ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十五手誤解のハプニング

 

 

 サードステージであるライブ審査も突破し、気分転換もしっかりと行い未確認ライオットのファイナルステージに臨む下準備は順調です。このまま一気にファイナルステージまで一直線……とは、残念ながらいきません。

 バンドのことも大事ですし、未確認ライオットも非常に重要ですが……夏休みの学生として、それだけをやっているわけにも行かないというのも事実です。

 

「あっ、有紗ちゃん、ここは?」

「そこはですね。こちらで使った公式を応用して……」

 

 現在私はひとりさんの家で、ひとりさんと一緒に夏休みの課題を行っていました。ひとりさんが分からない場所は教えつつ、私も自分の課題を行う形です。

 明日は朝からみっちりスタジオ練習の予定なので、今日のうちにしっかり課題を勧めておきたいところということもあり、ひとりさんと一緒に行っています。

 

「やっ、やっぱり、有紗ちゃんは教え方が上手いから、私ひとりでやるよりサクサク進みます」

「助けになれているならよかったです。ですが、ひとりさんも自力で大半の問題は解けてますし、かなり学力が付いていると思いますよ」

「えへへ、そっ、そうですかね? でっ、でも、確かに前よりは授業とかでも分からないことが少なくなってますし、小テストとかもそこそこ点が取れるようになりました。あっ、有紗ちゃんのおかげですね」

「そう言ってもらえると私も嬉しいです。このペースで行けば、8月の上旬には終わりそうですね」

 

 ひとりさんの高校はそこまで課題の量は多くないですし、ひとりさんもこうして一緒に行う時以外もコツコツ進めているので、練習やアルバイトを考慮しても8月の頭頃には終わりそうです。

 そうなると未確認ライオットにも気兼ねなく挑めますし、ファイナルステージが終わった後の8月後半は夏休みを満喫できるでしょう。私も問題なく課題は終わるので、旅行は8月中旬~下旬を目処に考えておくのがいいかもしれません。

 

 そんなことを考えながら勉強を勧めていると、ノックの音共にひとりさんの部屋の扉が開きお義母様がいらっしゃいました。

 

「ふたりとも、頑張ってるわね。スイカ持ってきたから、よかったら食べてね」

「ありがとうございます、お義母様……では、せっかくですし少し休憩しましょうか?」

「あっ、はい。そうですね」

 

 軽く勉強用具を片付けてどかしてから、ひとりさんと一緒にスイカを食べながら休憩します。最近はずいぶんと暑くなってきましたので、よく冷えたスイカはとても美味しいです。

 

「あっ、なっ、なんか、スイカを食べると夏だ~って感じがしますね」

「そうですね。夏の風物詩ですね。最近はかなり気温も高くなってきましたし、とても美味しく感じますね」

「でっ、ですね。けど、こうやって、有紗ちゃんと一緒に旬のものを楽しめてるのは、なっ、なんか嬉しいです」

「それは私も同じ気持ちですよ。そういえば、去年の今頃は初ライブ前で忙しくしていて、こうしてのんびりする時間は少なかったですね」

 

 思い返してみれば、ちょうど1年前となると8月に行う初ライブに向けて頑張っていた頃です。丁度私がひとりさん以外の結束バンドの皆さんと顔を合わせたのも、この時期でしたね。

 

「あっ、そういえば、そうでしたね。いっ、いまはいまで未確認ライオットに向けて頑張ってるので、ある意味ではちょっと似ていますね」

「そうですね。状況まで似てしまわないことを祈りたいですね。特に台風とか……」

「たっ、確かに、あの時みたいに台風が来るのは勘弁してほしいですね。やっ、野外ステージですし……」

「野外ステージというと、やはり音の聞こえ方も室内とは違ってくるのが難しいところですね。かといって、野外ライブの練習ができる場所というのも限られますし……」

「ろっ、路上ライブである程度は感覚を掴んでいますけど、設備とかも違いますし音の感じは変わってきそうですね」

 

 ライブハウスなどと比べると、どうしても音の反響の仕方などが変わってくるので、同じ演奏でも聞こえ方も変わってきます。そういう意味ではひとつ大きなハードルと言えるかもしれません。

 ただ、そもそも10代のバンドで野外ライブを経験しているというバンド自体が少ない筈なので、条件としては他の参加者も同じでしょう。

 

 そんな風に未確認ライオットの話をしつつ、スイカを食べて終えたタイミングで、不意にひとりさんが声を上げました。

 

「あっ、つっ……」

「ひとりさん?」

「目にゴミが……」

「あまり擦ってはいけません。見せてください」

 

 どうやら目にゴミが入ったらしく、ひとりさんが手で目を擦っていましたのでそれを止めます。目を擦ると目の表面に傷ができ角膜びらんや結膜浮腫になる可能性がありますので、ゴミを取るにしても清潔な布やタオルを湿らせて軽く押し当てたりする方がいいです。

 ひとまず、ひとりさんの手を軽く押さえつつ顔を覗き込みます。

 

「痒いとは思いますが、少し我慢してくださいね」

「あっ、はい」

 

 ひとりさんの目を覗き込んで見てみますが、ゴミらしきものは見当たりません。おそらく最初に擦った時に取れたのでしょう。

 これなら目のかゆみを抑えるために一度顔を洗ってタオルを軽く押し当てたりするのがいいですね。もし目薬があるようならそれを使うのもいいです。

 ひとまず問題なさそうだとそう伝えようと口を開きかけた瞬間、ひとりさんの部屋の戸が勢いよく開かれる音が聞こえました。

 

