ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十三手浴衣の夏祭り~sideA~

 

 

 結束バンドは見事ファイナルステージへの出場を決め、星歌さんやPAさんも非常に喜んでくれてSTARRYでもお祝いをしてくれました。

 そんなお祝いムードから数日経ち、STARRYにて私たちは未確認ライオットのファイナルステージに向けた打ち合わせをしていました。

 こうして見ているだけでも、皆さんの目にはやる気がありありと現れているようで、瞳に力を感じます。

 

「さぁ、皆。次はいよいよ決勝……ファイナルステージだよ! 気合を入れて頑張っていこう!」

「そっ、そうですね。こっ、ここまで来たんですから、しっかりと結果を残したいですね」

「これからファイナルステージまでの時間にしっかり練習しましょう! まずは、なにからすればいいんでしょうか?」

「……前のめり過ぎじゃない? 有紗、どう思う?」

 

 力強く宣言する虹夏さんに、声は小さいながらもやる気に満ちた発言をするひとりさん、明るく前向きな喜多さんの発言を聞き、リョウさんは少し訝し気な表情を浮かべつつ私に尋ねてきました。

 こういった場面でのリョウさんはかなり状況を見ているというか、頼りになる印象で……私もリョウさんの意見に同意です。

 

「そうですね。未確認ライオットのファイナルステージに臨むにあたって、いま皆さんが最優先ですべきことがあります」

「さっ、最優先で? あっ、有紗ちゃん、それはいったい……」

「気分転換ですね!」

『え?』

 

 私が笑顔で告げた言葉に、虹夏さん、ひとりさん、喜多さんはキョトンとした表情を浮かべていましたが、やはりリョウさんはどこか納得した様子で頷いていた。

 

「皆さんがやる気に溢れているのはとても素晴らしいです。これが仮に、ファイナルステージが今日や明日であるならこの勢いで突っ走るのが正解でしょう……ですが、ファイナルステージは来月で、まだ時間があります。いまからそのテンションでは本番を迎える前に疲れてしまいますよ」

 

 そう、皆さんのやる気は素晴らしいことです。特にいまはライブ審査を突破したことで気持ちが高揚している状態です。

 そうした勢いも大事ですし、有効に活用すべき場面もありますが、今回は違います。残念ながら今のテンションを本番まで維持するにはあまりに期間が長すぎて困難です。

 

「なので、ここで一度気分転換をして気持ちをリセットして、改めてファイナルステージに向けて気持ちを作り上げていきましょう」

「気持ちを作り上げる?」

「ええ、私の友人……玲さんの受け売りなのですが、ベストコンディションは狙って作るものだそうです。玲さんはコンサートが決まると、必ず……概ねコンサートの10日前を目安に1日、まったくピアノに触れない日を作ります。それで気持ちをリセットして、本番までに徐々にコンディションを高めていって、ピークを本番に合わせています。そこまでをやれというわけではありませんが、一度高まり過ぎている気持ちを落ち着ける気分転換は必要ですよ」

 

 玲さんはその辺りは徹底しています。彼女はピアノにおいては紛うことなき天才ですし、スポーツで言うところの一種のゾーンのような、研ぎ澄まされた集中状態にも意識して切り替えることができます。ただ、玲さん曰くそれはあくまで「100%の状態」らしいです。

 薄皮を1枚1枚重ねるように積み上げて整えたコンディションと研ぎ澄まされた集中力が合わさって、初めて「120%のパフォーマンス」が発揮できるとのことです。実際コンサート当日の玲さんは、まさに理想の状態とでも言うべきコンディションになっており、立っているだけでも普段とは比べ物にならない存在感を放つほど完璧に仕上がっています。

 まぁ、さすがに玲さんレベルのコンディション調整を行うのは無理です。あれは彼女の天才的なセンスと、ピアノへの情熱、長年の経験と緻密な計算が全て合わさって成立するものなので、真似しようと思ってできるものではありません。

