ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十七手挺身の決勝前夜~sideB~

 

 

 未確認ライオットのファイナルステージを翌日に控え、STARRYから自宅に戻った喜多は一度ギターなどを置いて、有紗のアドバイス通りに一息ついた。

 そして、心を落ちつけてすぐに頭に思い浮かんだ人物に連絡を取った。

 

「……んで、思い浮かんだのがうちだったわけだ。へぇ~ほ~」

「う、なんでニヤニヤしてんのよ」

 

 コーヒーチェーン店の窓際の席に並んで座り、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべる次子に、喜多はジト目を向けた。連絡を取ったのは失敗だったかとも一瞬考えたが、次子はそれ以上揶揄ったりはせずに苦笑を浮かべつつ口を開く。

 

「でも、凄いじゃん。いよいよ決勝っしょ? クラスの皆も応援張り切ってたわ。まぁ、応援賞の1位はうちらに任せといて」

「あはは、応援賞なんて無いっての……まぁ、けど、期待しとく」

「うんうん。それで、なに? 結構緊張とかしてんの?」

「そりゃね……やっぱりなんだかんだで、演奏技術は私が一番下だし、足引っ張らないかとか考えちゃうわ。やっぱり、本番を直前にすると特に……ね」

 

 喜多も1年前と比べればかなり演奏技術は向上しているが、それでもやはり他のメンバーと比べれば劣る。有紗などのアドバイスもあり、普段はあまり気になってはいなかったのだが……大一番を前にすると、どうしてもそのことが頭に浮かんできた。

 そんな喜多の悩みに対し、次子はどこか緩い口調で言葉を返す。

 

「ん~でも別に、演奏技術が高い奴が絶対勝つとかでもないわけじゃん? つか、うちも含めて大半の客にはそこまで演奏技術の違いとかは、分からんと思うよ」

「そういうもんかしら?」

「例えば、後藤とかはめっちゃギター上手いじゃん。ロックについてよく知らないうちでも、上手いって感じられる。あのレベルになれば本物って感じだけどさ~別に皆があのレベルってわけじゃないじゃん? そうなったら詳しくない人間には差なんてそこまで分からんし」

「まぁ、そりゃひとりちゃんレベルがゴロゴロしてたら、それこそ私なんて相手にならないわよ」

 

 ひとりのギターの演奏技術はプロ級であり、バンドとしては明確に格上であるSIDEROSのヨヨコでさえギター演奏に関しては負けを認めるほどのレベルだ。

 そのぐらいになれば、確かに素人の観客でも違いが分かるレベルだろうが、次子の言う通り経験者ならともかく普通の観客に、細かい演奏技術の差を聞いただけで理解できるかと言われれば、大半は理解できないだろう。

 

「うちもヒップホップやってるから分かるけど、ダンスとかでもこっちが気にしてるような細かい部分とか観客は思いのほか気にしてねぇもんだよ。ま、だからって手を抜いていいとかでもないけどね~」

「確かに私もダンス技術の違いとか言われても、見ただけじゃよく分からないわね」

「そうそう、だからあんま気にすんなし、そもそも気にしたところで明日までに劇的に上手くなるわけでもねーし、悩むだけ無駄だって」

 

 無駄とまで言い切る次子の言葉を聞いて、喜多は思わず苦笑を浮かべた。自然と肩に入っていた力が抜けるような感じで、やはり次子に連絡を取ってよかったとそう思った。

 そんな喜多に対し、次子は頬杖をつきながらどこかいたずらっぽい笑みで告げる。

 

「それに……うちは喜多の歌声、結構好きだよ」

「え? あっ、その……ありがと」

「お? 照れた? 照れてるじゃん。顔赤くしちゃって、可愛いね~」

「はぁっ! うざっ!」

 

 不意打ち気味の賞賛の言葉に思わず顔を赤くした喜多を、次子はここぞとばかりに揶揄い出す。そうすると、喜多もさらに恥ずかしさが増して、真っ赤な顔で拗ねたようにそっぽを向いた。

