肝試しではなく花火を行うことにして、倉庫から協力して花火を浜辺に運びます。今回はイソスタライブで配信を行うということで、喜多さんがウキウキとした様子でスマートフォンを自撮り棒に付けて撮影しています。
「こんばんは~! 今日のイソスタライブは、なんとメンバー全員で、サポートメンバーの有紗ちゃんも合わせて5人制揃いです! そして今回は、海辺で花火を行います!」
『5人配信レア~!』
『喜多ちゃん可愛い』
『有紗様、有紗様が参加なんですね!』
ちなみに今回は用意したノートパソコンと喜多さんのスマートフォンを連動させているので、パソコンの画面でライブのコメントなども見えます。
私たちはほぼ参加することはないですが、主に喜多さんと虹夏さんが中心でライブ配信は時折やっているみたいです。割合としては喜多さんが9、虹夏さんが1ほどなので、ほぼ喜多さんがイソスタライブを行っている感じですね。なので、喜多さんは慣れたものでスマートフォンをこちらに向けてきました。
「じゃ、スタ練とかのライブ配信にほぼ出ることがなくて、登場がレアな有紗ちゃんも何か一言!」
「視聴者の皆様、こんばんは、時花有紗です。本日は皆で花火を行うだけという単純な内容ではありますが、楽しんでいただけたら幸いです」
『あぁぁぁぁぁ!? ちょえ! 有紗様がポニーテール!? かわちいカーニバル過ぎて、てぇてぇ祭りが開催されてます! ありがたや、ありがたや……』
『有紗様は普段はなかなかライブ配信に出ないので、マジで超レアキャラ』
『でた、最強ビジュアルの有紗様だ!』
こういったライブ配信では少し呼び方に変化が出るもので、ひとりさん、喜多さん、虹夏さんはちゃん付けで呼ばれることが多く、リョウさんと私は様付で呼ばれることが多いです。
というか、演奏メンバーではない私ですがなんだかんだでファンの方々には、結束バンドのメンバーとして周知されているようで、ライブ配信を見に来てくださる方々となると、私のことはご存知です。
「……やっぱ、有紗ちゃんがでるとコメントの伸びがとんでもない。あとなんか……イソスタライブに有紗ちゃんが出ると毎回爆速で最初のコメントする熱心なファンがいるような……まぁ、いいか。そんなわけで、皆で花火をしていきま~す!」
まぁ、ライブ配信こそありますが基本的にはファンの方々に結束バンドメンバーの日常風景を楽しんでもらうという趣旨なので、私たちは気負わず普通にしていれば問題はありません。
ひとりさんはカメラが苦手なので、こちらにカメラが向くと私の背後に隠れてしまいますが、事前に何秒後にカメラを向けると宣言しておくと大丈夫です。心の準備ができるかどうかの差なのでしょうね。
「よし、手持ち花火もいいけど、最初は画面映えもする派手な花火にしようか!」
「虹夏、大丈夫? ちゃんと足音聞こえる?」
「ひっ!? リョウ~なんで今その話を蒸し返した」
「ビビりまくっててウケる」
「ふんっ!」
「……暴力反対」
置いて火を付ける吹き出し式の花火を始めようとした虹夏さんを揶揄い、ゲンコツを落とされているリョウさんを喜多さんが撮影する光景を眺めつつ、私はひとりさんと並んで手を繋いでいました。
いえ、特にこれといった理由は無いのですがなんとなくまだ手持ち花火で遊ぶ雰囲気ではないので、自然とその形になったというべきでしょうかね。
「……海風のおかげか、涼しいですね」
「あっ、でっ、ですね。それになんか、静かでいい雰囲気です」
「確かに、さざ波の音が聞こえるのがなんとも素敵ですね」
「はい……あっ、虹夏ちゃんが火を付けましたね。わっ、綺麗です」
ひとりさんの言葉に導かれるように視線を向けると、吹き出し式の花火が勢いよく火花を散らし、暗かった海辺を明るく照らしていました。
