ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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八十五手計画の気分転換

 

 

 明らかに通常とは違った様子だったリョウさんは、先ほどまでのハイテンションはどこへ行ったのかいまは疲れた様子で机に伏しています。

 

「……それで、虹夏さん。リョウさんのこの状態は? なんとなく、疲れているのは見て分かりますが……」

「うん。いや、まぁ、自業自得と言えばそれまでなんだけど、リョウってば楽器のローンのために最近鬼シフトしてたでしょ? さらに、教習所も行ってスタジオ練習もして、新曲の作曲もって……いままでの人生で積んだことがないようなレベルのタスクを抱えて、壊れた感じだね」

「あっ、ああ、追い込まれると変なテンションになるやつ……わっ、分かります」

 

 そういえば以前作詞に苦戦していた時のひとりさんも、唐突に喜多さんの真似をしてみたりといった突発的な行動をとっていましたね。

 まぁ、ともあれ、リョウさんの状態は根を詰め過ぎて精神的疲労が溜まった結果と言う感じでしょう。

 

「リョウ先輩、大丈夫ですか?」

「頭が働かない……来年リリースする曲も書き始めたんだけど、なかなか難しい。ぼっちが面白いメロディをいくつか持って来てくれたから、ある程度進んではいるけど……微妙に難航気味」

「あっ、はい。ワンフレーズが面白くても、それで曲全体を作るのは難しいですもんね」

 

 喜多さんが心配そうに声をかけると、ひとまず普通に返事はしているみたいなので深刻というわけではなさそうです。過労と言うほどではなく、いろいろなことを抱えた結果精神的にストレスを感じて疲労しているという印象ですね。

 

「いままで音楽とバイトだけだったのに、車校も入ってきて家でも5時間は学科の勉強で拘束されるし……」

「……伊地知先輩、免許ってそこまで勉強しないと取れないんですか!?」

「いや、そんなハズは……というか、私はそんなにしてないし」

 

 不満そうに告げるリョウさんを見ていると、いまの段階であれば比較的大丈夫そうな印象でした。なんというか、リョウさんは不平不満を口にしている内はまだ元気で、本当に深刻に悩むとひとりで抱え込んで隠すタイプなので……まぁ、それでもストレスを溜めていていいことなど無いですし、気分転換などは必要でしょう。

 そう思っていると、虹夏さんが私の近くに来て小声で話しかけてきました。

 

「……ちょっとリョウが心配でさ、気分転換とかしたほうがいいかな~って思うんだけど、どうだろ?」

「賛成です。遠出してみるのもいいですね。前にひとりさんと少し話したのですが、去年の江の島のように皆でどこかに出かけるのもいい気分転換になると思います」

「いいね。皆とも相談してみよ!」

 

 元々虹夏さん自身もリョウさんの気分転換は考えていたのでしょうね。私が賛同したことで明るい表情に変わった虹夏さんは、他の皆さんにも声をかけます。

 

「皆、せっかくの夏休みだしどこか遠出しない? 一泊ぐらいの旅行でさ、いい気分転換になるし……ほら、前に司馬さんも10代ならではの経験をしろって言ってたし、夏休みらしいこと皆でしようよ!」

「楽しそうですね! 賛成です! あ、でも、バイトは大丈夫ですかね?」

「そこは休めるようにお姉ちゃんに頼んでみるよ。いや、実際リョウだけじゃなくて、私も練習とバイトと車校ばっかであんまり夏らしいことしてないんだよね。喜多ちゃんたちはなにか、夏らしいことした?」

 

 皆で旅行に行こうという虹夏さんに喜多さんが明るい笑顔で賛成すると、そこで少し話が脱線してここまでの夏休みの話に移行しました。

 虹夏さんに聞かれた喜多さんは、どこか楽し気に話し始めます。

 

「私は友達と遊ぶことが多かったですね。ショッピングに行ったり、カフェ巡りしたり、カラオケ行ったりって感じですけど……夏っぽいことはあんまりしてないかもです。前に、皆と夏祭りに行ったぐらい……ひとりちゃんは?」

「あっ、えっ、えっと、夏らしいこと……あっ、有紗ちゃんとプライベートプールで泳いだり、映画を見に行ったり、河川敷で花火をしたり、軽井沢に旅行したり、軽井沢の湖で釣りしたり……とかですかね?」

「あとは、夏限定メニューのあるカフェに行ったり、夏のカレーフェスに行ったりしましたね」

「あっ、そっ、そうですね。それも夏っぽいですよね!」

 

 カレーフェスは最近横浜でやっていたので、ひとりさんと一緒に行ってきました。本格的なものから変わり種までいろいろあって、楽しいイベントでした。

 ひとりさん自身がある程度人の多い場所も平気になってきたので、ふたりでデートできる場所が増えて嬉しい限りです。

 そんなことを考えていると、虹夏さんと喜多さんがポカンとした表情を浮かべ、リョウさんもなんとも言えない表情を浮かべていました。

 

「なんか、ひとりちゃんが、一番夏を満喫してる!? わ、私完全に負けてる……」

「落ち着いて喜多ちゃん、勝負じゃないから……それにしても本当にいろいろやってるね」

「……私とぼっち、どこで差が付いたのか……慢心、環境の違い……いや、分かりやすい。明らかに差が付いた要因は有紗……」

 

 まぁ、私とひとりさんがアレコレできているのは、リョウさんがシフトに入りまくってひとりさんが時間的余裕が沢山あったからというのも要因ですが……ただ、改めて考えてみると大抵のことはしていますね。

