ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十二手遭遇のスイーツビュッフェ~sideA~

 

 

 学校の授業が終わった放課後、今日はSTARRYに行く用事もなく、スタジオ練習も無い日なのでひとりさんと放課後デートを……と行きたいところですが、残念ながら今日は出資している店をいくつか回らなければならないので、断念せざるをえませんでした。

 

「内装も雰囲気も素晴らしいですね。オープンを楽しみにしています」

「ありがとうございます。オープンの際には是非」

 

 最初にそれなりの金額を出資している店が来月オープンとなるので、その前に店内の雰囲気などを確認しに来ました。あくまで私は出資者であり店舗経営者ではありませんが、ある程度意見を反映できる立場にあるので、気になった部分があれば指摘するつもりではありましたが、特に問題は無さそうです。

 ぐるりと全体を確認して、オーナーと軽く会話をしたあとで店を出て次の場所に向かいます。

 

 何ヶ所か回り、日もそろそろ沈む時間になってきました。まだ、夏といっていい気候で日が沈むのも遅いことを考えると、それなりの時間が経過していることになりますね。

 今回訪れた店はスイーツビュッフェを主としているレストランで、今回は2店舗目に関する相談でした。

 

 現在の売り上げは好調であり、少し前に雑誌に特集が組まれて勢いに乗っていることもあってオーナーとしては、いい流れのうちに2店舗目を出したいという思いがあるようで、出資の相談を受けました。

 ただ、チェーン店とは違いこういった店は多店舗展開のリスクは高くなります。いまはたしかに流行に乗っていて、雑誌での紹介も経て波に乗ってはいるでしょうが、スイーツビュッフェ自体は競合しやすいですし2店舗目も成功するとは限りません。

 

 なのですぐに返答することはできずに話し合いを進めてきました。オーナーはしっかりした方であり、ただノッているからという理由での展開ではなく、ちゃんとリスクも考えた上でいくつも販売戦略を練っており、勝算はある様子でした。確かに光るアイディアもありますし、2店舗目のコンセプトや出店場所の選定も悪くはないので、成功する可能性はあります。

 3店舗、4店舗と増やすのは難しいでしょうが、2店舗ならオーナーがしっかり舵を取れるでしょう……とはいえ、やはりリスクも大きいですし、2店舗目が上手くいかなければこの1店舗目にも影響が出る可能性もあるので、すぐにやりましょうとは返答し辛いので、今回は一度持ち帰って検討することにしました。

 

 その際に、是非レストランのスイーツビュッフェを食べていってほしいと提案されまして、小腹も空いていたのでご厚意に甘えることにしました。

 雑誌などでも紹介されて若者人気が高いだけあって、内装もスイーツもお洒落で可愛らしい雰囲気で、見た目にもとても華やかで楽しめそうです。

 

 惜しむらくはここにひとりさんが居ないことですね。ひとりさんが一緒であれば、更に美味しく楽しくビュッフェを堪能できたのですが……。

 

 そんなことを考えつつ皿を持ってスイーツを取りに行くと、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

「……あっ、おっ、お洒落過ぎてよく分からない。初めて見るようなお菓子も……こっ、こんな時、有紗ちゃんがいてくれたら教えてくれるのに……」

「……ひとりさん?」

「はえ? あっ、ああ、有紗ちゃん!? なっ、なな、なんでこんなところに!?」

「私は、いくつか出資している店を回っていたところなのですが……ひとりさんは?」

 

 まさか、まさかの展開です。こんなところで偶然ひとりさんと巡り合うとは……やはり私とひとりさんは運命の赤い糸のようなもので結ばれているのではないでしょうか? ともかくこれは望外の僥倖といっていい事態です。

 状況次第ですが、ひとりさんと一緒にスイーツビュッフェを楽しめる可能性もあります。そう思って、逸る気持ちを抑えつつ尋ねると……。

 

「あっ、えっと、私は2次会です」

「2次会、ですか?」

「あっ、はい。クラスメイトが未確認ライオットの審査員特別賞獲得をお祝いする会を企画してくれて、すっ、少し前までカラオケに行ってたんですけど……そのあとで、仲のいい人たちで2次会に行こうって話になって……」

 

 なるほど、それで普段ひとりさんが居るとは思えない場所で遭遇することになったんですね。むっ、しかし、これは微妙な状況では? 学校の友達と楽しんでいる場に学外の私がお邪魔するのは不味いでしょうか? 私としては、ひとりさんの友達の方々とも交流を深めたいですね。

 

「あっ、そっ、それで、喜多ちゃんとかも向こうに居て……他にはAちゃんとBちゃんと、佐々木さんが居ます」

「ひとりさんや喜多さんからたびたび聞いたことがあるお名前ですね」

 

 確か、ひとりさんと仲が良い本部英子さんと牧浦美子さん、このおふたりは直接話したことはありませんが、ライブを見に来てくれていたところをチラッと見た覚えがあります。確か小柄な方が英子さんで、高身長の方が美子さんでしたね。

 そして、佐々木さんというのは、喜多さんがよく話す佐々木次子さんのことだと思います。

 そうやって頭の中で思考を整理していると、ひとりさんが少し迷う様な表情を浮かべたあとで声をかけてきました。

 

「……あっ、その、有紗ちゃんは、誰かと来てたり?」

「ああ、いえ、私は偶然ビュッフェをいただく形になっただけなのでひとりですよ」

「あっ、じゃっ、じゃあその……あっ、有紗ちゃんも私たちのテーブルに来ませんか? あっ、そそ、その、6人掛けのテーブル席なので、まだ1席余裕がありますし……」

「私がお邪魔しても大丈夫ですか?」

「あっ、AちゃんやBちゃんのことも、有紗ちゃんにいつか紹介したいって思ってましたし……あっ、その……あっ、有紗ちゃんと……一緒に食べたい……ですし……」

 