最初だからか、かなり大型で派手なものを選んだようでかなりの迫力です。打ち上げ花火の派手さとはまた違った感じの雰囲気に、ひとりさんと軽く顔を見合わせて微笑み合ったあと、花火を囲む皆さんの輪に入ります。
「さぁ、どんどんやっていこう! 手持ち花火もいっぱいあるしね!」
「ですね! あっ、リョウ先輩こっちに目線ください!」
「高いよ? 投げ銭はちゃんとあるの?」
「伊地知先輩が18歳になってすぐプロアカウントへ切り替えたので、投げ銭もちゃんとありますよ~。貰えるかどうかは別として……」
イソスタライブの投げ銭機能は、支払いアカウントに年齢制限があり18歳以上であることが条件です。リーダーである虹夏さんが18歳になっているので、いまは問題なく使えていますね。
実際パソコンの画面を見てみると、ポツポツと投げ銭機能によるマークがついたコメントが投稿されていました。
『リョウ様にお布施です』
『リョウ様、カッコいい』
『お願いです。投げ銭するので有紗ちゃんとひとりちゃんを映してください』
といった感じで、最後のコメント辺りはリクエストですね。そのリクエストに応えて喜多さんがこちらにスマートフォンを向けたので、俯くひとりさんと手を繋いだ状態で軽く手を振ります。ところで、最後のコメントをしたアカウント名が「2号」となっているのですが……2号さんでは?
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時折イソスタライブのリクエストに応えたりしながら、皆で花火を楽しみます。手持ち花火をある程度遊んだあとは、先に話していた通り、私はひとりさんと並んでしゃがみ線香花火をしていました。
「綺麗ですね」
「あっ、はい。なんか、この控えめな感じにシンパシーというか……わっ、私、線香花火は結構好きです」
「私も線香花火は好きですよ。派手で華やかな花火とはまた違った。優しい雰囲気が素敵ですね」
「あっ、はい。一緒ですね……えへへ」
「ふふ、ですね」
身を寄せ合って線香花火を見つめながら他愛のない会話をする。ささやかではありますが、とても幸せを実感できる距離感とでも言いますか、こういうのも本当によいものです。
なにより、花火に照らされるひとりさんの横顔は、普段とはまた違った美しさがあって思わず見惚れてしまうほどです。
そんな風にひとりさんと花火を楽しんでいると、喜多さんがなにやら明るい口調でスマートフォンに向かって話しかけます。
「ではでは、ここからは知り合いの人を招いてのコラボ配信タイムです! ゲストはこの方です!」
そう言って喜多さんが宣言しつつパソコンを操作すると、画面が切り替わって酒のパックを持ったきくりさんの姿が映りました。
『どもども~花火見ながら酒を飲むのもおつなものですね~。自分で花火買うと高いので、ライブ見ながら飲んでま~す。廣井です~!』
「……花火とか関係なくいつも飲んでるでしょ、廣井さん!」
『あはは、そういえばそうだね~。それより皆楽しそうでいいなぁ、私も旅行とか行きたいよ~。まぁ、私が旅行に行こうとすると夜逃げと勘違いされて、借金取りが追いかけてくるんだけどね~』
「喜多ちゃん! なんでよりにもよって、この人をコラボ相手にしたの!?」
画面に映ったきくりさんは本当にいつもの調子であり、虹夏さんがツッコミを入れます。ただまぁ、それでもきくりさんは人気バンドのひとりで知名度もあるので、コラボ相手としては有りと言えば有りなのかもしれません。まともなコメントをしてくれるかどうかは別として……。
『あれ~廣井さん、なにしてるんですか~?』
『あ、幽々ちゃん。いま、結束バンドの皆とコラボしてるんだよ~幽々ちゃんも出る?』
「あ、内田さん」
