ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十六手一同の有紗宅訪問~sideB~

 

 

 有紗の家に招かれ余っている中元の品を譲ってもらうこととなった結束バンドのメンバーは、時間をかけて欲しいものを選び終えた。

 虹夏は調味料や洗剤などを中心に、喜多は化粧品を中心に、そしてリョウは……大量の食材を……。

 

「リョウ……遠慮って言葉、知ってる?」

「いえ、虹夏さん。本当に余って困っていたので、むしろ沢山もらってくださって助かります」

「ほら、有紗もこう言ってる。有紗のおかげで、私の食生活はしばらく安泰」

 

 リョウは本当に大量の食材を選び、もちろん地力で持ち帰ることなどはできないので配送の手続きをしてもらった。

 虹夏は呆れたような表情を浮かべていたが、有紗としては本当に処分に困っていたものなので、むしろ遠慮なく引き取ってもらえるのはありがたくもあった。

 

 有紗が穏やかに微笑みを浮かべていると、そこに使用人のひとりが近づいて来た。

 

「お嬢様……提案ですが」

「……はい。ああ、そうですね」

 

 使用人が何かを耳打ちすると、有紗は笑顔を浮かべて頷き、そのあとで結束バンドの面々の方を向いて口を開く。

 

「皆さん、せっかく来てくださったんですし、よろしければ夕食も食べていきませんか?」

「やったぜ」

「リョウ……う~ん、ありがたいけどいいの?」

「ええ、シェフも乗り気な様子で、腕によりをかけると張り切っているみたいです」

 

 優しい有紗は使用人からの人気も高いので、時花家の厨房を任されている料理長も「お嬢様のお友達が来ているのだから」とやる気を出しており、虹夏たちが了承すればすぐにでも人数分の調理に取り掛かる心づもりである。

 

「……個人宅の夕食の話題で、シェフって言葉が出てくるのは、もう本当に有紗ちゃんって感じよね」

「あっ、でも、有紗ちゃんの家の料理、本当にレストランみたいに美味しいですよ」

 

 圧倒されつつもさすがはセレブだという感じの表情を浮かべている喜多に対し、ひとりは何度も有紗の家に来て食事をしているので、周りと比べて落ち着いている様子だった。

 結局せっかくの申し出だからということで虹夏たちも夕食を食べることに同意し、準備ができるまでは有紗の部屋で過ごそうという話になり、有紗の部屋に移動する。

 

「……うぉぉぉ……こ、これ? 個人の部屋? 広すぎてもうどうリアクションとっていいか……というか、ぼっちちゃんの写真でっかっ!?」

「あの巨大なひとりちゃんの写真で、間違いなく有紗ちゃんの部屋だって理解できますね」

「というか……ぼっち水着じゃん」

「有紗ちゃん!? いっ、いつの間に、水着の写真に変えたんですか!?」

 

 有紗の部屋の広さに圧倒された3人だったが、それ以上に部屋にでかでかと額縁に入れて飾られているひとりの写真が目立っており、そちらに視線が向いた。

 ひとりの写真は、以前有紗とふたりでプライベートプールで遊んだ際に撮影したものであり、まさか自分の水着写真が飾られているとは思わなかったひとりは、一瞬で顔を赤くして有紗に詰め寄っていた。

 

「ああ、最近新しく中身を変えました。かなり綺麗に撮れていますよね。最近はスマートフォンの写真も画質がよくて素晴らしいですね!」

「そっ、そういう問題じゃなくて……あっ、ああ、あんな写真恥ずかしいじゃないですか……」

「眩しいほどに愛らしいと思うのですが……まぁ、ひとりさんが恥ずかしいようなら、裏返しましょうか」

「そっ、そうしてください。直ちに!」

 

 仮にこれが有紗とふたりきりであったなら「まぁ、いつも通りの有紗ちゃんか」とスルーしたが、流石に他のメンバーもいる場面で水着姿の巨大写真は恥ずかしすぎた。

 有紗もひとりが恥ずかしがっていることはすぐに察したのか、巨大な額縁に近付いて両手で額縁を持って裏返した。

 