 軽井沢の別荘でバーベキューや、天体観測というほどでは無いですが星を見たりもしましたし……結束バンドの皆さんと一緒に夏祭りにも行きましたし、夏らしいことはほぼ網羅していますね。

 

「……あ、じゃあ、海はどうかな? ぼっちちゃんもプールは行っても、海は行ってないんだよね?」

「あっ、はい。海は行ってないです……とっ、というか、私泳げな……」

「いいですね! 白い砂浜、青い海! 夏の映えといえば海ですよ! ひとりちゃんも、そう思うよね!!」

「あっ……はい」

 

 虹夏さんの提案はなるほどと感心するものでした。確かに海というのは素晴らしいです。またひとりさんの水着姿を見ることができますし、砂浜でひとりさんと一緒に過ごせるのは素晴らしいです。

 

「あんま混んでる場所は嫌……有紗、なんかない?」

「東京から1泊で行ける距離ですと、プライベートビーチ付きの別荘がいくつかあるのと、海沿いにあるホテルも2箇所程はオーナー権を持っています……あとは、宿泊できるクルーザーも何台かありますが……どれがいいですか?」

「別荘がいいな」

「分かりました。近いうちにロインで写真と場所を送るので、どこがいいか相談しましょう」

 

 ちなみにクルーザーはお父様のものが2台、お母様のものが国内には1台。あとは、以前誕生日プレゼントでお父様が贈ってきた私のクルーザーが1台あります……ほぼ使っていませんが……いつかひとりさんと一緒に乗るのもいいかもしれません。

 

「……ねぇ、喜多ちゃん別荘とかクルーザーって、そんな当たり前みたいにいくつか持ってるって話になる?」

「……伊地知先輩……有紗ちゃんなので……ひとりちゃんから聞いた話だと、海外に無人島とかも持ってるらしいですよ」

「こういう状況になると有紗ちゃんのセレブっぷりを実感するよね」

「まぁ、恩恵受けまくってるので文句はないですが、分かっててもビックリしますよね……」

 

 虹夏さんと喜多さんが話し声が聞こえた直後、ひとりさんが私のすぐ近くに来て小声で話しかけてきました。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん……私泳げないんですけど……」

「大丈夫ですよ、ひとりさん。海に入って泳ぐばかりが海のレジャーではありません。砂浜で行える遊びも多いですから、それを一緒にやりましょう」

「あっ、そっ、それなら……」

「深いところまでいかずに、波打ち際で遊ぶという手もありますしね。ひとりさんと一緒に海で遊べると考えると、いまから本当に楽しみです」

「あっ、わっ、私も……そっ、その、泳げないのは不安ですけど……有紗ちゃんと海に行けるのは嬉しいです。えへへ、一緒にいろいろしましょうね」

「はい」

 

 どうやらひとりさんも海に行くこと自体は乗り気みたいで、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべてくれていました。以前江の島に行った際は眺めるだけでしたが、実際に海で遊ぶとなるとなにをしましょう? やはり、定番として砂浜で追いかけっこのようなことはすべきでしょうか? その辺りは流れ次第ですね。

 そして、夜に月明かりに照らされる海辺を一緒に歩いたりするのも素敵ですね。

 

「……気のせいかな? このふたり、最近よりいちゃつくようになってない?」

「分かります。なんか、前よりも空気が甘い感じになるんですよね」

「……ぼっちが以前より距離詰めてる印象」

 

 

 ****

 

 

 STARRYでのスタジオ練習を終えて、ひとりさんと手を繋いで駅に向かって歩きます。旅行に関しての詳しい打ち合わせは後ほどロインで行うことになりましたし、星歌さんに休みなどを調整してもらう必要もあるので、8月下旬ごろになりそうですね。

 

「…‥あっ、あの……有紗ちゃん?」

「はい? どうしました?」

「あっ、あのですね……海に行くじゃないですか? 水着が必要になりますよね……そっ、それで、前にプールに行った時の水着を持っていくつもりだったんですけど……」

 

 隣を歩くひとりさんが少し恥ずかしがっているような、若干迷いが感じられる声で話しかけてきました。なんとなくではありますが、私にとってはとてもいい提案のような気がします。

 ひとりさんはそのまま少し沈黙したあとで、言葉を選ぶように告げます。

 

「……たっ、例えばですけど……わっ、私が新しい水着を買ったりすると……あっ、有紗ちゃんは嬉し――」

「嬉しいです!」

「――そっ、そんな食い気味に!?」

「いえ、もちろん、以前の水着も大変愛らしかったのですが、他の水着を着ている姿も見てみたいという気持ちは、抑えきれないぐらいあります」

「そっ、そんなにですか……あっ、えっと、じゃあ……こっ、今度一緒に買い物に行って……その……選んでくれませんか?」

「はい! 任せてください!」

 

 なんと言うことでしょう。ひとりさんからデートの誘いをしてくれたこともそうですが、私が選んだ水着を着てくれると言っているに等しい言葉……想像以上の幸福感があります。

 それこそ、このまますぐに買いに行きたいと思えるぐらいです……ひとりさんの新しい水着、どんなものがいいでしょうか……以前とはまた違ったタイプがいいですね。

 なんというか、海に行く日がますます楽しみになってきました。

 

 

 




時花有紗:こういう皆で遊びに行く際には最強の味方といっていいパトロン。まぁ、それはともかくとして、ぼっちちゃんの思わぬアプローチに大喜びしており、冷静さは吹き飛んで興奮気味だった。

後藤ひとり:積極さが増したせいか、なんかアプローチみたいなことし始めた。貴女の選んだ水着を着ますとか、ほぼ恋人に向けて言う様な台詞では?
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