ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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七十九手歓喜の審査員特別賞~sideA~

 

 

 その言葉が聞こえた瞬間、驚愕に思わず呆然としてしまいました。頭の中で思考は巡ります。審査員特別賞が最後に発表だったのは、おそらく準グランプリやグランプリとは別の選考基準があり、その部分が結束バンドが選ばれた要因だとか、冷静な思考が巡る一方で心には歓喜の感情が湧き上がってきます。

 

「……あっ、有紗ちゃん……いっ、いま……」

「ええ、呼ばれました。間違いなく……」

 

 ひとりさんの声に答えている最中も波のように喜びの感情が湧き上がってきます。もちろん一番の目標としていたグランプリは逃しました。ですが、それを悔しいと思う以上にひとりさんや皆さんが努力し積み重ねてきたものが、実際にこうして実を結んだのが嬉しくて仕方がないです。

 そのまま、私とひとりさんは顔を見合わせて湧き上がる感情のままに抱き合いました。

 

「有紗ちゃん! 私たち……」

「はい……やりましたね!」

 

 そうして強く抱き合った直後、続けてふたつの衝撃を感じて視線を動かすと、目に涙を浮かばせた喜多さんと、冷静な表情に見えて喜色が強く表れているリョウさんが私とひとりさんに抱き着いてきました。

 

「やった! 私たち、やったんだよね!!」

「……おお、落ち着け、郁代。ここ、こういうときこそ、れれ、冷静に……」

「リョウさんも……いえ、それより喜ぶ気持ちは十分すぎるほどわかりますが、特別審査員のコメントがあるのでそっちに集中しましょう」

 

 もちろん私だって、冷静というわけではありません。冷静であろうと努めてはいるものの、この感情のままに皆さんと喜びを分かち合いたいという気持ちも強いです。

 ですが、それはあとで……虹夏さんが戻って来てからにするべきです。湧き上がる気持ちを必死に抑えつつ、皆さんに声をかけてステージ上に視線を戻すと、目を潤ませた虹夏さんが前に出ており、特別審査員である有名アーティストがマイクを持って、準グランプリとグランプリにしたのと同じようにコメントを行うところでした。

 

『先ほど話した通り、準グランプリ、そしてグランプリのバンドは10代とは思えないほどバンドとして完成していました。それこそ、すぐにメジャーデビューしても通用すると感じるほどに……対して、審査員特別賞に選ばれた結束バンドは、まだバンドとしては成熟しきっていない、粗削りさと課題をいくつも感じるバンドでした』

 

 たしかに、SIDEROSなどに比べるとバンドとしての完成度はまだ及ばないところです。ただ、もちろんそれだけではありません。特別審査員はどこか優しげな声で言葉を続けます。

 

『ですが、悪いわけでは無いんです。例えば、演奏技術に拙さはあるものの伸びのあるいい声のギターボーカル。時折周囲とリズムがズレるものの、卓越した技術を持つリードギターなど……まだまだ、バンドとして未完成だからこそ、剥き出しの荒々しいまでに輝く才能を感じることができました。今後さらに経験を積んで、バンドとして成熟し完成した時、いったいどんなバンドに成長するのだろうと、非常にワクワクした気持ちで聞かせてもらいました』

 

 課題はあると前置きしつつも、結束バンドの可能性を非常に高く評価してくれている様子のコメントに、隣に居るひとりさんの表情も明るくなります。

 そして、結束バンドが審査員特別賞に選ばれた理由も察することができました。おそらくですが、未確認ライオットというフェスのテーマに一番ふさわしいバンドだったということだと思います。

 そんな私の考えを肯定するかのように、特別審査員のコメントは続きます。

 

『もちろん才能だけでなく、現時点での演奏も十分に人を惹き付ける魅力にあふれていました。ですが、それ以上に磨かれ切っていない原石といえる輝き、未来への可能性や期待……まだ見ぬ若い才能の発掘という、未確認ライオットのテーマのひとつに非常に合致していると感じた結束バンドに、今回審査員特別賞を贈らせていただくことを決めました。まさにこういうバンドを見たくて審査員をやっていると言えるほど、楽しませてくれる素晴らしい演奏でした。おめでとう』

 

 もちろん才能だけを評価したわけでは無く、現時点での演奏技術なども高く評価した上で、若い才能を見つけるというテーマに相応しい結束バンドを選考してくれたと語る審査員の言葉に、思わず目の奥が熱くなる思いでした。

 隣に視線を動かすと、ひとりさんも目から涙を零していますが、その表情はとても嬉しそうです。

 

 思えば、最初はやみさんを見返してやる。結束バンドのことを周囲に認めさせてやるという思いから皆さんは参加を決めたのでしたね。

 その願いが叶い、震える声でコメントをするステージ上の虹夏さんには惜しみない拍手が贈られています。フェスに集まった多くの人々が結束バンドを認めてくれているというのは、本当に嬉しいものです。

 そう思っていると、ひとりさんは再びそっと私に甘えるように抱き着いてきたので、ひとりさんの頭を胸に抱えるように抱きしめます。

 

 グランプリが発表された時と同じ姿勢、同じようにひとりさんは泣いていますが、少し前とは涙の意味が違ってきています。

 

