ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十四手互恵の軽井沢旅行①~sideB~

 

 

 有紗とひとりが仲睦まじく軽井沢を目指して移動しているころ、虹夏とリョウは教習所に通っていた。

 

「リョウ、おはよ~」

「おはよ」

「私今日は実技の方でついにバック駐車だよ! できるかなぁ~」

「へー頑張れ、私も今日はやること多くて忙しい」

 

 挨拶を交わして受付を通った後、講義や実技の時間までまだ時間があるためふたりは待合室の椅子に座って雑談をすることにした。

 教習所には虹夏の方が早く通い始めたので、当たり前ではあるが虹夏の方が進んでいる。

 

「リョウは今日なにやるの? というか、なにそのデカい箱?」

「ティッシュの広告入れの内職。楽器ローン代稼がなくちゃいけないから、忙しくて授業受けてる暇もないぐらい」

「教習所まで来てなにしてんだお前!! というか、その段ボール持ってくる手間ぁ!?」

 

 大きな段ボールを持って来て、教習所の待合室で内職を始めるリョウを見て、虹夏は呆れたような叫び声を上げる。

 

「もー、リョウは誕生日が来月だからまだ免許は正式に取れないけど、夏休み中までに仮免まで進んでおかないと、新学期始まってからじゃ大変だよ。車買っても私ひとりに運転させる気?」

「いざとなれば、有紗に運転手のひとりぐらい手配してもらおう。そもそも、車の運転なんて一瞬でも気を抜いたらあの世に直行の恐ろしいものだし、私がやるべきじゃない」

「確かに言えばなんとかしてくれそうだけど! というか、そのやる気の無さで、そもそもなんで教習所に入ったのさ……いや、私は助かるし嬉しいけどさ」

「………………マルオカートが好きだから」

「は~?」

 

 目を逸らしながら告げたリョウの言葉に、虹夏はなんとも言えない呆れた表情を浮かべた。実際のところは、虹夏が教習所に入って忙しくなり、虹夏に合えない日が続いて寂しくなったリョウがほぼ衝動的に教習所に通い始めたのだが、流石にそんな恥ずかしいことを口にはできない様子だった。

 

「そ、そういえば、私たちがこんなに忙しくしている時に、後輩たちはなにをやっているのだろうか?」

「露骨に話題変えたね。ん~喜多ちゃんは、原宿っぽいね」

「……イソスタとトゥイッターが爆速で更新されている」

「フラストレーション溜まってたのかもね。なんか、更新見てるだけで喜多ちゃんがどう行動してるか手に取るように分かるよ。いまはカフェに入ってるっぽいね」

 

 未確認ライオットのファイナルステージのために最近はバンド活動に集中していた喜多だったが、当然そうなるとフラストレーション……虹夏たちの言うところのキラキラ欠乏症に陥りやすい。

 未確認ライオットも終わって、時間的にも余裕のある夏休みとなれば、テンションが大きく上がるのは間違いなく。最近の遅れを取り戻すかのように、凄まじい頻度でSNSが更新されており、聞いていなくても虹夏とリョウのふたりも喜多が何処でなにをしているか分かるレベルだった。

 

「ぼっちちゃんは、どうだろ? ひとりだったら、外に遊びに行くイメージは無いけど、有紗ちゃんが居るからな~」

「確かに、有紗と一緒なら海に行ってても驚かない」

「あ~海もあるかもしれないね。ぼっちちゃん、今週はバイトのシフトないし遠出しててもおかしくないね」

「私はこんなに忙しいのに、不公平では?」

「いや、ぼっちちゃんのシフトが少ないのは、リョウが鬼出勤してるせいでしょ……」

「……自業自得だった」

 

 楽器のローン代を稼ぐためにリョウはここの所バイトのシフトに入りまくっており、現在は金銭的にも余裕があり、あまり大量にバイトに入る必要のないひとりのシフトが代わりに減る形になっていた。

