ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十八手決戦のファイナルステージ~sideA~

 

 

 いよいよやってきました未確認ライオットファイナルステージの当日です。とはいえ、ファイナルステージだからといって、特別なことがあるわけでは無く全体の流れとしてはサードステージとそう変わりません。

 会場に到着して集合場所に集まり、運営から簡単な進行の流れを聞いてくじによる演奏順の決定、そしてリハーサルといった流れです。

 ファイナリストとなったバンドは10組であり、この中からグランプリを競い合う形になります。リーダーである虹夏さんがくじ引きに向かい。演奏順の書かれた紙を持って戻ってきました。

 

「……で、虹夏、何番?」

「……5番」

「なんというか、5番に縁がありますね」

 

 喜多さんの言う通りサードステージに引き続き演奏順は5番目です。今回は前回のように一部のバンドが突出しているというわけでもないので、最初と最後以外はそれほど演奏順による影響は無さそうではあります。

 他のバンドの演奏順を見てみると、以前サードステージで競い合ったケモノリアは2番目、ヨヨコさん率いるSIDEROSは7番目という演奏順でした。

 

「あっ、えっと、この順番はどうですか?」

「正直トップバッターと大トリ以外はあまり影響はないと思います」

 

 ひとりさんの質問に軽く答えつつ、リハーサルに向かう皆さんを見送ります。私は扱いとしては結束バンドのマネージャーなので、こうして控室にも入れていますが演奏メンバーではないので待機が多いですね。

 今回は野外ステージということもあり、やや離れた場所でリハーサルを見学していると、見覚えのある方……ケモノリアのリーダーさんが近付いて来ました。

 

「や、有紗ちゃん。今日はよろしくね~」

「こんにちは、こちらこそよろしくお願いします。こちらに来ていて大丈夫ですか?」

「うん。リハーサルは本番とは順番が逆だから、私たちは最後の方だからね。たまたま有紗ちゃんが目に付いたから挨拶だけでもと思ってね。サードステージでは後れを取ったけど、今日はそうはいかないよ」

「ええ、こちらも負けるつもりはありません。お互いにいい勝負をしましょう……まぁ、私は演奏メンバーではないのですが」

「あはは、そうだったね。ラスボスモードにはならないのか……まぁ、なんにせよお互い頑張ろうね」

 

 そう言って楽し気に笑ったあとで、リーダーさんは手を振って去っていきました。前にお会いした時と同じく緩い雰囲気ではありましたが、確かな自信が見て取れたので今日までしっかりと練習を積んでレベルアップをしてきたという自負があるのでしょうね。やはり、ファイナルステージは強敵揃いのようです。

 

 

****

 

 

 リハーサルが終わって、割り振られた控室で本番前に最後の打ち合わせです。とはいっても、ここまで来たからには全力で頑張るだけ……頭ではそう理解していても、本番直前になって緊張を感じるなというのは無理な話です。

 若干表情が硬い皆さんを見て、私は少しだけ微笑んで声をかけました。

 

「皆さん、ハッキリ言っておきますと、決勝進出の全バンドの最新のMVは聞いてみましたが……結束バンドは真ん中よりやや下といったレベルなので、グランプリや準グランプリを獲得できる可能性は低いとみていいと思います」

「うへぇ、分かってはいたけど、有紗ちゃんが言うと重みがあるね」

「ですが……本当に凄いことだと思いますよ」

「凄い? 私たちが?」

 

 私の言葉を聞いて喜多さんが首を傾げて聞き返してきたので、それに頷いてからさらに言葉を続けます。

 

「前にひとりさんと話した時も感じましたが……思い返してみてください。1年前のちょうど今頃はというと、結束バンドとして4人そろって初めてのライブを数十人という観客を前に行っていた頃です。正直、その頃の結束バンドの実力であればネット審査はおろか、その前のデモ審査で落選していてもおかしくなかったです。ですがいまは……たとえ可能性が低くても、10代のインディーズバンドの中でもトップレベルのバンドたちと、グランプリ争いができるレベルにまで成長しているのですから、とてもすごいことだと思いませんか?」

「あっ、そっ、そうですよね。そう聞くと、私たちがちゃんと成長出来てるんだって、実感できますね」

 

 私の言葉に同意するようにひとりさんが頷きます。実際ひとりさんも1年前と比べると、信じられないぐらいにレベルアップしていると思います。

 

「言われてみれば確かに、そのぐらいの時期だよね。懐かしいなぁ~台風が来たんだよね」

「でしたね。お客さんも少なかったですし、皆初ライブで緊張していましたよね」

「皆へっぽこ演奏だったし、ミスしまくってた」

「リョウもね」

 

 皆さんも1年前のライブを思い出したのか苦笑しつつも、どこか懐かし気に言葉を交わしていました。少し雰囲気が明るくなってきたのを感じつつ、私は再び口を開きます。

 

「文化祭でのステージ、クリスマスのゲストライブ、新曲の作成や路上ライブ、初めての箱でのブッキングライブなど……様々な経験を経て、皆さんはここに立っています。残念ながら、努力が必ずしも報われるわけではありません。ですが、積み重ねてきた努力は……間違いなく皆さんの力になっています。だから、自信を持ってください。皆さんは未確認ライオットのファイナリストたちと競い合えるだけの力を持ったバンドです……ならばあとは、今できる最高の演奏をしてくるだけです」

「あっ、はい! がっ、頑張ります!」

「頑張りましょう! ここは皆の心をひとつにするために円陣でもどうですか?」

「え? 暑苦しくない?」

「いいじゃん、やろうよ!」

 