「裏は浴衣ぼっちちゃんだった!?」

「まさかのリバーシブル!?」

「隙を生じぬ二段構え……流石、有紗」

「あっ、有紗ちゃぁぁぁぁん!!」

 

 額縁には裏表で別々の写真があったようで裏返すと今度は少し前に行った夏祭りの浴衣姿のひとりが映っていた。

 予想外の展開に顔を真っ赤にしたひとりが、今日一番の声量で叫んだのは言うまでもない。

 

 

****

 

 

 部屋に入ってすぐにひと悶着あったものの、とりあえず水着よりは浴衣の方がマシということで浴衣の写真の方にしたあとは、室内にあるソファーに座って使用人が持って来てくれた紅茶を飲みながら雑談をしていた。

 しばし他愛のない雑談をしたあとで、虹夏がふと気づいたように視線を動かす。

 

「あ、そういえばぼっちちゃんから聞いた演奏ルームはあっちだね。キーボードとかもそっちにあるんだっけ?」

「ええ、ピアノとキーボード、あとはギター用のアンプなどもありますね。まぁ、あくまでひとりさんとセッションするために用意しているだけなので、ベース用のものなどはないですが……」

「へぇ、じゃあ、仮にやろうと思えばすぐにでもひとりちゃんとセッション出来るんだ」

「そうですね。少し準備すればすぐに……」

 

 喜多が頷きながら告げた言葉を聞き、ひとりはパァッと表情を明るくして、期待するような目で有紗を見る。ひとりにとって有紗とのセッションはたまにしかできない、大好きな時間といえるものであり、もしかしたらセッションができるかもと期待に胸を膨らませていた。

 

(……私、ギター持って来てるし、時間はまだ結構あるし……セッション出来るんじゃないかな? 有紗ちゃんと一緒に弾きたい曲がいくつもあるし、今日はスタ練もそれなりにやったけどまだまだ元気だし……)

 

 たまたま目線を向けたリョウがひとりの背後に、散歩に行く直前の子犬を幻視した程度には期待に溢れた目だった。

 

「……とはいえ、夕食まであまり時間もないですし、それはまたの機会……」

「あっ……そっ、そうですよね」

 

 ひとりの視線に気づかないまま有紗が告げると、ひとりは目に見えてシュンとした表情に変わり、そこで有紗もひとりの様子に気が付いて慌てて言葉を付け足した。

 

「あ、夕食を食べた後にしましょうか! 遅くなれば、車で送りますし、ひとりさんさえよければですが……」

「あっ、やっ、やりたいです!」

 

 落ち込んでいた表情から一転、幸せいっぱいというオーラを出しながら頷くひとりを見て、虹夏たちも微笑まし気な表情を浮かべていた。

 そして、軽く顔を見合わせてアイコンタクトを交わしたあとで口を開く。

 

「……私たちは、あんまり遅くなるわけにはいかないし、夕食を食べたら帰ることにするよ」

「そうですね」

「というわけで、存分にふたりでいちゃつけ」

「いっ、いちゃつくとか、そういうのじゃないですから!!」

 

 どのみち全員で演奏するには機材も足りない状態であり、ひとりのはしゃぎようを見る限り演奏を始めれば、有紗とひとりがふたりの世界に入ってしまうのは察することができた。

 ならば邪魔をする必要も無いだろうと、そう考えて3人は早めに帰宅することに決めた。決して、胸焼けを恐れたわけでは無い。食後にはちょっとキツイかなぁと思ったわけでもない。

 

 

****

 

 

 有紗の家で驚くほど豪華な夕食を食べたあと、車で駅まで送ってもらい。虹夏たちもそれぞれの家に帰宅することになった。

 そして、下北沢駅からSTARRYに向かって歩く道の途中で、虹夏は呆れたように口を開く。

 

