ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十四手互恵の軽井沢旅行⑥

 

 

 ひとりさんとの軽井沢の旅行。最終日となった朝も、とてもいい目覚めでした。腕の中には愛らしいひとりさんの寝顔、体には柔らかな温もり……何度味わってもこの幸福感はたまりませんね。

 とりあえず例によってひとりさんをしっかり抱きしめなおして、ひとりさんが目覚めるまでの時間を満喫します。

 しかし、昨日は非常に素晴らしい出来事がありましたし、今日も目覚めはなんだかいい気分なので……なにか起こらないでしょうか?

 

「……んん……有紗ちゃん……」

 

 そんな風に考えているとひとりさんが小さく私の名前を呼びましたが、それ以上なにかの寝言を口にすることはありませんでした。

 ただ何らかの夢を見ているのか、ギュッと私にしがみつきながらグリグリと頭を動かして、私の首元に顔を擦り付けるような仕草をしました。

 ……なんたる愛らしさですか……迂闊に見たら、人が死にかねないほどの破壊力がありますよ。子犬が甘えるかのようなその仕草は、愛らしさは言わずもがな、擦り付けてくる顔の感触、首にかかる吐息の温もりと、幸せが詰め込まれていました。

 

 早起きは三文の得ということわざがありますが、まさに早く目覚めてよかったと心から思いました。なにせ、私が目覚めるのがあと15分遅ければ、この至福ともいえる瞬間を体験することはできなかった訳ですからね。

 今日のひとりさんはそれなりにぐっすり眠っているようで、首元に顔をピッタリ密着させた後は、スゥスゥと可愛らしい寝息が聞こえてきました。

 少しくすぐったくもその安心しきった様子には、言いようのない幸福感がありますね。寝ているので無意識の事ではあるでしょうが、私に密着することで安心感を覚えてくれているような感じで、なんだか嬉しいです。

 

「……ひとりさん……貴女は本当に、どれだけ私を虜にすれば気が済むのでしょう。いつもいつも、新しい可愛らしさが発見できて幸せで、本当に愛おしいですよ」

 

 ひとりさんを起こさないように小さな声で呟いて、そっとひとりさんの頭を撫でます。しっかり眠っているようですし、この様子だとまだしばらくは目を覚まさないでしょう……ひとまず、ひとりさんが目覚めるその時までは、この最高の幸福を味わっていましょう。

 

 

****

 

 

 目覚めたひとりさんを再び30分ほど抱きしめたあとで起床し、ふたりで一緒に朝食を作っていただきました。その後はまだ迎えまで少し時間があったので、軽くセッションをして待つことにしました。

 外ではなく室内で楽しく音を鳴らすような感じですね。即興のメロディを作ってみたり、少し変則的な演奏を行ってみたりしました。

 

「あっ、いまのメロディ、いい感じじゃなかったですか?」

「楽し気でいいリズムでしたね。新曲に応用できるかもしれませんし、少し調整して録音しておきましょうか」

「あっ、はい」

 

 来年リリースの新曲用に、使えそうなメロディがあればスマホに録音しておきます。リョウさんが作曲する際の助けになるかもしれません。リョウさん曰く作曲はインスピレーション勝負ということなので、インスピレーションを刺激するような斬新なメロディは有効です。

 まぁ、必ずしも奇をてらったり物珍しいことが正解というわけでもないので、難しいところではありますが……。

 

 そんな風に楽しくセッションしながら気になったメロディなどを録音していると、そろそろいい時間になったので片付けと準備を行います。

 後ほど清掃が入るので必要というわけではありませんが、別荘内も軽く掃除しておきます。やはりふたりで利用したので、最後までしっかりふたりで行いたいですからね。

 

「こっ、こんな感じですかね」

「ええ、これだけすれば十分だと思いますよ。そろそろ迎えも来る頃ですし、荷物を用意しておきましょう」

「あっ、はい」

 