 円陣を組もうという喜多さんの言葉に若干面倒臭そうな表情を浮かべていたリョウさんでしたが、虹夏さんに促されると抵抗することなく加わって、皆で円陣を組みました。

 

「よし、皆……えっと……」

「虹夏、有紗みたいにリーダーっぽいこと言おうとしてるなら、無理だから諦めた方がいいと思う」

「ハッキリ言うなよ……うん。よし! 気合入れて頑張るよ!!」

『おー!』

 

 余計なことは言わないことに決めたのか、虹夏さんが出したシンプルな掛け声に合わせて私たちも声を出します。ファイナルステージに臨む心構えは完成したと言えるでしょう。

 あとは願わくば、皆さんにとってよい結果が訪れるのを期待するばかりです。

 

 

****

 

 

 12時になり未確認ライオットの本番が始まると、会場はかなりの熱気に包まれていました。観客たちのボルテージも上がっており、かなりの盛り上がりが予想されます。

 

『ついに未確認ライオット最終ステージ! 全国から勝ち進んだ大注目の若手バンドたちがグランプリを目指して熱い演奏を披露してくれるぜ! 1組目は福岡からやって来た――』

 

 そうして、1組目のバンドの演奏がスタートしましたが、やはりというべきかトップバッターから会場は大盛り上がりで、観客の中にはサークルやモッシュを行っている人も見受けられました。

 やはりファイナルステージに進出するだけあって実力は相当高く、メジャーデビューしていてもおかしくないようなレベルのバンドばかりです。分かってはいましたが、優勝争いは熾烈になりそうです。

 そして、あっという間に結束バンドの出番が近付いて来ました。

 

「もうすぐ出番ですね。ひとりさん、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。大丈夫です……あっ、でも、もしよかったら……」

「最後まで言わなくても大丈夫です。頑張ってください、ひとりさん。最高の演奏を期待しています」

「はい! 見ててください、有紗ちゃん! いまの私にできる、一番の演奏をしてみせます!」

 

 私の応援の言葉に力強く頷き、ひとりさんは私が誕生日にプレゼントしたギター……サードステージでは使っていなかったギターを持って、ステージに向かっていきました。

 

『続いて5組目は、下北沢の新進気鋭バンド、結成1年程度の若いバンドながらその実力は本物……結束バンドの登場だ!』

 

 きっと大丈夫と、そんな思いを感じながらステージに向かっていく皆さんの背を見送りました。

 

 

****

 

 

 ひとりさんを含め、いい精神状態でステージに上がった結束バンドは未確認ライオットファイナルステージという場で、文字通り最高の演奏を見せてくれました。

 間違いなく、現在の結束バンドの皆さんができる力を出し切った最高の演奏でした。ここまでに演奏した他のバンドと比べても決して見劣りしない素晴らしい演奏でした。

 

「あっ、有紗ちゃん!」

「お疲れ様です。素晴らしい演奏でした」

「はい。えへへ……ちょっと疲れましたけど、頑張りました」

「本当、いい感じに演奏できたよね!」

「ですよね! 私も自分で言うのもなんですけど、結構ボーカルも声が出ててよかったと思います」

「……うん。会場もかなり盛り上がってたし、手応えは十分」

 

 演奏から戻って来た皆さんにタオルやドリンクを渡して出迎えます。皆さんもいい演奏ができたという手ごたえがあるみたいで表情は明るいです。

 私の印象としても、本当に最高の演奏でした……ただそれでも、グランプリを確信できないほどには、他のファイナリストのレベルも高いです。ただ、逆に言えば飛び抜けているようなバンドも居ませんし、どんな結果に転がっても不思議ではないです。

 そんな風に考えながら皆さんと次のライブや準備の邪魔にならないように移動していると、前方から間もなく出番であるSIDEROSの皆さんが歩いてくるのが見えました。

 

「……いい演奏だった。最高だったわ」

「え? あ、ありがとうございます」

 

 すれ違い様に短く賞賛の言葉を告げるヨヨコさんに、虹夏さんが思わず気圧された様子でお礼の言葉を口にしました。

 

 ……これは、不味いかもしれません。ヨヨコさんが纏う雰囲気が、明らかに違いました。あの感じには覚えがあります。玲さんが見せる一種のゾーンとでも呼ぶべき極限の集中力を纏っている雰囲気です。

 玲さんの緻密に計算されて作り上げた120%の状態には及びませんが、それでも100%の力を発揮できるであろう状態。他の皆さんも思わず気圧されるほど、いまのヨヨコさんには凄みがありました。

 

 これはある意味皮肉なことかもしれません。結束バンドは間違いなく最高の演奏をしました。そしてそれはおそらくヨヨコさんに「負けるかもしれない」と感じさせるほどだったのでしょう。

 ヨヨコさんは性格上逆境にかなり強いタイプです。追い込まれたことで高まった集中や、本人のやる気などが上手く噛み合って理想的な集中状態に辿り着いたのでしょうね。

 

 いまのヨヨコさんがどれほどの演奏をするのか、すぐには想像できませんが……サードステージの時よりも遥かに上であることだけは、確信することができるほど、ステージに向かって歩くその背は大きく見えました。

 

 

 




時花有紗:実際マネージャー適性は高いので、なんだかんだで名目上だけでなく普通にマネージャーっぽいことしてる。

後藤ひとり:有紗が居ると割と精神つよつよなぼちっちゃん。ほんの僅かな隙に有紗の傍に寄ってきていちゃつくのは相変わらず。

ヨヨコパイセン:覚醒モード突入。
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