 

「いまの皆さんはやる気に溢れてはいますが、同時に少し力が入り過ぎている感じでもあります……そうですよね、リョウさん?」

「そう、私を見習ってもう少し肩の力を抜け」

「……リョウは抜きすぎな気もするけど……でも確かに、有紗ちゃんの言う通り、いまからこんなに気を張ってたら本番まで持たないよね」

 

 リョウさんの言葉に虹夏さんも苦笑を浮かべ、喜多さんやひとりさんも納得した様子で頷いてくれました。これなら大丈夫そうです。やる気が空回りしてしまっては本末転倒ですしね。

 

「あっ、でっ、でも、気分転換って何をすれば……」

「深く考える必要はないですよ。単純に皆でどこかに出かけたり、息抜きをすると考えれば問題ありません」

「いいね~夏休みだし、皆でどこか遊びに行くのも……喜多ちゃん、なんかいいところあるかな?」

「ちょっと待ってくださいね。いま調べて……あっ、見てください! ちょっと遠いですけど、電車で30分ぐらいの場所で、今日お祭りしてるみたいですよ! 花火は……無いみたいですけど、それでもお祭りですよ! お祭り! やっぱり夏と言えばお祭りですよね!!」

「……い、いきなりキラキラし始めた……」

 

 喜多さんは皆で遊びに行くというのが大好きなので、そうと決まった直後から楽し気でありすぐに今日やっているイベントを調べて提案してくれました。

 花火大会ではなく昼にもやっているのなら参加しやすいかもしれませんね。

 

「……観た限り、昼から夜にかけて行われる夏祭りみたいですね。雰囲気的には盆踊りとかもありますね」

「結構楽しそうだよね。ぼっちちゃんも、前ならともかく、いまならお祭りでも大丈夫なんじゃない?」

「……あっ、有紗ちゃんが傍に居てくれたら……大丈夫です」

 

 お祭りという場で人の多さが懸念されますが、ひとりさんも比較的乗り気な様子なのは幸いでした。ひとりさんと夏祭りというのは、本当に楽しそうです。以前も一緒に花火大会に行きましたが、その時はやや特殊な形で食べ物だけ買ってホテルで見たので、一緒に祭りを周れるというのは素晴らしいです。ついでに浴衣でも着てくれれば、最高なのですがそれは高望みし過ぎかもしれませんね。

 

「せっかくですし、皆で浴衣を着ましょうよ! やっぱり夏祭りなら浴衣ですよ!!」

「……あ、圧が凄い。郁代、結構フラストレーション溜まってたのか?」

「ここの所、サードステージの追い込みで練習ばっかだったしねぇ」

 

 ここで、喜多さんから素晴らしいパスが出ました。ただでさえ愛らしさが迸っているひとりさんが、浴衣を着たら……それはもう夏の妖精といっても過言ではないほどの素晴らしい見た目になるのは確信出来ます。

 

「あっ、えっ、ゆっ、ゆゆ、浴衣!?」

「そう、浴衣! ひとりちゃんも一緒に着ましょう!」

「いいじゃん。浴衣着ると祭りって感じだよね」

「……普通の格好でよくない? あ、いや、でも写真撮って夏限定ブロマイドとして売るのはありか……」

 

 虹夏さんやリョウさんは比較的乗り気な様子ですが、ひとりさんは恥ずかしがっているのか目線を泳がせています。ここで、ひとりさんが心の底から嫌がっているようなら止めようかと思ったのですが……おや? 予想に反して、そこまで強く忌避感がある印象では無いですね。

 

「あっ、いっ、いや、でも、浴衣とかそもそも持ってないですし……」

「それなら私がすぐに全員分レンタルの浴衣を手配しますよ。さほど時間はかからず用意できると思います」

「あっ、有紗ちゃん!? あっ、うぅ、えっと……」

 

