新宿FOLTにて行わる未確認ライオットのライブ審査。現在は参加バンドによるリハーサルも終わりあとは開催を待つ段階となった。
軽く外の様子を見に行っていた喜多が戻ってきて、虹夏に声をかける。
「伊地知先輩! 表見たら、お客さんたくさん並んでましたよ!」
「開催時間ももうすぐだね~。私たちのバンドのファンも来てくれてるかな?」
「来てましたね……来てましたし……目立ってました」
「う、うん? 目立ってた?」
「ほら2号さんがよく着てる法被があるじゃないですか、あれと同じ法被を着た人が結構な数……いつの間にあんなに増えたんでしょうか……」
「なんか、あの法被結束バンドのファンクラブ的な印象になってるけど、あれ、有紗ちゃんとぼっちちゃんを推してる人たちだったような……ま、まぁ、いいか、うちのファンには変わりないんだし……」
余談ではあるが、2号を党首とする有紗とひとりのカップリングを推す通称有後党は、結束バンドファンの中でも最大派閥であり、現在はかなりの人数に膨れ上がっていた。
というのも結束バンドMVなどで有紗とひとりは一緒に映っていることが多く、最近リョウの提案で新しく追加したブロマイドなどの売れ行きも凄まじく、圧倒的に人気のカップリングだった。
噂ではそういった推し活に強い新メンバーの加入によって勢力をさらに拡大しているとかいないとか……。
「結束バンドのファンが増えるのは嬉しいですし、マナーもとてもいいので文句なども無いのですが、なぜ演奏メンバーでない私なのかは未だに疑問ですね。ひとりさんのファンクラブというなら、よく分かるのですが……」
「あっ、有紗ちゃんは可愛いですから、おかしくないですよ。むっ、むしろ私のファンクラブとか、需要があるのか疑――」
「あります!」
「――あっ、はい」
自分のファンクラブなど需要はないと言いかけたひとりではあったが、そこは有紗の力強い言葉で即座に黙らされていた。
するとそのタイミングで、ふと虹夏があることを思いついたように有紗に声をかける。
「あ、そうだ。有紗ちゃん、ステッカー出して」
「ああ、そうですね。いいタイミングですね」
「ステッカー?」
「ほら、前に結束バンドのステッカー作ろうって話したじゃん。それで、有紗ちゃんと相談しながら作って、ちょっと前に完成したから持って来てもらったんだよ。本番前に結束感を強めるために皆で貼ろうよ!」
「いいですね! 皆で楽器に貼って、一致団結です!」
虹夏の言葉を受けて、有紗が鞄から取り出したのはTシャツなどにも使われている結束バンドのマークをステッカーにしたものだった。
有紗からステッカーを受け取りつつ、メンバーたちは各々の楽器にステッカーを貼っていく。
「……あっ、有紗ちゃんは?」
「私は楽器が……う~ん」
ひとりに尋ねられた有紗は演奏メンバーではないため楽器を持って来ていないと言いかけたが、その途中で言葉を止めて少し考えたあと、イタズラっぽく微笑みながらひとりに1枚の白黒が反転したデザインのステッカーを手渡す。
「では、もしよければ私の分も、ひとりさんのギターに一緒に貼ってくれませんか?」
「あっ……はい! 喜んで! 有紗ちゃんも、メンバーですもんね!」
「ありがとうございます」
有紗の提案に嬉しそうな表情を浮かべたひとりは、ボディとヘッドに1枚ずつのステッカーを貼った。
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ライブ審査の時間となり、進行役がマイクを持って舞台に上がる。
「全国の10代バンドから、まだ見ぬ才能を発掘するこの未確認ライオット! 今年も3000を超えるバンドが応募してくれたぜ! その中からネット投票を突破した上位30組の内、8組がこの東京会場に出場している。ファイナルステージに進めるのは、このうち3組だけだ!」
進行役が簡単な解説行ったあとで、オープニングアクトを務めるゲストバンドSICKHACKを紹介する。二日酔い気味のきくりではあったが、酔ってライブを行うのは彼女にとっていつもの事であり、なんだかんだで演奏レベルは高いのでしっかり会場を盛り上げた。
その後、一番手であるケモノリアが壇上に上がって演奏を披露し、爽やかで明るい曲でさらに観客を盛り上げる。さらに続けてSIDEROSが壇上に上がり力強いメタルサウンドと歌で、爽やかだった客のノリを一変させ、同時に会場をさらに盛り上げる。
「……すっっごい盛り上がってますね」
「予想通りとはいえ、やっぱりSIDEROSが頭ひとつ抜けてるし、この中で演奏する3番手はきつそう」
会場の盛り上がりを見てやや圧倒されながら呟く喜多に、リョウも同意しつつ3番目に演奏を行うバンドをチラリとみる。
現在SIDEROSの演奏が終わり、壇上に上がっているところだが遠目に見てわかるほどに力が入っており、とてもいい演奏ができる状態には見えなかった。
それも当然だろう。トップバッターからハイレベルなケモノリアが演奏を行い、2番手のSIDEROSはそのケモノリアをも圧倒するほどの演奏をしてみせた。
結束バンドの成長に触発されるようにSIDEROSもまた、以前よりかなりレベルを上げており、有紗やリョウの語る通り、今回の参加バンドの中では明確に頭ひとつ抜けた実力を有していた。
「分かってはいたけど、手強いね~」
「その割には余裕そうじゃん、虹夏」
「いや、余裕は無いけどさ、もうここまで来たら全力でやるだけだしね……あれ? そういえば、有紗ちゃんとぼっちちゃんは?」
