ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十手新鋭のアルバイト追加~sideA~

 

 

 ひとりさんと一緒に数日かけて編曲を行い、それなりに納得がいく完成度になったので他のメンバーの皆さんにも聞いてもらうことになり、8月の末日にSTARRYに集合して打ち合わせとなりました。

 

「で、完成版がこれなんだね?」

「あっ、はっ、はい。いっ、いちおう……」

「私もひとりさんも経験が不足しているので、まだ直しは多く必要だとは思いますが……」

 

 私のその言葉に続くようにひとりさんがやや緊張した面持ちでパソコンを操作して曲を流し始めます。虹夏さん、喜多さん、リョウさんの3人は真剣な表情で聞いてくださっています。

 

「……なるほど……え? かなりいいと思うんだけど、喜多ちゃんやリョウはどう?」

「私もいいと思います! いままでの曲とはちょっと雰囲気が違う感じが、新鮮ですよね」

「初めての編曲にしては、相当いい完成度だと思う。直しはたしかに必要だと思うけど……面白い掛け合わせが多い。私だと思いつかないようなアイディアもあって、インスピレーションがかなり湧いてくる」

 

 思った以上に好感触みたいで、思わずひとりさんと顔を見合わせて笑い合いました。確かに、ひとりさんの発想は新鮮なものが多く、リョウさんが作る曲とはまた違った雰囲気があるので、一緒に編曲していて楽しさがありましたね。

 

「編曲は作曲とはまったく別物だから、もっと苦戦するかと思ってたけど光るところも多くて、かなりいい」

「えへへ……あっ、でっ、でも、有紗ちゃんが手伝ってくれなかったら上手くいかなかったと思います。わっ、私だけだと滅茶苦茶な感じになってましたし……」

「私がしたのはあくまで補助なので、アイディアは殆どひとりさんの功績ですよ」

「うん。ぼっちの奇想天外なアイディアを有紗が上手く現実的な形に纏めてる印象……さすが、夫婦、相性バッチリ」

「ふっ、ふふ、夫婦じゃないです!?」

「そうですね。あくまで、現時点では違います。ただ、未来のと頭に付けて貰えれば問題はありません」

「あっ、有紗ちゃん!?」

 

 顔を赤くして叫ぶひとりさんに苦笑しつつも、概ね編曲は好印象で、そのままメンバーでアレコレ意見を出し合って、最終的にリョウさんが直しを行う形になりました。

 それほど直す部分も多くなかったみたいで、翌日にはリョウさんの直しも終わりました。あとは実際に演奏しながら、細部を調整していく形ですね。

 

 

****

 

 

 高校の新学期が始まって数日が経ち、結束バンドもレコーディングに向けてスタジオ練習を頑張っている状態です。特に虹夏さんなどは、もうすぐ受験のシーズンに突入するので忙しくなりそうですし、時間があるところでしっかり練習しておきたいという気持ちが伝わってきます。

 とはいえ、レーベルに関する活動だけというわけにはいきません。8月には未確認ライオットの関係でSTARRYのライブは行っていませんでしたが、9月からはライブも再開するので、そちらにも備える必要があります。

 私も今日は比較的時間に余裕もあったので、9月のライブでの物販のラインナップの調整などをしようとSTARRYに向かっていました。

 

 開店前の時間ではありますが、星歌さんのご厚意もあって開店前でも場所などを使わせてもらえるのはありがたいです。

 そんなことを考えながらSTARRYの扉を開き、店内に入るとどうにも普段とは少し違う空気でした。ひとりさんとリョウさん、星歌さんとPAさんがいつのはいつも通りですが、今日は追加で2人いらっしゃいました。

 

 ひとりは見覚えがあります。髪型は変わっていますが、以前池袋のブッキングライブで会った天使のキューティクルのラファエルさんですね。もうひとりは見覚えのない方ですね……そういえば、虹夏さんが受験で忙しくなるので、新しいアルバイトを雇うと考えていると星歌さんが言っていた覚えがありますので、ふたりは新しいアルバイトなのかもしれません。

 

「こんにちは」

「「ッ!?」」

「……え?」

 

 とりあえず挨拶をと思って口を開いた直後、ひとりさんとリョウさんがもの凄い勢いでこちらを振り返り、駆け寄ってきたかと思うと私の背後に隠れてしまいました。

 

「……あっ、ああ、有紗ちゃん、たっ、助けて……」

「いいところに来てくれた、有紗。体育会系と宇宙人のコンビだ。私とぼっちじゃ分が悪い……援軍求む!」

 

 どういうことでしょうか? 現時点では状況がよく分かりませんね。虹夏さんと喜多さんは居ないようですが……今日はシフトに入ってないのでしょうか?

 いまいち状況が分からずに首を傾げていると、ラファエルさんが目を輝かせて近付いて来ました。

 

「有紗様、こんにちは!」

「こんにちは、お久しぶりです」

「……え? 有紗、誰か分かるの?」

「天使のキューティクルのラファエルさんでは? 何度か結束バンドのライブでも姿を見かけましたよ」

 

 ラファエルさんは結束バンドのライブにもよくいらしてました。1号さん、2号さんと一緒に居る姿を見るのが多かったので、おふたりと仲良くなっている印象でした。

 そんな私の言葉を聞いたラファエルさんは、ぶわっと目に涙を浮かべました。

 

「お、推しがえれを認知してくれてるっ……やっぱり、有紗様が圧倒的なんばーわん!」

「改めまして、時花有紗です」

「あ、日向恵恋奈です」

「よろしくお願いします。恵恋奈さんとお呼びしていいでしょうか?」

「もちろんです! むしろありがとうございます!!」

 

 ラファエルさんもとい恵恋奈さんと挨拶をしたあとは、もうひとりの初めて見る方に声をかけます。

 

