ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十四手昵懇の一時休息

 

 

 結束バンドの皆さんとの夏祭りは、騒がしくも非常に楽しいです。サメ釣りで手に入れたゲーム機は、持ち歩くには大きく重かったので、帰りが混み合った時のためにと近場に来てもらっていた運転手にお願いして預かってもらいました。

 その後は改めて夏祭りを楽しんでいたのですが、少々困ったことが発生しました。

 

「……完全にはぐれてしまいましたね」

「そっ、そうですね。見当たりませんね」

「とりあえず、ロインで連絡を取ってみますか……」

 

 ひとりさんと一緒に綿菓子を屋台で購入していたのですが、その際に事前に虹夏さんたちには断りを入れて買いに行ったのですが、どうも運悪く夏祭りのイベントの時間と重なったみたいで大きな人の移動があり、虹夏さんたちが人波に流される形で移動してしまったようでした。

 ロインで連絡は可能ですが、果たして合流ができるかどうか……。

 

『あ~ごめんね。人が多くて合流は難しいかなぁ。うん、ホントウダヨー。別に、胸焼けするとか綿菓子食べなくても口が甘いとかそういうことじゃないけど……』

『とりあえず、こっちはこっちで楽しむから有紗ちゃんとひとりちゃんもお祭りを楽しんで、後で合流できそうなタイミングで合流しましょう』

『存分にいちゃつくといい』

 

 やはり合流は難しいみたいで、一旦3人と2人に分かれて夏祭りを周って、どこか合流できそうなところで合流する形に決まりました。

 私としては不満は一切ありません。むしろ、降って湧いた幸運とすら言えますね。

 

「ひとりさん、そういうわけなので、しばらくは私とふたりでお祭りデートをしましょう」

「あっ、はい……え? いっ、いま、デートって言いました?」

「デートです!」

「……あっ、はい。デートです。じゃ、じゃあ、とりあえず綿菓子食べながら移動しましょうか?」

「ええ、ですがその前に……」

「ひゃっ!? ちょっ、あっ、有紗ちゃん!?」

 

 偶然とはいえひとりさんとデートする機会が訪れたのですから、相応の形に移行しようと思います。とりあえず繋いでいた手を指を絡めるような、いわゆる恋人繋ぎと呼ばれる形にします。

 

「あっ、あの、なんで急に握り方を変えたんですか?」

「デートですし、私がやりたかったからですね」

「あっ、駄目だこれ、デートの一言で全部押し切ろうとしてるし、たぶん全部押し切られる」

 

 ひとりさんは少し慌てたような表情を浮かべたものの、すぐにどこか諦めた表情に変わって苦笑を浮かべました。そしてそれ以上なにかを言うことはなく、ギュッと手を握り返してくれました。

 絡めた指がより密着感を高め、ひとりさんと手を繋いでいるという実感を強めてくれます。やはりこれは大変に幸せですね。

 

「それでは、ゆっくりと見て回りましょうか、ひとりさんはなにか希望はありますか?」

「あっ、はい……そうですね。綿菓子食べ終わったら……たっ、たこ焼き食べたいです。ひとつは多いので、ふたりで分けて食べましょう」

「そういえば、前に花火を見た時も一緒にたこ焼きを食べましたね」

「あっ、そっ、そうですね。まだ1年ほどしか経ってないはずなのに、もう結構懐かしいです。あっ、有紗ちゃんといろいろやってるおかげかもしれませんね。ちゅっ、中学の頃とかあまりにも思い出が少なくて、懐かしさはあまり感じませんでしたし……」

 

 たしかに、以前に一緒に花火を見たあとにもいろいろありました。江の島に行ったり、文化祭があったり、旅行に行ったり……そう考えると、確かに花火大会は懐かしいという印象がありますね。

 

「花火もいいかもしれませんね。今日は、花火はありませんが……打ち上げ花火とかではなく、手持ちの花火をふたりで遊んだりできると楽しそうですね」

「あっ、そっ、それ、楽しそうです」

「また花火ができる公園などを調べておくので、一緒にやりましょう」

「はい!」

「それに、また一緒に旅行にも行きたいです」

「りょっ、旅行ですか? 夏だと、どこになるんでしょう?」

 

 実際夏休みにひとりさんと旅行に行きたいというのは前々から考えていました。時期的には未確認ライオットのファイナルステージが終わったあとぐらいですかね。

 

「定番はやはり海か山……高原などの涼しい場所ですね。軽井沢はどうですか? 高原で避暑地としても有名ですし、私は軽井沢にはそれなりに伝手が多いので、宿などの確保も簡単ですからね」

「かっ、軽井沢……なっ、なんかお洒落な場所って感じがしますね。あっ、でっ、でも、有紗ちゃんとの旅行は楽しかったので……まっ、またいきたいとは、思ってました」

「ふふ、そう言ってもらえると私も嬉しいです。では、計画を建ててみますね」

「あっ、はい……えへへ……その……えっと……楽しみです」

 

 そう言ってはにかむ様に笑ったひとりさんは、少しだけ手を握る力を強めてから軽くもたれかかる様に身を寄せてきました。

 その可愛らしい仕草と温もりに、再び心が幸福に包まれるのを感じて、私も笑顔を浮かべました。

 

 

****

 

 

 図らずもひとりさんと夏祭りデートをすることになりましたが、人が多い状況でゆっくりできるかと言われれば難しいです。

 幸いひとりさんの希望はたこ焼きなので、たこ焼きを買ったあとは少し露店の並ぶエリアから離れて食べることにしました。

 人が比較的少ない場所に移動して、たこ焼きを食べる段階になってひとりさんが若干戸惑ったような表情を浮かべます。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん? 手を繋いだままでは、食べられないのでは?」

