ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十四手互恵の軽井沢旅行①~sideA~

 

 

 ひとりさんと軽井沢への慰労を兼ねた旅行の当日となり、私とひとりさんはそれなりの回数一緒に乗っている車で軽井沢の別荘を目指していました。

 楽器類は事前に持って行ってもらっているので荷物もそれほど多くないですし、荷物はトランクにしまっているので車内は広々と使えます。

 

「軽井沢までは高速道路を利用して3時間半ほどですね。実際は途中で休憩も挟むので4時間前後ですね」

「あっ、おっ、思ったより早いですね」

「そうですね。場所によっては乗り換えの多い電車より車で行ったほうが早いこともあるでしょうね。まぁ、本来は長時間車を運転する労力が必要ですね。長距離の運転は大変でしょうしね」

「あっ、ですね。集中力とか使いそうですし、高速道路の運転も怖そうです」

 

 私もひとりさんもまだ運転免許を習得できる年齢ではないので分からない部分もあります。ただ、運転手の方と以前雑談をした際には、むしろ高速道路の方が注意する要素が少ないので気楽ではあると言っていた覚えがあります。

 

「なんにせよ、この車を運転してくださっている方は2種免許も所持している方なので任せておけば大丈夫です」

「あっ、えっと、2種免許ってたまに聞きますけど、どういう免許なんですか?」

「物凄く簡単に言ってしまえば、人や物を運んで料金を貰う。つまり商用として車を運転する資格ですね。この車の運転手さんは、以前はハイヤーの運転手をしていた方です」

「なっ、なるほど、運転のプロなんですね。そっ、それなら安心ですね」

 

 お父様が車好きなこともあって、運転手はそれなりの数が雇われていて、私が出かける際には3人の運転手が持ち回りで担当してくれますが、どの方も非常に運転が上手く人柄もよい方ばかりなので、こういった際の運転もひとりさんの言うように安心して任せることができます。

 

「あっ、虹夏ちゃんやリョウさんもいまは教習所に行ってるんですよね? リョウさんは、ちょっ、ちょっと意外でした」

「そうですね。リョウさんはなんだかんだで虹夏さんを気にしていますし、運転できる人が虹夏さんひとりでは今後負担が大きくなるのを見越したのではないでしょうか?」

「たっ、確かに虹夏ちゃんひとりだと大変ですよね」

 

 実際のところは、どうでしょう? 個人的な予想の範疇を出ませんが、虹夏さんが教習所に通う影響で忙しくなって、あまり虹夏さんと遊んだりする機会が少なくなって、寂しさから同じ教習所に入ったようにも思えますが、まぁ、その辺りを知るのは本人だけですね。

 

「昼食はどこかのサービスエリアで食べましょう」

「あっ、はい。結構いろいろ特徴がありますよね。出店があったり、特産品があるイメージです」

「各地の特色が強いでしょうね。特に軽井沢に近い位置のサービスエリアには土産物なども多いでしょうから、帰りはその辺りで皆さんへのお土産を購入したいですね」

 

 車内にはテレビなどもあるので時間を潰す方法はたくさんありますが、普通にひとりさんと会話をしていると途切れることもなく、楽しく話ができるのでまったく問題ありませんね。

 その後もしばらく私たちは、サービスエリアについての話で楽しく盛り上がりました。

 

 

****

 

 

 1時間半ほど車で移動したあと、少々時間的には早めですがサービスエリアで昼食を食べることになりました。サービスエリア内にあるレストランに入り、昼食を食べました。

 そのあとで食後の休憩も兼ねて少しサービスエリアを見て回り、たまたま見つけたソフトクリームを食べることになりました。

 

「8月に入って夏の気温も本番ですし、冷たいソフトクリームが美味しいですね」

「あっ、ですね。私は暑さには強い方ですが、それでもやっぱりジャージだと結構暑いことも多いです」

「確かに、暑そうですね。前を開けたりした方がいいのでは?」

「あっ、でも、すぐにまた車で移動ですし、大丈夫ですよ。ソフトクリームを食べて少し涼しくなりましたし」

 

 ひとりさんは8月でも相変わらずのジャージ姿ですが、本人が暑さに強いという通りあまり辛そうな様子はありません。

 実際夏でも日焼け防止で長袖の服を着る人もそれなりに居ますし、服の素材さえ考えておけばある程度は大丈夫なのでしょうね。あと余談ですが、殆ど肌が紫外線に触れない影響か、ひとりさんの肌は真珠のように綺麗です。

 

「あっ、有紗ちゃん?」

「ああ、申し訳ありません。ひとりさんの肌が真珠のように綺麗だと、そんなことを考えてました」

「いまの会話からなんでそんな考えに!?」

「それより、ひとりさん、こちらのソフトクリームも一口いかがですか?」

「あっ、ありがとうございます。有紗ちゃんも、こっちのをどうぞ」

 

 ひとりさんはチョコレートのソフトクリームで、私は普通のバニラのソフトクリームだったこともあり、一口ずつ交換して食べます。

 もちろん、こうするためにあえてひとりさんとは別のものを選んだというのはありますね。

 

