ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

167 / 211
八十六手砂浜のサマーバケーション~sideB~

 

 

 水着に着替えてプライベートビーチにやってきた結束バンドの面々は、最初に協力してパラソルやレジャーシート、ビーチチェアなどを設置してから遊び始めた。

 リョウは設置が終わると早々にクーラボックスからドリンクを取り出し、ビーチチェアに寝転がって持参したノートパソコンを起動する。

 

「……リョウ、なにしてんの?」

「海水でベタつくの嫌だから映画観とく」

「わざわざ海まで来て!?」

 

 虹夏の質問に興味無さそうに答えつつリョウが映画を見ようとすると、有紗が不意に呟くように尋ねた。

 

「リョウさん、いちおう別荘にシアタールームもありますが?」

「…………いや、水着着たしね……やめろ、有紗。その微笑まし気な目はやめて、他意はないから、本当だから……」

「へ~なるほどね。リョウってば、そっけない雰囲気出してるけど皆が遊んでる中で、ひとりだけ別荘に居るのは寂しいんでしょ?」

「……うっさい貧乳」

「あ? お前いま、なんて言った?」

 

 虹夏の言葉は図星だった。有紗が言ったように別荘にシアタールームがあるのであれば、そちらで映画を見た方が快適ではあるだろう。ただ、他のメンバーが一緒に楽しく遊んでいる中で、ひとりだけ別荘で映画を見ているというのは、気が進まなかった。

 かといって他の面々のようにはしゃぐのもプライドが邪魔をする。なので、短めの映画を見て時間を潰してから、ほどほどのタイミングで加わろうと画策していた。だが、有紗には最初からバレていたし、虹夏も有紗との会話を聞いて気付いてしまったので、リョウは気恥ずかしさから悪態をついて顔を逸らし……その代償として、砂浜にバックドロップで叩きつけられることとなった。

 

 その後、リョウも結局虹夏に説得されて海で遊ぶことにしたのか、シースルーの上着を脱いで、浮き輪を持って虹夏と一緒に海に向かって歩き出した。

 

「ひとりさん、私たちも行きましょう。泳ぐ必要はありませんので、波打ち際で遊びましょう」

「あっ、はい。おっ、追いかけっことか……ですか?」

「やりますか?」

「あっ、うっ……ちょっ、ちょっとやってみたい気持ちはありますが……たぶん体力が持たないので、ふっ、普通に水遊びとかで……あっ、海水が気持ちいいです」

「深いところまで行く必要はないので、膝ぐらいの高さにしておきましょう。波もあるので気を付けてくださいね」

 

 緩やかなさざ波とはいえ、足を取られる可能性はあるので注意を促しつつ、膝が浸かるぐらいの位置へ移動する。

 その途中で有紗とひとりは、なにやら大量の浮き輪を海岸に並べて手動の空気入れを必死に動かしている喜多を見つけて、足を海水に浸けたままで声をかける。

 

「……あっ、喜多ちゃん、その浮き輪は?」

「人もいないプライベートビーチっていう……絶好の撮影チャンス……無駄にしないために……大型の浮き輪をいっぱい持って来たの……でもこれ、大変……」

「喜多さん、手動では大変ではないですか? 別荘から持ってきたクーラボックスの横の箱に、電動のエアポンプが入ってますよ」

「……え? そっ、そうなの!? ありがとう!!」

 

 ボートなどと一緒に持ってきた箱には電動エアポンプや空気抜き、ビーチボールやエアボートが入っており、事前に有紗が説明していたのだが、海で遊ぶことに頭がいっぱいだった喜多は聞き逃していたみたいで、持参した小型の空気入れを使っていた。

 幸い早い段階で電動エアポンプの存在を知れた喜多は、喜んでまだ膨らませていない浮き輪を持ってパラソルの方へ向かっていった。

 

