残念ながら世の中全ての努力が報われるとは限りません。足掻いても願っても届かないこともあるでしょう。ですが今回は、皆さんが積み上げてきた努力は……確かな成果として報われました。
「最終ステージに進むのは、SIDEROS、結束バンド、ケモノリアの3組だ! まったくとんでもねぇバンドが出てきたもんだぜ。審査員も最後まで迷うほどどのバンドもいいライブをしてくれた! 全力を出してくれた演者も、応援してくれた観客も、皆本当にありがとうな!」
そう、結束バンドはしっかりと3組という枠を勝ち取り決勝のファイナルステージにコマを進めることが決まりました。おそらく発表の順番はそのまま獲得した票数順だと思うので、SIDEROSには及ばなかったものの、ケモノリアよりも多くの票を獲得したことが予想できます。
ただ同時に、やはりSIDEROSとの間にある壁は厚いことを実感しました。今日の結束バンドの演奏は間違いなく過去一番のものでしたが、まだそれでもSIDEROSには届きませんでした。グランプリで狙うのであれば、決勝までの期間でどこまでレベルアップができるかが鍵でしょうね。
……まぁ、後の課題はまたあとで考えましょう。いまは、結束バンドの皆さんとこの喜びを分かち合いましょう。結果発表を終えて控室に戻って来たひとりさんは、喜色に染まった表情で私に駆け寄り勢いよく飛びついて来ました。
「あっ、有紗ちゃん! 私たち、やりましたよ!!」
「ええ、やりましたね。今日のライブ審査の結果は……間違いなく皆さんの……いえ、私たちの実力で勝ち取ったものです。最高の演奏でした……頑張りましたね、ひとりさん」
「っ……はい!」
私の言葉を聞いたひとりさんはよほど嬉しかったのか、目に涙を浮かべて私に強く抱き着いてきたので、私も抱き返しつつ優しくひとりさんの頭を撫でます。
「相変わらずバカップルはいちゃいちゃしちゃってまぁ……私たちも混ぜろ~!」
「そうですよ! 行きましょう、リョウ先輩!!」
「え? ちょっ、私も!?」
そんな言葉と共に虹夏さんたちも私とひとりさんを取り囲むように抱き着いて来て、5人で抱き合って喜びを分かち合うような形となりました。
虹夏さんや喜多さんも目に涙を浮かべており、リョウさんもなんだかんだで口元には笑みを浮かべていて嬉しそうです。
そのまましばらく5人で喜んでいると、SIDEROSの皆さんが近づいて来て、ヨヨコさんが腕を組みながら口を開きました。
「……まったく、はしゃぎ過ぎよ。まだ、決勝が残ってるってのに気楽なもんね」
「……ヨヨコ先輩、目元赤いんすけど?」
「え? うそっ、ちゃんと泣いたあと鏡でチェックしたのに!?」
「嘘っす」
「あ、ああ、貴女ねぇ……」
どうやらSIDEROSの皆さんも私たちと同じように喜びを分かち合ったあとだったみたいです。完全な予想ですが、泣いてる姿を見られたくないヨヨコさんが落ち着くまで待ってから来たので、控室に来るのが遅くなったのでしょうね。
ヨヨコさんは恥ずかしそうな表情で頭をかいたあと、気を取り直すように首を振ってから、私たちを真剣な表情で見て口を開きました。
「……いい演奏だったわ。クリスマスのライブの時とはまるで違う……もう、貴女たちを格下とは思わないわ。手強いライバルと認識した上で、決勝では全力で勝ちに行くから覚悟しておくことね」
「……あっ、わっ、私たちも……ぜっ、全力で頑張ります。だっ、だだ、だから……まっ、負けません!」
「ふっ……そうこなくっちゃね」
ヨヨコさんの言葉に、ひとりさんがしっかりと言い返すと、ヨヨコさんはどこかひとりさんの成長を喜ぶように微笑みを浮かべたあとで不敵に笑いました。ヨヨコさんとひとりさんは似ている部分も多いので、ひとりさんが精神的に成長して一皮剥けたことを、喜んでくれているのかもしれませんね。
そのままSIDEROSの皆さんと互いの健闘を称えて話をしていると、そこへケモノリアの方々も近付いて来ました。
「やっ、SIDEROSの皆さんに結束バンドの皆さんも揃い踏みで……」
「あっ、ケモノリアの……」
