ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八手突然のタピオカドリンク~sideA~

 

 

 ひとりさんのチケットノルマも無事に達成し、結束バンドの活動は順風満帆、本番を待つばかりといったところでしょう。

 ちょうど今は夏休みの時期で余裕もありますし、私は頻繁にひとりさんの家に足を運んでいました。

 

「あっ、有紗ちゃん!」

「はい?」

「わっ、わわ、私と一緒に……かか、かい、買い物に行ってくれませんか?」

 

 突然告げられたその言葉に、恥ずかしながら一瞬頭の中が真っ白になってしまいました。これは、デートの誘いなのでは? 以前一緒に写真を撮りに出かけた際は、あくまで私の要望が切っ掛けとなりましたが、今回は違います。

 ひとりさんの方から、買い物に誘ってくださるということは、いよいよ私とひとりさんの仲も進展……。

 

「あっ、えっと、明日結束バンドの皆が家に来るので、その準備をしたくて……」

「……なるほど、もちろん喜んでご一緒します」

 

 ……ガッカリなんてしていません。そもそも、ひとりさんが買い物に誘ってくださるという時点で大きな進展なわけですし、そういう意味で言えば確実に私とひとりさんの距離は縮まっているはずです。

 恋愛とは戒驕戒躁(かいきょうかいそう)……驕らず焦らず騒がず、静かに堅実に進めるべきなのです。今回ふたりで出かけることで、ふたりで外出したという経験を作り、今後私側からデートに誘いやすくなるという布石とも取れます。

 そう考えれば、実に素晴らしい話です。

 

「すぐに出発しますか?」

「あっ、はい。いろいろ買いたいので……」

「しかし、結束バンドの皆さんが来るというのは聞いていますが、なにを準備するのですか?」

 

 結束バンドの方たちがひとりさんの家に来て、ライブで着るTシャツのデザインを考えるという話は私も聞いています。

 ただ、準備とは……最初は菓子類や飲み物などを用意するのかと思いましたが、どうもひとりさんの意気込み具合を見る限り違うような気もします。

 

「あっ、えっと……横断幕とか、クラッカーとか……いろいろですね」

「………………なるほど」

 

 ああ、そうですね。やはり、人を招くなら横断幕……なぜ横断幕? 仮に横断幕を手に入れたとして、それを結束バンドの皆さんを迎える点でどうするのか。そもそも、明日までに横断幕を手に入れるのが困難な気もしますが、なにかその辺りも考えているのでしょうか?

 

「あっ、有紗ちゃん。横断幕って、どこに売ってるか分かりますか?」

「……いえ、店で売ってるようなものでもないですし、横断幕が必要なのであれば紙や布を繋げて作る方がいいかと思います」

「あっ、そ、そうですね」

「他の物に関しては……ショッピングモールに行けば大体揃いそうですね」

 

 幸いひとりさんの家からそこまで遠くない場所に大型のショッピングモールがあるので、そこに行けば大抵のものは揃うでしょう。

 距離的にもある程度はあるとはいえ、徒歩でもそれほど時間はかかりません。話をしながら行けばすぐにつくでしょう。

 

「それでは、ショッピングモールに向かいましょうか」

「あっ、はい」

 

 

****

 

 

 ショッピングモールに辿り着くと、夏休みということもあってそれなりに人は多かったですが、流石に地元ということもあってひとりさんもそこまで人の多さに気圧されてはいません。

 最初は細かい物から買うか、大きなものを見て当たりを付けておくかを相談していると、ふとひとりさんの視線が遠くを見た状態で固まり、少ししてなにかをイメージしているのか、青ざめていきます。

 

「はうっ!」

「よっと……なぜ、急に青春コンプレックスを?」

 

 ビクンと背筋を伸ばして倒れかけるひとりさんを支えつつ尋ねます。現在のひとりさんの反応は、青春コンプレックスを刺激されたことによる軽いショック症状ですが、まだショッピングモールに本格的に入る前なので、この段階でなにに青春コンプレックスを刺激されたのでしょうか?

