ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十一手散財のレーベル訪問~sideA~

 

 

 買い物を終えてブランドショップから外に出ます。なんだかんだで購入したのは最初に寄ったクッチのショップだけでしたが、それなりに多くのハイブランドのショップを周りました。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「こっ、高級店オーラが凄くて……」

「それなりに回りましたし、ハイブランド巡りはこのぐらいにしておきますか?」

「そっ、そうですね。なんか、金銭感覚が狂いそうです……とっ、というか、結局有紗ちゃんに買ってもらっちゃいましたし!? あっ、あの、やっぱり今からでもお金を……」

 

 最初のクッチのショップでは、ひとりさんとお揃いのコーデで服を購入したのですが、ジャケットの値段が特にひとりさんには予想外だったみたいで、かなり迷っている様子だったので私がまとめて支払いました。

 理由はいくつかありますが、最大の要素として……せっかくひとりさんとペアルックができる気持ちになっていたのに、それが流れてしまうのが嫌だったからですね。なので、むしろ自分のためにお金を使ったと言っていいと思います。

 

「いえ、それは結構です。ですが、もし、ひとりさんがなにかをしたいというのでしたら……こんど、あのお揃いで買った服を着てデートしてください。それが私にとっては一番のお礼です」

「あえ? うっ、有紗ちゃんがそうしたいなら……あっ、いや、その、別にそんなお礼とかじゃなくても……有紗ちゃんが着てほしいなら、いつでも着ますからね」

「それは嬉しいですね。ともあれ、あの服を着て一緒に出掛ける時を楽しみにしていますね」

 

 やりました。ひとりさんとペアルックでデートできる約束を取り付けられました。普通のデートではなく、ペアルックでというのが非常に重要です。ひとりさんは普段ジャージ姿であることが多いので、それ以外の服を着ている時点で貴重ですし、更にペアルックとなると中々ない素晴らしい機会です。いまから本当に楽しみです。

 

「まだ時間的には余裕がありますが、どこか行きますか?」

「あっ、そっ、そうですね……えっと、出来ればどこか庶民的なところが……高級店オーラにやられてるので……」

「なるほど、ではとりあえず少し歩いたところの駐車場に車を呼んでいるので、荷物を預けてから近場でよさそうな場所を探しましょう」

 

 買い物した荷物が多くなっても大丈夫なように、事前に運転手に連絡して近場の駐車場で待機してもらっているので、そちらに荷物を預ければ気軽に遊ぶことができます。

 買い物は十分しましたので、今度はなにかしら遊べるような場所があるといいですね。

 

 

****

 

 

 荷物を預けたあとで、一先ず駅前に向けて歩きつつ周囲を見ていると、ふとある建物が目に留まりました。

 

「ひとりさん、カラオケはいかがですか?」

「かっ、かか、カラオケ!? たっ、確かに、庶民的ではありますけど、なっ、なぜカラオケ?」

「ひとりさんの歌を聞きたいからですね!」

「なっ、なんて真っ直ぐな目……そっ、そんな目をされると断り辛い……うぅ、いっ、いや、でも有紗ちゃんだけに聞かせるならまぁ……」

 

 カラオケという言葉に迷いの表情を浮かべていたひとりさんではありましたが、最終的に了承してくれました。コレは本当に素晴らしいですね。ひとりさんの歌声を聞きつつ、ふたりでゆっくり過ごせるわけですし……。

 

「かっ、カラオケとかあんまり行ったことが無いです」

「気楽に楽しめば大丈夫ですよ。それに今後行く機会もあるかもしれませんしね」

 

 そんな風に話しつつカラオケに入り、部屋を選んで移動します。最初に軽く摘まめるものなどを注文して準備は整いました。

 

「ひとりさん、どちらから先に歌いますか?」

「あっ、有紗ちゃんで……」

「分かりました」

 

 最初は私からということで、以前ひとりさんとセッションしたこともある流行りの曲を入れて歌います。カラオケに来るのは久しぶりですが、問題なく歌えていますね。

 歌自体は喜多さんのボイストレーニングに付き合う際などにも行っているので、ブランクのようなものはほぼありません。一曲歌い終えてひとりさんの方を見ると、ひとりさんはポカンとした表情を浮かべていました。

 

「……ひとりさん?」

「あっ、すっ、すみません!? うっ、歌ってる有紗ちゃんがカッコよくて、つい見惚れてしまって……あっ、うっ、歌も凄く上手かったです」

「ありがとうございます。次はひとりさんが是非」

「あぅ……あっ、あの歌のあとに歌うのは滅茶苦茶ハードルが高い気も……」

 

 少し顔を赤くしつつひとりさんも曲を入れて歌い始めました。やや緊張している様子ではありますが、ひとりさんは綺麗な声をしていますし、音楽をやっていることもあって音程はバッチリ掴めています。

 

「素晴らしかったですよ。音程もちゃんと合ってましたし、綺麗な歌声でした」

「あっ、ありがとうございます……でっ、でも、やっぱり有紗ちゃんの歌と比べると……なっ、なんかコツとかあるんですかね?」

「歌のコツですか? そうですね。カラオケで言えばよく言われるのは母音を意識することですね」

「母音、ですか?」

「はい。たとえば君の~という歌詞が当たっとすると、き~み~の~と伸ばして歌うのではなく、きい、みい、のおといった感じで母音を意識して発音すると、歌声が安定して聞こえますね」

「なっ、なるほど……」

 

 実際カラオケで言えば、母音を入れた上で音の強弱を意識するとかなり劇的に聞こえ方は変わってきます。ひとりさんは音程はしっかりあっているので、簡単なコツをいくつか実践するだけでかなり変わってくる気がしますね。