 ふたりがそんな風に会話をしていると、教習所の待合室に見知った顔がやって来た。

 

「……え?」

「あれ? 大槻さんじゃん!」

「どっ、どうも……奇遇ね」

「本当にね! 大槻さんももしかして、機材車用に免許取りに来た感じ?」

「うちはマネージャーが免許持ちだから運転してくれるとは思うけど、運転できる人数は居た方がいいし、免許もあるに越したことはないからね」

 

 偶然ではあったがSIDEROSのヨヨコも同じ教習所に免許を取りに来ており、ここで遭遇することになった。椅子に座ったヨヨコに虹夏は、楽しげな表情で声をかける。

 

「大槻さんもオートマ?」

「ええ、最初はMTにする予定だったけど……まぁ、この全自動化の時代にわざわざアナログな乗り物に乗る必要なんてないからね」

「なんで微妙に複雑そうな顔したの?」

「なんでもないわ……」

 

 虹夏の質問にやや目線を逸らし気味に答えるヨヨコ。実は彼女は最初はMTで申し込みをするつもりだった。その理由はATよりMTの方がハイレベルで偉く、周りに尊敬されると思っていたからであり、特にMT車を運転するような予定は無い。

 だが、彼女はそこで念のため……そう、本当に念のため……信頼できる相手である有紗に相談してみた。そして、MTとATのメリットやデメリットを詳しく説明されたのち。最終的にATコースを受講することに決めたという経緯があった。

 もちろんプライドの高いヨヨコがそんな経緯を口にできるわけもなく、気まずそうに視線を動かしてからふとあるものに気付いて口を開いた。

 

「そ、そんなことより……それはいったいなにをしてるの?」

「ん? ティッシュの広告詰めの内職」

「……なんで、教習所で内職を?」

「あはは、突っ込まないであげて、経済的にいろいろあってね……あ、そういえば、いまさらだけど大槻さん。未確定ライオットの優勝おめでとう! あの時は、あんまりゆっくりいう時間無かったしね~」

 

 内職をするリョウを訝し気に見るヨヨコに苦笑しつつ、虹夏は未確認ライオットの優勝を称える言葉を投げかける。

 

「ありがとう……貴女たちも、審査員特別賞おめでとう。たしか、レーベルからも声かかったんでしょ?」

「うん。ストレイビートってところに所属して頑張ることになったよ。大槻さんの方はなにか進展あった?」

「いくつかメジャーレーベルからお誘いはきたわ……けど、いまいち私たちのバンドとは方針が合わなかったから、私たちのやり方で続けていくことにしたわ」

「へ~それは思い切ったね。でも、そういうズバッと決めるとこも大槻さんらしいね」

「ふふん、まぁね」

 

 メジャーからの誘いも自分たちの音楽を貫くために断ったと告げるヨヨコに、虹夏は感心したような表情を浮かべる。

 虹夏の賞賛の言葉に誇らしげに鼻を鳴らしたヨヨコは、少しして若干視線を泳がせながら口を開く。

 

「と、ところで私たち来年ツアーするんだけど……対バン相手を探してて、いいバンドがどこにもいないのよね~貴女たち、だ、誰か知らないかしら?」

「私たちバンドの知り合い少ないからな~。特にSIDEROSと対バンできるレベルだと、ケモノリアぐらいしか……力になれなくてごめん。いい相手が見つかるといいね!」

「……通訳呼んでくれないかしら」

「うん?」

 

 ヨヨコの言葉は、遠回しに「一緒にツアーに行かないか?」という誘いでもあったのだが、虹夏はそれに気付くことは無かった。残念ながらヨヨコの遠回しな言葉の意味を正確に察せる通訳……もとい有紗はこの場に居ないため、ヨヨコの意図が伝わることはなく話は次の話題へ移行した。

 

