ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十四手互恵の軽井沢旅行②~sideA~

 

 

 ひとりさんと共に到着した軽井沢の別荘。この別荘は時代に合わせてリフォームはしていますが、外観は建てた頃とほぼ変わっていないらしいです。

 お父様とお母様は新婚の頃に休みを合わせてはこの別荘に来て、ふたりきりの時間を楽しんで愛を育んだと聞きます。その思いでの別荘で、私とひとりさんが愛を育むというというのも感慨深いです……あ、いえ、もちろん慰労がメインです。

 ですが、好きな相手と共同生活のようなことができるわけですから、それは広義の意味では愛を育むと言っても過言ではないでしょうし、新婚生活の予行練習と考えても問題はないのではないでしょうか?

 

「ひとりさん、さっそくですけど予定通りジャージに着替えましょうか」

「あっ、そうですね」

 

 元々軽井沢の別荘に着いたら、お揃いで買ったクッチのジャージで過ごそうという話をしていたので、ひとりさんと私は別荘の中を軽く確認したあとで、ジャージに着替えます。

 学校の授業以外でジャージを着るというのはなんだか新鮮な気分ではありますが、実際かなり動きやすいのでいろいろやるにはよさそうです。

 そんな風に思っていると着替え終わったひとりさんがやってきました。ひとりさんは普段もピンク色のジャージを着ていますが、クッチの黒色がベースのジャージを着るとまた雰囲気が違って素敵です。

 

「……あっ、あれ?」

「どうしました?」

「おっ、同じジャージ……ですよね。なっ、なんでしょう、この差は……」

「なるほど、確かに愛らしさに凛々しさが融合したかのような、ひとりさんの完璧な着こなしには敵いませんし、同じ服を着ていても差を感じるのは必然です」

「逆です! 逆! 有紗ちゃんの着こなしがカッコよすぎて、同じ服着てる感じがしなかったんですよ!」

「いえ、ひとりさんの方が素敵だと思いますが……」

「ぜっ、絶対有紗ちゃんの方が素敵です! こっ、これは、私も譲りませんからね」

「「……ふふ」」

 

 互いに互いの方が素敵だと主張し合った私たちは、少しして顔を見合わせて同時に笑みを溢しました。

 

「これではキリがないので……どちらも素敵ということでいかがでしょうか?」

「あっ、はい。そうですね。たっ、確かに、終わらなそうです」

 

 面白いのはどちらも自分の方が似合っているではなく、相手の方が似合っていると主張していたところですね。なんというか、考えていることが同じというべきか馬鹿馬鹿しくもなんだか楽しい空気です。

 

「あっ、えっと、有紗ちゃん。最初はなにをしましょうか?」

「とりあえず、先に送っておいた楽器や機材を確認しましょうか……ちなみに、撮影もできるように用意してきましたので、ギターヒーローの動画も撮れますよ」

「あっ、それ、いいですね。大自然の中でセッションとか、綺麗な動画が取れそうです!」

 

 ひとりさんと共に楽器や機材を予め運び込んでもらっている部屋に移動しました。この部屋からはテラスに繋がっており、広めのテラスで演奏も行えます。

 アンプなども問題なくあり、延長コードもあるのでそれこそすぐにでもセッションを行えそうでした。ひとりさんの方を見ると、少しソワソワしている様子だったので、少し微笑みながら声をかけます。

 

「ひとりさん、最初は周辺の散策でもと思っていましたが、それはあとでもできますので……天気もいいですし、セッションをしましょうか?」

「え? あっ、はい。やりたいです!」

「では、一緒に準備をしましょうか……そちらのテラスで行う形でいいかなぁと思うのですが、どうでしょう?」

「あっ、そうですね。アンプとかを外に出して……」

 

 さっそくセッションをしたそうな様子のひとりさんに提案すると、ひとりさんは目に見えて嬉しそうな表情を浮かべました。未確認ライオットの慰労も兼ねているのですが、やはりひとりさんにとっては楽器を演奏している時間は非常に楽しいものなのでしょうね。

 ひとりさんと手分けをして、テラスで演奏を行う準備をしました。ついでに事前に話していた動画の撮影も行うつもりでカメラとパソコンの準備も行います。

 テラスは元々食事などを行う想定で景色のいい場所になっているので、ここで演奏をすれば山々と湖をバックに演奏できそうです。

 

「こんな感じですね。ではさっそく始めましょうか、曲はひとりさんの好きなもので大丈夫ですよ」

「あっ、じゃあ、あの曲を……」

 

 嬉しそうな表情でギターを構えるひとりさんに微笑みつつ、私もキーボードの鍵盤に手を伸ばしてセッションを行いました。

 私とひとりさん以外に誰も居ない広い大自然のステージでのセッションは、思った以上に楽しく音もいつもより伸び伸びとしている気がしました。

 

 

*****

 

 

 ひとりさんと楽しくセッションを行ったあと、ある程度のタイミングで休憩をすることにしました。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを持って来て、ひとりさんと一緒にテラスの縁に並んで座って休憩します。

 

「風が気持ちいいですね」

「あっ、はい。なっ、なんていうか疲労が心地よい感じです。あっ、そっ、そういえば、有紗ちゃんのキーボード、ますます上手くなってましたね」

「それは、コツコツ練習してきた成果が出たのかもしれませんね。なにせ、ひとりさんが日々どんどん成長していますので、私もちゃんと練習しておかないとついていけなくなっちゃいますからね」

