バーベキューを楽しみ、別荘に戻った結束バンドの面々は食休みをしつつ、今後の予定について話し合う。
「この後はどうしよう? 日も落ちてくるし……」
「もちろん肝試し大会に決まってるじゃないですか! 今日はオールです!」
「えぇぇぇぇ!?」
「耐久ホラー映画鑑賞でもいいですよ! コスメいっぱい持ってきたから、皆にメイクして遊びたいな~。あっ、ゲームでもいいですよ! トランプなら持って来ましたし、大きなテレビもありますし!」
「……なんで、郁代はこんな元気なんだ」
「あっ、わっ、私たちとスタミナが違い過ぎます」
ウキウキとした様子で話す喜多に、虹夏は苦笑を浮かべ、ひとりとリョウは疲労が残る表情を浮かべていた。そもそも、普段からアウトドア派の喜多は、他のメンバーとは基礎体力がまったく違う。
長時間の車での移動、海での遊び、バーベキューを経て、未だに元気いっぱいなのは喜多ともうひとりだけだった。
「皆さん、お茶を淹れてきましたので、どうぞ」
「ありがと~有紗ちゃん!」
「……有紗も元気だよね」
「あっ、有紗ちゃんが疲れてるところなんて、ほぼ見たことが無いです。正月明けぐらいです」
喜多と同じく他のメンバーと圧倒的なほどに基礎体力が違う有紗も平然としており、紅茶を淹れてきてそれぞれの前に並べる。
そんな有紗に対して、喜多がウキウキとした様子で尋ねる。
「有紗ちゃん! この別荘の周辺に、なんかこう祟りが起こる祠があるとか、一家心中した建物があるとが、地縛霊が住み着ているとかそういうのは?」
「……あっ、有紗ちゃんちの別荘を凄い設定にしようとしてます」
「どんだけ、肝試しやりたいんだ」
目をキラキラとさせながら話す喜多を見て、ひとりとリョウはなんとも呆れた表情を浮かべており、虹夏はなにやら不安げな表情を浮かべていた。
そして問いかけられた有紗は、少し考えるような表情を浮かべたあとで苦笑して口を開く。
「ええ、ありますよ」
「え? あるの!?」
「実はこの別荘は、売りに出されていたものを購入したのですが、プライベートビーチ付きの別荘にしては非常に安価だったんです。その理由は、前の持ち主が遭遇した事態にあるらしいです」
「……え? えぇ?」
どこか真剣な表情で語り出した有紗に対し、虹夏は戸惑ったような表情を浮かべる。実は虹夏はホラー系が苦手であり、肝試しの流れはそもそも拒否したい気持ちだった。
「前の持ち主も、丁度いまの私たちと同じように5人でこの別荘に泊って肝試しをしたらしいです。別荘の裏から少し歩いたところに、昔使われていた古い家屋がありまして……そこに置いたお札を取ってくるというだけの簡単な内容だったそうです」
「あ、あれ? こ、これ、怖い話始まるパターンじゃ……」
「5人という人数だったので、じゃんけんでチームを分けて、2、2、1という形で別れて時間をずらして出発。ゴールの家屋で合流という形にしたそうで、家主だった人物は最後にひとりで向かう形になったそうです。家主が暗い夜道を懐中電灯を頼りに歩いていると、途中で先に出発したはずのふたりのうちのひとりと出会いました。どうにもはぐれてしまったとのことで、流れで家主はその人と一緒にゴールに向かうことになったそうです」
ちなみに、ひとりはお化け屋敷などでは人の驚いている声に驚きこそするが、基本的に幽霊などはあまり怖いとは思っていない。薄暗いところに居るなど、むしろある程幽霊にシンパシーを感じているところさえある。
リョウはまったく問題なく、むしろ彼女の心を占めているのは「また外に出るのは面倒」という思いだった。
「楽しく会話をしながらゴールを目指していたのですが、家主はなぜか強烈な違和感を抱きました。しかし、それが何故かは分からないままゴールに辿り着きました。するとそこには、他の3人が居て肝試しはお開きとなり、5人全員で帰ることになりました」
「「……」」
有紗の語り方や声のトーンが上手いからだろうか、喜多と虹夏は互いに手を握って息を飲む。実は虹夏だけでなく、喜多も怖いのは苦手である。ただ、彼女の場合は怖がること自体も楽しんでおり、肝試しの様子をイソスタライブで配信するなどの計画も立てていた。
「懐中電灯を持って先頭を歩く家主の後方で、はぐれたひとりを非難するような会話をしつつ賑やかに話す4人、全員揃っていてもう肝試しも終わり。安心できる状況のはずでした……しかし、家主は先ほど以上の強烈な違和感を覚え、少ししてその違和感の正体に気付きました」
「「……ごく」」
「……足音が、聞こえないのです。それなりに舗装されているとはいえ、山に面した道で小枝や砂利などもありました。現に家主自身の足音は聞こえます。しかし、後方に賑やかに話す4人の足音が全く聞こえないんです。ゾッと背筋が冷たくなった家主に、後方から声がかかりました……こっちを向いてと……その声に導かれるように家主が振り返ると、目も鼻も無く口だけの顔になった4人の友人が笑っていて……そして、夜道から全ての足音は消え去りました」
「ギャアァァァァァ!?」
有紗の話を聞いて、虹夏は叫び声をあげて近くに居たリョウに飛びついた。ガタガタと震える虹夏を、リョウは若干戸惑った表情を浮かべつつ安心させるように頭を撫でる。
それで少し落ち着いたのか、虹夏は青ざめた顔を上げながら必死の様子で叫ぶ。
