ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十一手開戦のライブ審査~sideA~

 

 

 夏休みに入ってすぐではありますが、いよいよ未確認ライオットのライブ審査の日がやってきました。今回のライブ審査の会場は私たちにとっては馴染みのある新宿FOLTに決定しました。

 一度全員で下北沢に集合して向かおうという話になってますが、ひとりさんが不安げだったので私はひとりさんの家まで迎えに行って、一緒に下北沢に向かうことにしました。

 

「……あっ、いっ、いよいよ、ですね」

「そうですね。新宿FOLTで参加は全8組、通過枠は3組……出場者のリストを見る限り、上位陣はSIDEROSとケモノリアですね。結束バンドを含めてネット審査TOP10は3組参加ですね。情報からの推測ではありますが、一応結束バンドも運営側からは通過を期待されているとみていいでしょう」

 

 運営としてはSIDEROS、ケモノリア、結束バンドの3組を本戦に進ませたい印象を受けます。もちろんあくまでそうなったらいいというレベルで、実際は実力勝負にはなるでしょう。

 

「だっ、大丈夫……ですかね?」

「絶対というのはありませんし、他のバンドもネット審査からはレベルアップしているでしょうが……可能性は十分にあると思います。私も通過のバンドの演奏は一通り聞いてみましたが、この参加8組のなかで飛び抜けてレベルが上なのはSIDEROSだけですね」

「あっ、やっ、やっぱりSIDEROSは強いですか?」

「……厳しい言い方にはなりますが、現時点の結束バンドは勝ち目の薄い相手です。SIDEROSだけは明確に格上ですね。ただ、ケモノリアに関しては勝ち目はあると思います。まぁ、強敵には違いないですが……」

 

 ケモノリアはエレクトロニックロックのバンドで、電子音楽を中心としたエレクトロニカというジャンルで、結束バンドのような王道のロックとはまた違った雰囲気のあるバンドです。

 参加8組の中では唯一のエレクトロニックロックということもあって、印象に残りやすく投票では有利ですが……それを加味した上でも結束バンドなら勝ち目の見える相手ではあります。

 そんなことを考えつつも、私はひとりさんの手を握り安心させるように微笑みながら口を開きます。

 

「不安に感じる気持ちは分かりますが、大丈夫ですよ。いまの結束バンドには十分本戦に進めるだけの実力が備わっています。力を出し切って演奏すれば、きっと結果も付いて来ます……だから、頑張ってくださいね」

「あっ……はい! 有紗ちゃんにそう言ってもらえると、頑張れる気がします」

 

 私の言葉を聞いて、ひとりさんはグッと目に力を入れて言葉を返してくれました。緊張などは見えますが、それでも畏縮したりしているわけでは無い様子で、かなりいい精神状態のように感じられました。

 

 

****

 

 

 他のメンバーと合流したあと皆で移動して新宿FOLTに移動しました。リョウさんに関してはなんとなく、緊張で寝付けず寝坊しそうな気がしたので、事前に虹夏さんに気にするように伝えておいたのが功を奏したのか、無事に遅れることなく全員揃ってFOLTに到着しました。

 

「おはようございます! 結束バンドです! 今日はよろしくお願いします!」

「あら~結束バンドちゃん、久しぶり~」

 

 ライブハウス内に入ると、たまたま銀次郎さんを見かけ虹夏さんが明るく挨拶をしましたが、銀次郎さんは笑顔で返しつつもなにやら忙しそうで、手には水の入ったペットボトルを抱えていました。

 

「ごめんね、いまちょっとバタバタしてて~また後でゆっくりお話しましょ~!」

「開催場所の店長さんですもんね。今日は大変でしょう」

「……いえ、虹夏さん。たぶんですが、向こうの床に寝転がってるきくりさんが原因ではないかと……」

 

 今回はオープニングアクトとしてSICKHACKが演奏を行うことになっています。会場である新宿FOLTを拠点としており、インディーズとしては相当の人気バンドなので運営に選ばれた形でしょうね。

 そしてそのきくりさんですが、朝から思いっきり飲んでいるのかいつも以上に酔っている様子で、床に寝転んでいました。

 銀次郎さんと共に私たちもきくりさんの元に近付くと、きくりさんは私たちに気付いて震えながら手を上げました。

 

「……ッけっ……みん……おは……ッ……」

「酒やけのせいでなに言ってるか分からない!」

「大事なライブの日になんでこんなにお酒飲んでるんですか!」

「おはようございます、きくりさん。大きな声を出そうとせずに、まずは水を飲んで水分補給をしてください」

 