「あ、ツアーと言えば私たちもそのうち機材車を買うつもりなんだけど、なにかオススメってある?」

「定番の一番人気はやっぱりハイエートじゃない? 機材積んで5人乗れるってなると、種類は限られると思うけど……」

「やっぱりハイエートか~見た目もいいよね!」

「でも高いし、人気車だから盗難も多いって聞くわよ」

「……うん。まぁ、値段は大丈夫……ウチはパトロンすごいから……いや、本当に」

「あっ……なんか、全て納得したわ。まぁ、盗難対策はしっかりしなさいよ」

 

 そのまま虹夏とヨヨコは講義の始まる時間まで、しばしの間機材車についての話で盛り上がっていた。なお、リョウは黙々と内職を行っており、さほど会話に参加することは無かった。

 

 

****

 

 

 教習所で虹夏たちが講義を受けていた頃、有紗とひとりは目的地である軽井沢高原の別荘に到着していた。

 

「あっ、ほっ、本当に涼しいですね。風もあって気持ちいいです」

「丁度過ごしやすいぐらいの気温ですね」

「あっ、はい。それに、景色も凄いですね……大自然って感じです。こっ、ここ、全部有紗ちゃんのお父さんの土地なんですか?」

 

 遠方に見える山々、少し離れた場所に見える湖、広い空間と温かみのある木造りの別荘と、文句のつけようがない場所であり、ひとりは心地よさそうに体を伸ばしつつも有紗に尋ねる。

 

「ええ、元々この別荘はお父様がお母様と過ごすために建てたのですよ。お母様は世界的に有名ですから、周囲の目を気にせずにゆっくり羽を伸ばせるようにと……」

「なっ、なるほど、確かにクリスティーナ・フラワーは世界的な女優ですし、プライベートをゆっくり過ごそうと思うと、これぐらいの場所は必要なのかもしれませんね」

「そういった目的で建てた別荘なので、基本的には家族数人で使うことを想定されているため、あまり大きくはないですが……」

「いっ、いえ、十分大きいです。私の家よりだいぶ……」

 

 たしかに大豪邸と呼べる有紗の家と比べれば小さいが、それでも一般的な家よりはよっぽど大きな別荘であり、ふたりで利用するには広すぎるぐらいだった。

 

「生活に必要なものは揃ってますし、今回用に食材なども全部準備してくれているみたいなので、不自由なく過ごせると思いますよ。運転手の方はここからある程度離れた場所にあるホテルに宿泊するので、しばらくは私たちふたりきりですね」

「あっ、なっ、なるほど、そういう形になるんですね」

「ええ、出かけたい時などは連絡を入れれば迎えに来てくれる形です。ああ、そういえば話は変わるのですが、お父様はお母様とこの別荘に初めて訪れた際に、別荘の前でお母様を熱く抱擁したらしいんですよ」

「あっ、そうなんで……んん? あっ、あの、有紗ちゃん? なぜ唐突にそんなことを? そして、なぜ、ジリジリこちらに近付いて――ひゃぅっ!? 展開が早い!?」

 

 唐突に話を切り替えたかと思うと、有紗はスッとひとりに近付いてそのままの勢いでギュッとひとりの体を抱きしめた。

 不意打ち気味の熱い抱擁に、当然ひとりは顔を真っ赤にするが、この状態の有紗になにを言っても無駄だと判断したのか、少ししてため息を吐いたあとで有紗の背中に手を回した。

 心地よい高原の風が吹く中で、しばし有紗とひとりは互いの温もりを確かめるように抱き合っていた。

 

 

 




時花有紗:さすがの猛将。相手に思考の暇を与えない奇襲、ひとりといちゃいちゃする気満々である。

後藤ひとり:よく不意打ちされてるぼっちちゃんだが、最近さらに距離感がバグったせいで、ハグは受け入れるどころか抱き返すようになってきた。

喜多郁代:さっつーと一緒に映えスポットを巡っている模様で、イソスタやトゥイッターにツーショットの写真が何枚も投稿されている。
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