ハプニングもありつつ海でひとしきり遊んだあとは、バーベキューの用意を行います。大型冷蔵庫の中から必要な食材を用意して、下ごしらえを虹夏さんと一緒に行います。
「いや~有紗ちゃんが居てくれて本当に助かるっていうか、自分以外にも料理が上手な子がいると安心感があるよね。こういう時の準備を分担してできるだけでもありがたいよ」
「確かに5人分の準備をするのは大変ですね。虹夏さんは頼りがいがありますし、リーダー気質なのでこういった際には指示を出す側に回ることも多いですから、仕事量が多いと大変ですね」
実際私が居ない状態で結束バンドメンバー4人で来ていたとしたら、虹夏さんが下準備を主導しながら各メンバーに仕事を振り分ける指示を行う必要があったでしょうし、虹夏さんの負担が非常に大きくなっていたと思います。
「いや~リーダーっぽくないリーダーなんだけどね」
「そんなことないですよ。誰がなんと言おうと結束バンドのリーダーは虹夏さんです。こういった全員で出かけた際に、自然と中心となることや面倒見のよさも含めて、気質がリーダーに向いているんだと思いますよ。なので、自信を持ってください」
「うぅ、有紗ちゃん、優しい……ありがと、そう言ってもらえると嬉しいよ」
私の言葉を聞いた虹夏さんは、少しだけ目を潤ませた後で明るい笑顔を見せてくれました。そんな虹夏さんに微笑み返しつつ視線を動かすと、他の3人がバーベキューを行う金網の準備を行っていました。
なにやらリョウさんが自信満々の様子でひとりさんと喜多さんに話をしています。
「こうやって、炭の量を調整して火力にムラを作ることで、焼く時に強火や弱火を使い分けられるようになる」
「あっ、そっ、そうなんですね」
「リョウ先輩、博識! どこで知ったんですか?」
「車校で見た漫画に載ってた」
「免許取りに行ってるんですよね!?」
教習所の漫画を読んで得た知識を披露しつつ準備をしている姿は、なんだかんだで仲のよさそうな雰囲気を感じて微笑ましいです。
ひとりさんも、指示待ちといった感じではなくある程度いろいろ考えて自主的に動いている印象でした。
「……あっ、飲み物用意しますけど、お茶と炭酸でいいですか?」
「大丈夫だと思うわ。私はいまから着火して火の調整するね。リョウ先輩は、ひとりちゃんを手伝ってあげてもらえますか?」
「分かった」
チーム分けとしては、比較的料理が得意な私と虹夏さんが食材の準備を行い、残る3人が食器や金網の準備を行っています。
喜多さんがある程度バーベキュー慣れしているようで、上手く作業を分担してくれている印象でした。
「なんだかんだでリョウもちゃんと手伝ってるみたいで安心だね」
「最初から比較的自主的に動いていたように見えますよ」
「あ~それはアレだよ。ぼっちちゃんが意外とちゃんと準備の手伝いをしてるからね。ひとりだけなにもせずにいるのは、流石にバツが悪かったんでしょ」
実際虹夏さんのいう通り、リョウさんはああ見えて結束バンドのメンバーに対してはそれなりに友好的と言うか、他の相手とは違って気遣いを見せることも多いです。
今回に関しても、喜多さんの指示に素直に従ってあまり文句も言っていない様子なので、虹夏さんも安心しており微笑むその視線は優し気でした。
「……さて、虹夏さんこちらの下準備は終わりましたよ」
「あ、丁度私もこれで……よし、準備おっけ~!」
そうこうしているうちに食材の準備も完了し、金網などの準備もできているようだったので予定通りバーベキューが開始されました。
肉や野菜など、それぞれが思い思いの食材を焼いていく中、ひとりさんがなにやら不安げな表情を浮かべていたので、近づいて声をかけます。
「ひとりさん、どうしました?」
「あっ、いえ、果たしていまの私のBBQポイントが、肉を食べられる段階まで足りているかどうかに悩んでいました」
「……BBQポイントとは?」
「あっ、えっと、BBQの準備への貢献度によって加点されるポイントです。てっ、点数が低いと肉へ手を出した時のヘイトが多くなります。わっ、私はまだいいところ10BBQポイントぐらいです」
初めて聞く概念なのでチラリと周囲の虹夏さんたちにも視線を向けますが、意味が分からないという表情を浮かべているのでひとりさんの独自システムかもしれません。
虹夏さんがチラリとこちらを見て「ぼっちちゃんに関しては任せた」というアイコンタクトを送ってきたので、虹夏さんたちはこのBBQポイントの会話に加わるつもりはないようです。
「……なるほど、ちなみに私のポイントは?」
「あっ、有紗ちゃんは食材の用意に準備、場所や道具の提供……あっ、圧倒的貢献度……500BBQポイントで、ぶっちぎりのトップです。このBBQの全てを自在にコントロールする資格のあるBBQクイーンです!」
一瞬そのすべてを自在にできる権限でBBQポイント制を廃止にできないかと考えましたが、別のことを思いついたのでそちらを実行することにしました。
「ひとりさん、ひとつ質問なのですが……例えば、私がひとりさんになにかを食べさせる際は、私のポイントとひとりさんのポイント、どちらが適用されるのでしょうか?」
「あっ、えっ、えっと……その場合は、有紗ちゃんの意思なので……有紗ちゃん、ですかね?」
「なるほど、では問題ありませんね」
「うっ、うん?」
不思議そうに首を傾げるひとりさんに対し、私は丁度食べごろの肉を箸で掴んでひとりさんに差し出します。そう、ひとりさんの理論によるところのBBQポイントが足りないのであれば、私が食べさせれば問題ないというわけです。