「え? あれ? いませんね……まぁ、一緒に居るのは間違いないでしょうし、有紗ちゃんが一緒なら遅れることはないでしょうから、大丈夫ですよ」
「そだね~どっかでいちゃついてるのかもね」
「それはマジでありそう」
ケモノリアやSIDEROSの演奏を目の当たりにしても、虹夏たちの表情に焦りの感情は見えなかった。彼女たちもまたここまで努力し成長してきたという自負があり、それが精神的な自信へと繋がっていた。驕っているわけでは無く、ケモノリアもSIDEROSも強敵であると認識したうえで、全力で挑もうと、そんな心境だった。
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その頃有紗とひとりは、控室から少し離れた場所に置いてあった長椅子に並んで座り、会話をしていた。
「もうすぐ出番ですね」
「はっ、はい。きっ、緊張しますけど……やる気もしっかりあります」
「ひとりさんは、バンドを始めたばかりの頃に比べて本当に成長していますね。技術もそうですがなによりも精神面が……」
「そっ、そうですかね? 自分じゃ、あんまりよく分からないです」
たしかに有紗の言葉通り、ひとりは精神面で非常に大きく成長していた。ライブ審査という大一番を前にしても、ある程度の緊張を保ちつつも落ち着いており、傍目に見てもいい集中の仕方をしていた。
そんなひとりを見て有紗は微笑んだあと、ひとりの前髪を軽く手であげ、以前におまじないをした時と同じように、おでこをくっつける。
「……ずっと見てきた私が言うのですから、間違いないです。ひとりさんは、前よりもずっと素敵でカッコいいバンドマンに成長していますよ」
「有紗ちゃん……えへへ、あっ、有紗ちゃんがそう言ってくれるなら……きっとそうですね。でっ、でも、私が成長できたのは有紗ちゃんのおかげです。有紗ちゃんが傍に居てくれると、怖くても頑張れるっていうか、勇気が湧いてくるんです」
「ふふ、私の存在がひとりさんの助けになれているのなら、凄く嬉しいですね」
「……有紗ちゃん、私、頑張りますね」
「はい。応援しています……最高の演奏を、聞かせてくださいね?」
「任せてください!」
有紗を真っ直ぐに見つめるひとりの目には強い光が宿っており、有紗もこの様子ならばきっと大丈夫、いい結果に繋がるだろうと確信できる強さがあった。
有紗はひとりの様子に嬉しそうに微笑んだあと、ひとりの体を軽く抱きしめた。
「ひとりさん、頑張ってください」
「あっ……はい! 頑張ります!」
有紗の言葉にしっかりと答えたあとで、ひとりは有紗と共に長椅子から立ち上がって、虹夏たちの待つ控室へと向かって移動していった。
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3番手、4番手のバンドはやはりケモノリアとSIDEROSに気圧されたのかパッとしない演奏で終わり、序盤で盛り上がっていた観客の空気が中だるみし始めていた。
そんな空気の中でいよいよ5番手の結束バンドの番がやって来た。
「次は下北沢発、そのバンド名はネタっぽいが実力は本物! ネット審査でも7位という好成績を収めている結束バンドの登場だ!」
進行役の紹介で壇上に上がり、MCである喜多が笑顔で口を開く。
「えーこんにちは! 下北沢からきました。エゴサが全く機能しない結束バンドです! よろしくお願いします! それではさっそく一曲目……の前に、リードギターの後藤から一言あるそうなので……じゃ、ひとりちゃん」
「あっ、はい」
ひとりがライブ前にマイクでなにかを喋るというのは極めて珍しい……というよりは、会場に来ている結束バンドのファンにとっても初めての事態といえるもので、少々ざわつきがあった。
だがそんな空気の中でも、ひとりはどこか落ち着いた様子で……顔を上げ力強い目で話し始めた。
「……あっ、この会場に来ている、どのバンドも本当にレベルが高くて凄いのは分かってます。でも、私たちも演奏する4人と、ステージには立たないですが大切な……本当に大切なもうひとりの仲間と5人で一緒に頑張ってバンドとしての力をつけてきました。だから、これだけは言わせてください」
ひとりはそこで一度言葉を区切った後、普段の内気な彼女からは想像もできないほど強い目で観客たちを見て口を開いた。
「どんなに凄いバンドが相手でも負けるつもりはありません! 私たち結束バンドの結束力……観てください!!」
ひとりの力強い宣言を合図にして、結束バンドの演奏がスタートした。その演奏は彼女たちにとってもまさに渾身と言えるほどに力強く見事な演奏であり、中だるみしかけていた観客たちの心をガッツリと掴み、会場を再び熱狂させた。
そして……その全身全霊の演奏は……確かな結果を掴みとった。
未確認ライオット、3rdステージ、ライブ審査。
東京会場通過バンドは――SIDEROS、結束バンド、ケモノリアの3組となった。
時花有紗:ぼっちちゃんにとっての心の支え……というか、もうそこまでいちゃいちゃしてるなら、恋人でいい気もする。
後藤ひとり:どう見ても有紗が心の支えになっており、原作よりだいぶ精神面で成長していて、原作よりも力強い宣言をしていた。有紗の部分に「大切な」を2回付けるあたり、有紗のことだいぶ好きだと思う。
有後党:戦力をどんどん拡大している模様の法被集団。マナーはとてもいい上、統率も取れている組織。
未確認ライオット:原作とは違って結束バンドファイナルステージ進出……まぁ、この作品のメインは有紗とぼっちちゃんのいちゃいちゃなので、さして重要ではない。