ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十三手浴衣の夏祭り~sideB~

 

 

 気分転換として夏祭りに参加することになった結束バンドの面々。電車を乗り継いで夏祭りの行われている最寄り駅に辿り着くと、昼下がりの時間帯でもかなりの人が見えた。

 浴衣を着ているものも多いため、結束バンドの面々と同じように夏祭りが目当てなのだろう。

 

「お~、やっぱり結構人が多いね」

「ですね。はぐれないようにしないといけませんね」

「……って、あれ? リョウは?」

 

 会場に到着してすぐだというのに、既にリョウの姿が無く虹夏がキョロキョロと視線を動かすと、有紗が少し離れた場所にある屋台を指し示した。

 

「……向こうの屋台でたこ焼きを買ってますね」

「本当に自由だなアイツ!?」

 

 さっそく単独行動をしているリョウに虹夏が呆れたように叫ぶと、たこ焼きを買い終わったリョウが戻って来た。

 

「リョウ、好き勝手に行動するとはぐれるよ」

「……確かに、ごめん、気を付ける」

「お、あれ? 意外と素直じゃん」

「このたこ焼きでほぼお金は使い切ったから、財布――虹夏とはぐれると困る」

「……たこ焼きを一旦誰かに預けろ、ぶん殴ってやる」

 

 明らかに虹夏にたかる気満々のリョウに虹夏が額に青筋を浮かべる。そんな空気の中で、有紗は苦笑しつつ虹夏に声をかけた。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください虹夏さん。ある意味いつも通りのリョウさんですよ」

「これがいつも通りだから、頭が痛いんだよね」

「ふふ、ですが、それはともかくとして今回はリフレッシュが目的なので、リョウさんも楽しめるように多少ですがお小遣いを渡しますね。ああ、リョウさんだけでなく皆さんにも同じ額を渡しますので、それで祭りを楽しみましょう」

「有紗、マジ好き」

「も~有紗ちゃん。あんまリョウを甘やかしちゃ駄目だよ、お金渡したらすぐに勝手な行動ばっかするんだから……」

 

 全員に一律でお小遣いを渡しながら微笑む有紗に、虹夏が苦笑しつつ告げる。正直なところ、虹夏としてもこの援助はありがたかった。やはり高校生のみであり、屋台の高めの値段設定はそこそこキツイものがある。

 ただ、お金を得たらリョウが好き勝手に行動するのではないかという懸念はあり、夏祭りではぐれれば再合流が難しい。

 

「大丈夫ですよ。リョウさんは勝手な行動をとったり、ましてやはぐれたりしません……ですよね? リョウさん?」

「……は、はい! はぐれません、絶対に……」

 

 穏やかな笑顔ではあったが、軽い威圧感を放つ有紗を見て、リョウは背筋を伸ばして頷く。有紗のプレッシャーには弱いリョウなので、確かにこれではぐれることはなくなりそうだった。

 

 そんなやりとりをしたあとで、改めて全員揃って夏祭りを見て回ることにした。やはり祭りの会場の人の数は駅とは比べ物にならず、人見知りのひとりは若干怯えた表情を浮かべていた。

 

(やっ、やっぱり、人が滅茶苦茶多くて怖い……うぅ、あっ、有紗ちゃんが居てくれるからなんとか精神を保ててるけど……)

 

 そんな不安げなひとりの様子にいち早く気付いた有紗は、そっとひとりの手を握る。手を握られたことで少し顔を上げたひとりに対し、有紗は優しく微笑みながら口を開く。

 

「大丈夫ですよ、ひとりさん。私が付いてますからね」

「あっ、有紗ちゃん……はい。有紗ちゃんが居てくれるなら、あっ、安心です」

 

 優しい有紗の声にホッとした表情を浮かべたあとで、ひとりは嬉しそうに有紗の手を握り返す。彼女にとって有紗の傍というのは本当に安心できる空間であり、手を繋いだこともあって人混みの恐怖はかなり和らいだ。

 そして甘えるように少し有紗に身を寄せて歩けば、いつの間にか恐怖よりも楽しいという気持ちが強くなってくるから不思議だった。

 