 それを見て楽し気に笑ったあとで、次子はチラリとメニューを見たうえで口を開く。

 

「ごめんごめん、ついね。お詫びにチャンク奢るからさ」

「……いま一番安いやつ調べてから言ったでしょ……バウムクーヘンがいい」

「チャンクより20円高いなぁ……ま、仕方ないか」

「よし、やった!」

 

 揶揄ったお詫びにチョコレートチャンククッキーを奢るという次子にバウムクーヘンを希望しながら、喜多は顔を次子の方に向けなおした。

 元々別に怒っていたりするわけでは無く、一種のじゃれ合いのようなものであったからか、すぐに顔を見合わせて笑い合った。

 

「現金すぎんしょ」

「ケーキを要求しないだけ加減してると思わない?」

「それはたしかに……はぁ、やれやれついでにうちの分も買ってくるわ」

「よろしく~」

 

 再び苦笑を浮かべたあと、次子は要求のバウムクーヘンを購入するために立ち上がってレジに向かう。それを笑顔で見送りながら、喜多はボソリと何気なく呟くように告げた。

 

「……さっつー、ありがと」

「……ま、賞金でのお返しに奢ってくれること期待しとくわ」

 

 喜多の言葉に楽し気な笑みで返したあとで、ヒラヒラと小さく手を振ってから次子はレジに向かっていった。その後ろ姿を見送る喜多の表情は、どこか楽しげだった。

 

 

****

 

 

 未確認ライオットのファイナルステージの前夜、STARRYの2階にある伊地知家の自宅では、家事を終えた虹夏が星歌と会話をしていた。内容はもちろん明日に控えた未確認ライオットに関してだ。

 

「お姉ちゃんも、明日は店を閉めて応援に来てくれるんだよね?」

「ああ、流石にファイナルまで進んだんだしな。PAと腐れ酔っ払いもいくらしい」

「出来れば廣井さんは、せめてお酒を控えてきてほしいなぁ……」

「今回は岩下や清水も行くらしいから、そっちがなんとかするだろ」

「志麻さんも大変だよね~」

 

 例によって泥酔してるであろうきくりに関しては、同じバンドメンバーに任せるつもりらしい星歌に、虹夏も思わず苦笑する。

 さすがにインディーズバンドのフェスとはいえ、それなりの規模で開催される夏フェスだけあって直接現地で応援にという者も多い。

 

「まぁ、私たちと違って出演者のお前は朝早いんだから、今日は早めに寝とけよ」

「うん。そうする。見ててね、きっとグランプリとって見せるから!」

「……別にグランプリは取れなくてもいい。ただ、後悔だけはしないように……頑張れよ」

「うん!」

 

 しっかり頷いて自室に向かう虹夏を見送り、虹夏の姿が見えなくなったあとで星歌は目を手で覆う。意外と涙もろい星歌は、頑張っている妹を見てつい緩くなった涙腺から少し涙を零しつつ微笑んでいた。

 

 

****

 

 

 星歌と話したあと、寝る準備をして自室に戻った虹夏だったが、どうにも心がソワソワと落ち着かない感じだった。どうもこのままでは寝つきが良さそうにないが、どうしようかとそう考えた直後……スマホに着信が入った。

 

「……リョウ? 珍しいね、こんな時間に電話してくるなんて」

『ん……えと、まぁ、有紗がかけろって言ったから』

「有紗ちゃんが?」

『虹夏も明るく振舞っていても緊張しているだろうから、夜に電話してやれって』

「あはは……さすが、有紗ちゃんは鋭いなぁ」

 

 思わず苦笑を浮かべつつ、それでも実際リョウから電話が着て少し気持ちが楽になったのは事実であり、有紗には敵わないと思いながら虹夏はベッドに腰かける。

 