ケモノリアのリーダーらしき長髪の女性が明るい笑顔で声をかけてきてくれたので、私たちも軽く会釈を返します。
「いや、どっちも凄い演奏だったよ。これで、どっちも高校生バンドってんだから末恐ろしいよね。最後の通過バンド発表って、演奏順とは違ったしたぶん獲得票数順だよね? そう考えるとうちは3位……ん~微妙に悔しい」
「ケモノリアの皆さんも素晴らしい演奏でした。エレクトロニックロックはあまり聞く機会が無かったので、爽やかな電子音の曲調が新鮮で素敵でした」
エレクトロニックロックは2000年代以降に人気が上がり始めたロックジャンルとしては、比較的新しいジャンルであり、なかなかエレクトロニックロックをメインにしているバンドは少なく、今日の演奏は非常に新鮮で勉強になりました。
「いや~ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ……まぁ、今回は遅れを取ったけど、決勝では負けないから、よろしくね」
「ええ、こちらこそ」
なんとなく私が対応するような形になったので、ケモノリアのリーダーさんが差し出してきた手を取り握手をします。するとリーダーさんは、なぜか大きく目を見開いて驚愕し、握手を終えたあとで一歩後ずさりました。
「……だ、駄目だ……勝てない」
「え? いきなりなに言ってんの?」
その不思議な様子にケモノリアのドラムを担当していたショートポニーの女性が首を傾げながら尋ねると、リーダーさんはグッと拳を握りながら口を開きます。
「あの子、明らかに楽器やる手だった! 感触的にピアノかキーボード……しかも相当のレベル!」
「……それで?」
「見た感じ結束バンドの子だけど、ステージで演奏していたのはあの子以外の4人だったそれから導き出される答えは……これ絶対アレだ! 決勝で私たちが会心の演奏をして、よし勝ったって思った瞬間に『いつから結束バンドが4人だと錯覚していた?』とかいって出てきてパワーアップするパターンだよ! 間違いないって! だって、最近読んだ漫画にそういうの出てたから――あいたっ!?」
熱く語っていたリーダーさんの頭にドラムの方が呆れた表情でチョップをしました。
「……うちの馬鹿がすみません」
「ああ、いえ、お気になさらず」
日頃からこんな感じなのか、ドラムの方の謝罪も慣れた様子でした。なんとなくではありますが、きくりさんの件で謝罪する志麻さんを思い出しました。
「やっぱり、バンドのリーダーって皆個性が強くて目立つ……ああ、いや、それぞれかな」
「おいこら、リョウ。なんで今チラッと私の方を見てから言った? おい、こっち向け」
全然関係ないところでリョウさんが余計なことを言って虹夏さんに関節技を極められていました。それにしても、3つのバンド……私も含めて13人が集まっているので、なんというか妙に賑やかになってきた感じですね。
とりあえず、ひとりさんがアワアワとしている感じだったので、手を握って近くに引き寄せておきました。私が近くに居れば、ひとりさんに話を振られてもフォローできるでしょうし……ひとりさんもホッとした様子で、甘えるように私の手を両手で握ってきました。SIDEROSの方々までは大丈夫だったのでしょうが、ケモノリアの方も増えたことで、やはり緊張していたみたいです。
その後しばらくケモノリアの方たちも加えて話をしていると、自然とファイナル進出3組で健闘を称え合って打ち上げに行こうという流れになりました。
「私たちの拠点とは違うから、いまいち周辺の店が分からないんだけど……SIDEROSや結束バンドの子たちは、普段どういうところで打ち上げしてるの?」
「……高級ホテルのスイーツビュッフェとか……」
「こ、高級ホテル!? スイーツビュッフェ!? ……え? ファミレスとかじゃなくて?」
「まぁ、それなりに人気はあるので……」
ケモノリアのリーダーさんの言葉に、ヨヨコさんが腕を組んでツンとした表情で告げました。ヨヨコさんは割とこういう場面で優位に立ちたいと思う方なので、マウントを取りにいった感じでしょうか?
