ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十手向上のハイブランド~sideB~

 

 

 カフェを出てハイブランドのショップを目指して歩きながら、ひとりはふと思いついて有紗に質問をした。

 

「あっ、そういえば、有紗ちゃんはどうなんですか? やっ、やっぱりハイブランドでびっしり固めてたり、それすら超える特注の服とか着てたりするんですか?」

 

 ひとりにとって有紗は最も身近なハイソサエティの存在であり、その財力が圧倒的であることはこれまででもよく分かっている。

 なので当然セレブらしく高級なハイブランドを沢山所持しているのではないかと思って質問した。すると有紗は穏やかに微笑みながら言葉を返してくる。

 

「時と場合によりますかね。例えば、格式の高い席に赴く際などはひとりさんが想像しているような高級な品を身に着けることもありますし、ハイブランドの品もそれなりに所持はしています。ただ、普段着に関してはハイブランドだからという理由で服を選んだことはありませんね」

「え? そっ、そうなんですか?」

「大事なのは己の好みと合致するかどうかですよ。そういう意味では好んでいるブランドというものは存在しますが、ショッピングモールやセレクトショップで買った服を着ることも多いです。いま着ているこの服も、ハイブランドではありませんしね」

 

 有紗は特にハイブランドに強い拘りは持っておらず、服は単純に己の好みで選んでいると口にした。話しぶりや表情などからもそれが嘘ではないことは伝わってきており、実際思い返してみればひとりと一緒にショッピングモールなどに行った際も、普通に服を購入していたし、買った服を着ているのを見たこともある。

 有紗自身の美貌が凄まじいため、普通の服を着ていてもハイブランドのように見えてしまうというのはあるが、確かにひとりの認識としても、有紗がブランドに拘っているイメージは無かった。

 

「まぁ、結局のところドレスコードや気を遣う必要がない場面では、ファッションも一種の娯楽ですよ。ハイブランドだからといって好みではない服を着るよりも、自分が着たいと思える服を選ぶ方が楽しいですからね」

「……なっ、なんでしょう。まだ店についてもないのに、既に己の浅はかさをボコボコにされてる気分です……こっ、これが真のセレブ……いっ、イキってすみません」

 

 ハイブランドで全身を固めればワンランク上の女になれると考えていたひとりにとって、有紗の言葉はなんとも耳に痛いものだった。なんというか、そう……余裕を感じるのだ。

 

「……しっ、真にランクの高い女は、ブランドに拘らずに自然体なんですね」

「どうでしょう? ランク云々は置いておくとして、単純に私があまり拘りは無いというだけですよ。普通にハイブランドが好きな方も多いのではないでしょうか?」

「あっ、なっ、なるほど」

「私の場合は、最近の普段着を選ぶ基準としてはこのネックレスに合うもので選んでますね」

「え? あっ、そっ、それ……私がプレゼントした……」

「はい。できるだけ毎日着けていたいので、このネックレスを基準に選んでますね」

 

 有紗が服を選ぶ基準にしているネックレスは、ひとりが有紗の誕生日にプレゼントした2種類の宝石が使用されているネックレスだった。

 そう言われて思い返してみると、確かに誕生日以降有紗は私服の時は大体いつもそのネックレスを身に着けていた。

 

(……有紗ちゃん、あのネックレス大事にしてくれてるんだ……うぁっ、どっ、どうしよう……嬉しい。かっ、顔がにやけちゃう……おっ、落ち着け私、ここでいきなりにやけたら変だから、落ち着いて……)

 

 普段は行かないアクセサリーショップに勇気を出して訪れて、これがいいと己で選んだものを有紗が大切に使ってくれているというのは、思わず頬が緩むほどの幸福感をひとりに与えた。

 頑張って選んでプレゼントしてよかったと、そう考えながらにやけそうになる顔と格闘していると、目的のブランドショップに到着した。

 

「あっ、えっと……クッチですね。こっ、このブランドは、私でも知ってます」

「ええ、ひとりさんの好みの服を考えると、有名どころだとクッチではないかと思いました。可愛らしい系よりはカッコいい系が多いですし、デザインもスッキリとしたものが多いですからね」

 

 ひとりはファッションの好みとしてはある程度男性的な……もとい中二病的な、思春期の中学生が好みそうなデザインを好む。逆に清楚な雰囲気やフリフリとした可愛らしい服はあまり好みではない。もちろん有紗もその辺りはしっかり把握しているので、メンズの取り扱いも多いクッチを最初の店に選んだ。

 

 さっそく店の中に入ると……ひとりは、速攻高級店のオーラに気圧されて、有紗の腕にしがみついた。

 

「あっ、有紗ちゃん……こっ、これ、私、完全に場違いでは? 高級ブランド店にジャージで入店した罪で、処されたりしませんか?」

「大丈夫ですよ。気にせず、見て回りましょう」

「はっ、はひ……そっ、傍にいてくださいね。離れちゃ嫌ですからね」

 

 高級店のオーラとジャージ姿の己というギャップに完全に畏縮しているひとりだが、それでも逃げ出したりせずに済んでいるのはやはり有紗の存在が大きい。

 とりあえず、ひとりとしては有紗さえ傍にいてくれれば安心なので、ピッタリと有紗にくっつきながら店内を一緒に見て回る。

 