(やっぱり、有紗ちゃんと一緒だと……安心できるし、楽しいな。有紗ちゃんと手を繋ぐと、なんか心が温かくて好きだなぁ……)

 

 そんな心が温かく楽しいという思いは表情にも表れており、嬉しそうに笑みを浮かべるひとりを見て、有紗も同じく笑みを浮かべる。

 

「ひとりさん、楽しそうですね」

「あっ、はい。なっ、なんていうか、有紗ちゃんと一緒だと、こうして歩いてるだけでも……なっ、なんか楽しいですね。えへへ」

「ふふ、そうですね。私も同じ気持ちです。こうして普段とは違う雰囲気の場所を一緒に歩くだけでも、なんだか新鮮で楽しいですね」

「はい!」

 

 そんなやりとりをする有紗とひとりの会話を、近くに歩いていることで必然的に聞くことになった虹夏たちは、一様にキツネのような顔になっており「またやってるよ」という雰囲気がにじみ出ていた。

 

 

****

 

 

 いくつかの屋台を覗きつつ歩いていると、不意にリョウが足を止めてひとつの屋台に注目した。

 

「……アレだ! 皆、行こう」

「うん、あれ? ……サメ釣り? なにそれ?」

「え? 伊地知先輩は知らないんですか? たまに見かけますよ」

「そうなの? 初めて見たなぁ……まぁ、そんなに頻繁に祭りに行くわけじゃないから、屋台に詳しくは無いけどさ」

 

 リョウが見つけたのはサメ釣りの屋台であり、極めて希少とまではいかないが、なかなか見かける機会の少ない少しマイナー寄りの屋台ではある。

 実際、祭りに行った経験が多い喜多は知っているが、虹夏は初めて見たらしく不思議そうな顔をしていた。

 

「あっ、さっ、サメを釣るんですか?」

「えっと、そうじゃなくて、サメのおもちゃを釣るとサメの口の中にくじが入っていて、そのくじに応じて景品がもらえる感じね」

「やや特殊なくじ引きという感じですかね? サメを釣るのは遊戯性を高めるためでしょうか……」

 

 ひとりと有紗もサメ釣りは初めて見たようで、喜多の説明に興味深そうな表情で頷く。リョウが反応したのは彼女がサメ映画などが好きであるためだが、他の面々も興味を持ったことで一度寄ってみようということになった。

 

「……ふっ、サメとの決戦か」

「リョウ、サメ好きだよねぇ」

 

 そんな会話をしながら屋台に近付くと、店主である年配の男性がフッとニヒルに笑みを溢した。

 

「ほぅ、鋭い目をしていらっしゃる。それに雰囲気も……中々できるお客さんのようだ」

「ふっ、私はサメを愛し、サメに愛された女、掴みとるのは最良の結果」

「なるほど、ふかしじゃないみてぇだ。おもしれ――ああ、坊ちゃん残念だね。そっちの箱から好きなお菓子を取ってくれ、特別に2個とっていいぜ――っと、失礼。おもしれぇお客さんだ」

 

 どうもノリのいい店主らしく、リョウの発言に乗っかってくれて互いにけん制し合うような空気を醸し出していた。

 

「言っとくが、うちは優良店よ。特賞だってちゃんと入ってらなぁ……だが、その分サメの数も桁違いよ。店主のワシでさえ、特賞がどこにいるかは分からねぇ……アンタに見つけられるかな?」

「……やってやるさ、勝負だ」

 

 傍目に見れば茶番のようなやり取りをしたあとで、リョウはお金を支払って釣竿を受け取った。他の面々も同じようにお金を支払って釣竿を受け取り、サメ釣りを楽しむ。

 リョウが最初に行ったのは「見」だった。すぐに動くのは素人……熟練はどこにいい景品があるか、店主の思惑を読み取る精神的な駆け引きを挟む。

 昨今のネット社会を考えれば、当たりを入れないというのはそれなりにリスクがある行為だ。自ら優良店で特賞も入っていると宣言する以上、このサメの海の中に特賞はある。

 