「あっ、あむ……おっ、美味しいです!」
「ふふ、こうして私がひとりさんに食べさせれば、BBQポイントを気にしなくて大丈夫ですよ」
「なっ、なるほど、流石有紗ちゃん……あっ、でっ、でもこれじゃ私が有紗ちゃんに食べさせてあげれないです」
「確かにそれは問題ですね。ポイントの譲渡はできますか?」
「じょっ、譲渡……あっ、有紗ちゃんはBBQクイーンなので……たぶんOKですかね」
「なるほど、では、私のポイントを100ポイントひとりさんに譲渡すれば、ひとりさんも私に食べさせることができます」
「あっ、そっ、そうですね! あれ? でっ、でも、これなら普通に食べれる気も……まっ、まぁいいか……有紗ちゃん、どうぞ」
若干戸惑ったような表情を浮かべたあと、ひとりさんもバーベキューの肉を箸で取り、私に食べさせてくれました。普通に食べても美味しい肉ですが、ひとりさんに食べさせてもらうとさらにおいしい気がしますね。
「……おかしい。ぼっちちゃんの奇行を、有紗ちゃんに対応してもらおうと思ったら、いつの間にかいちゃついてた……」
「完全にいつも通り」
「いつものふたりですよね」
虹夏さんたちの呆れたような声を聴きつつも、食事を楽しんでいると……不意に虹夏さんが叫びました。
「お前ら全員箸止めろ!」
なにかを我慢していたような表情の虹夏さんは、グッと拳を握った後で熱く語り出しました。
「さっきから見てれば、火加減、投入順、配置、肉を裏返す時の手のフォーム、全然ダメダメだ! ……有紗ちゃん以外!!」
「BBQ奉行!?」
「というか、有紗はOK判定なの?」
「有紗ちゃんは、無駄に完璧で文句のつけようがない! けど、他の奴らは全然なってねぇ!!」
どうやら虹夏さんはバーベキューの焼き方にかなり拘りがあるようです。ただ、私に関しては問題ないらしいです。特になにかを意識したわけではなく、普通に焼いていただけなのですが……いえ、もちろんひとりさんに食べてもらうわけですから、焼き加減には気を使っていますが……。
「特に喜多ちゃん! フランスパンにお好み焼き、カステラって……なんでそんなの投入してんの!? 闇BBQじゃねぇんだぞ! というか、どうやって金網でお好み焼き作った!?」
「変わり種面白くないですか~?」
「BBQへの造詣が深いとか豪語してたけど、一番BBQへの解像度低くない!?」
「味より皆が盛り上がるのが優先っていうか~なによりも写真撮って映えるかどうかが重要って感じですね!」
「解釈違いなんだけど!?」
なんとなくの印象ではありますが、定番のしっかりとしたバーベキューを好む虹夏さんと、面白く華やかなバーベキューを好む喜多さんの意見が対立している感じですね。
とはいえ、喧嘩しているというよりはじゃれているという感じなので、騒ぎつつもなんだかんだで楽し気ですね。リョウさんは黙々と肉を口に運んでいます……まるで食い溜めをしようとしているようにさえ見えますね。
「あ、ひとりさん口の周りが少し汚れてます。じっとしていてくださいね」
「あっ、ありがとうございます……なっ、なんか、こうして有紗ちゃんとバーベキューするのは、楽しいですね。まっ、前はホットプレートだったので、ちょっと違う雰囲気です」
「そうですね。確かに金網で焼くとまた味わいも違ってきますし、この雰囲気も楽しいですね。もちろんなによりも、ひとりさんと一緒だからこそより楽しいのでしょうが……」
「えへへ、わっ、私も、有紗ちゃんと一緒だから……楽しいです」
そう言ってひとりさんは、スッと身を寄せて肩と肩と触れ合わせるようにしながら微笑みました。その愛らしさもさることながら、こうしてすぐ近くで一緒にバーベキューを楽しめているというのが最高に幸せです。
楽しい思いを共有することでより大きくなるというか、ひとりさんと同じ気持ちを感じられていることで2倍、いえ、それ以上に楽しく幸せな感じがしますね。
「……喜多ちゃん、私たちがBBQ論を語り合ってる間にバカップルがまたふたりの世界作ってるよ」
「……これ完全に私たちの存在がふたりの中から消えてますね。なんか、甘い雰囲気が……気のせいか、前よりラブオーラが強いような……」
「喜多ちゃん、このふたりを見てると争いって醜いなって思えてくるよね……止めよう……あと、お好み焼き食べていい?」
「一緒に食べましょう。きっとBBQ論に貴賤なんて無いんですよ。皆違って、皆素晴らしいんです」
「……もぐもぐ……なんだろ、この蚊帳の外感。あと肉美味い。流石有紗の用意した肉……もぐもぐ」
時花有紗:場所及び食材及び機材の提供、食材の下準備と調理、ぼっちちゃんの好感度補正で500BBQを獲得しているBBQクイーン。とりあえず、ぼっちちゃんとふたりで作り出す甘い空間度濃度が増しているらしい。
後藤ひとり:君まったく己の感情に気付かない振りとかできてなくない? と思うほど、有紗に対して大好きオーラを隠さなくなったぼっちちゃん。例によっていちゃいちゃしてた。
世界のYAMADA:珍しく、この5人の構図で喜多上ではなく蚊帳の外になっていた。後のローン地獄のために、いまのうちに高級食材を食い溜めしておく腹積もり。
なにかの格差社会:具体的になにがとは言わないが、ぼっちちゃん>有紗>リョウ>虹夏>>>喜多のイメージ……いや、本当になにがとは言わないが、水着になると如実に……。