ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十八手決戦のファイナルステージ~sideB~

 

 

 順番の回ってきたライブステージの準備をしながら、大槻ヨヨコは静かに思考を巡らせる。

 最初にその名前を聞いた時は、面白くなかった。姐さんと慕い尊敬する相手が楽し気に話すその名前に嫉妬したことをヨヨコはハッキリと覚えている。

 

(姐さんが注目する結束バンド、後藤ひとりと時花有紗。初めは対抗心で目が曇ってたけど、動画を見てみれば思った以上に悪くなかった。まだまだ未熟な部分はたくさんあったけど、なるほど姐さんが注目するわけだと思うぐらいには光るものを感じた)

 

 心はグツグツと煮え滾るほどに熱くなっているはずなのに、頭の中は静かで思考もクリアに研ぎ澄まされている。初めての感覚ではあったが、この状態が良いものであるというのは理解できていた。

 

(クリスマスのライブも及第点ではあった。けど、まだその時は明確に格下だった。だからこそ、次に新曲のMVを見た時は、その成長に心底驚いた。そしてサードステージのライブ審査では、更に進化していて……もう格下とは感じなくなっていた)

 

 思考を巡らせつつ少し視線を動かすと、遠くからこちらを見ている結束バンドのメンバーが目に付いた。そして同時に、少し前に見た彼女たちの演奏も頭に思い浮かぶ。

 

(そして、今日……初めて貴女たちに『負けるかもしれない』って、そう思った。そのぐらい本当にいい演奏だった)

 

 SIDEROSと結束バンドではバンドとしてのキャリアが違い、それはそのままバンドとしての完成度の差となっている。これがもっと何年も先、互いにバンドとして熟しきったのなら話は変わってくるが、まだまだ発展途上の現段階においてキャリアの差は、実力にも大きく影響する。

 実際、ヨヨコはサードステージまでも結束バンドのことは認めていた。いいバンドであるし、成長率も素晴らしいと……だが、己が負けると感じたことは無かった。先ほどのファイナルステージの演奏を聞くまでは……。

 

(認めるわ、貴女たちは手強いライバル……私に、私たちに勝てるだけの力を持つ、本当に強いバンドだってことを……)

 

 楽器などの準備を終えて、もうすぐライブの開始というタイミングでヨヨコは結束バンドの面々たちに視線を向け、どこか優し気な表情を浮かべた。

 

(きっとそう、いつか、そう遠くない内に貴女たちに追い抜かれるんでしょうね。そして、今度は私たちが貴女たちの背中を追いかけて、追い抜き返して……そうしたら、また貴女たちが追いかけてくる。そんな風に追い抜いたり、追い抜かれたりを繰り返して、競い合い切磋琢磨しながら互いに成長していけるって、そんな風に感じてる)

 

 ヨヨコの瞳に強い光が宿り、同時にその存在感が増す。まだ演奏を始めていないはずなのに、注目を集めるような凄みのある気配、ヨヨコの心の熱が表に出てきているかのような感覚だった。

 

(いつか、そう、もしかしたら次の機会には貴女たちが勝つかもしれない。だけど、それはまだ……今日じゃない。貴女たちを、結束バンドを最高のライバルだってそう思うからこそ……私は、貴女たちにとって……『いまはまだ届かない背中』でいたいと思うわ)

 

 チラリとSIDEROSのメンバーに視線を向ける。あくびも楓子も幽々も、ヨヨコの強い決意を感じ取ったかのように無言で頷く。ヨヨコがどんな凄い演奏をしても、必ず付いて行ってみせるとそんな決意を込めて……。

 その視線に、フッと小さく微笑んだあとでヨヨコは前を、観客たちの方を向きマイクに向けて口を開く。

 

「SIDEROSです。観客の皆様、暑い中朝からお疲れ様……ここまでステージで演奏したバンドも、これからステージで演奏するバンドも本当にいいバンドで、手強いライバルだと思います。このステージを目指して、それでもこの場に立てなかったバンドにも素晴らしいバンドはたくさんありました」

 

 開始前のMCを穏やかな微笑みで行いながらも、ヨヨコの心は極限まで研ぎ澄まされていた。いまから行う演奏は、これまでで一番のものになるという確信に近い予感があった。

 

「1年後であれば、結果は全然変わっていたかもしれないと思う様な、凄い成長をするバンドにも巡り合えました。このファイナルステージに参加する全てのバンドを心から認め、尊敬しています……でも、今日勝つのは私たちよ! 観客にもライバルたちにも今日のグランプリはSIDEROSだったと納得させる演奏を見せてあげる! だから、しっかり最後までついて来なさい!」

 

 ヨヨコの力強い宣言と共に始まった演奏は……圧巻の一言だった。SIDEROSの演奏を何度も聞いてる者たちでも、いままでとは明らかに違うと感じるほど歌も演奏も凄まじかった。

 その中心となっているのはヨヨコであり、彼女の圧倒的なパフォーマンスをメンバーたちがしっかり支えることで、バンド全体の演奏をさらに高次元に引き上げていた。

 

 観客席でその演奏を聞いていたきくりは、感心した表情を浮かべる。

 

(こりゃ凄い。大槻ちゃん完全に一皮剥けたね。明らかに他のバンドと比べて頭ひとつ抜き出た演奏……切っ掛けさえあれば爆発的に成長するか……はぇ~若いってのは羨ましいねぇ。けど、カッコいいバンドマンの顔になってるじゃん)

 

 明らかにこの大舞台で大きく成長した後輩を見て、きくりはどこか楽し気に酒をあおった。

 

 

****

 

 