 片づけと掃除を終えて持ち帰る荷物を用意すると、丁度いいタイミングで迎えの車が到着する音が聞こえたので、ひとりさんと一緒に別荘の外に出ます。

 そのまま車に乗り込んで帰宅でもよかったのですが、その前にせっかくなので別荘をバックにひとりさんと写真を撮ることにしました。

 運転手さんに撮影を担当してもらって、ひとりさんと一緒に並んで別荘の前に立ちます。

 

「せっかくですし、なにかポーズでも取りますか?」

「あえ? あっ、えっと……よっ、陽キャのポーズと言えば……てっ、手でハートを作るとか?」

「指では無く手全体……ひとりさんとふたりで、ハートの形を作る感じですかね?」

「あっ、はっ、はい。そんな感じです」

「分かりました。ではそれで撮影しましょう」

 

 片手をひとりさんと繋いで身を寄せ、空いたもう片方の手で半分のハートの形を作り、ひとりさんと合わせてハートの形にします。コレはかなりラブラブっぽい写真ではないでしょうか? 部屋の額縁の次の更新は決まりましたね。

 

「あっ、えへへ、なっ、なんか陽キャっぽい……ふへへ」

「これは、どことなくラブラブな雰囲気でいいですね」

「らっ、らら、ラブラブ!? いっ、いや、そんなつもりは……あっ、でっ、でも、確かにハート作ってるとカップルっぽくも……あわわわ……あっ、あの、有紗ちゃん……撮り直しませんか?」

「追加で撮影は喜んで、ですが先ほど撮った写真は大切に保管します」

「あぅ……」

 

 顔を赤くしたひとりさんが撮り直しを提案してきますが、撮り『直し』という言葉から前の写真を破棄してほしいという気持ちは伝わってきましたが……それはあまりに惜しすぎるので、先んじて拒否をしておきます。

 いえ、もちろんひとりさんが本気で嫌がったら削除するつもりではありましたが、恥ずかしがってはいてもそれほど嫌がっている様子はありませんでした。自分のスマートフォンに撮った写真も削除する様子は無かったので、恥ずかしくはあっても写真自体は気に入ってくれているのかもしれません。

 

「それでは、名残惜しいですが帰りましょうか」

「あっ、はい。なんか、楽しくてあっという間でした」

「私も同じ気持ちです。また一緒に来ましょうね」

「あっ、はい。そっ、その時は私ももっと料理とか手伝えるように、がっ、頑張ります」

「ふふ、楽しみですね」

 

 観光地などを巡る旅行も楽しいですが、ひとりさんとふたりでのんびり過ごす今回の旅行も最高でした。都会の喧騒を離れて好きな相手とふたりで共同生活というのは、本当に憧れますし実際に行っても素晴らしいものでした。来年の夏も来ましょう。

 

 

****

 

 

 ひとりさんとの楽しい軽井沢旅行が終わった後も、まだまだ夏休みは続きます。ひとりさんが比較的時間に余裕があったので、ふたりでカフェや映画に行ったりとスタジオ練習などの合間にも楽しく遊び、いつの間にか8月も下旬に差し掛かってきました。

 

 今日はSTARRYでのスタジオ練習の日であり、私も夏休み明けに向けて物販関連の整理をするので、ひとりさんと一緒にSTARRYに向かっていました。

 

「あ、ひとりちゃんに有紗ちゃん、やっほ~」

「あっ、喜多ちゃん……こっ、こんにちは」

「こんにちは、喜多さん。奇遇ですね」

 

 STARRYに向かう途中で偶然喜多さんと出会い、そのまま3人で一緒にSTARRYに向かうことになりました。

 

「え? ふたりとも、青山のあのカフェに行ったの? どうだった?」

「あっ、えっと、夏限定のレモンのショートケーキタルト? を食べました。さっ、爽やかで美味しかったです」

「オリジナルブレンドのアールグレイもいい味でしたね。レモンのケーキタルトに合わせて、レモングラスとベルガモットオイルを混ぜた爽やかな感じでした。写真もありますよ」