「……それはそれとして、喜多さんはあの大量の浮き輪をどうするつもりなのでしょう?」

「あっ、えっと……自撮りとか……ですかね?」

「なるほど、ところでひとりさん」

「あっ、はい?」

「隙有りです」

「――わぷっ!?」

 

 油断していたひとりにたいして、有紗は片手で水を掬ってかける。

 

「あっ、有紗ちゃん!?」

「ふふ、いえ、定番かと思いまして……」

「なっ、なら私だって、えっ、えい!」

「きゃっ……やりましたね。では、お返しです」

 

 ひとりが同じように水をかけ、有紗も避けることなくそれを受けて反撃する。楽し気に笑いながらふたりで水をかけ合っており、仲のよさが伝わってくる印象だった。

 泳げないひとりも海を楽しめているというべきか、有紗と一緒に遊べているのが楽しい様子だった。

 

 そんなふたりの元に、虹夏とリョウが近づいてきた。

 

「ぼっちちゃん、有紗ちゃん、一緒にボートで遊ぼ! ちょっとは波あるけど、ボートなら泳げなくても大丈夫でしょ?」

「あっ、たっ、確かにそれなら……」

「おや? 喜多さんは?」

「……郁代なら、向こうで浮き輪を山ほど並べて自撮りしてる。長くなりそうだし、後でいいでしょ」

 

 喜多の自撮りに対するこだわりは全員が知るところであり、何十枚という写真を角度を変えながら撮影するため、ひとつの構図の写真でも相当の時間がかかる。

 なのでボートは4人で楽しむことになった。流石に4人全員でボートに乗るのは難しいので、最初は虹夏とひとりがボートに乗り、有紗とリョウは泳ぎながらボートが流れないようにコントロールする形になった。

 

「ちょっとは揺れるけど、楽しいね!」

「あっ、はいそうです――あぇ?」

「ひとりさん!?」

 

 ボートに乗ってすぐ、さざ波によって少しボートが揺れたことで、絶望的にバランス感覚が無いひとりがバランスを崩してボートから落下した。

 ボートで遊ぶ関係上、先ほどまでとは違って足が付かない場所まで来ており、泳げないひとりにとっては致命的である。

 だが、そこは誰よりも早く反応した有紗が、海に落下したひとりを助ける。

 

「大丈夫です! 私にしっかり掴まってください」

「あぶっ、あっ、有紗ちゃん……」

「大丈夫ですよ。落ち着いて……私が付いていますからね」

「……はっ、はい」

 

 片手でボートを掴んで沈まないようにして、もう片方の手でひとりの腰に手を回してしっかりと抱きしめる。ひとりも有紗に抱き着くような形でしっかりと密着して、ホッと息を吐いた。

 カナヅチであるひとりにとって、海に落下するというのはかなりの恐怖だったが、パニックになるより早く有紗がしっかり助けてくれたので、心から安堵して有紗に抱き着いていた。

 

「ぼっちちゃん! 大丈夫?」

「あっ、はっ、はい。大丈夫です。水も、ほとんど飲んでないです」

「無事でよかったけど、念のために一度戻ろう」

 

 虹夏とリョウも心配そうに声をかけるが、幸いなことにひとりは問題なさそうだった。ボートを開始してすぐということもあって、少し移動すれば足が付く場所に戻れるので、リョウの提案で足の着く場所へ移動する。

 

「ひとりさん、ボートに掴まりますか?」

「……あっ、そっ、その、迷惑じゃなければこのままが……有紗ちゃんの傍が、一番安心できるので……」

「分かりました。しっかり掴まっておいてくださいね」

「はい……あっ、有紗ちゃん、ありがとうございます」

 

 ギュッと有紗に甘えるように抱き着くひとりに微笑みを浮かべ、有紗は片手でボートに掴まりつつ、ひとりを抱きしめた状態で器用に移動する。

 そして、足の着く場所に移動したが、ひとりは有紗に抱き着いたままで離れる気配はなかった。

 

