ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十手順調の夏突入~sideA~

 

 

 目覚めてすぐに感じたのは心地よい温もりと柔らかな感触でした。腕の中には愛しいひとりさんが居て、スヤスヤと安らいだ表情で眠っています。

 ひとりさんと出会ってから、自分の寝覚めの良さには感謝するばかりです。こうして起きてからしばしの間は、ひとりさんの寝顔を独り占めにできるのは本当に幸せです。

 

 ひとりさんの顔にかかっている髪の毛をそっとどかし、起こさないように優しく頬に手を添えます。軽く触れるだけで柔らかくスベスベとした感触が伝わってきて、本当になんとも言えない至福の一時といった感じですね。

 少しそのままひとりさんの寝顔を見たあと、頬に当てていた手を背中に回して抱きしめます。寝る際も抱きしめていたのですが、やはりある程度寝返りなどもあるので少し離れてしまっているので、そこはしっかりと密着しておきます。

 そのままひとりさんの寝顔と温もりを堪能していると、少ししてひとりさんが身をよじり薄っすらと目を開けました。

 

「……んん……有紗ちゃん?」

「はい。おはようございます、ひとりさん」

「あっ、おはようございま……あっ、わっ、分かっていても、朝起きてこの状態はビックリしますね」

 

 ひとりさんも既に何度も私と一緒に宿泊をしているので、ある程度こうした状態……朝目覚めて、私がひとりさんを抱きしめている形には慣れた様子でしたが、それでも少し恥ずかし気に頬を染めて苦笑を浮かべていました。

 

「……あっ、これ、すぐに起きる形にはならない……ですよね?」

「そうですね。私としては、時間の許す限りこの状態を堪能したいです。幸い急ぐ用事もないですから、ひとりさんさえよければもうしばしこの状態がいいですね」

「あっ、本当にいつも通りの感じですね……いいですよ。私ももう少し……そっ、その、寝てたかったので」

「なんなら二度寝してしまいますか? いい時間になったら起こしますよ?」

「……そっ、それはそれで魅力的ですけど……う~ん。まっ、まぁ、起きときます」

 

 そう言ってはにかむ様に微笑んだあとで、ひとりさんは少し甘えるように身を寄せてきました。そんな愛らしい仕草を見て、私も少しひとりさんを抱きしめる力を強くしました。

 心地よい朝の空気の中、ピッタリと密着して過ごすこの時間はまさに至福の一時ですね。

 

「そういえば、ひとりさん。今日はスタジオ練習の日ですが、どうしますか? 一度家に戻ってから向かいますか?」

「あっ、え~と、それでもいいんですけど、ギターは持って来てますし、直接向かってもいいかなぁって……いっ、一度家に戻ってると時間がかかりますし」

「確かに、往復で3時間はかかりますし、直接行ったほうが効率的ではありますね」

 

 いまいるホテルはひとりさんの家から下北沢の丁度中間あたりの場所にあります。ひとりさんの家には1時間ほどで戻れますが、その後STARRYに向かうのであれば、追加で2時間かかってしまうので、それなら直接向かったほうがと考えるのは当然の帰結ですね。

 

「それでしたら、電車で行く必要も無いですし、一緒に車で向かいましょう。私もSTARRYには行くつもりでしたしね」

「あっ、はい」

「スタジオ練習が昼の2時からなので、昼に出て向かいつつどこかで昼食を食べれば丁度いいかもしれませんね」

「でっ、ですね。それなら、まだしばらくはゆっくりできますね」

「ええ、時間を気にせず、しばらくはこうしていられそうで嬉しいです」

「あえ? いっ、いや、さっ、流石に、昼までずっとこの状態は駄目ですからね!?」

 

 私の心境としては正直昼まで数時間この状態でも問題は無いのですが、流石にそうはいかないので例によって30分ほどで切り上げるとしましょう……まぁ、それでも30分はしっかりとひとりさんの温もりを堪能しますが……。

 

 

****

 

 

 6月も終わり7月に入ると、いよいよ未確認ライオットのライブ審査が近くなってきました。結束バンドの皆さんは順調に演奏レベルを上げていますし、最近は知名度でも上位層にそうそう後れを取らないほどにはなってきました。

 この調子で行けば年末近くになれば、ホームであるSTARRYでならワンマンライブもこなせるぐらいになるかもしれませんね。

 

 もちろんそれ以外にも学生である私たちにとっては、長期の休みである夏休みがありレジャーシーズンということもあって楽しいことも沢山あります。

 私もひとりさんと楽しい夏を過ごすためにいろいろ考えてはいます……ただまぁ、その前にやってくるものというのはあります。

 

「ここは、この公式の応用で……」

「あっ、なっ、なるほど……」

 

 そう、期末考査です。そんなわけで、恒例となりましたがSTARRYにて私はひとりさんと喜多さんに勉強を教えていました。

 最初こそ全教科10点以下という点数だったひとりさんも、現在は平均点よりやや上あたりを問題なく取れるようになっていますし、喜多さんに至っては学年内でも上位といっていい成績になっています。

 

「有紗ちゃん、ここはこれでいいのかな?」

「ええ、正解です。ただ、この問題は間違えやすいので、少し時間はかかりますがこの形式で出た時は、途中式は省略せずに書ききった方がいいですね」

 

 ちなみに現在はSTARRYで場所を借りてテスト勉強を行っており、別のテーブルでは同じように虹夏さんがリョウさんに勉強を教えています。

 

「ほら、リョウ。しっかりやる気出さないと……夏休みに補習は嫌でしょ?」

「うぐっ、それはたしかに……嫌だ」

 