 そう思っていると、ひとりさんは震える手で先ほど見ていた方向を指差します。

 

「あっ、アレを……あの店を……」

「……たまに見かける移動式のタピオカミルクティーの販売ですね」

 

 ひとりさんが指差した先には、いわゆるキッチンカー式で販売しているタイプのタピオカミルクティーの専門店がありました。夏休みのショッピングモールですし、ああいった移動販売車が来ていても不思議ではありません。

 

「あっ、あれが……陽キャ御用達の流行最先端ドリンク、イソスタアカウントも持たない陰キャには購入する資格すらないお洒落ドリンク……私とは対極にあるドリンクです」

 

 タピオカミルクティーのブームは過ぎて久しいと思うのですが……まぁ、その辺りを突っ込むのは野暮というものでしょうね。

 つまるところ、ひとりさんはタピオカミルクティーを見て青春コンプレックスを刺激されたと、そういうわけですね。

 

「……せっかくですし、飲みましょうか? ちょうど、ここまである程度歩いてきましたし、買い物前に休憩もいいでしょう」

「はぇっ!? あっ、わわ、私たちが、ですか……でで、でも、イソスタアカウントも持たないものは、門前払いされるんじゃ?」

「そんな情報は初めて聞きましたが……まぁ、仮にそうだとしても大丈夫ですよ。イソスタアカウントなら私が持ってますし……」

「あっ、有紗ちゃんって、イソスタやってるんですね。そ、そりゃそうですよね」

「付き合いという面が強いので、滅多に更新しませんが……」

 

 友人やお母様がやっているから登録しているという程度で、あまりイソスタを更新したりはしていません。仮に今更新すると、ほぼ毎回ひとりさんのことばかり書きそうな気もします。

 そんな話をしつつタピオカミルクティーの店の前に辿り着き、メニューを手で示しながらひとりさんに尋ねます。

 

「ひとりさん、どれにしますか?」

「あっ、えっと、私まったく飲んだことが無くて……」

「でしたら、奇はてらわずオーソドックスにタピオカミルクティーでいいのでは?」

「あっ、そ、そうですね。じゃあ、タピオカミルクティーで」

「タピオカミルクティーとタピオカ抹茶ミルクティーをひとつずつお願いします」

 

 注文してそれぞれのカップを受け取ります。そのまま店の前で飲むわけにも行かないので、少し離れた場所にあった休憩用のベンチに並んで座って飲むことにしました。

 ひとりさんはタピオカミルクティーが初めてということで、少しおっかなびっくりといった様子で一口飲むと、パァッと表情を明るくしました……愛らしさが凄まじいです。写真を撮って額縁に入れて部屋に飾りたいレベルです。

 

「あっ、甘くて美味しいです。タピオカの食感も面白くて……」

「それはなによりです。私も久しぶりに飲みましたが、美味しいですね」

「あっ、有紗ちゃんのは抹茶でしたっけ?」

 

 それはひとりさんにとって、なんの気なしに口から自然と出た質問だったのでしょう。特に問題のある発言でもありません。

 問題があったのは私の精神状態の方でした。ただでさえ、大好きなひとりさんと買い物に来ており、こうして一緒にタピオカミルクティーを飲んでいるという幸せなシチュエーションで、舞い上がっており、少し思考が鈍くなっていました。

 

「はい。よろしければ一口飲んでみますか?」

「はえっ!? あっ、えと、えと……」

「その代わり、ひとりさんのものも一口飲ませていただけますか?」

「………‥その……あっ……は、はぃ」

 

 私が冷静であればこの時点で、ひとりさんが消え入りそうな声で了承したことに気付くと同時に、己の発言がもたらす結果にも考えが及んでいたのでしょう。

 ただ、私の頭の中はひとりさんと美味しい気持ちを共有したいという思いで満ちており、副次的に起こりうるものに関して考えが及んでいませんでした。

 

「通常のミルクティーも美味しいですね。ありがとうございました」

「……あっ、いいい、いえ、ここ、こちらも、ありがとうございました」

 

 結果、私たちは手に持つカップを交換して、それぞれ一口ずつ飲みました。オーソドックスなミルクティーの味もいいものだと、そんな風に考えながら再度カップを交換しようとしたタイミングで、ようやく私は違和感に気付くことができました。

 ひとりさんが真っ赤な顔をして、視線を逸らしながらこちらにカップを差し出しているという状況に……。

 