 最後の方は囁くように小さな声でしたが、ひとりさんが私と一緒にスイーツビュッフェを楽しみたいと思ってくれているのが伝わってきて、胸に幸せが満ち溢れます。

 

「それは、本当に嬉しいですね。では、お邪魔させていただいてもよろしいですか?」

「あっ、はい!」

 

 もちろんそういうことであれば誘いを断る理由などありません。むしろ私としても極めて喜ばしいです。

 私が了承の言葉を返すとひとりさんは明るい表情を浮かべてくれ、私も思わず笑顔になりました。そして一緒にいくつかのスイーツを皿に乗せたあとで、喜多さんたちがいるテーブルに移動します。

 

 テーブルに近付くと喜多さんがこちらを振り返り、私を見て驚いたような表情を浮かべました。

 

「あれ? 有紗ちゃん!?」

「こんにちは、喜多さん。先ほど偶然ひとりさんと出会いまして、席に誘っていただいたので……お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「有紗ちゃんも来てたのね。凄い偶然! うん、もちろん大歓迎よ。座って、座って!」

「ありがとうございます。失礼しますね」

 

 驚きつつも歓迎してくれた喜多さんに促されて、喜多さんの隣にひとりさんが座り、その隣に私が座る形で席につきました。

 ちょうど対面には英子さん、美子さん、次子さんの3人が居るので図らずも自己紹介がしやすい形になりました。

 

「皆さんとはこうしてお会いするのは初めてでしたね。時花有紗と申します、よろしくお願いします」

「おぉ、本物の有紗さんだ。あ、私は本部英子、Aちゃんって呼ばれてるよ」

「私は牧浦美子、Bちゃんって呼ばれてる……よろしく」

「おふたりのことは、ひとりさんからよく伺ってますし、STARRYのライブでも何度かお見かけした覚えがあります。こうしてお話できて嬉しいです。英子さんと美子さんとお呼びしてもよろしいですか?」

「うん! 私たちも、ひとりちゃんから有紗さんの話はよく聞いてたし、会って話したいな~って思ってたから、嬉しいよ!」

 

 英子さんが明るい表情で告げ、美子さんも同意するように頷いていました。私もひとりさんがよく口にするおふたりとは、是非会って話がしたかったので今回の偶然に感謝したい気持ちでいっぱいです。

 

「ども~私は佐々木次子。さっつーとか呼ばれてるんで、よろしく~」

「よろしくお願いします、次子さんと呼ばせていただきますね。次子さんのお話も喜多さんからたびたび聞いていましたので、お会いできて嬉しいです」

「へ~喜多がね……ちなみに、うちのことどんな風に話してた?」

「ちょっ、さっつー!?」

 

 少し悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねてくる次子さんに、喜多さんは少し慌てた表情に変わります。とはいえ、別に変な話をしていたりするわけではないのですが……。

 

「一緒に遊びに行ったりした話などが多いですね。喜多さんは次子さんをとても信頼しているようで、次子さんの話をしている際は、他の友人の話より楽し気でしたよ」

「あ、ああ、有紗ちゃん!? そ、そんなことないでしょ? 普通に、他と同じように話してたって!!」

「へ~ほ~ふ~~~~ん」

 

 慌てる喜多さんに対して、次子さんはニヤニヤと楽しげな表情を浮かべていました。

 

「……まいったな~喜多ってば、うちのこと好き過ぎでしょ。愛が重いな~」

「はぁ? なに言ってんだか……」

 

 揶揄うような表情の次子さんに喜多さんは呆れた様子で返答していますが、互いに気心知れている感じのやり取りで仲のよさが伝わってきます。

 実際次子さんも内心で喜んでいるように思えますし、喜多さんが自分を信頼していると知って嬉しいのではないかと、そんな印象を抱きました。

 

「……あっ、そっ、そういえば、詳しく聞いてなかったですけど、有紗ちゃんはなんでこの店に?」

「元々ここのレストランにはそれなりに出資していまして、その関係で訪れていたのですが、オーナーのご厚意でビュッフェを楽しませてもらっていたところです」

「さっ、流石有紗ちゃん……言ってることがハイソサエティというか、なんか凄いです。あっ、でも、そのおかげで有紗ちゃんに会えたのは嬉しいですね」

「ふふ、そうですね。私も丁度、ひとりさんと一緒にビュッフェを楽しめたらなぁ~と思っていたところだったので、思わぬ偶然に感謝ですね」

「でっ、ですね」

 

 本当にここで会ったのは偶然でしたが幸運で、ひとりさんも同じように感じてくれているのは嬉しく、ひとりさんと顔を見合わせて微笑み合いました。

 

「……喜多。うち喜多が前に曖昧な言い方してた意味、よく分かったわ」

「覚悟しときなさいよ、さっつー。今日のスイーツは胸焼けするわよ」

 

 

 




時花有紗:投資家としてアレコレしていた際に、偶然ひとりと遭遇。一緒にスイーツビュッフェが楽しめるのでウキウキである。

後藤ひとり:カラオケでの祝勝会を無事に乗り切って、仲のいいメンバーで2次会中。やはり原作と比べてリア充してる。有紗に偶然会った時は、背後に尻尾振るチワワの幻影が浮かんでそう。
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