 リョウさんは例によって勉強を嫌がっているみたいでしたが、それでも夏休みに補習で学校に行くのは嫌なのか、渋々といった感じで勉強をしていました。まぁ、虹夏さんが教えてるからこそちゃんと聞いているという部分もあるのでしょうが……。

 

 しばらく勉強を続けたあとで休憩を行いつつ、皆さんと雑談を行います。

 

「やっぱりさ、他のハコでライブしたりするときは機材運びが大変だよね。いっそ、夏休みに車の免許取りに行こうかなぁって……車があればできること増えるしさ」

「確かに車があるといいですよね。私たちは年齢的に無理なので、伊地知先輩かリョウ先輩にお願いするしかないですが……」

「虹夏、任せた」

「え~リョウも取ってくれればいいじゃん。ひとりだけ免許持ちだと、毎回私が運転になるわけだし……」

「嫌、車の運転なんて気が乗らない」

「……怖いんでしょ?」

「…………」

 

 今回の雑談は虹夏さんの免許習得に関して……確かに、以前池袋でブッキングライブを行った際も機材運びは大変だったので、車は有効ではありますね。

 単純に行動範囲も増えるので、それこそ遠征やツアーも可能になるでしょう。まぁ、さすがにツアーを行ったりするには知名度もコネも足りないですが……。

 

「確かに車があるといいとは思いますが、免許だけでなく車自体も必要ですよね?」

「あっ、そっ、そうですよね。毎回レンタカーとかってわけにも行かないですし……」

 

 私が告げた言葉にひとりさんも頷きます。当然ではありますが、免許があっても車が無ければ意味がありません。そして、バンドの機材を運べるほどとなるとある程度の荷台サイズは必要になってくるでしょう。

 

「あ、そうだよね? まぁ、その辺は皆でお金を出して溜めて買う形で……」

「ですね。けど、車って高いですよね?」

「まぁ、その辺りはじっくり貯めていく感じで……」

 

 虹夏さんの言葉に喜多さんが不安げな表情を浮かべます。確かに、車はそれなりに高価なものが多いですし、学生の身としては大変な金額でしょう。

 バイトのノルマ代やスタジオ代などもあるので、溜めるにはそれなりに時間がかかりそうです。

 

「そのぐらいでしたら、私が出しますよ。2000万程度あれば、問題ないでしょうし」

「にっせんまんっ!?」

「待って待って待って!? ツッコミどころが多い! 2000万!? いやいや、それは基準値がセレブ過ぎる」

「……このパトロン化け物か? というか、珍しく有紗が浮世離れした金銭感覚を……」

「あっ、有紗ちゃん車にまったく興味がないので、たっ、たぶん有紗ちゃんのお父さんが持ってる車を基準に考えたんだと思います」

 

 ひとりさんの言う通り、私はまったく車に関心が無かったので、お父様が持っている車を基準に考えていました。よくよく考えてみれば2000万はお父様の持っている車の中では平均的な金額としても、一般的に考えればその10分の1ほどでよかったですね。

 これは、なんとも恥ずかしい失態ですね。

 

「し、失礼しました。ひとりさんの言うように、お父様のコレクション基準で考えていました」

「……有紗ちゃんのお父さんって、車いっぱい持ってるんだっけ?」

「ええ、私が普段の送り迎えに使っている車もお父様のものですね。お父様は似たような車を何十台と持ってますが……」

 

 最近さらに台数が増えたので、ガレージを増築することも考えているみたいです。まぁ、お父様は楽しそうではありますが、私やお母様にはいまいち分からない趣味ではありますね。

 たまの休みに、楽し気に自慢の車を紹介する楽し気なお父様の表情を見ていると、口を挟んだりする気にもならないので、高級車に関する知識は自然とある程度付いてしまいましたね。

 

「……あっ、ちなみに、有紗ちゃんが普段乗ってる車……5000万ぐらいらしいです」

「ひぇ……そのレベルが何十台もあるって、セレブって凄いなぁ……」

 

 ひとりさんの補足をきいて、虹夏さんがなんとも言えない遠い目をしていました。なんというか、若干放心しているようにも見えます。

 

「う、う~ん……しかし、なんというか、少し恥ずかしい失敗をしてしまいましたね。気づかないところで、感覚のズレというものはあるものですね」

「そっ、そういうこともありますよ。気にしないでください。でっ、でも、なんか有紗ちゃんがそういう失敗してるのって珍しくて……あっ、えっと、失礼かもしれないですけど、ちょっと可愛くて……なっ、なんかほっこりしました」

「失敗は反省すべきですが、ひとりさんが喜んでくれたのは嬉しい……なかなか反応に困ってしまいますね。ですが、なによりひとりさんが私の気持ちをフォローしようとしてくれたのが嬉しいです。ありがとうございます」

「えへへ、そっ、そんな、大したことはしてないです」

 

 ズレた発言をしてしまって気恥ずかしさを感じていた私を元気付けようと声をかけてくれたひとりさんに微笑み返すと、ひとりさんもはにかむような笑顔を浮かべてくれました。失敗は反省すべきですが、ひとりさんのこの愛らしい笑顔を見れたのは不幸中の幸いでした。

 

「……リョウ助けて、バカップルが精神に追い打ちかけてくる」

「こっちに振らないでほしい」

 

 

 




時花有紗:車には本当に興味がない。そのせいで珍しくセレブ的な感覚のズレを発揮して、少々恥ずかしがっていた。しかし、ぼっちちゃんが慰めてくれたので最終的にはプラスと考える辺りは、さすがのメンタルである。

後藤ひとり:いちゃいちゃ度が増してるぼっちちゃん。朝のハグで甘えるように身を寄せたり、有紗に対して本当に心を許しているのが伝わってくる子犬感。

伊地知虹夏:原作とは違ってハイエートも余裕で買えそう。
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