 そうして、違和感に気付いてしまえば、答えを導き出すのは早かったです。すなわち……これは……間接キスなのではと……。

 そう意識した瞬間、私の顔も熱くなっていくような感じがしました。意図したことであればともかく、今回に関して言えばまったく意図していなかったこともあって、それに後から気付くというのは変に気恥ずかしいものです。

 

「あ、えっと、ひ、ひとりさん……意図していたわけでは無く、その、浅慮に行動してしまった結果といいますか……その、申し訳ありません」

「いいい、いえ、わわ、私はまったく気にしてないで! だだ、大丈夫です!! まっ、回し飲みぐらい、女子高生ならよくやることですよね!」

「そ、そうかもしれませんね」

「あっ、な、なので、有紗ちゃんもお気になさらず……」

 

 優しいひとりさんはそう言って私をフォローしつつ、カップを受け取ってくれました。ただ、やはり変に意識してしまったからでしょうか、互いに気恥ずかしさでまともに顔が見えず沈黙してしまいました。

 ……思考を切り替えましょう。意図しなかったこととはいえ、ひとりさんと間接キスをしたことに関しては、悪いことなどではなく、むしろ幸せなことです。私は得しかしていません。

 であれば、問題ないですね。ただ、私が原因でひとりさんが恥ずかしい思いをしているのは問題なので、ここは上手く場の空気を換える必要があります。

 

 先ほどの件に触れるのは絶対にダメ。ここは、まったく気にせず別の話題に移行するぐらいの切り替えが有効な場面です。

 

「そういえば、ひとりさん。クラッカーなどを買うと言っていましたが、最終的にどういった様相を想定しているんですか?」

「……え? あっ、えっと……こう、部屋を綺麗に整えて飾り付けとかもして、歓迎してるってのが一目で分かるような、そんな感じにできればいいなぁと……」

「なるほど、であれば、ある程度飾りつけの方向も決めておいた方がいいかもしれませんね。コンセプトがあるとないとでは、完成度も変わってきますし……」

「そっ、そうですね。えっと……ひと時の癒しの空間……とか?」

「癒しですか……それなら、派手な飾りは控えて落ち着いた飾り付けがいいかもしれませんね。ひとりさんの部屋は和室ですし、テイスト的には和風がいいでしょうか……」

 

 どうやら上手く話題を変えることには成功したみたいで、そのまましばし話をしているとひとりさんもいつもの調子に戻ってきました。

 これなら、この先の買い物に引きずったりすることは無いでしょうし、一安心といったところですね。

 

「……そういえば、話は少し戻ってしまうのですが、ひとりさんはSNSなどはやられているのですか?」

「あっ、い、いえ、私は全然……やっているのは、動画サイトぐらいです」

 

 少し前にSNSの話題が出たのでそちらの話を振ってみました。ひとりさんがなにかSNSをやっているなら、ぜひ見たいと思ったのですが……残念です。

 動画サイトに関しては、私もひとりさんが編集作業をしているのを何度も見ているので知っていますが、かなり熱心に活動されているみたいです。

 ギターの技術向上という意味合いでは、多くの人に見てもらえる動画サイトというのも極めて有効な練習場所なのでしょうし、ひとりさんの向上心にはいつも感心させられます。

 

「ああ、ギターヒーローという名前で活動しているローチューブのことですよね? 私も家でよく見ています」

「はうぁっ!? み、みみ、見てる? あっ、有紗ちゃん? み、見ているって……それはローチューブをですか? そ、それとも、私の動画を……」

「ひとりさんの動画ですが……チャンネル登録もしましたし、動画も遡って全部見ました」

「そっ、そそ、そうですか……あっ、ちなみにえと……と、投稿者コメントとかは……」

「全て目を通していますが?」

「あばばばばばば」

「ひ、ひとりさん!?」

 

 な、なんでしょう? どうやら、私はまたなにか失敗をしてしまったようで、ひとりさんが戦慄したような表情で震え出してしまいました。

 投稿者コメントが問題なのでしょうか? 特に違和感を覚えるようなものはありませんでしたが……。

 

 

 

 




時花有紗:突発的な間接キスに珍しくて照れていたが、メンタルが鬼のように強いので即座に切り替えた。ギターヒーローの動画は全部視聴済み。

後藤ひとり:ぼっちちゃん、間接キスで照れまくっていたが、それどころではなくなった。中二病ノートを見られたような状況である。
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