 

 少し前にひとりさんと一緒に行ったカフェの話になり、その際に撮影した写真を見せると喜多さんは目を輝かせます。確かにとてもお洒落な店で、喜多さんが好きそうな雰囲気ではありましたね。

 

「お洒落で可愛い! いいな~私もあの店行ってみたかったんだけど、まだ行けてないのよね。限定メニューが終わる前には絶対行きたいわ」

「では、今度3人で一緒に行きませんか?」

「あ、それ、最高! ひとりちゃんも、いいかな?」

「あっ、はい」

 

 目を輝かせる喜多さんに、ひとりさんも小さく苦笑するような笑みを浮かべて頷きました。一緒にいろいろな場所に行っているおかげか、ひとりさんもかなり外出などに対する忌避感は無くなっているようなので喜ばしいです。

 この調子で行けば、いつか本当に一緒に海外旅行などもできるかもしれませんね。玲さんがひとりさんを紹介しろと頻繁に催促してくるので、そのうちフランスに一緒に行ければいいですね。まぁ、それより早く我慢しきれなくなった玲さんがこちらに来る可能性もありますね。

 

 そんなことを考えつつ、ひとりさんと喜多さんと雑談をしているとSTARRYに到着しました。

 

「あっ、着きましたね」

「よ~し、それじゃあ、今日も練習頑張りましょう! おはようございま~す!」

 

 喜多さんがそう言って笑顔でドアを開けると、店内には既にリョウさんと虹夏さんの姿があり、リョウさんがこちらを振り返ってはじけんばかりの輝かしい笑顔を浮かべました。

 

「おはよう! ぼっち、郁代、有紗、清々しい練習日和だね! 今日も、一緒に頑張ろうね!」

「……」

 

 そして喜多さんは無言で扉を閉め……動揺した表情で私とひとりさんの方を振り返りました。

 

「……あ、えっと……私の目がおかしくなったかな? いま、リョウ先輩、もの凄くキラキラした笑顔じゃなかった?」

「わっ、私もそう見えました。目も、いつものローテンションな感じじゃなくてキラッキラでした」

「明るいというよりは、疲労でテンションがハイになっているような印象でしたが……」

 

 リョウさんの様子は明らかに不自然ではありました。イメージとしては徹夜明けでテンションが上がっているような状態というか、普段であればまずしないであろう明るく爽やかな表情を浮かべていました。

 ただそれは元気だからというよりは、むしろ精神的な疲労が蓄積した結果という感じで……なんと言うか、若干心配ではありますね。

 

「…‥まぁ、とりあえず入りましょうか、事情は虹夏さんにでも聞きましょう」

「そ、そうね」

 

 私の言葉に頷いて喜多さんがもう一度STARRYの扉を開けると、先ほどと同じように明るい表情のリョウさんが見えました。

 

「3人ともどうしたの? 外は暑いし、早く入っておいで、今日の爽やかな気分にピッタリの冷たいドリンクでも用意してあげるよ」

「……」

 

 そして現実を受け止めきれなかったのか、喜多さんは無言でもう一度扉を閉めました。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんとたっぷりいちゃいちゃできて満足。旅行後も頻繁にぼっちちゃんと遊んでおり、一緒にありこち出かけてデートしている。

後藤ひとり:カップルぽいことしたぼっちちゃん。例によって山田の鬼出勤のせいであまりバイトのシフトに入っていないので、夏休みは有紗とあちこち出かけて遊んでいる。喜多ともそこそこ会話が成立するぐらいには、アウトドアに耐性が付いてきてる模様。

世界のYAMADA:人生で最大のタスクを積んで壊れた目がキラキラのリョウ。原作でも1巻の最初の頃は目は割とキラキラしてて、年上お姉さん感がそこそこあった気が若干しないでもない。
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