 

「あとは声の出し方とビブラートの利かせ方ですね。声の出し方は腹式呼吸を意識するのがコツです。ビブラートに関しては息の吐き方にコツがありましてどこで多く息を吐くかが大事ですね。せっかくですし、少し教えますのでやってみましょう」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

 

 ボイストレーニングなどというほど本格的なものではありませんが、ちょっとした声の出し方や息の吐き方を指導をしてみます。

 

「……こんな感じですね」

「あっ、なっ、なんか少し上手く歌えそうな気がします」

「では、せっかくですしデュエットでもしましょうか?」

「あっ、はい。どんな曲――躊躇なくラブソング入れた!?」

 

 ひとりさんがデュエットを了承してくれたので、デュエット曲の中からラブソングを選びました。かなり有名な曲なので、ひとりさんも曲名だけですぐ分かった様子です。

 

「あっ、あの、有紗ちゃん? これ、結構恥ずかしい歌詞が多かったような……ほっ、本当に歌うんですか?」

「はい。もう始まりますよ」

「あぅぅ……」

 

 そうして始まったデュエットですが、これはもうまさに最高の一言でした。歌詞とはいえ、ひとりさんに「好きだ」とか「愛している」と言ってもらえるわけですし、私も同じように歌詞とはいえそういった言葉を返せています。

 本当に至福の一時でしたが……残念ながらあっという間に終わってしまいました。

 

「……うぅ、かっ、歌詞とは分かってても……恥ずかしすぎますよ」

「ひとりさん、大好きですよ」

「なんでいきなりそういうこと言うんですか!? 完全に、歌詞と関係ないやつじゃないですか!」

「歌詞ではなく単純に私の気持ちなので」

「有紗ちゃんは本当に……あぅ、顔熱い……」

 

 歌詞としてだけでは私の溢れる愛は伝えきれないので、しっかりその辺りは言葉にして伝えておきます。ひとりさんは真っ赤な顔をしていましたが、私の気のせいでなければそれほど嫌そうな顔はしていなかったので……私とひとりさんの絆は順調に深くなっているみたいです。

 

 

****

 

 

 いよいよというべきか、ストレイビートに直接話を聞きに行く日になりました。一度皆でSTARRYに集合してから行く形であり、私はひとりさんと下北沢の駅で待ち合わせをして一緒にSTARRYに向かって歩いて移動していました。

 

「いっ、いよいよですね」

「あまり緊張する必要はありませんよ。基本的には向こうの提示した条件を見て、契約を結ぶかどうかを決める形になるでしょうし、交渉事は私がしますので大丈夫です」

「あっ、有紗ちゃんはなんか、そういうの強そうですよね」

「いちおう経験はそれなりにありますよ。出資関連で直接顔を合わせて交渉する機会も多いですしね」

「……ほっ、本当に有紗ちゃんが居てくれてよかったです」

 

 おそらく交渉の相手は都さんになるでしょう。あくまで初対面での印象ではありますが、20代中盤ぐらいの年齢に思えたので、大学を卒業してすぐに就職したとしてキャリアとしては3年以下の若手の方という印象でした。

 落ち着いていて丁重な雰囲気ではありましたが、やや硬さを感じる辺り場数はそれほど踏んでいる印象ではないので、いざ意見が合わない部分が合っても優位に交渉は行えるとは思います。

 

 まぁ、必ずしも都さんが交渉担当とは限りませんし、実際に細かなやり取りをしたわけでは無いので、実は物凄いやり手という可能性もありますが……少なくとも、私が居れば不利な条件を了承させられてしまう様な事態にはならないと思います。

 ただ、直感ではありますが誠実で真面目ないい人という印象だったので、実際は問題ないと思います。

 

「あくまで私の印象ではありますが、都さんは信頼できそうな人でしたし、大丈夫だと思いますよ」

「あっ、有紗ちゃんのそういう第一印象的な評価って、凄くよく当たりますし、それなら大丈夫そうですね。なっ、なんか経験豊富で、凄くできそうな人でしたし……」

「いえ、おそらくかなり若手の方だと思いますよ」

「あえ? そっ、そうなんですか?」

「どことなく硬さが見えました。まぁ、あくまで私の印象ですが……っと、もうすぐSTARRY……おや?」

「……あっ、あれって、リョウさん……でしたよね? ベース4本ぐらい持ってなかったですか?」

「……そう見えましたね。どうしたんでしょうか?」

 

 そんな話をしながらSTARRYに辿り着くと、丁度リョウさんらしき人物が入り口の扉を開けて入っていくのが見えました。リョウさんはこちらには気づかなかったみたいですが、それより気になったのはリョウさんの格好でした。

 なぜか背中に2本、両手にそれぞれ1本ずつの計4本のベースが入っていると思わしきケースを担いだ重装備だったように見えました。

 少なくとも今日のレーベルを訪ねるという場面で使用するとは思えませんが……なぜあんなに大量のベースを?

 

 リョウさんの意図がよく分からず、私とひとりさんは顔を見合わせて首を傾げました。

 

 

 




時花有紗:黒歴史ブレイカー、図らずもぼっちちゃんがこの後迎えるであろうクラスの祝勝会でのカラオケイベントに対して、事前対策を行う形になった。

後藤ひとり:歌の歌詞とはいえ、好きとか愛してるとかという単語をかなり気にしており、だいぶ意識してる気がする。有紗のおかげで散在しておらず、普通にいつものジャージ姿。

世界のYAMADA:原作通り散財……むしろ、原作では3本だったが、この作品では有紗のおかげで比較的金銭面に余裕があるため、追加でもう1本買って、無事財布は死亡した。敗因:有紗に相談しなかった。
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