「あっ、このTシャツ、好きなデザイン……ひっ!? なっ、なな……7万円? こっ、このTシャツ1枚で?」

「ハイブランドですからね。ものによっては10万円を超えるTシャツもありますよ」

「ひぃぃぃ……なっ、なんでハイブランドってこんなに高いんですか?」

「いくつか、理由はありますね。例えばまず品質が非常に高く、素材などにもこだわって製作されています。そしてブランドイメージ。長い伝統や格式によって維持された高級感や信頼感といった、ネームバリューが大きいですね」

 

 ハイブランドが初体験のひとりにとって、1着で5万を超えるようなTシャツは衝撃的であり、あまりに値段に腰が引けつつも有紗に尋ね、ブランドに関しての知識を教えてもらっていた。

 

「あとは単純にヴェブレン効果を見越したマーケティングも関連していますね……簡単に言ってしまえば、商品価値が高いものほど顕示的欲求などを刺激して、需要が増加するというものです」

「あっ、たっ、確かにハイブランドとか買ったら、見せびらかしたいって思ったりするかもしれませんね」

「ええ、そういった伝統や格式、品質、付加価値、販売戦略などがいくつも重なり合った結果として、ハイブランドは高価になっています。ブランドは特にイメージが重要ですからね。金額という分かりやすい数値で、高品質で高価なことに拘ってイメージを作っている感じですかね」

「ふむふむ……なっ、なんというか自分の商品に絶対の自信を持っての販売って感じですね。いいものだからこそ高いって考えると、納得です」

「こういったブランド戦略は特に海外初のブランドに多い傾向ですね。逆にドメスティックブランドなんかでは、高品質なものを安くという考えも多いです」

「どっ、ドメスティックブランド?」

 

 聞き覚えの無い言葉が聞こえてきて首を傾げるひとりに、有紗は優しく微笑みながら説明を続ける。

 

「ドメスティック……国内のという言葉を差す通り、この場合は日本発のブランドを差す言葉ですね。逆に海外発のブランドはインポートブランドと呼ばれますね」

「なっ、なんかそういう言葉を自然と使えると、お洒落上級者って感じがします」

「知識として用語を知っているかどうかはあまり重要ではありませんよ。それより、気になったものがあれば店員に確認して試着してみるのもいいですよ。サイズ違いなどはあまり並べていないので、店員に声をかけて別のサイズがあるかを聞く必要がありますね」

「あっ、いっ、いや、でも、試着したら買わないと……」

「そんなルールは無いので安心してください。でも、せっかくですし私もなにか買いましょうかね? クッチはあまり持っていないので、新鮮ですし」

 

 ビクビクとするひとりを安心させるように優しく告げながら、自分も服を買おうかという有紗の言葉を聞いて、ひとりは分かりやすく目を輝かせた。

 

「あっ、いっ、いいと思います。あっ、あの辺の服とか、絶対有紗ちゃんに似合うと思いますし……あっ、いや、有紗ちゃんは大体どんな服も似合いますけど、かっ、カッコいい系の服も、ほっ、本当に似合うので……」

「そうですか? そう言ってもらえると、嬉しいですね。せっかくですし、お互いに相手に似合う服を選んでみますか? 私もひとりさんに似合いそうだと思う服がいくつか目に付いていますし……」

「あっ、はっ、はい!」

 

 なぜか己の服を選ぶよりも積極的かつ真剣なひとりをみて、有紗は思わず苦笑する。有紗は普段落ち着いた清楚な服を着ていることが多いが、MVの撮影などでみたスーツ姿などのカッコいい系も似合っており、ひとりとしてはどちらも甲乙つけ難いので、どちらも見てみたいという気持ちがある。

 

(有紗ちゃんは足が長くてパンツスタイルも凄く似合うし、カッコいいけど……あんまり普段そういう系統のファッションはしてないから、そういうのを……あっ、でも、有紗ちゃんの好みじゃないかもしれない……そっ、その辺は選んでから聞いてみればいいかな? あっ、あの服とか有紗ちゃんが着たらきっと綺麗で……)

 

 少し前までのおっかなびっくりな様子はどこに消えたのか、ウキウキとした様子で有紗に似合う服を選ぶひとりを見て、有紗は幸せそうに微笑んだあとで軽く手を伸ばしてひとりの頭を撫でた。

 

「あえ? あっ、有紗ちゃん?」

「せっかくですし、また前のようにお揃いの服を探してみますか?」

「あっ、いっ、いいですね。そっ、それだと私も着やすいかも……」

「ひとりさんの好む色合いやデザインだと、あの辺りだと思うのですが……」

「あっ、カッコいいですね。ちょっと、カジュアル感がありますし、あのぐらいの方が……」

 

 有紗の提案に再び目を輝かせたひとりは、有紗の手をギュッと握って楽し気に微笑みながら、有紗と一緒に服を選んだ。

 そして値段を見ずにデザインだけを重視して選んだ結果、会計時に悲鳴を上げそうになったのだが……有紗がまったく気にした様子もなくサッとふたりぶんまとめて支払っていた。

 

 

 




時花有紗:ハイブランドに対して拘りはない。ひとりに貰ったネックレスは毎日着けていたいので、それに合わせたコーディネートを考えて服を購入している。

後藤ひとり:自分の服を選ぶ時と、有紗の服を選ぶ時で積極さも真剣さもまったく違う有紗大好きなぼっちちゃん。カッコいい系の服着た有紗ちゃんも見たいなぁとか、考えながら服を選んでいる様は完全に恋する乙女。
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