「や、やめよう! 肝試しなんてやるもんじゃないよ!! というか、そんな曰く付きの場所に居たくないよ!!」
「……あ、えっと、虹夏さん、怖がらせて申し訳ありません。いま即興で考えた作り話です」
「えぇぇぇぇ!? つ、作り話なの!?」
「ええ、この別荘はお父様が建てたものなので前の持ち主なんていませんし、そもそも別荘裏に古い家屋なんてありません。喜多さんの話にノッてみたのですが、そこまで怖がるとは思わなくて……」
「有紗ちゃんの語り方が迫真すぎるんだよぉぉぉ、本当に怖かったんだから!!」
「……あの、虹夏、そろそろ離れて……暑いし」
作り話だったという有紗の言葉に虹夏は半泣きになりつつ叫ぶ。本人は無意識なのだろうが、リョウにがっしりと抱き着いており、抱き着かれた側のリョウは照れているのかソワソワと落ち着かない様子だった。
「け、結構怖かったですね。いつの間にか周りの人たちが別人に変わってる……でも、肝試しに向けた空気が出来上がってきましたね!」
「えぇぇ、き、喜多ちゃん、止めようよ……ね? ね?」
「に、虹夏……苦しい、ちょっと力緩めて……」
有紗の即興の作り話で肝試しにむいた空気ができたと喜多が喜び、虹夏が肝試しは止めようと提案する。そんな中、ひとりは有紗に話しかける。
「あっ、有紗ちゃんはお化けとかは?」
「……どうでしょう? もし怖いと言ったら、ひとりさんが守ってくれますか?」
「え? あっ、はい。わっ、私お化けは平気ですし、あっ、有紗ちゃんのことは私が守ります!」
「ふふ、それは頼りになりますね」
「えへへ、わっ、私もたまにはカッコいいところ見せたいですし……」
「ひとりさんはいつでもカッコよくて素敵ですよ」
「ふへへ、もっ、もぅ、有紗ちゃんはいつもそうやって大袈裟に褒めるんですから……」
実際のところ有紗もお化けや幽霊はまったく怖くは無いのだが、グッと拳を握って決意を固めるひとりを微笑まし気に見ていた。
そのまま、再びふたりだけの世界に突入するのがいつもの流れではあるが、今回は話の途中なので名残惜しさは感じつつも会話に戻る。
依然、必死に肝試しを撤回させようとしている虹夏に対して、目に「映え」という文字を浮かべながら説得を行う喜多、そして虹夏に抱き着かれて若干頬を赤くして素知らぬ顔でそっぽを向いているリョウ……その3人を見て、軽く苦笑を浮かべながら口を開く。
「喜多さん。肝試しもいいのですが、実は今日の泊まりにあたって、倉庫に花火などをいくつか用意してもらっているのですが、そちらにしませんか?」
「花火!? 花火があるの?」
「ええ、多めに用意してもらっていますし、置いて着火するタイプのものもあるので、映像でもかなり映えるのではないかと思います。夜の浜辺での、花火なんてのも素敵じゃないですか?」
「有紗ちゃん、最高! 賛成! 花火にしよう! ね? 喜多ちゃん、花火映えるよ。キラキラだよ!」
「そうですね。肝試しはまたの機会にして、夜は花火大会にしましょう!」
喜多は要するに皆と一緒に遊びたいだけであり、肝試しに強い拘りがあるわけではない。単純に夏の定番ともいえるものなので推していただけで、他の遊びでもまったく問題はない。
海辺での花火となればイソスタライブでもかなり映えそうなので、むしろ大賛成といっていい。その提案のおかげで、肝試しを回避した虹夏はホッと胸を撫で下ろした。
「……よかったね、虹夏」
「う、うん。肝試しにならなくて本当によかった。流石有紗ちゃんは準備がいい……え? じゃあ、さっき即興の怖い話いらなかったじゃん……」
「まぁ、いいんじゃない。私も遠くまで歩いたりとか嫌だし……いざ実際に肝試しになっても、虹夏は私が……」
「うん? なんか言った?」
「……いい加減離して、暑苦しい」
そっけなく告げてそっぽを向くリョウの頬は、心なしか赤みがかっているように見えた。
「あっ、有紗ちゃんと花火は前にした時以来ですね」
「ですね。今回は5人ということもあってかなり多めに用意しているので、華やかに楽しめそうですね」
「たっ、楽しそうです。あっ、えっと、一緒に線香花火とかしたいなって……」
「いいですね。並んで線香花火をするのも、風情があってとても素敵ですね。是非やりましょう」
「あっ、はい。えへへ」
これから行う花火に関して、楽しそうに話すひとりに有紗も笑みを返し、ふたりで顔を見合わせ合って笑顔を浮かべる。
ちょうど日も沈み、外が暗くなったため花火には適したシチュエーションになってきたので、結束バンドの面々はワイワイと楽しく会話をしながら、倉庫に向かってあらかじめ用意されていた花火などを運び出す。
時花有紗:ホラー系はまったく問題なし。ただひとりに守ってもらうのもそれはそれいいなぁと思ってはいる。ノリがいいので、即興で作り話とかもしてくれる。
後藤ひとり:お化けなどは平気だが、人の悲鳴でビックリするタイプ。肝試しでも花火でも、どっちにせよ有紗といちゃいちゃしてそう。
伊地知虹夏:ぼっちちゃんのブリッジ、こんにゃく各種でも律儀に悲鳴を上げていたぐらいは怖いのが苦手。
喜多郁代:怖いのは苦手(自称)だが、イベントとして怖いのも楽しむタイプ。
山田リョウ:肝試しは怖いよりも面倒。今回は唐突に虹夏に抱き着かれたため、内心は結構焦っていた。