 未確認ライオットのファイナルステージに進んだファイナリストたちによるライブまでは、最後まで盛り上がりを維持したまま終了した。

 そうなると次にあるのは結果発表である。ある程度の休憩の後にステージ上に司会進行とファイナリストたちが上がる。

 もちろん全員というわけでは無い。仮に10組すべてがフォーピースバンドだと仮定しても総人数は40人を超えるため、各バンドのリーダーのみがステージ上に並ぶ形となる。

 

『さぁ、観客もファイナリストの皆も朝からお疲れ様! いよいよ、長きに渡った未確認ライオットの最終結果が発表だ! 果たして、グランプリの栄光を掴むのはどのバンドだ!!』

 

 結束バンドもリーダーの虹夏がステージ上に他のバンドのリーダーたちと並び、残りのメンバーはステージ脇から結果発表を見つめていた。

 

「……あっ……SIDEROS、凄かったですね」

「そうですね。悔しくもありますが、素晴らしい演奏でした」

 

 ポツリと呟いたひとりの言葉に、隣に居た有紗が同意する。言葉こそ発していないが、同じ場に居る喜多やリョウも、あるいは他のバンドのメンバーたちも、今回のグランプリについてはある程度予想がついていた。SIDEROSの演奏は他のバンドより頭ひとつ確実に抜けていた。

 

『では、まずは準グランプリの発表だ。準グランプリは――』

 

 そう思っていると、最初に準グランプリが発表された。残念ながら結束バンドの名前は呼ばれず、大トリを務めたバンドの名前が呼ばれた。

 特別審査員のアーティストが準グランプリに選ばれたバンドの選考理由と賞賛を話すのを聞きながら、ひとりは有紗の手をぎゅっと握り顔を俯かせる。

 

「……くっ、悔しいですね」

「ええ、本当に……」

「ちゃっ、ちゃんと全力は出せました。きっ、きっといまできる一番の演奏でした……でも……届かなかった」

 

 そう、分かっているのだ。グランプリは間違いなくSIDEROSだと……だからこそ、ここで、準グランプリで呼ばれなかったということは、結束バンドが入賞する可能性は無くなったということだと、ひとりも分かっていた。

 大きな失敗があったわけでは無い。緊張で力が出し切れなかったわけでは無い。間違いなくいまの自分たちにできる最高の演奏ができた……勝敗を分けたのは地力の差だろう。

 結束バンドはたしかに100%に近い力を発揮できた。しかし、残念ながらまだまだ発展途上である結束バンドの現時点の100%は、SIDEROSの100%には届かなかった。

 目に涙を浮かべて俯くひとりを、有紗はそっと優しく自分の胸に抱き寄せる。

 

「……悔しさを我慢する必要はないと思います。力を出し切って後悔はなくとも、悔しいものは悔しいんです。そして、結束バンドはまたこの悔しさをしっかりバネにして、いま以上に成長できると確信しています。だからいまは、しっかり泣いて悔しがりましょう。この後でちゃんと前を向くために……」

「有紗ちゃんっ……うぅ……」

 

 ついに目から涙が零れたひとりは、そのまま有紗に強く抱き着いて涙を零す。ステージ上ではついにグランプリであるSIDEROSの名が呼ばれ、会場は一番の盛り上がりに包まれる。

 ステージ上にいる他のバンドのリーダーたちも目に涙を浮かべたりしつつも、ヨヨコに拍手を送り、今回のフェスの覇者を称える。

 少しの間有紗の胸で泣いていたひとりも特別審査員のコメントに移るころには顔を上げてステージ上を見た。

 

「……あっ、ちゃんと、祝福しないと、ですね」

「ひとりさんは強いですね。ええ、祝福しましょう……そして、次こそはSIDEROSに勝って見せましょう」

「はい!」

 

 ひとりは1年前に比べて精神的に大きく成長しており、いまもまた大きな悔しさを経験したことでひとつ成長を見せた。

 ステージ上のヨヨコに拍手を送るその横顔には確かな力強さが見えており、それを見た有紗は少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべたあとで、ひとりと同じようにヨヨコに拍手をする。

 

 努力は己を裏切らないという言葉がある。その通り、確かに努力によって積み重ねたものは、確実にそのものの力になるだろう。

 だが、悲しいかな、全ての努力が報われるとは限らない。今回の未確認ライオットに関してもそうだ。

 

 結束バンドだけではなく、他のファイナリストも必死に努力をしてこのファイナルステージに臨んでいた。だが栄光の数に限りがあるのなら、残念ながら報われる努力にも限りがあって然るべきである。

 必死に努力を積み重ね、万感の思いを持って臨んだとしてもなにも得られぬこともある。それは仕方ないことではある。

 

 ただ、結束バンドに関して言えば……。

 

『そして、最後に審査員特別賞の発表だ!』

「あっ、審査員特別賞?」

「ああ、そういえばそんな賞もあった気が……」

 

 彼女たちが願い目指してきた舞台において、最大の目標であるグランプリには手が届かなかった。だが、積み重ねたその努力は――。

 

『審査員特別賞に選ばれたのは――結束バンドだ!』

 

 ――ひとつの形として、確かな成果を実らせた。

 

 

 




時花有紗:結果は悔しくても、ひとりの成長は喜ばしいと感じて微笑みを浮かべていたが、その後の審査員特別賞は流石に予想外だったのか珍しく驚いた表情を浮かべていた。

後藤ひとり:悔し涙を流しつつも、ちゃんと前を向いて称賛した精神的にさらに成長したぼっちちゃん。成長が著しい。

ヨヨコパイセン:覚醒。なんか真っ当に格上ライバルしてる。

未確認ライオット:結束バンドは審査員特別賞を獲得。
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