 とりあえずこのままというわけにはいかないので、寝ているきくりさんの上半身を起こしつつ銀次郎さんから受け取ったペットボトルの蓋を開けて、水を飲ませます。

 少しするとある程度喉が潤ったのか、きくりさんは酔った様子で涙を流しながら口を開きました。

 

「……まだ未来のある。失敗してもやり直しのきく若者たちを見ていたら、飲まずにはいられなくなって……やり直したい……やり直したいよぉ……」

「過去を悔いる気持ちは誰しも持つものですが、自棄になってはいけませんね。お酒も逃避で飲んでは美味しくないでしょう? 飲むなら楽しく前向きに飲まないと……さっ、のど飴をどうぞ」

「うぅぅ、有紗ちゃぁぁぁぁん……あの……優しく慰めてくれるのは嬉しいけど、さりげなく熟練の手腕で私の懐からおにころ没収するのは……あっ、全部取られた……」

「とりあえず、審査が終わるまではこれ以上のお酒は控えてくださいね。こちらは銀次郎さんに渡しておきますので、ライブが終わった後で受け取ってください」

「……あ……はい」

 

 STARRYなどでもよく酔い潰れているので、ある程度きくりさんの介抱も慣れたものです。とりあえず、少し持ち直すと再びお酒を飲み始めるので、それを防止するために手持ちのお酒はすべて回収して、銀次郎さんに渡しておきます。

 

 少しするときくりさんは復活して、控室の方に移動していきました。それを見送った後、虹夏さんが周囲を見渡しながら口を開きます。

 

「……にしても、普段のライブでは見ない人もチラホラいるね」

「主催のお偉いさんとかレーベルの人とかいて、なんだか堅苦しいわよね~あまり意識せずにやっちゃいなさいね。ちなみに私も審査員のひとりだけど、贔屓なんてしないわよ……そんなことしなくても、結束バンドは客を魅了できるって思ってるからね」

「……はい!」

 

 虹夏さんの言葉に反応した銀次郎さんは、微笑みながらそう告げたあとで仕事に戻っていきました。期待してくれているのをありがたく感じつつ、皆さんと一緒に軽くライブハウス内を見渡します。

 まだ、一般客の入場時間にはなっていないので居るのは出場バンドと関係者のみで、審査前の独特のピリピリとした雰囲気がありました。

 

「……ひとりさん、不安ですか?」

「あっ、もっ、もちろん緊張とかしてますけど……だっ、大丈夫です。そっ、その……有紗ちゃんも居てくれますし」

「それならよかったです」

「あっ、でっ、でも……えっと……」

「うん?」

 

 私の言葉に力強く答えたあとで、ひとりさんはなにやら落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見渡したあとで、私の耳元に口を寄せて小さな声で呟きました。

 

「……まっ、また、本番前におまじないは……しっ、してほしいです。勇気がもらえる気がしますから……」

「わかりました。任せてください」

 

 以前行ったおまじないは、ひとりさんの緊張をほぐすために咄嗟に考えたものでしたが、ひとりさんにとってはかなり効果があった様子です。

 ルーティンを始めとして、上手く行った際の行動を繰り返すというのは効率的な面で考えても有効ですね。精神状態をいい状態に導ける可能性があります。あと単純に、私としてはあのおまじないは嬉しいのでまったく問題はないどころか、ご褒美のような感じです。

 

「……ほら、そこのバカップル。なに話してるか分からないけど、そろそろ控室に行くよ~」

「だっ、だから、カップルじゃなくて――聞く素振りすら無しで移動してる!?」

「ふふ、私たちも移動しましょう」

「あっ、はい」

 

 虹夏さんたちの後を追うように控室に向かいます。今回は私も、マネージャーという扱いでメンバー登録しているので控室にも問題なく入れます。まぁ、その反面観客としての投票には参加できませんが、結束バンドの皆さんなら1票に左右されることなくいい結果を勝ち取ってくれるでしょう。

 

「あ、おはようございますっす」

「あくびさんに楓子さん、おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそっすよ~」

 

 控室に向かう途中でSIDEROSのあくびさんと楓子さんに偶然会って軽く挨拶をしてから、一緒に控室に移動すると、ヨヨコさんと幽々さんの姿も見えました。

 

「ヨヨコ先輩~結束バンドの皆さんっすよ」

「あっ! ――ッ!? フンッ! 来たのね……」

 

 私たちを見て、ヨヨコさんは一瞬安心したような表情を浮かべましたが、すぐにハッとして視線を逸らしました。ヨヨコさんはアレでかなり緊張する方なので、知り合いが来て安心したのでしょう。

 もちろんそれを指摘すると怒るでしょうから、言及したりするつもりは無く微笑みながら声をかけます。

 