「……あっ、わっ、私、有紗ちゃんのキーボードの演奏。その、すごく好きです。優しく安心できる音っていうか、こっちが思いっきり突っ走ってもしっかり支えてくれるって確信できて……一緒に演奏してて、本当に、凄く楽しいです!」

 

 そう言って目を輝かせて賞賛の言葉を投げかけるひとりさんを見て、思わず口元が緩みます。私も最近では、むしろピアノよりキーボードの方が得意になっているかもしれません。ピアノで培った技術が使えるというのもありますが、ことひとりさんのサポートという点においては、誰にも負けないという自信もありますね。

 

「それを言うなら、私もひとりさんのギターの音は大好きですよ。私は、音楽……とりわけ楽器の演奏には、演奏者の心が強く影響すると思っています。ひとりさんの音は、凄くまっすぐで音楽に対するひとりさんの心が現れているようです」

「あっ、いっ、いや、そんな……むっ、むしろ私はチヤホヤされたくてギターを始めたようなものですし、動機はむしろ不純というか……」

「きっかけはそうだったかもしれませんが、いまのひとりさんは心の底からギターの演奏を楽しんでいるように感じられますよ。さっきの演奏も、聞いてるこちらが楽しくなるような素敵な音でしたしね。最初の動機がなんであれ、いまのひとりさんのギターの音は透き通るようにまっすぐで、人の心を惹き付けるようなとても素晴らしい演奏ですよ。間近でたくさん聞いてる私が保証します」

「あぅ……そっ、その、ほっ、褒めすぎです。はっ、恥ずかしくなっちゃうじゃないですか……でっ、でも、有紗ちゃんにそう言ってもらえるのは……皆にチヤホヤされるより……嬉しいです。だっ、だから、ありがとうございます」

 

 そう言ってはにかむ様に笑うひとりさんの笑顔はとても眩しく、なんと表現するべきか……ひとりさんの魅力がこれでもかというほど詰まっているような、そんな表情だと感じられました。

 だから、でしょうか? 私の体も自然と動いていました。

 

「……えっ、えっと、有紗ちゃん? なんで、両手を広げてるんですか?」

「いい雰囲気だったので、このまま流れでハグに移行できないかと思いました!」

「そうですね! いまそんな風に言わなければ、完璧だったかもしれませんね!!」

 

 両手を広げてアピールする私に対し、ひとりさんは照れと呆れが混ざったような表情で叫びます。いえ、私の方から抱きしめに行っても問題は無かったのですが、なんとなくひとりさんの方から来てほしい気分だったのです。

 ひとりさんは、両手を広げる私を見て少し沈黙したあとで、大きくため息を吐きました。

 

「……はぁ、もうっ、本当に有紗ちゃんは……でっ、でも、えっと、丁度その……ちょっ、ちょっとだけ、有紗ちゃんに甘えたいなぁって思ってたので……その……」

「はい。思う存分甘えてくれていいですよ?」

「そっ、それは駄目人間になっちゃいそうなので、控えめで……あっ、えっと……失礼します」

 

 そう言ったあとで、甘えるように身を寄せてきたひとりさんを抱きしめて、軽く頭を撫でます。セッションをしたばかりだからか、いつもより少し体温が高く温もりをよりはっきりと感じられます。

 

「うぅ……こっ、これ危険です。ふたりっきりで開放的になってるところに、この安心感は……本当に駄目になっちゃいそうです」

「大丈夫です。仮に駄目になったとしても、私がサポートしてしっかり立ち直らせますので」

「そっ、それはそれでマッチポンプのような……」

 

 そう言って苦笑したあとで、ひとりさんは体の力を抜いて私に身を任せてきました。リラックスしている様子で、ともすればこのまま眠ってしまいそうな雰囲気のひとりさんは、それだけ私に心許してくれているという証拠でもあって、心の底から幸せな気持ちが湧き上がってきました。

 

「……ひとりさん、少し休憩したら湖の方に歩いて行ってみましょうか?」

「あっ、はい。のんびり散歩するのも楽しそうですね。散歩が終わったら、夕方ぐらいですかね?」

「そうですね。片づけをしてから散歩と考えると、そのぐらいになりそうですから、戻ってきたら夕食の用意ですね」

「あっ、ちゃっ、ちゃんと私も手伝いますので……どっ、どのぐらい戦力になれるかは……その、あんまり期待しないでほしいですけど……」

「ふふ、大丈夫ですよ。そうですね。ふたりで、一緒に作りましょう」

「……はい」

 

 リラックスした声で話すひとりさんの頭を抱きしめる力を少しだけ強くして、そのまま穏やかな声でこの後の予定についてをふたりで相談していきました。

 なんとなくではありますが、私とひとりさんの間に流れる空気が温かいような……そんな、なんともいい雰囲気でした。

 

 

 




時花有紗:いちゃいちゃしている。とてもイチャイチャしている。ひとりとお揃いのクッチのジャージ姿で過ごしており、修学旅行の女子高生がいちゃいちゃしている青春感がある。

後藤ひとり:軽井沢の大自然の中で、揃いのハイブランドのジャージを着て、別荘のテラスでセッション……コメント枠の虚言は既にやめたはずなのに、虚言してた頃よりリア充してる感じがするギターヒーロー。他の人の視線が無いからか、結構有紗に甘えている。
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