 商品棚を見てみれば、特賞の場所にはゲーム機などの高価な景品が並んでいて、その中から好きなものを選べる仕組みになっている。

 だが、果たして並べている商品の数だけの特賞があるかと言われれば……それは否だろう。おそらくはあったとしても特賞は1つか2つと見るべきだ。

 そして特賞が豪華な景品である分、それ以下の景品はやや控えめで、特賞に次ぐA賞も水鉄砲など高くても2000円に届かないぐらいの品が並んでいる。

 

「このシャークオーシャンのどこかに、当たり……研ぎ澄ませ」

「なに言ってんの、リョウ?」

「虹夏、特賞はどこにあると思う?」

「え? 普通に下の方じゃないの? あの辺りの取りにくそうな場所とか……」

「そうかもしれない。でも、そう考えることを見越して、普通ならスルーするであろう取りやすい場所に置いている可能性も……いや、完全にランダム配置しているかもしれない」

「……まぁ、楽しそうなのはいいけど、あんま時間かけずに釣りなよ……よっと、釣れた。えっと……6等?」

「おや、残念。そっちのお菓子の入った箱から好きなものを選んでくれ、2個までなら目を瞑るぜ」

 

 迫真の表情を浮かべるリョウに呆れつつ、虹夏はサッと目に付いたサメを釣り上げる。残念ながら外れであるお菓子2個だったのだが、まぁこういうものだと分かっているのか、特に気にした様子はない。

 

「くっ、時間制限か……これ以上は迷っていられない! アレだ!」

 

 虹夏が釣り上げ、後ろに居た喜多に交代しているのを見て、リョウは若干の焦りを感じつつ視線を動かした。屋台のスペースの関係、他の客も居ることを考えると全員が一緒に釣りをすることはできず、ある程度順番待ちになるのでこれ以上時間はかけられない。

 すると直後に、1匹のサメが輝いているように見えた……もちろん目の錯覚である。しかし、リョウは己の感性を疑わず気迫と共に糸を垂らしてサメを釣り上げた。

 

「お、4等だね。そっちにかかってるおもちゃから好きなの選んでくれ」

「むぅ、残念」

「いや、そりゃそうそう当たらないって」

 

 リョウの結果は4等であり、悪くはないが良くもないといった感じだった。不満そうな表情を浮かべつつおもちゃを選ぶリョウに、虹夏が苦笑を浮かべる。

 そして喜多も6等を引き、リョウとそれぞれ有紗とひとりに交代する。有紗とひとりは特にどこかを狙ったりすることはなく、適当に糸を垂らしてサメを釣り上げていた。

 

「……おや?」

「おいおい、お嬢ちゃん、特賞じゃねぇか!? 大した幸運だ!」

 

 そして、有紗があまりにもあっさりと特賞を引き当てた。

 

「有紗ちゃん凄いじゃん!」

「……この手の屋台で特賞が出るの初めて見たわ」

「有紗、運までいいって、チート過ぎるだろ……」

 

 特賞が出たことで賑やかになる周囲を見て有紗は苦笑を浮かべる。屋台の店主としては特賞を引かれたのは痛いが、それでもちゃんと特賞があるとそれなりの注目度で周囲に伝わったので、挑戦者は増えるであろうことを考えると、そこまで悪くはなかった。

 

「あっ、有紗ちゃん。凄いです。どっ、どれにするんですか?」

「……う~ん。私にはこれと言ってほしいものが無いので、ひとりさんが選んでくれませんか?」

「え? あっ、えっと……じゃっ、じゃあ、トゥイッチとか……」

 

 特賞を選ぶ権利を託されたひとりは、とりあえず無難に人気ゲーム機を選んだ。そのうち有紗と一緒に遊べたらいいなぁと、そんなことを考えつつ……。

 

 

 




時花有紗:元々運がいいのと、別に特賞を欲しいとかそういう欲もなく普通に釣った影響か、一発で特賞を引き当てた。特賞はあとでひとりにあげようと思っていて、ひとりが欲しいものを選んでもらった。

後藤ひとり:有紗と一緒だと楽しいぼっちちゃん。ちなみにくじの結果は3等で有紗を除けば一番よかったりする。有紗と一緒に居ることで幸運値も上がっているのかもしれない。

世界のYAMADA:サメに理解のある女。サメに愛されているかどうかは別問題だし、海でサメの浮き輪見て猛烈な勢いで逃げるぐらいにはビビり。
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