夕食を食べ終えて部屋に戻った有紗とひとりは、少し休憩をしたあとで予定通り再びプールで遊ぶことにした。水着に着替えてプールに移動したあと、夜間照明の操作パネルの前に有紗が立ちライトアップを調整する。
プール全体の照明は薄暗くしつつ、プール内にある照明の色を調整してエメラルドブルーの幻想的な色合いに調整する。
「……こんな感じですかね?」
「あっ、すっ、凄いです。水面がキラキラしてて、もの凄く綺麗ですね」
「もっといろいろな色にも調整できるのですが、あまりに派手にし過ぎてもアレなので、このぐらいが丁度よさそうですね」
幻想的にライトアップされたプールを見て、ひとりも感動したように目を輝かせる。すると、そんなひとりに対し、有紗は少し芝居がかった動作で手を差し出す。
「ひとりさん、手を……少し暗くなっていますから、安全のために」
「あっ……はっ、はい」
軽く微笑みを浮かべつつライトアップされたプールを背に手を出しだしてくる有紗の姿は、その圧倒的な容姿も相まって非常に絵になっており、ひとりは思わず顔を赤くしながら手を差し出した。
その手を優しく取って導くように引きつつ有紗はプールに移動し、ひとりと一緒にプールに入る。
「あっ、近くで見てもそんなに眩しくないですね。やっ、優しい光です」
「ええ、それにプールに入るとより一層水がキラキラして綺麗ですね。今回は遊んだりというよりは、この幻想的な光景の中で、ゆっくり過ごしましょう」
「あっ、はい」
「エアーマットをレンタルしてあるので、これを使いましょうか?」
「あっ、よっ、よくテレビとかで見る寝転べるやつ……こっ、こんなに大きいんですね」
「2人用のものですね」
有紗がプールサイドに用意していたエアーマットはかなりの大きさであり、ひとりと有紗がふたりで寝転んでもまだ余裕がありそうなサイズだった。
プールサイドで順番にエアーマットに乗り込み並んで横になると、空に満天の星空のようなものが見え、ひとりは驚いた表情を浮かべた。
「……あっ、あれ? 都会なのに、こんなに星が?」
「ああ、実はそういう感じにライトアップしているだけで、星じゃなくてただの明かりだったりします。かなり見え方とか反射を計算して作っているようなので、本物っぽく見えますけどね」
「あっ、そっ、そうなんですね。どうりで……けっ、けど、すごく綺麗ですね」
「ふふ、そうですね。ひとりさんと一緒に見ていると思うと、より一層綺麗に見えますよ」
「うっ、またそうやって恥ずかしいことを……」
相変わらずの有紗の言動に少し呆れつつも、なんとなく視線を横に向けたひとりは、思わず言葉を失った。エアーマットで隣同士に寝転がっているというのは理解していたが、想像以上に距離が近かった。
それだけではなく、先ほどまで軽くプールに入っていたため少し濡れている有紗の美しい肌、水着という普段より露出の多い恰好、プールを照らす幻想的な青緑色の光……それらが相まった有紗の姿は、思わず息を飲むほど美しかった。
「……ひとりさん、どうしました?」
「あっ、えっ、えっと、有紗ちゃんがすごく綺麗で……見惚れてました」
「おや? ふふ、そう言われると少し恥ずかしいですが嬉しいですね。ですが、私としてはそれ以上にひとりさんに見惚れてしまいますね」
「あえ? そっ、その、えっと……」
互いに寝転がったままで向かい合うような形になると、有紗は少し手を伸ばしてひとりの頬を優しく撫でた。当然そんなことをされれば、ひとりが照れないわけもなく顔はどんどん赤くなり、動悸も落ち着かなくなっていった。
「一度こうしてひとりさんの方を向いてしまうと、空には視線は戻せませんね。それぐらい、ひとりさんの愛らしさに夢中です」
「うぅぅ……あっ、有紗ちゃんは……本当にそうやって平然と恥ずかしい台詞を……」
「本心なので仕方ないですね」
そう言って微笑みながら、有紗はひとりの頬を撫でていた手を頭に移動させて、今度はひとりの頭を優しく撫でる。
本当に優しく、ひとりを落ち着かせるように優し気な微笑みのままで……すると緊張しまくっていたひとりも、少しずつ落ち着きを取り戻してきて、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
(あっ、なんだろう? さっきまですごく緊張してたけど……有紗ちゃんの優しい顔みてると、少し安心してきて……なんか、えっと……幸せだなぁ)
幻想的な光に照らされるプールの上で、ゆらりゆらりとエアーマットに乗りながら、多くの会話はなくとも心が通じ合う様な、そんな幸せなひと時をふたりは心行くまで味わった。
****
プールでゆっくりとふたりの時間を楽しんだあとは、ホテルの一室とは思えないほど大きな風呂に入浴してから就寝することになった。
大きなベッドに寝転がり明かりを消してあとは寝るだけ……のはずではあるのだが、ひとりはどうにも寝付けないというか、落ち着かない状態だった。
(……うっ、うぅ……なんだろうこの感じ、ベッドは大きくて柔らかいし、凄くいいもののはず。布団の手触りも凄くいいし、これでもかってぐらい高級感に溢れてる。快適な眠りが約束されているような、高級ベッドのはずなのに……寝れない)
目がさえていて眠れないというよりは、妙に不安な感じで寝付けないという表現が正しいかもしれない。普段家で寝る時とは違う感覚に、一瞬枕が変わったせいで眠れないのかとも考えたのだが、ひとりはすぐにその考えを排除する。
経験自体は少ないとはいえ、ひとりも何度も外泊をしており、その際にはいまのような状態にはなっていなかったからだ。
(な、なんでだろう? 箱根に旅行した時も、有紗ちゃんの家に泊った時も普通に寝れたのに……あっ、いや、でも、よくよく思い出してみると、箱根の1泊目も少しだけ寝つきが悪かった気が……やっぱり、枕が変わったから? それとも他に理由が……)
落ち着かない気持ちのままで過去の外泊を思い出していたひとりだが、その際にあることに気が付いた。無意識ではあったが、ひとりの手が布団の中でなにかを探すように動いていた。
そして思い至る。外泊であった際でもぐっすり眠れた時と、今の状態の違いを……。
(あっ、もっ、もも、もしかして……有紗ちゃんが、同じ布団で寝てないから……とか?)