 私の言葉を聞いたひとりさんは、なにやら迷う様な表情を浮かべたあと少し顔を赤くして俯きます。そのまましばらく沈黙したあとで、おずおずと口を開きました。

 

「……あっ、あの……有紗ちゃんは、わっ、私が浴衣を着ると嬉し――」

「嬉しいです!」

「――食い気味で肯定してきた!? そっ、そんなにですか?」

「はい。もちろん日頃のひとりさんも最高に可愛らしいですし、そのままの格好で祭りに行ってもその愛らしさが色あせることはないでしょう。しかし、普段とは違う浴衣姿を見てみたいというのも事実です。浴衣に身を包んだひとりさんは、間違いなく夏の妖精、夏の女神といっても過言ではないほど可憐であるのは確信出来ますので、是非見てみたいです!」

「あっ、相変わらず大げさすぎです……あっ、あぅ、えっと……あっ、有紗ちゃんがそんなに見たいなら……いっ、いいですよ」

 

 ひとりさんが浴衣を着ることに同意してくれました。なんて素晴らしいことでしょうか、これで浴衣姿のひとりさんを見ることができると思うと、いまから自然と笑みが浮かんでしまいます。

 

「……滅茶苦茶嬉しそうですね、有紗ちゃん」

「ぼっちちゃん関連だけは、感情の変化がもの凄く分かりやすいんだよねぇ」

 

 

****

 

 

 じいやに連絡をして浴衣を手配してもらうと、1時間かからずSTARRYに浴衣が届きました。さすがじいやは仕事が早いです。

 星歌さんがスタッフ用のロッカーが余っているので、そこを使っていいと言ってくださったので、ロッカーを借りて浴衣に着替えます。

 

「あっ、あれ? 有紗ちゃん、こっ、これどうすれば……」

「帯ですね。ちょっと待ってください少し全体を整えて……はい、これで大丈夫です。苦しくはないですか?」

「あっ、だっ、大丈夫です。浴衣なんて着るのは、本当にいつ以来か……あっ、有紗ちゃんと行った温泉の浴衣を含むなら、アレ以来ですね」

「そうですね。ただ、温泉の浴衣とはまた違った……」

「……有紗ちゃん?」

 

 改めて浴衣を着たひとりさんを見ます。髪の色に合わせた薄いピンクの浴衣には、紫色の花模様が描かれており、それがコントラストとなってひとりさんの美しさを際立たせています。

 帯は浴衣との相性を考えて暗めの紫色にしていることもあって、引き締まって見えますし、全体的なバランスも素晴らしいです。

 

「……もはや、この美しさをどう表現していいか……日本の生んだ奇跡では?」

「おっ、大袈裟にもほどがありますって!」

「いえ、本当にそれぐらい愛らしいですし、可愛いんです」

「あっ、有紗ちゃんの方が可愛いですよ! 暗い紺色の浴衣が凄く似合ってますし、姿勢もよくて背も高いからカッコいいです」

「いえ、それを言うならひとりさんは艶やかさと可憐さが合わさりつつも見事に調和した大輪の花のようで、普段のジャージよりカッチリした服装だからか、可愛さと凛々しさも同時に溢れています」

「あっ、有紗ちゃんの方が、最高に可愛くて素敵で……」

「……お~い、バカップルふたり、そのいちゃつき合戦長くなりそうだから後にしてくれないかな……」

 

 ひとりさんと互いに互いの浴衣を褒め合っていると、虹夏さんのどこか呆れたような声が聞こえてきました。

 

 

 




時花有紗:琴河玲が特化型の天才なら、有紗ちゃんは万能型の天才。万能型の癖に特化型と渡り合えるレベルの才能なのでかなりチート。それとはまったく関係なく、ぼっちちゃんの浴衣を見れて幸せいっぱいである。

後藤ひとり:祭りは人が多くて苦手……でも、有紗が一緒なら行ける。浴衣を着るのは恥ずかしい……有紗が見たいなら着る。君、めっちゃ有紗のこと好きでは?
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