「……んで、なんでリョウはここに居るかなぁ?」

「お邪魔します」

「完全にうち来る気だし……なに、遊び足りないの?」

「いや、そうじゃなくて、もうSTARRYの営業は終わる時間でしょ?」

「そうだね」

「スタジオ空くでしょ?」

「……そりゃ、ね」

 

 虹夏の返答を聞いて、リョウはどこかからかうような笑みを浮かべる。そして、楽し気な様子で担いでいたベースの入ったケースを軽く掲げて告げる。

 

「というわけで、私たちもいちゃいちゃしようぜ」

「……ぷっ、あはは、そうきたかぁ……さては、有紗ちゃんとぼっちちゃんがセッションするって聞いて、自分も演奏したくなったな?」

「そうだよ、悪い?」

「まったく、昼間にあんなに練習したのに……けどまぁ、私も少しドラム叩きたい気分だったし……いちゃいちゃしちゃおっか~」

「そうこなくちゃ」

 

 営業終了したSTARRYのスタジオを借りてセッションしようというリョウの言葉に、虹夏は楽し気に笑ったあとで頷いた。

 たしかに虹夏も、有紗とひとりのセッションと聞いて以前に見た動画を思い出して、演奏したいという気持ちが湧き上がってきたのも事実であり、断る理由はない。

 

「けど、終電無くなっちゃうよ?」

「虹夏のベッドいいやつだから、問題ない」

「もうすでに泊っていく気だよコイツ……しょうがないなぁ」

 

 明らかに泊まっていく気のリョウに対し、虹夏は呆れたような表情を浮かべていたが……心なしかその姿は、楽しそうにも見えた。

 

 

****

 

 

 虹夏たちが帰った後は、約束通り有紗とひとりはセッションを行っていた。昼間の練習の疲れなど感じさせない様子で、ひとりは好調に演奏しておりその表情には笑顔が浮かんでいる。

 やはり彼女にとって有紗とのセッションは本当に楽しい時間ということもあって、疲れるどころか元気になるような感覚さえあった。

 

「あっ、有紗ちゃん、他にもやりたい曲があって……」

「ふふ、焦らなくても大丈夫ですよ。ひとりさんが満足するまで付き合いますから……もし時間が遅くなったら泊っていけばいいですしね」

「あっ、そっ、そうですね。正直、有紗ちゃんとセッションしてるとあっという間に時間が過ぎちゃって……あっ、それだけ楽しいってことなんですけど……だから、えと、有紗ちゃんさえよければ……泊って行ってもいいですか? もっと、いっぱい有紗ちゃんとセッションしたいです」

「ええ、もちろん。私の方に断る理由はありませんよ。ただ、熱中しすぎて明日に疲れが残ってしまわない様にだけは注意しましょうね」

「あっ、はい!」

 

 有紗の言葉にひとりは嬉しそうな笑顔を浮かべたあとで、有紗の隣に駆け寄っていき、甘えるように身を寄せながらスマホを取り出す。

 

「あっ、えっと、次にやりたいのがこの曲で……」

「ああ、この曲なら私も知ってますし、すぐに演奏できそうですね」

「じゃっ、じゃあ、次はこれで……この、サビの後のギターとキーボードがデュエットするところを、有紗ちゃんと一緒に演奏してみたかったんです」

「確かにこれは面白そうですね。それでは、楽しく演奏しましょうか」

「はい!」

 

 ニコニコと幸せそうに笑ったあとで、ひとりは再び元の位置に移動する。そして有紗と軽くアイコンタクトを交わして演奏を始めた。合図などは必要なく、ただ少し目を合わせるだけで完璧にタイミングが合う心地よさを感じつつ、終始笑顔でセッションを楽しんでいた。

 

 

 




時花有紗:部屋に飾ってあるひとりの巨大な写真は、常に最新のものへアップデートしており、現在は水着と浴衣のリバーシブル。

後藤ひとり:有紗とのセッションが大好きなぼっちちゃん。はしゃぎ方がだいぶ違う。お泊りをして夜遅くまでセッション……健全なはずなのに、なんだか響きがえっちである。

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