ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十四手互恵の軽井沢旅行③~sideA~

 

 

 ひとりさんと一緒にテラスで夕食を楽しんだあとは、ふたりで一緒に片づけを行います。私が洗った食器などを、ひとりさんが受け取って拭いてくれます。

 なんというか、こうして一緒に食器の片づけをしていると、頭に思い浮かぶ言葉があります。

 

「ひとりさん、なんだかこうして一緒に作業していると新婚みたいですね!」

「あっ、はえ!? あっ、あぶっ……いっ、いきなりなにを言うんですか!? お皿落とすところだったじゃないですか……」

「いえ、こうして一緒に作業しているとふっと頭に思い浮かんだので……」

「そっ、それをそのまま躊躇なく出力しちゃうところが、最高に有紗ちゃんです」

 

 少し呆れたような表情を浮かべつつ苦笑したひとりさんは、拭いた皿を置いて次の皿を受け取りながら言葉を続けます。

 

「でっ、でも、そういうのって恋愛物とかでよく聞くやり取りですけど、やっ、やっぱり一緒に作業しているのが新婚っぽいってことなんでしょうかね?」

「ふたりで分担して作業をしていると、仲が良さそうに見えるというのも要因だと思いますね。実際、微笑ましい雰囲気という印象ですし……もし仮に、私とひとりさんがふたりで住んでいたとしたら、どんな感じになるんでしょうね?」

「うっ、う~ん。なっ、なんか、いろいろ有紗ちゃんに頼りっきりになっちゃいそうな……あっ、いや、もちろん私もちゃんと手伝うんですけど、それでもスペック差は大きい気が……」

「家事にそこまでスペック差は影響しますかね? 料理などは、ある程度技量差もでるでしょうが……」

「てっ、手際のよさとかあるんじゃないですか? まっ、まぁ、でも、そんなに大きな影響はない気もしますけど……」

 

 あくまで仮の想定ではありますが、未来を見据えるならイメージトレーニングはしておくべきでしょう。ひとりさんとの新婚生活を想像するのも楽しいですし……家は、新しく建てたいところですね。将来的にどうなるかは不明ですが、現時点での結束バンドの活動拠点的に下北沢に近い場所がいいですね。

 いっそ私のうちでもいいのですが、ひとりさんが畏縮してしまいますし……家の庭に新しく一軒家を建てるという方法もありますね。まぁ、その辺りはひとりさんと相談しながらですね。

 使用人を雇うのもいいですが、最初は新婚の空気を満喫するためにできるだけ家事なども自分たちでやりたいものです。

 

「どんな感じでしょうね? ひとりさんがギターの練習をしていて、私が夕食の準備をしているとか?」

「あっ、そっ、その時はちゃんと手伝いますよ。料理はあまり得意じゃないので、食器を並べたりとかが多くなりそうですけど……って、なんの話をしてるんですか私たち!?」

「新婚生活のシミュレートですね!」

「さっ、さも当然のように言ってる……あっ、あまりにも迷いがなさ過ぎて、反射的に納得しちゃいそうでした」

「ふふ、まぁ、先のことを考えるのも楽しいですが、そればかりでもなくいまもしっかりと楽しまないといけませんね。洗い物が終わったら、お風呂にお湯を入れ始めておきましょうか?」

「あっ、そうですね。一休みしたら丁度いいぐらい……お風呂のサイズにもよりますが……」

 

 この別荘の風呂はそこまで大きなわけではありませんが、2人でゆったり入っても余裕があるぐらいのサイズではあります。お父様の拘りで檜風呂になっていますが、お湯張りなどは自動なので浴場に行ってスイッチを押すだけで準備は終わります。

 

 洗い物を終えたあと風呂の湯張りを開始して、少し空いた時間にひとりさんと一緒にボードゲームで遊ぶことにしました。

 大きなテレビやゲーム機もあるのでいろいろな遊びができますが、こうして向かい合ってボードゲームをするのも楽しいものです。まぁ、洒落た言い方をしましたが、遊んでいるのはリバーシですが……。

 

「……あっ、えっと……」

「おや? ひとりさん、そこで大丈夫ですか?」

「あえ? こっ、ここは、駄目ですか?」

「ふふ、どうでしょうか?」

「うぅぅ、有紗ちゃん、意地悪です……」

 

 盤面を見て悩むひとりさんの姿を見て微笑ましい気持ちになります。この手のボードゲームは私の方が得意ですし、その気になれば圧勝もできるとは思いますが……勝負が目的ではなく、ふたりで楽しむことが一番です。

 適度に加減しつつ、可愛らしいひとりさんを眺めて幸せな気分に浸りつつリバーシを続けていきました。

 

「なっ、なんでしょう、この……掌の上で踊らされている感じは……」

「本気でやった方がいいですか?」

「あっ、いえ、手加減してください。だいぶ、かなり……ガチでやったら、この手のゲームで私が有紗ちゃんに勝てるわけないので……」

「それでは次はこの辺りがオススメですよ」

「あっ、なるほど、ここに置けばかなり戦局が……」

「まぁ、私は次にここに置くのですが……」

「あっ!? あぅあぅ、また微妙な戦局に……うう~ん」

「ふふふ」

 

 腕を組んで悩ましそうな表情を浮かべながらも、それでも楽しんでくれているのが伝わってくるひとりさんの表情を見て、私はまた笑みを溢しました。

 

 

****

 

 

 しばらく遊んだあと、風呂の湯張りが完了したのでひとりさんと一緒に入浴することにします。ええ、もちろんここで別々に入浴するという選択肢はありませんし、風呂の広さも十分なので問題はありません。