「こんにちは、ヨヨコさん。今日はよろしくお願いします……初めて見る方が多かったので、知り合いと会えて少し安心しました」

「そう……緊張する気持ちも分かるけど、気楽にやりなさい。積んできた練習は裏切ったりしないわ」

「ありがとうございます。SIDEROSの皆さんも、もちろんライバルではありますが、同時にひとりの友人として応援していますので、頑張ってください」

「……あ、ありがとう。まぁ、貴女たちも頑張りなさい。その、ちゃんとやれば、本戦に出れるだけの実力はあると思ってるから……」

 

 ヨヨコさんは少しコミュニケーションが苦手な方ではありますが、誠意には誠意を返してくれる方なので、私たちに対しても応援と激励の言葉を投げかけてくれました。

 そのままヨヨコさんやSIDEROSの皆さんと少し話していると、運営の方がやってきて流れの説明と、演奏順のくじ引きが行われました。

 

 要約すると全組が演奏終了後、審査員と観客による投票を行い票数の多い順に上位3組が決勝である本戦に出場というシンプルなものです。

 演奏順は代表者によるくじ引きで決めるため、結束バンドはチームリーダーの虹夏さんがくじを引きに向かいます。

 

「伊地知先輩、絶対トリを!」

「……リーダーに引いてもらった方がよくない? 有紗くじ運強そうだし……」

「私がリーダーですけど!? 有紗ちゃんがくじ運強そうなのは同意だけどね」

「ともかく、微妙な順番はやめてよ、印象に残りにくいし……」

 

 演奏順はたしかに重要ではあります。トップバッターは後の基準にされる可能性が高く、印象に残るには相当いい演奏をする必要があります。

 逆にラストは印象に残りやすいという長所もありますが、それまでの全ての組と演奏で比較される性質上、失敗すれば悪印象も残りやすいですね。

 

 そして、くじ引きに向かった虹夏さんが引いたのは……。

 

「……5番」

「真ん中あたりって、一番微妙なとこじゃん。虹夏、くじ運悪いね」

「……うぅぅ」

 

 8組中5番目と聞けば、早くも遅くもなく中途半端な位置という印象で、虹夏さんも肩を落としていましたが、私は違う印象を受けました。

 

「……いえ、そうでもないかもしれません。むしろいい順番と言えるかもしれませんね」

「あっ、そっ、そうなんですか?」

「ええ、いま他の組の順番を見ていましたが……ケモノリアが1番、SIDEROSが2番とトップクラスのバンドが前に固まりました。人気的に考えてこの2組でかなり盛り上がって会場の空気が形成されると思います」

「……なるほど、3番目とかだとやりにくい空気になってる感じか……ふむ」

 

 私の言葉を聞いたリョウさんが、真剣に考えるように顎に手を当てます。リョウさんは音楽に関してはかなり詳しいので、すぐに私が言わんとしていることは察してくれるでしょう。

 

「……先行で空気が作られて3番、4番の演奏次第だけど、タイミング的に中だるみしかけの空気になってる可能性が高いから、そこでいい演奏ができれば強く印象に残りつつ、後半の演奏組にプレッシャーもかけられるって考えると、確かに悪くないかも」

「え? 本当? いい順番?」

「ええ、それにトップバッターやトリではないので、緊張し過ぎず演奏できるというのも利点なので、本当にいい順番だと思いますよ」

「よ、よかったぁ……」

 

 私とリョウさんの言葉を聞き、虹夏さんはホッと胸を撫で下ろしました。まぁ、最終的にものをいうのは地力ではありますので、出来るだけ皆さんにはいい精神状態で臨んでもらいたいものです。そのためにも、私もできる限りのサポートはしていきましょう。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃん、きくり、ヨヨコと素のコミュ力の賜物か陰キャに対して特効があるのか、流石な感じである。名目上はマネージャーとして登録しているので、結束バンドのメンバーと一緒に控室入りしている。

後藤ひとり:実は一番精神的に安定している。基本的に有紗が居さえすれば、ぼっちちゃんの精神面はある程度安定しているので、メンバー内では一番いい緊張の中にいる。なお、おまじないはちょっと癖になったのか、恥ずかしがりつつもお願いしていた。

ケモノリア:あんま本格的に出てないのでキャラがよく分からない大学生バンド。リーダーらしきキーボーダーはぼっちちゃんと同じ発想してたり、キャラは濃そうだが、果たして再登場するのだろうか? 一緒のタイミングで紹介されてたけど、まったく登場してなかった『なんばガールズ』よりはマシか?

原作との相違:FOLTでの審査対象7組→8組、通過枠2組→3組、結束バンドがTOP10通過して、同じライブハウスにTOP10が3組集まることを加味して調整された設定。
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