「……あっ、有紗ちゃん……嬉しいです」

「はい」

「ほっ、本当はグランプリ目指してて……グランプリを取れなくて……悔しいって気持ちはもちろんあるんですが……それ以上に……どうしようもなく……うっ、嬉しいです」

「悔しがることも反省することもあとで出来ます。いま湧き上がる気持ちを抑える必要なんて無いです。いまは喜びましょう……ひとりさん、よく頑張りましたね」

「有紗ちゃんっ……」

 

 私の背に手を回して強く抱き着いてくるひとりさんの頭を優しく撫でながら、私も目に涙が浮かぶのを感じつつ微笑みました。

 

 

****

 

 

 ステージ上での授賞式などが終わり、残すは閉会式です。ここではグランプリのSIDEROSの後ろに参加バンドが整列する形になります。

 その前に少し運営や審査員からの総評などがあるので、一旦ステージ上に居たリーダーたちも戻ってきます。そして、虹夏さんも戻ってきたわけですが、こちらに向かってくる虹夏さんは一切スピードを緩める気が無いという感じで周囲の邪魔にならないように、それでも可能な限り早くこちらに来たいという感情が全身から感じ取れました。

 

「みんなぁぁぁぁ……わだ、私たち……やったよぉぉぉ!!」

 

 目から涙を零しながら駆け寄ってきた虹夏さんは、手を大きく広げて抱き着いて来て、それを私たち4人が受け止め……5人で抱き合う様な形になりました。

 当たり前ではありますが、私たちも喜びの感情は強く、あまりその手の感情を表に出さないリョウさんでさえ、目からは涙を零していました。

 

「……虹夏、泣きすぎ。まだ閉会式があるのに」

「ぐすっ、リョウだって泣いてるじゃんか……ああ、もうっ、嬉しいよおぉぉ……」

「本当に、私たちやったんですよね。い、いや、グランプリじゃないですけど、それでも、嬉しいです」

「あっ、その、賞を取れたことも嬉しいですけど……たくさんの人に、結束バンドが認められたのが、なにより嬉しいです」

「ええ、ひとりさんの言う通り……あのたくさんの拍手は、間違いなく皆さんが……いえ、私たちが勝ち取ったものですよ」

 

 全員で喜びを分かち合うというのは本当に素晴らしいものです。いまですら抑えきれない喜びの感情が更に相乗効果のように膨れ上がっていくように感じます。

 とはいえ、リョウさんのいうとおりまだ閉会式があり。閉会式では壇上にバンドメンバーも含めたファイナリストが全員上がることになるので、このまま時間を忘れて騒ぐわけにも行きません。

 

「この喜びを抑えるのは大変ですが、もうすぐ閉会式ですから一度気持ちは落ち着かせないといけませんね」

「あっ、そっ、そうですね。全員でステージ上に上がるんですよね」

「……うぅぅ、思いっきり叫びたいぐらいなのに、もどかしい」

 

 ひとりさんが頷き、喜多さんも思いっきり喜びに浸れないことにもどかしさを感じつつも、スマホを取り出して目元などの身だしなみを確認して始めました。

 

「そうだよね。いい加減泣き止まないと……」

「この結果は、虹夏が頑張ったおかげでもある……流石、私たちのリーダー」

「お前えぇぇ、絶対わざと泣かせようとしてるでしょぉぉぉ……でも、ありがとうぅぅ」

 

 涙を拭こうとしていた虹夏さんにリョウさんが追い打ちをかけていますが、アレは素の状態では恥ずかしくて言えないので、この状況で冗談のように言ってしまおうというリョウさんの作戦だと思います。

 ともかくそのまま少しすると虹夏さんも涙を拭いて少し落ち着き、タイミング的にももうすぐステージ上に集合するぐらいです。

 

「そろそろ、ステージ上に集合して閉会ですね。では、皆さん行ってらっしゃい」

「……あっ、そう言うと思いましたけど……そっ、そうはさせません」

「……ひとりさん? なぜ私の手を?」

「あっ、有紗ちゃんもメンバーですから、一緒に行きましょう。というか、絶対に一緒に連れて行きます」

「いえ、あの、ひとりさん私は扱いとしてはマネージャー」

「かっ、関係ないです!」

 

 ひとりさんはそう言い切ると強引に私の手を引っ張りました。もちろん身体能力は私の方が上なので抵抗することは可能でしたが、そんなことをする気にはならず、思わず苦笑を浮かべつつもひとりさんに手を引かれるままにステージに向かい、虹夏さんを先頭にして整列しました。

 

「なんというか、強引なひとりさんは新鮮ですね」

「うっ、あっ、そっ、その、ごめんなさい。でっ、でも、絶対有紗ちゃんも一緒に居て欲しかったので……」

「咎めているわけではありませんよ。むしろ、そうですね……なんだかんだで、こうしてひとりさんと一緒にステージに立てて嬉しいですよ。普段は演奏メンバーではない私は、ステージに上がることは無いですしね」

「え、えへへ、それならよかったです」

 

 はにかむ様に笑うひとりさんに、私も笑顔を返します。そして未確認ライオットのステージ上から、ひとりさんたちが見ていたのと同じ景色を見つつ、閉会の宣言を聞きました。

 

 

 




時花有紗:珍しくぼっちちゃんに押し負けていた。ただ、元々抵抗する気はほぼ無かった模様。

後藤ひとり:まさかの猛将モード……恋人に影響されたのか、強引さを見せた。

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