『……まぁ、私も緊張はしてた』

「リョウも?」

『そりゃね。流石にここまでの大舞台となると、緊張もする』

「……だよね。本当に未だに夢かって思っちゃうもん。いや、そりゃ、あくまでインディーズフェスだけどさ、それでもライブハウスでのライブとは全然違う規模だもんね」

『それでも、ここまで来たらあとは全力でやるだけ』

「そうだね……」

 

 これまでとは桁違いの会場、観客の数も空気もまるで違うであろう大舞台を想像すると、虹夏もリョウも緊張はもちろんする。

 だが逃げ出したいという後ろ向きな気持ちではない。サードステージからいままでにしっかりと気持ちは作り上げてきたので、いまの緊張は一種の武者震いに近いかもしれない。

 

『……虹夏、大丈夫だよ』

「え?」

『私たちならきっとやれる。同世代のトップレベルのインディーズたちともちゃんと渡り合える』

「……うん。そうだよね! いいバンドだよね、結束バンド」

『名前はダサいけどね』

「ダサいとか言うな! リョウだってなんだかんだで気に入ってるくせに」

『私は最初っから気に入ってた……結局、名前変えなかったね?』

 

 結束バンドが結成したばかりのころ、そしてひとりが加入したばかりの頃は虹夏は結束バンドの名前を恥ずかしがっており「絶対変える!」と発言していた。

 しかし、結局その名前を変えることはなく今に至っている。

 

「もう他の名前は考えられなくなっちゃったからね。ぼっちちゃんが入ってくれて、喜多ちゃんが戻ってきて、有紗ちゃんがいろいろ手伝ってくれるようになって……本当にいい仲間に恵まれたなぁって思ってる」

『……確かに、私も含めて超有能メンバーが集まったと思う』

「相変わらず凄い自信だな」

『けど、スタートは虹夏。虹夏が居たから私や皆が集まって、いいバンドに成れたと思う……頼りにしてるぜ、リーダー』

「……ぐすっ……もう、馬鹿。普段リーダーっぽくないとか馬鹿にするくせに、こういう時だけ……ありがとう、リョウ……その、普段は気恥ずかしくてあんまり言えないけど……リョウが居てくれてよかったって思ってる。これからも、一緒に頑張ろうね」

『……お、おう』

 

 リョウの言葉に思わず涙ぐみつつ、虹夏が優し声で感謝を伝えると……リョウも気恥ずかしかったのか、若干動揺したような返事を返してきた。

 なんとも言えない気恥しい空気の中で少し沈黙したあとで、虹夏は顔を少し赤らめて口を開く。

 

「あぁ、もうなんか恥ずかしいね! この話はもうやめ!」

『……賛成』

「ともかく、いよいよ明日は本番だからね! 全力で頑張ろう!」

『了解』

 

 そのまましばらくリョウと雑談をしたあとで電話を切り、虹夏は布団に入って寝る体制になった。少し前まで感じていた不安な気持ちはいつの間にか消えており、少しくすぐったいながらも温かい気持ちだった。

 

「……ありがとう、リョウ」

 

 ひとり小さく呟いてから目を閉じる。ぐっすりと眠れそうだと、そんな確信に近い予感を覚えながら……。

 

 

 

 




喜多郁代:有紗のアドバイスに従って次子に連絡。なんだかんだで気心の知れた次子との会話で緊張は解け、いいコンディションで就寝した。

山田リョウ:有紗のアドバイス通りに虹夏にナイトコール。結構気恥しい思いもしたが、虹夏と同じく不思議と心は温かくすぐに眠ることができて翌日も寝坊せずに起きれた。

伊地知虹夏:結構リョウといちゃいちゃしてた。やっぱりなんだかんだで、最初はふたりでバンドをスタートさせたこともあって、一番気の許せる相手という感じ。

後藤ひとり:寝る前にデコチューを思い出して悶絶していたが、寝つき自体はいいのですぐに眠ることはできた。ただ翌日迎えに来た有紗と顔を合わせた際には、恥ずかしくてしばらく顔がまともに見れなかったとか……。

未確認ライオットファイナルステージ:別に長くならない。百合とはあんまり関係ないし、サクサク進行する。
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