「そちらの方は、初めましてですね。時花有紗と申します」

「初めましてッ!! 大山猫々です!!」

「よろしくお願いします、猫々さんと呼んでもいいでしょうか?」

「はい!! あ、ところで先輩は?」

 

 もうひとりの方、猫々さんは非常に元気のいい方で明るく挨拶を返してくださいました。ただそのあとで、私が誰かという疑問を抱いたみたいで首を傾げていました。

 それに私が返答しようとするよりも早く、私の背後に隠れていたリョウさんがひょっこりと顔を出しながら口を開きました。

 

「うちのバイトリーダー」

「……リョウさん?」

「あっ、バイトリーダーです」

「……ひとりさんまで?」

 

 バイトリーダーどころか、私がSTARRYでアルバイトをしたのは、人手不足の際に一度手伝っただけなのですが……ただ、いまのおふたりの発言でようやく状況を察することができました。

 恵恋奈さんと猫々さんのふたりの新しいアルバイト、虹夏さんと喜多さんが居ない現状……つまり、ひとりさんかリョウさんが仕事の指導を行う必要があるわけです。

 ひとりさんがそういったことを苦手にしているのはもちろんのこと、リョウさんも苦手そう……というか、元気のいいふたりに苦手意識を持っている感じがしますね。目に「だるい」という文字が浮かんでいる気がします。

 

 とりあえずの事情を察しつつ、少し離れた場所で心配そうな表情を浮かべている星歌さんに視線を向けます。

 

「えっと、星歌さん?」

「あ~その……有紗ちゃん、今日だけバイトリーダーってことで……頼めないか?」

「……分かりました。そういうことでしたら、どこまで指導できるかはわかりませんが協力します」

 

 さすがにこの状態でひとりさんを放置することはできませんし、協力することに決めました。幸い以前虹夏さんに一通り教わった仕事の内容は覚えているので、それを伝えることは問題ないでしょう。

 

「そ、そうか助かる。私もあんまり手が離せなくて、バイト代は弾むから! というわけで、ふたりとも有紗ちゃんに仕事を教わって」

「よろしくお願いします!!」

「有紗様に指導してもらえるなんて、最高です!!」

 

 ひょんなことでおふたりに指導することになった私は、ロッカーを借りて荷物を置かせてもらったあとでホールに戻って、恵恋奈さんと猫々さんと向かい合う形で立って、指導を開始しました。

 

「それでは、フロアの清掃は一通り完了しているみたいですね」

「はい! 部活の習慣でやっちゃいました!」

「それはとても素晴らしいです。ですが、恵恋奈さんへの指導もありますし、猫々さんにとっても部活の清掃と手順が違う部分もあるかもしれませんので、まず最初に一緒にフロア清掃の手順を再確認していきましょう」

「「はい!」」

 

 さて、私がおふたりにすべて指導してしまうのは、それほど難しいことではありませんが、なにもかも私がやってしまえばいいということでもないでしょう。

 特にひとりさんにとっては、アルバイトの後輩ができるわけですし、今後の関係を考えるとひとりさんにもある程度指導には参加してもらいたいです。

 喜多さんに関しては、いちおうひとりさんが先輩とはいえほぼ差は無いぐらいのタイミングでしたし、明確に後輩アルバイトというのは初めてといっていいかもしれないので、そういった人間関係も重要になってきます。

 

「ひとりさん、少し指導を手伝ってもらえませんか?」

「あっ、え? あっ、はい。どっ、どうすれば?」

「おふたりには私が口頭で説明しますので、ひとりさんは実際にその仕事をやって見せてあげてほしいんです」

「あっ、わっ、分かりました!」

 

 説明などは私が行って、ひとりさんには実演をしてもらう形で指導に参加してもらいます。そうすれば、アルバイトの先輩後輩としての関係もある程度良好なものが築ける可能性が高いですし、ひとりさん自身にも指導に参加したという事実が自信に繋がると思います。

 

「恵恋奈さん、猫々さん。いきなりすべての仕事を覚えるのは難しいでしょうから、今日は主に全体のおおまかな流れを覚えてください。あと、物が何処にあるかに関してはメモを取っておいてください。迷った際に見ることができるメモがあるというのは、安心感に繋がりますからね」

「了解ですっ!!」

「はい!」

 

 基本的には仕事をある程度覚えるまでは、それぞれを単独で仕事に当たらせることは無いはずなので、迷った際に聞ける相手というのは近くに居るでしょうが、常に質問ができる状態とも限りませんので、そういった際に見ることができるメモはあったほうがいいです。

 

 さて、とりあえずどの仕事を教えるという指定は無かったので、一通りの仕事を教えつつ恵恋奈さんと猫々さんの適性を見て、向いている仕事に回ってもらう形ですね。

 虹夏さんがアルバイトにあまり入れなくなることを考えると、ドリンクや受付を行えるようになってもらうのが一番ですが、向き不向きはどうしてもあるので、その辺りはしっかり確認しつつですね。

 

 

 




時花有紗:バイトリーダー(バイト経験1日)。ひょんなことから恵恋奈と猫々の指導を担当することになった。ちなみに前日のスタジオ練習には参加していなかったので、新しいバイトが来るという話は聞いていなかった。

後藤ひとり:とりあえずテンパってたところに有紗が来てくれたので、ホッと胸を撫で下ろしたし、指導にも有紗が一緒についていてくれるのでだいぶ精神的に落ち着いている。

日向恵恋奈:原作からしてめっちゃ濃いキャラ。有後党にも所属しており、有紗の指導にウキウキしてる。

犬山猫々:ぼっちちゃんがヒッピースタイルをしていないので、ヒッピー先輩とは呼んでいない。では、なんと呼んでいるかは……次回。
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