そのままきくりさんとの会話が続くかと思われましたが、そこでひょっこり幽々さんが画面内に現れました。どうやらきくりさんは新宿FOLTに居るみたいで、たまたま通りがかった幽々さんも興味を持って来てくれたみたいです。
『こんにちは~喜多さん。おや~皆さん、なにやら霊が好みそうな雰囲気の場所にいますね~。海辺とかでしょうかぁ~』
「え? そ、そそ、そんなの分かるの?」
『はいぃ。海辺など水のある場所は、霊が好みますからねぇ~。幽々くらいになると、直接画面に映って無くても、気配を感じるんですよ~』
『幽々ちゃんは霊感があるからね~』
『いえ~霊感ではなく幽々の力はあくまで魔力であって、サタン様に力を……』
きくりさんに尋ねられての自分の力について細かく説明する幽々さんですが、虹夏さんはそれどころではない様子で青ざめた顔で周囲をキョロキョロと見回したあとで、幽々さんに問いかけます。
「……あ、あの、内田さん? な、なんかいるのこの辺……その、霊的な……」
『うん? ああ~大丈夫ですよぉ。有紗さんが居ますし~……有紗さんの祝福は桁違いですからね~ぼっちさんに憑いてた凄いのも~躾けられた犬みたいに大人しくなってますし~ウチのヨヨコ先輩に憑いてる凄いのもぉ、有紗さんが近くにいると怯えて大人しくなるぐらいです~。なのでぇ~現世に存在する程度の霊では太刀打ちできませんから、その付近の霊たちもいまは怯えて大人しくしてると思いますよぉ』
私には霊感は無いのでよく分かりませんが、幽々さんの話では私には非常に強い神様の祝福があるらしく、並大抵の霊では近づくことすらできないらしいです。
その辺りの話は本人に伺ってもよくは分かりませんでしたが、要約すると私が近くに居ればひとりさんの運の巡りがよくなったりするとのことなので、良い影響があるのなら問題はないと認識しています。
「……とりあえず、ひとりさん。あちらはあちらで幽々さんの話が長くなりそうな雰囲気なので、私たちは引き続き花火を楽しんでいましょか」
「あっ、はい。そうですね……あっ、えっと……」
霊について幽々さんが熱く語っており、喜多さんや虹夏さんがリアクションしつつ対応しているので、私とひとりさんは普通に花火を楽しむことにしました。
新しい線香花火に火を付けようとすると、そのタイミングでひとりさんが周囲の様子を伺いながら小声で話しかけてきました。
「……あっ、その……ちょっ、ちょっとだけ、もたれ掛かっても……いいですか?」
「はい。もちろんですね」
「あっ、ありがとうございます」
私が了承すると、ひとりさんは嬉しそうな表情を浮かべて少し私にもたれ掛かり……私の肩に頭を乗せるような形で、引き続き私と一緒に線香花火を楽しみました。
時花有紗:結束バンドファンにはかなり人気があるが、演奏メンバーではないためなかなか配信に登場しない激レアキャラ。物凄い祝福があるらしく、ぼっちちゃんやヨヨコパイセンの凄いのも、有紗の前では大人しくなるため、有紗が近くにいるとふたりの運気が上がる(下がっていたのが戻る)。
後藤ひとり:隙を見てこっそりいちゃついたりしてる姿が大変可愛い。本人がチワワっぽくなってるからか、憑いてるのも犬っぽくなってる。ところでタイトルの寂寥とは「人の気配がなく寂しい感じがするさま」である。次話の展開は読めたな……。
爆速コメントのファン:ラファエルもとい恵恋奈ちゃん。有紗が登場しない時は基本リョウ推し、有紗が出たら誰よりも早く爆速コメントをする有紗推し、ぼっちちゃんと有紗のツーショットなら、コメント量はさらに倍。
2号さん:正体がまったく隠せてない有後党党首。有紗とぼっちちゃんが手を繋いでるのを見て、パソコンの前で虚空に向かってサムズアップをしていたとか……。