あくびさんたちが呆れたような表情を浮かべているので、たぶん以前の件で1回行っただけでしょうね。まぁ、それでも、打ち上げで高級ホテルのスイーツビュッフェに行った事実は変わらないでしょうが……。
「ケモノリアの方たちは普段どんなところで打ち上げをするんですか? 皆さん大人っぽくて素敵ですし、お洒落なお店とかに行ってるんですか?」
「え? ああ、そそ、そうだね~まぁ、フ、フレンチ? とか……よく行くよね? 昨日も行ったし」
「フレンチと? ん~ちゃけど、リーダーがフレンチ言うなら、フレンチでよかたい」
「……いや、昨日行ったのはファミレスですよ」
喜多さんがキラキラとした目で尋ねると、リーダーさんは目線を泳がせながら告げ、ベースの方が首を傾げつつも同意して、ギターの方が呆れた様子でツッコミを入れていました。
喜多さんは純粋に大学生に憧れのような感情があるのでしょう。大学生はきっとお洒落で、素敵な……喜多さん的には映える日々を送っているのだという理想がキラキラとしたオーラとなって表れています。
「あ、後はアレだよね? JOJO苑とか行くよね?」
「過去に一回だけな」
なんとか見栄を張りたいリーダーさんに対して、ドラムの方が心底呆れた様子で呟いていました。JOJO苑に関しては私も少し勉強しました。チェーン店の焼肉屋で、リーズナブルな価格で焼肉が食べられる店です。
以前文化祭の時の打ち上げでチェーン店に関する勉強不足が露見したので、ちゃんと調べておきました。ただ、あくまで知識として知っているだけで行ったことが無いので、出来れば一度足を運んでみたいものですね。
「……じゃあ、打ち上げはJOJO苑にしますか?」
「え? ヨヨコ先輩、マジで言ってるんすか?」
「い、いいね! やっぱり、焼肉と言えば最低限JOJO苑レベルは欲しいところだし、私も賛成だな~」
「……マジか、JOJO苑って、ひとり1万はいくぞ……」
SIDEROS、ケモノリア共にリーダーが賛同して、ドラムがツッコミを入れる状況ですが……私としては正直願ってもない展開です。
「あっ、有紗ちゃん、嬉しそうですね」
「はい。チェーン店の焼肉屋に行くのは始めてなので、楽しみですね」
「……かっ、感覚がセレブ……」
「有紗、私、お金ない」
「結束バンドの皆さんの分は私が出しますので大丈夫ですよ。遠慮せずに好きなものを好きなだけ食べてください」
「有紗好き、愛してる」
こうして打ち上げはJOJO苑での焼肉に決まり、SIDEROSとケモノリア、そして私を含めた結束バンドの13名という大所帯で移動を開始しました。
時花有紗:焼肉チェーンに行くのは初めてで少しウキウキしてる。有紗ちゃんから見れば、JOJO苑の価格は大変に安価。
後藤ひとり:自分から有紗に抱き着きに行った。距離感はしっかりバグってる。なんだかんだで精神的に成長しており、ヨヨコにも力強く応対出来たりしてる。
ケモノリア:名前は不明なので2号さんやPAさんよろしく、不明のままで通す。キャラ付けは全部適当。あとになって原作で超重要キャラになって再登場したら泣く。