 やはりこうしてふたりで泊まりに来た以上、風呂場での背中の流し合いは押さえておきたいところですね。

 

「あっ、檜のいい匂い……おっ、温泉もいいですけど、こういうお風呂もいいですね」

「ええ、なんというか不思議と心落ち着きますね。いちおう入浴剤などを入れることもできますが、どうしますか?」

「うっ、う~ん。とりあえずなしで大丈夫だと思います」

「では、このまま入りましょうか。ひとりさん、背中を流しますよ」

「あっ、ありがとうございます。じゃっ、じゃあ、終わったら私が背中流しますね」

「はい。よろしくお願いします」

 

 去年の箱根旅行や私の家に泊りに来た際などにも、ひとりさんとは一緒に入浴しているので自然と私がひとりさんの背中を流して交代、ひとりさんが私の背中を流してくれるという流れが出来上がっている気がします。

 互いに慣れたもので、背中を流し合い、髪を洗ってから湯船に浸かります。

 

「はぁぁ……きっ、気持ちいいですね。夜になって、涼しくなってきたからでしょうか?」

「確かに日中が涼し目なことも合って、夜は少し肌寒さがありますね。しっかり体を温めて……」

「あっ、有紗ちゃん? どうしました?」

「ああ、いえ、少し距離が空いているのが気になりまして……」

「うっ、あっ、いっ、いや、それはですね」

 

 いつもならすぐ隣に並ぶ形で入浴しているはずのひとりさんが、少し間を空けていたので不思議に思って尋ねてみると、ひとりさんはやや焦った様子で視線を動かし始めました。

 そのまま少し落ち着きなく視線を動かしたあとで、顔を赤くしてもじもじと人差し指を突き合わせながら呟きました。

 

「……なっ、なんか、今日は変に有紗ちゃんに甘えたい感じで……そっ、その、近くに居るとまた甘えちゃいそうで……」

「……なんの問題もないのでは?」

「あっ、いっ、いや、有紗ちゃんに迷惑とか……」

「う~ん。素朴な疑問ですが、ひとりさん……その内容で私が迷惑だと感じると、思いますか?」

「……おっ、思いません」

「では、まったく問題ないのでは?」

「え? あっ、あれ? うっ、うん? そっ、そうなりますかね?」

 

 どうもひとりさんは、今日は私に甘えたい気分で甘えすぎてしまって迷惑をかけてしまうことを危惧して距離を取っていたみたいですが……迷惑どころか、とんでもないボーナスタイムではないでしょうか? 私としてはむしろ、ひとりさんが甘えてくれるのは大歓迎なのですが……。

 ひとりさんは恥ずかしがり屋な部分があるので、私に甘えることを恥ずかしがっていたのも原因かもしれませんが……ある意味最高ともいえる状態です。なにせ、ひとりさん自身が私に甘えたいと口にしてくれたのですから、私が思いっきりひとりさんを甘やかしても問題ないわけです。

 

「ひとりさん、もっと近くにきてください。私もいま、無性にひとりさんを甘やかしたい気分なので……いや、まぁ、とはいっても具体的になにをどうするか考えているわけでもないですけどね」

「あえ? あっ、あはは……そっ、そうですね。私もいざ甘えるって言っても、なにをどうするかはよく分からないです。なんとなく、甘えたい気分というか……むっ、難しいですね」

「あまり気にせず、思うがままでいい気もしますね。というわけで……こうです!」

「ひゃっ!?」

 

 とりあえずとして、サッとひとりさんの肩に手を回してこちらに抱き寄せました。ひとりさんは驚いたような表情を浮かべていましたが、少ししてコテンと私の肩に頭を乗せてきました。

 肩を抱くというのは大変素晴らしいですが、手を繋げないというのはマイナス点ですね。ひとりさんのいる側ではない手では不自然ですし……。

 そう考えた私は名残惜しさを感じつつも肩から手を離して湯の中に入れて、ひとりさんと手を握りました。するとひとりさんもすぐに手を握り返してくれたので、湯の中で手を繋いで身を寄せ合います。

 

「……なんというか、不思議と落ち着く気分ですね。体だけでなく、心まで温まるようです」

「あっ、はい……えっ、えっと、私も同じこと考えてました。なんか、心の中からポカポカするというか……なんか、いいですね」

「まぁ、これが甘えたり甘やかしたりしている状態なのかと問われれば、首を傾げてしまいそうですけど……」

「あはは、たっ、たしかに、どうなんでしょうね? わっ、私としては有紗ちゃんに甘えている感じはしますけど……よく分からないですね。でっ、でも、よくわからないですけど……いまのこの、温かい感じは好きなので……別に違ってもいいです」

「そうですね」

 

 たしかに、どんな形であれいま互いに心地よく幸せだという気持ちを共有できているのであれば、それに勝るものはないでしょう。

 ひとりさんは遠慮しているみたいでしたが、このぐらいでしたらいつでも……むしろ常にこのぐらい密着してくれていても、私としてはまったく問題ないのです。

 まぁ、ともあれ、いまは余計なことを考えずにこの幸せなひと時を心行くまで堪能しましょう。

 

 

 




時花有紗:ひとりとの新婚生活を思い描いたりとなんとも楽しそう。本人はいくらでもひとりを甘やかしたいので、甘えてくれるならドンと来いという感じである。

後藤ひとり:明らかに心境が変化しているというか、ラブ度が増してきたぼっちちゃん。有紗ちゃんに甘えたいモードは継続中である。
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