「有紗お姉ちゃーん! お母さんが、今日晩御飯食べていくか聞いてきてって……」

「「あっ……」」

 

 戸を開けて元気よく笑顔で現れたふたりさんは、私とひとりさんを見てピタッと動きを止めました。その理由はなんとなく察することができます、顔が動かないようにひとりさんの頬に軽く手を当て、目のゴミを確認するため顔を近づけている状態は、角度も相まってふたりさんの目にどう映るかは想像するのは難しくありません。

 実際ひとりさんも私と同じ考えに行き着いたのか、目の痒さも忘れた様子で表情を青ざめさせながら口を開きます。

 

「あっ、ふっ、ふた――」

 

 ですが、ひとりさんが言葉を発するより早くふたりさんはピシャっと音がする勢いで戸を閉めました。そして直後に大きな声が聞こえてきます。

 

「おかーさん! おとーさん! お姉ちゃんと有紗お姉ちゃんがちゅーしてた!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!? ふっ、ふたり!!」

 

 予想通りの誤解をしていたふたりさんを追って、ひとりさんが真っ赤な顔で叫びながら部屋を飛び出していきます。なんともお約束といえる展開に思わず苦笑してしまいつつも、私もひとりさんを追って部屋を出て1階に向かいます。

 リビングの扉に近付くと、既に辿り着いているひとりさんと家族のやり取りが聞こえてきました。

 

「だっ、だだ、だから、誤解だから!!」

「ひとりが、ついに……大人の階段を」

「あらあら、今夜はお赤飯ね」

「だからぁぁぁぁ!!」

 

 リビングに入るとニコニコと楽し気なお義父様とお義母様が居て、ひとりさんが赤い顔で必死に訴えている状態でした。

 ただ、おふたりの表情を見る限り……これはおそらく誤解と分かった上で楽しんでいる感じがしますね。

 

「おぉ、有紗ちゃん。式はいつごろの予定かな?」

「お父さん!!」

「そうですね。やはり、なんだかんだで高校は卒業してからの方がいいのではないでしょうか? 学生結婚というのにも憧れが無いわけではありませんが、あまり急ぎ過ぎてもよい結果にはならないでしょう」

「有紗ちゃんは有紗ちゃんでなに言ってるの!?」

 

 即結婚も素晴らしいのですが、恋人同士という期間も楽しみたいという思いはあります。理想としては1年ぐらいは恋人同士での交際を楽しみ、そこから結婚という形がいいですね。

 まぁ、お義父様の発言に乗っかっただけではありますが、私の中では確定した未来なので、時期はともかくいずれ必ず……。

 

「ひとりさん、おそらくですがお義父様もお義母様も誤解と分かった上で発言していると思いますよ」

「…………え?」

「あ~ネタばらしが早いわよ、有紗ちゃん」

「もう少し、ひとりの可愛い反応が見たかったなぁ」

「申し訳ありません。ですが、私はひとりさんの味方ですので」

 

 唖然とするひとりさんにお義母様とお義父様が苦笑を浮かべます。ひとりさんはようやくおふたりに揶揄われていたことに気付き、赤い顔をさらに真っ赤にしてわなわなと震えていました。

 するとそこでふたりさんが、なにやら明るい笑顔を浮かべながら口を開きました。

 

「ふたり知ってるよ、お姉ちゃんは、有紗お姉ちゃんのことを大好きなんだよね~」

「だっ、だだ、大好きって……そっ、そそ、それはあくまで友達として好きなのは、そうだけど……」

「え~でも、前にお姉ちゃん、有紗お姉ちゃんをイメージして歌詞を書いて、自分でこれじゃ――むぐっ!?」

 

 なにかを言いかけていたふたりさんでしたが、ひとりさんが過去最速ともいえる動きでふたりさんの口を手で塞いだので最後まで聞き取れませんでした。

 そのまま私たちから大きく距離をとったひとりさんは、しゃがんでふたりさんの目線に合わせながら何かを話している様子でした。

 

「余計なこと言わないで」

「でも前に、お姉ちゃんが自分で『これじゃまるでラブソングだ』って言ってたんだよ?」

「ふたり……いい? 絶対そのことは言わないで……お姉ちゃんも、本気で怒る時はあるんだからね?」

「……う、うん。分かった言わない」

 

 距離があるせいか会話の内容は聞き取れませんでしたが、珍しくふたりさんがひとりさんの迫力に圧されている様子でした。

 私をイメージした歌詞という単語は気になりましたが、明確にひとりさんが知られることを嫌がっている様子なので、特に言及したりするつもりはありません。

 

 結局その後は他愛のない雑談をしたあとで、私とひとりさんは部屋に戻って課題の続きをすることになりました。ただ、そのあとでご馳走になった夕食が本当に赤飯だったのは……お義母様の冗談なのか、それとも本気なのかは悩むところでした。

 まぁ、将来の祝福を早めに受け取ったと考えれば問題はありませんね。

 

 

 




時花有紗:相変わらずメンタルは強い。ぼっちちゃんとの将来設計はいろいろなパターンを考えている様子だが、せっかくなので恋人期間も楽しみたいと思っている。

後藤ひとり:恋愛度あがってきたぼっちちゃん。以前に有紗をイメージして作詞してみようと考え、実際にやってみると歌詞はスラスラとあっという間に書きあがったのだが……読み返してみれば完全にラブソングだったので、全力で封印した。

後藤ふたり:実は原作よりひとりと仲が良い。ひとりが精神的に成長していることもあって、いまのお姉ちゃんは結構カッコよくて好きと思っていたりするし、最近は幽霊扱いとかもしていない。
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