「……そっ、それにしても、やっぱり夏休みだからでしょうか、結構人が多い気がしますね」

「そうですね。家族連れやカップルが目立ちますので、夏休みの影響が大きいのと、今日が日曜日というのもあるのではないでしょうか?」

「あっ、そっ、そっか、今日は日曜日でしたね。夏休みでずっと休みだと、曜日感覚がちょっと狂っちゃいます」

「ふふ、そうですね。車での遠出の利点は、自分たちの時間で動けることでしょうし、天気がいいから少し車で遠くにという人たちも多いのではないでしょうか?」

「なっ、なるほど……虹夏ちゃんが免許を取ったら、私たちもそんな感じになるんですかね?」

「確かに、結束バンドの皆さんで遊びに行くとなると、車で~となる可能性が高いですね。車で移動できるようになると、行動範囲の自由さがかなり広がりますしね」

 

 いずれはツアーなどを行うのでしょうが、一先ずいますぐに免許や車が手に入っても、皆で出かける際に使用するのがメインになりそうではありますね。

 ただ、活動範囲は広がるので他のライブハウスでのブッキングライブに参加しやすくなります。以前知り合ったケモノリアの人たちも、また今度ブッキングライブをやろうと言ってくださっていたので、今後交流の幅が広がっていけばいろいろなライブハウスに出向くことも増えそうです。

 

 そんなことを話しているとソフトクリームも食べ終わったので、ひとりさんと一緒に座っていたベンチから立ち上がります。

 

「せっかくですし、買う買わないは別にしてお土産物のコーナーも見てみますか?」

「あっ、そうですね。あと、車の中で飲む飲み物も買いたいです」

「ではあちらの建物に……おや? 少し変わった移動販売の車がありますね」

「あっ、本当ですね。お洒落な雰囲気ですし、クレープとか……」

 

 飲み物や軽く摘まめるお菓子でも購入しようかと、ひとりさんと一緒に移動していると移動車両型の出店がありました。ポップでカラフルな外観で、ひとりさんの言う通りクレープ屋のような雰囲気で少し興味を惹かれたので、一緒に近付いて見ました。

 するとお洒落なドリンクやスムージーを販売している出店のようでしたが……メニューに載っていた写真に、思わず目が釘付けになりました。

 

 そこには「カップルにオススメ」という文字と共に、ハート形で2口のストローがささったドリングの絵が描かれていました。恋愛映画などではよく見ますが、実物はなかなか見ないカップル用のドリンクです。

 ふたりで顔を近づけて、ひとつのドリンクを一緒に飲む……大変に素晴らしいですし、ここで巡り合ったのは一種の運命のように感じます。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん? いっ、嫌な予感がするんですけど……目線が特定のメニューの釘付けになっているかのような、そんな気がするんですけど……」

「……ひとりさん、私、あのドリンクをひとりさんと一緒に飲みたいです」

「やっぱり!? いっ、いや、でもですね……あっ、アレは流石にあからさますぎて恥ずかしいというか、さっ、流石にこんなに人が多いですし……」

「車の中で飲めば問題ないのでは?」

「うぐっ……あっ、いや、そっ、それは……」

「……ひとりさんの気が進まないのであれば、諦めますが……」

「うぅぅぅ、そっ、そんな落ち込んだ顔は……わっ、分かりましたよ! くっ、車の中で、ですからね」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ひとりさんが了承してくれたことで、心が晴れ渡っていくかのような幸福感を覚えました。まだ一緒に飲む前からこれ程の幸福感とは、早くひとりさんと一緒に飲みたいです。

 自分でも浮かれる気持ちを実感しつつ、そのカップル用のドリンクを購入して、ひとりさんと一緒に車の中に戻ります。

 私たちが乗っている車の窓は外から中が見えない加工をしてあるので、安心してふたりきりでドリンクを楽しむことができます。

 

「それでは、さっそくいただきましょう!」

「あっ、うっ、嬉しそうですね……あっ、こっ、ここ、これ、思った以上に顔が近くないですか?」

「こんなに近くでひとりさんの顔を見ながら、同じドリンクを飲めるのは本当に幸せですね」

「めっ、メンタル強度の差が……」

 

 ひとつのカップに2口ストローがひとつだけ、それを同時に飲もうとすると顔が近づくのは必然です。離れてみても近くで見ても、ひとりさんの顔は本当に愛らしくて惚れ直す思いです。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん? そっ、そんなに見つめられると、恥ずかしいんですが……」

「仕方がないんです。ひとりさんの愛らしい顔がこんなに近くにあるのに目を逸らすなどというのは、大変な困難です。そして、こうしてひとりさんを近くに感じながら飲むドリンクは、普通に飲むより何倍も美味しい気がします」

「私はむしろ味とか分からないんですけど!? うぅぅ、顔面戦闘力の暴力が……キラキラしてるし、可愛いし……」

 

 若干不満げというか、呆れたような様子でドリンクを飲むひとりさんではありましたが……それでもじっと見つめる私から目を逸らしたりすることはなく、顔を赤くしながらも私の望みを叶えるように目を合わせ続けてくれていました。

 そんなひとりさんの優しさを感じると、またいっそう飲んでいるドリンクが美味しくなったような気がして、私は笑みを深めました。

 

 

 




時花有紗:いつも通りのように見えて、やっぱりひとりとふたりで旅行なので結構はしゃいでいる。カップルドリンクを一緒に飲むのは前々からやりたかった。

後藤ひとり:かつては有紗と目を合わせることもできなかったが、いまは普通に目を合わせられるし見つめ合えるし、きっとそこに恋とか愛がある気がする。以前と比べ、最近では有紗のことを「可愛い」とか「カッコいい」と口にすることが増えており、順調に恋愛フラグは進行している感じである。
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