「大丈夫です。ひとりさん、空いてる方の手で容器を持ってください」

「え? あっ、はい。こうですか?」

「はい。そして私の方も手が片方空いているので……」

 

 ひとりさんが容器を手に持ち、私がたこ焼きをひとりさんの口に運ぶ……これで問題ありません。

 

「はい。あ~ん」

「あえ? あっ、そっ、そういう感じで……」

「熱いので気を付けてくださいね」

「あっ、はい……あむ」

 

 ひとりさんがたこ焼きをひとつ食べたあとは、私も自分の口にたこ焼きを運んで食べます。この繰り返しで半分ずつたこ焼きを食べれますし、必然的に距離も近くなるので素晴らしいです。

 そのままたこ焼きを1パック食べ終え、ゴミをゴミ箱に捨ててからひとりさんに声をかけます。

 

「ひとりさん、次はどうしてますか? せっかく少し人の少ないところに来ましたし、軽く休憩していきますか?」

「あっ、そっ、そうですね……ちょっと、有紗ちゃんとゆっくりしたいかもしれません」

「では少し……あ、丁度向こうのベンチが空きましたね。あそこに座りましょう」

 

 偶然にも丁度良いタイミングで近場のベンチを利用していた方が立ち上がったので、私とひとりさんは並んでベンチに座って休憩することにしました。

 もちろん手は恋人繋ぎをしたままですので、肩が触れ合う様な形です。この距離感が本当に素晴らしいですね。

 

「あっ、有紗ちゃん、楽しそうですね」

「はい。ひとりさんとこうやって隣同士に座っているのも、一緒に休憩しているのも……些細なことでも本当に楽しいですよ」

「……あっ、そっ、その気持ちは分かる気がします。別に何もしていないはずですけど、なんか、楽しいです」

「はい。そう思えるのは、実際凄く幸せかもしれませんね」

 

 特別なにかをするのももちろん楽しいです。ひとりさんと一緒に夏祭りを周るのも、出店で買った食べ物を一緒に食べたり、遊んだりも楽しいですが、それに負けないぐらいこうして何もせずにただ一緒に居るだけの時間も楽しいと思える。それは本当に得難く、どうしようもないほどに幸せなことでしょう。

 

「というわけで、ひとりさん。ひとつやりたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「なっ、なにがというわけなのかさっぱり分かりませんけど……なっ、なんですか?」

「ひとりさんにもたれ掛かってもらいたいんです。こう、丁度私の肩に頭を乗せる感じで……」

「えぇぇぇ、そっ、そそ、そんな恥ずかしいことを……こっ、ここで?」

 

 いえ、本当に思いつきではあるのですが恋愛映画などでそういったシーンがあります。私がもたれ掛かるという手もあるのですが、生憎と身長差を考えると私がもたれ掛かるより、ひとりさんがもたれ掛かってくれた方が姿勢に無理がないです。

 そのことを伝えると、ひとりさんは顔を赤くして迷うような表情を浮かべましたが……しばらく考えたあとで、ため息を吐いて口を開きました。

 

「……はぁ、こっ、こうですか?」

「あ、はい。そんな感じで、グッともたれ掛かってください」

「こっ、これ以上に!? うぅぅ、もっ、もぅ、本当に恥ずかしいんですからね……まったく、有紗ちゃんは……」

 

 若干呆れたように呟きながらも、ひとりさんは私の要望通りに私の肩に頭を乗せてもたれ掛かってくれました。ひとりさんの髪が首に微かに触れ、心地よい香りと共に温もりを感じます。

 手、腕、肩、首と……ひとりさんが密着してくれているのが伝わってきて、なんとも言えない幸福感があります。

 

「思い付きではありましたが、これは想像以上の幸福感がありますね。定期的にやりたいぐらいです」

「てっ、定期的は駄目です……けっ、けどまぁ、その……私も安心できますし……えと……たまになら……」

 

 そう告げたあとで、ひとりさんは心地よさげに目を閉じました。祭りの喧騒を不思議と遠く感じるような、いまこの瞬間だけは私たちふたりだけが世界から切り離されたような、そんな不思議な感覚でした。

 少なくともこれでもかというほど、ひとりさんとふたりの時間を満喫できているので……本当に幸せでたまりません。

 

「う~ん。困りましたね。これはちょっと幸せ過ぎて、しばらくこのままで居たくなってしまいますね」

「あっ、えっと……別にいいんじゃないですかね? あっ、その、今日はリフレッシュが目的ですし……もうしばらく、こうしてましょう」

「そうですね。しばらくこうしてのんびり過ごして、互いの気が向いたらまた祭りを見に行きましょう」

「……はい。それも……楽しみです」

 

 そう言って微笑むひとりさんの笑顔はなんだか幸せそうで……私と同じ気持ちを感じてくれているのが伝わってきて、既に幸せでたまらなかったのに、またより一層幸せな気持ちになれました。本当に、好きな人と過ごす時間というのは素晴らしいものです。

 

 

 




時花有紗:ふたりきり、一考に問題なし。むしろデートが始まったと喜んで、ぼっちちゃんといちゃいちゃし始めた。

後藤ひとり:なんかだんだんと、有紗ちゃんを恋愛対象として意識してきてる雰囲気が現れている。イチャラブ旅行の約束をした。

チベット3人衆:思った以上にいちゃつくので、偶然の状況にこれ幸いと別行動を開始。

タイミングよく席を譲った人:……百合の前に障害があってはならない。
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