼でしょう」

「なんか唐突にとんでもないこと言い出した!? あっ、あれ? これ、もしかして前にもあった心の声が漏れてる的なやつでは? あっ、あの、有紗ちゃん?」

「どうしました、ひとりさん?」

「あっ、えっと、また心の声が漏れてます」

「……」

 

 ひとりさんに指摘されて思考を全て口に出していたことに気付きました。コレはまた失態でしたね。

 

「……まぁ、別に嘘偽りを口にしたわけでもないので問題ないですね」

「めっ、メンタル強ぉ……」

「しかし、失敗しましたね。先ほどのハグの機会をバックハグにするべきでした。まぁ、過ぎてしまったことは悔やんでも仕方ありません。この反省点をしっかりと覚えて次の機会に……別に次の機会にする必要はないのでは? というわけで失礼します」

「……あっ、なんか、変な方向に思考が向い――ひゃうっ!?」

 

 そう、よくよく考えてみれば、ハグは一定時間に何回までと制限があるわけではありません。むしろ私の気持ちとしては、暇があればひとりさんを抱きしめていたいぐらいです。

 であれば、いま抱きしめてしまっても問題はないでしょう。多少昼食に向かう時間が遅れるかもしれませんが、誤差の範囲です。それ以上に優先すべきものがあるというだけです。

 そう考えた時点で私の思考から迷いは消え、丁度髪を乾かし終えたひとりさんを後ろから抱きしめました。

 

「あっ、有紗ちゃん! 決断から実行までが早すぎです!?」

「ひとりさんがあまりにも愛らしく魅力的で抗い切れませんでした」

「抗ってる様子なかったですけど!? とっ、というか、この格好……なっ、なんか私の方から有紗ちゃんが見えないので、変に恥ずかしいというか……」

 

 当たり前ではありますが、正面から抱きしめるのと後ろから抱きしめるのでは感触が違います。しかも、現在ひとりさんは椅子に座っており、私は立っているので少しかがみ気味で胸に抱くような形でのバックハグです。これはこれで新鮮な感触がなんとも素晴らしい。

 そしてなんだかんだ言いつつも、私の手を振り払ったり逃げようとしたりしないひとりさんの優しさが嬉しいです。

 

「これはこれで、いつもと違った感じがいいですね」

「うぅ……あっ、有紗ちゃん……えと、ご飯に行くのでは?」

「そうですね。ひとりさん、お腹が空いているところ申し訳ないですが、もう少しだけこうしててもいいですか、大変に幸せなので……」

「うぐっ、そっ、そんな嬉しそうな声で言うのは……うぅ……はぁ……もう少しだけですよ」

「ありがとうございます!」

 

 ひとりさんの許可もでたので、もう少しの間こうしていられるのは本当に幸せです。腕の中にひとりさんの温もりを感じていると、それだけで頬が緩む思いですね。

 

「……あっ、でっ、でも、こっ、個人的には正面から抱きしめられてる方が好きかも……あっ、あくまで、比較したらですけど……」

「ひとりさん、そんなことを言われると、正面からも抱きしめたくなるのですが……」

「そっ、それはさすがに、お昼を食べてからにしてください……」

 

 残念で……おや? あれ? いま、ひょっとしてお昼ご飯を食べ終えたあと、また抱きしめてもいいと許可が出たのでは? ひとりさんは意識した様子はなかったので、ほぼ反射的に言ったのだと思いますが……しかし、経緯はどうあれ言質は取りました。昼食後も楽しみです。

 

「そうですね。ではとりあえず、いまはこの幸せな感触をもうしばらく堪能することにします」

「まっ、まぁ、有紗ちゃんが楽しそうなのはよか……うん? 有紗ちゃん? きっ、気のせいですかね? いま……もう少しから、もうしばらくに変わってなかったですか?」

「……」

「……有紗ちゃん?」

「大丈夫です。先ほどの、ハグと同じぐらいの時間に留めておきますので……」

 

 いつまでもこうしていたいと思えるほどに幸せですが、確かにいつまでもこうしているわけにはいきませんので、ある程度の時間で切り上げる必要はあります。

 

「あっ、そっ、それだと30分になるんですけど……」

「あと30分お願いします」

「開き直った!?」

 

 

****

 

 

 しばしひとりさんの温もりを堪能したあとで、一緒にレストランなどがあるフロアに向かいます。手を繋いでホテルの廊下を歩きつつ、ひとりさんに話しかけます。

 