正直に言ってその結論は恥ずかしすぎるので、ひとりとしては間違いだと思いたかったが……考えれば考えるほど、そうとしか思えなかった。
最初に有紗の家に泊った際も、客室が落ち着かないという理由で有紗のベッドで一緒に寝た。その際もぐっすりと寝れたのを覚えている。
箱根の1泊目は、少々寝付くのに苦戦したが眠ることはできた……ただ、起きた際には有紗の布団の中に潜り込んでいた。2泊目は有紗の提案で最初から有紗と同じ布団で寝ており、その際もぐっすり寝れたのを覚えている。
さらにその後にも何度か有紗の家に泊ったことがあるが、毎回必ず有紗と同じ布団で寝ていた。以上のことから考えてみると、現在中々寝付けない理由……妙に不安な気持ちの原因は、ひとりにとって安心できる存在である有紗がすぐそばに居ないことで、不安が大きくなっていることだろう。
(あっ、だっ、だから……妙に寂しいというか、不安というか……うぅぅ、自覚すると、更に寂しくなってきた……有紗ちゃんに傍に居て欲しい。けっ、けど、恥ずかしすぎてそんなこと自分から言うのは絶対無理……あっ、有紗ちゃんが提案してくれないかな……もっ、もう寝ちゃったかな?)
自覚してしまったことで寂しさが大きくなり、有紗の温もりを求めていることに顔を赤くしつつも、ひとりはチラチラと有紗の様子をうかがう。部屋が薄暗くて、有紗が寝付いているかどうかまではよく分からない。
「……あっ、有紗ちゃん……もっ、もう寝ましたか?」
「え? いいえ、まだですが……どうかしましたか?」
「あっ、いっ、いや、べっ、別になんでもなくて、なんとなく声をかけただけです。ちょっ、ちょっとだけ、落ち着かなかったので……」
寂しさに耐えかねて、意を決して声をかけてみると有紗はまだ起きていた。そのことにホッとしたひとりだったが、結局それ以上なにかを言い出すことはできなかった。
しかし、日頃から愛の力でひとりの考えがある程度分かると豪語している有紗には、それだけで十分だった。ひとりの声色や迷う様子から、なんとなくではあるが事情を察した有紗は少し微笑みを浮かべつつ、優しい声で告げる。
「……実は、困ったことに少々寝付けないんですよ。慣れないベッドで少し落ち着かないのかもしれません……なので、ひとりさん。少しワガママを言ってもいいでしょうか?」
「あっ、なっ、なんでしょうか?」
有紗の優しい声に、ひとりは期待するような表情を浮かべて上半身を起こして有紗の方を向く。すると有紗は枕元のスタンドの明かりを灯し、苦笑を浮かべつつひとりの望んだ言葉を口にする。
「少々寂しさを感じているので……ひとりさんさえよければ、一緒の布団で寝ませんか?」
「あっ、はっ、はい……そっ、その、実は、私も少し寂しくて……えと、大きな布団で落ち着かなかったので……うっ、嬉しいです」
「それならよかったです。では、ひとりさん、こちらへどうぞ」
「あっ、はい……しっ、失礼します」
優しく導くように掛け布団を少し上げて話す有紗の言葉に、ひとりは逸る気持ちを必死に抑えつつ、有紗のベッドに移動して同じ布団の中に入る。
先ほどまで寝転んでいたベッドと同じベッドのはずだが……布団に入った瞬間、ほっと安心できるような温もりを感じた。そして、同時にほのかに香る有紗の香りがひとりの心を落ち着かせてくれる。
「スタンドの明かりを消して……ついでに、失礼します」
「ひゃっ……あぅ……なっ、なんとなくそんな気はしてましたけど、やっぱり抱きしめるんですね」
「確実にこの方が安眠できる気がするので……嫌ですか?」
「あっ、いっ、嫌じゃ……ないです。そっ、その……私も安心できるので……」
先ほどまで感じていたはずの不安や寂しさが嘘のように消えていくのを実感しつつ、ひとりは恥ずかしがりながらも有紗の背に手を回して抱きしめ返す。
伝わってくる温もりと柔らかな感触がひとりに心からの安心を与えてくれて……ひとりは、どこか幸せそうな笑みを浮かべる。
「……それでは、改めて、おやすみなさい、ひとりさん」
「あっ、はい。おやすみなさい……有紗ちゃん」
有紗に言葉を返して、ギュッと抱き着きながら目を閉じると、先ほどまでとは違ってすぐに眠気がやってきて、ひとりは心地よい温もりの中で穏やかに眠りに落ちていった。
時花有紗:やはり愛の力、愛の力は全てを解決する。実際、有紗本人としてもひとりを抱きしめて眠れるのは幸せしかないので、まったく不都合は無し。
後藤ひとり:もうだいぶ有紗ちゃんが居ないと駄目な感じになってるぼっちちゃん。寂しい気持ちをかを察して、一番して欲しいことをしてくれるわけだし、そりゃメロメロになるだろう。今後も有紗ちゃんと外泊する時は同じ布団で寝てそう。