(あっ、えっと……もう足がつくし、離れた方がいいよね。でっ、でも、怖かったし……有紗ちゃんの傍にいたいし、もう少し、このままがいいなぁ……)

 

 そんな風に考えるひとりの心境を察したのか、有紗は軽く微笑んだままなにも言わずに少しだけひとりを抱きしめる力を強くする。

 

「……君たちはなにをしてるのかな? というか、私とリョウはなにを見せられてるのかな?」

「いえ、偶然とはいえせっかくの機会なので、このままひとりさんとのハグをしばらく堪能したいという気持ちがあるのです。なので、続行しています」

「い、潔い……」

「曇りのない目をしている。流石猛将」

 

 堂々と自分がひとりを抱きしめていたいから抱きしめているのだと宣言する有紗に、虹夏とリョウは思わず気圧されつつ、それも「まぁ、有紗だし」という心境で納得する。

 実際は、いま離れたくないと思っているのはひとりの方なのだが……ひとりが離れないのではなく、自分が離さないのだとあえて宣言することで、ひとりの気恥ずかしさを和らげるという有紗の気遣い。それは、当事者であるひとりももちろん気付いており、少し頬を染めてさらに有紗に体を密着させていた。

 

「……うん。まぁ、とりあえず、大丈夫そうだし、私とリョウはボートで遊んでくるから……よし、出発!」

「じゃ、そういうことで……え? まだ私が引くの?」

 

 有紗とひとりの間に流れる甘い雰囲気を察し、よく披露しているキツネ顔になった虹夏とリョウは、そのままふたりを残してボートで遊びに行く。

 そして、海の中でピッタリと密着するように抱き着きながら、ひとりは胸の高鳴りを感じていた。安全な場所に来たことで、気恥ずかしさと……そして、なにより有紗が助けてくれて嬉しいという気持ち、頼りになる有紗のカッコよさを再確認して胸の奥がむず痒い感じだった。

 

「……あっ、有紗ちゃん……あの……えっと……」

「ひとりさん、体調などに異常は無いですか?」

「あっ、はっ、はい。大丈夫です」

「それならよかったです。では、申し訳ないですが、先ほど言った通り私はもう少しひとりさんを抱きしめていたいので、このままでお願いします」

「……あっ、はい……その……私ももう少し……有紗ちゃんにくっついていたかったので……」

「ふふ、それは奇遇ですね」

「……はい」

 

 穏やかに微笑む有紗の顔を見て、ひとりは照れながらもはにかむような笑顔を浮かべてギュッと有紗に抱き着いた。

 

(ああ、本当にどうしよう……気付かない振り、してるのに……有紗ちゃんは優しくて、カッコよくて……困ったなぁ。もう安全な場所に移動してるはずなのに……ドキドキが収まらない。こんなにしっかりくっ付いてるんだし、有紗ちゃんに聞こえちゃったら……どうしよう……)

 

 そんな風に考えながらも、体を離したりすることはなく、ひとりはしばし有紗に甘えるように抱き着いていた。そう遠くない内に、心の奥に秘めた気持ちに気付かない振りもできなくなるのではと……そんな実感を抱きながら……。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんとの仲は非常に良好で、隙あらばいちゃいちゃしている。危ない状態でも即座に助けてくれたり安心させてくれたり、恥ずかしい思いをさせないように庇ってくれたりとスパダリ感が凄い。

後藤ひとり:有紗といる時は恋する乙女をしてるぼっちちゃん。もうそう遠くない内に気持ちに気付かない振りもできなくなりそうと、そんな予感を覚えている。

世界のYAMADA:原作より虹夏へのラブ度が高いせいか、サメ映画を見るのを止めて虹夏の説得を受けて一緒に海で遊んでいた。

喜多郁代:御労しや……喜多上……さっつーが結束バンドメンバーとほぼ関わりがないばかりに……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。