「それで、昼食なのですが和洋中のレストランがあるのですが、どこがいいですか?」

「あっ、え~と……うっ、う~ん。あんまりお洒落過ぎないところがいいです」

「それでしたら、洋食レストランのひとつにビュッフェスタイルの店があるので、そちらにしませんか? 好きなものを選んで食べられますし、堅苦しさもないと思います」

「あっ、そうですね。そこがいいです」

 

 昼食は気軽食べられるビュッフェのレストランを提案し、ひとりさんも乗り気だったのでそこに行くことにしました。

 ついでに夕食に関してもいまのうちに相談しておこうと考えて、移動しつつ追加でひとりさんに提案します。

 

「ひとりさん、夕食は逆にのんびりと食べられる個室のある和食の店はどうでしょう? 懐石料理の店としゃぶしゃぶの店があるみたいですよ」

「そっ、それなら、有紗ちゃんがいいなら、しゃぶしゃぶがいいですね」

「では夕食はしゃぶしゃぶの店に行くことにしましょう」

「あっ、はい」

 

 夕食もスムーズに決定し、まずは昼食を食べる予定のレストランに到着しました。昼時からはやや遅れて来ましたが、逆にそれが功を奏して客が少なめで食べやすそうです。

 店に入ると店員が声をかけてきたので、スイートルームのカードキーを提示します。

 

「……あっ、有紗ちゃん? なんで、カードキーを?」

「ああ、このホテルのレストランは、ロイヤルスイートの宿泊客専用の席を用意してくれてるので、席が埋まっていて座れないということはないんですよ」

「あっ、なっ、なるほど……さすが高級スイート……」

 

 ホテルによってその辺りは違いますが、このホテルのレストランはロイヤルスイートの客にはとても利用しやすくなっています。まぁ、だからこそゆっくりひとりさんを抱きしめてから来ても大丈夫だったわけです。座れなくなるということが無いので……。

 店員に案内されて、窓近くで絶景が見える席に座ります。何となく不安だったのか、対面ではなく隣に座って来たひとりさんを安心させるように微笑んだあとで、店員からビュッフェの説明を簡単に受けてひとりさんと一緒に料理を取りに行きます。

 

「なっ、なんか、どの料理も凄いですね。お洒落な料理が多いです……えっ、エスプーマ?」

「エスプーマはスペイン語で泡という意味で、その名の通り泡状のソースなどを指す言葉ですね。ふんわりと軽い食感で、見た目も可愛らしいので特にデザートに使われることが多いですね」

「おっ、お洒落……あっ、あっちのタパスコーナーっていうのは、なんですか?」

「タパスというのは、いわゆるスペイン料理における小皿料理ですね。マリネやアヒージョ、フリットやブルスケッタといったものが代表的ですね。この店はスペイン料理が多いみたいですね」

「……なるほど?」

 

 それぞれの料理について説明しましたが、ひとりさんはあまり分かっていない様子で首を傾げる仕草をしていました。そういった姿も大変可愛らしいのですが、とりあえずひとりさんの不安は取り除いておきましょう。

 

「まぁ、いろいろな呼び名はありますが、気にする必要はありませんよ。文字で注文するわけでは無いのですから、見てみて美味しそうなのを選べば問題ないかと」

「あっ、そっ、そうですよね。名前なんてわからなくても、美味しそうなら……」

「ええ、美味しく食べるのが一番ですからね。それに分からなければ私が教えますよ。たとえば、ひとつオススメするなら、スペインには中国の金華ハム、イタリアのプロシュートと並び世界三大ハムと言われている生ハムのハモンセラーノが美味しいですよ。あちらにある生ハムですね」

「あっ、す、凄い……美味しそう」

「ただ、やや塩味が強めなので、気を付けてくださいね」

 

 聞き覚えの無い料理名に不安そうにしていたひとりさんでしたが、私の言葉を聞いてほっとした表情を浮かべたあとは、楽し気に料理を選んでいました。

 私はひとりさんが選んでいないもので、ひとりさんの好みに合いそうな料理を中心に取っていきます。必ずしも別々に食べなければいけないわけではありませんし、隣同士に座って食べるのですから一緒に食べれば問題ないですしね。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんを抱きしめたいと思った時には、すでにもう行動は終わっているという行動力の鬼。正面ハグだけではなくバックハグも堪能中……思いっきりいちゃいちゃしてる。

後藤ひとり:ついにハグに関しても距離感バグり始めてきたのか、割とすぐに受け入れてくれるようになってきたぼっちちゃん。ハグは正面から抱きしめられる方が好きらしい……可愛い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。