ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十二手遭遇のスイーツビュッフェ~sideB~

 

 

 秀華高校の2年生のクラス。窓際の席でひとりは静かに思考を巡らせていた。

 

(新学期が始まってはや1週間……思ったより、未確認ライオットの件に触れてこない!? なんでだろ? ロッキンの誤解は解けてるし、審査員特別賞を取ったわけだからそこそこの結果は出てるよね? もっとこう、チヤホヤされるかと思ったけど……そんな感じは無い)

 

 結束バンドは未確認ライオットにおいて審査員特別賞を獲得し、公式HPにも名前がしっかりと載った。かなりの成果を上げたと言っていい状態であり、ひとりとしては学校でチヤホヤされるのではと秘かに期待もしていた。

 いや、ひとりの性格上実際にチヤホヤされたら逃げそうではあるが、妄想の中ではスターのような受け答えが出来ている。

 

 あと誤解ではなく中学時代や1年生の頃と比べて、ひとりはクラスに馴染んでいる。英子や美子といった仲のいい友達もいて、最近では喜多の友人ともそれなりに会話ができるようになってきている。

 なのでこう、もう少しなにかあるのではと期待していたのだが、クラスメイトの殆どが未確認ライオットの話題を出すことは無かった。

 

「あ、ひとりちゃ~ん」

「Aちゃん?」

「今日の放課後に付き合ってもらいたいんだけど、時間とか大丈夫?」

「え? あっ、はい。予定とかは無いです」

「それならよかった。じゃあ、ちょっと喜多ちゃんと一緒に放課後に来てほしいところがあるんだ。場所はロインで送っとくから、よろしくね!」

「え? あっ、はい」

 

 なぜ、同じ学校の同じクラスなのに放課後に場所を指定して待ち合わせるのかという疑問はあったが、ひとりは特にそれを追及したりすることは無く頷いた。

 

 

 ****

 

 

 放課後、ひとりは喜多と共に指定された場所に向かって移動していた。

 

「なっ、なんなんでしょうね?」

「……サプライズパーティじゃないかな? ほら、私たち未確認ライオットで審査員特別賞とったでしょ?」

「あっ、はい。その割にはあんまり話題に上がらないなぁとは、思ってました。AちゃんやBちゃんからお祝いのロインは貰いましたけど……」

「あくまで予想だけど、カンパ募って有志でパーティでもしてくれるんだと思うわ。今回もほら、集合場所はカラオケだし、一緒に行かないってことは……待ち構えてるんじゃない?」

「あっ、なるほど……」

 

 そう言ったサプライズパーティに慣れている喜多の説明を聞いて、ひとりは納得した様子で頷く。たしかにそれなら、わざわざひとりと喜多が別で集合場所に向かうことになったのかと……。

 

「あ、でもひとりちゃん、ちゃんと驚くのがマナーだからね!」

「あっ、はい。えっ、えっと……どうすれば?」

「いい感じのリアクションをよろしく!」

「……」

 

 せっかくのサプライズパーティなので驚いた方が用意した側にとっては嬉しいというのは分かる。だが、陰キャでコミュ症のひとりに突然そんなアドリブリアクションを求められても無理である。

 

(いっ、いい感じのリアクション……なんか、こう……OH! ジーザス! 信じられない!? とか、そんな感じかな? こう、身振りとか手振りとオーバーな感じで……)

 

 頭の中で奇妙なシミュレーションをするひとりだが、残念ながらこの場にひとりの思考を正確に読み取って先回りのフォローができる有紗は居ない。喜多もひとりの思考に気付くことは無く、目的地のカラオケで部屋番号を聞いて移動していく。

 そのままであれば、ひとりのリアクションはそこそこの事故を起こしていたかもしれないが……幸いだったのは、カラオケルームの扉を開けた直後に鳴り響いたクラッカーの音に、ひとりは素でびっくりして固まってしまったので、むしろいいリアクションが取れていた。

 喜多に関しては、クラッカーが鳴り響く瞬間にバッチリポーズを決めて自撮りをしていたが……。

 

「喜多ちゃん、後藤さん! 未確認ライオット、審査員特別賞おめでと~!」

「こ、これは……」

「有志による祝勝会でーす!」

「わ~! 最高のサプライズだわ~!! 本当にびっくりしちゃった!」

「……その割には完璧にポーズ決めてた気がするけど?」

 

 大げさに驚く喜多に次子が苦笑しながらツッコミを入れ、そこでひとりも驚きから回復した。

 

「ひとりちゃんも、こっちこっち! 主役は真ん中だよ!!」

「あっ、Aちゃん、Bちゃん……」

「はい。タスキかけて」

 

 英子と美子によって「本日の主役」と書かれたタスキをかけられ、飲み物を渡される。そして次子が司会進行をする形で祝勝会はスタートした。

 有志ということもあって、比較的ひとりにとっても顔見知り……ある程度話すクラスメイトが多く、祝勝会はワイワイと楽しく進行していった。

 ひとりもある意味では期待していた賞賛の言葉をたくさんもらえてホクホクした表情で楽しんでいた。

 

「お~ひとりちゃん、結構歌上手いじゃん」

「うん、声は小さ目だけど音程はしっかりしている」

 

 途中流れでカラオケで一曲歌うことになったのだが、以前に有紗と一緒にカラオケに行ってコツを教わっていたおかげで、そこそこ上手く歌うことができていた。

 

「そーだ! 喜多ちゃん、結束バンドの曲歌ってよ!」

「聴きたーい!」

「え~しょうがないな~」

 

 ノッてきたクラスメイト達の要望に苦笑しつつ、喜多がカラオケの端末を操作し始める。すると、英子が不思議そうな表情で首を傾げた。

 

「あれ? 結束バンドの曲ってカラオケに入ってるの?」

「あっ、はい。有紗ちゃんが申請してくれたみたいで、何曲か入ってます。あっ、えっと、リーダーの虹夏ちゃんが18歳になった時に、著作権管理も含めていろいろ申請してくれたので……」

 

 そう、カラオケで楽曲の配信にはいくつかの方法があるが、リョウの希望で印税も入るようにと著作権管理委託も含めて、有紗がもろもろの手続きは行っており、結束バンドの曲は3曲ほどカラオケで配信されていた。

 

「てか、せっかく結束バンドの曲歌うなら、後藤もギター演奏すればいいじゃん?」

「あぇ?」

「後藤さんの演奏も聴きたい!」

「あっ、はっ、はい」

 

 クラスメイト達から促される形で、ギターを持って喜多の横に立つ。幸い音源もあるため、そこまでテンパることもなく、無難な感じで演奏をすることができてクラスメイト達からの評価も上々だった。

 口々に結束バンドの曲やひとりのギターを賞賛してくれ、ひとりは緊張しつつも嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

(みっ、皆優しいし、楽しい。うぅ、なんかいま、凄く女子高生やってる感じがする。これで、有紗ちゃんが居れば……あっ、いや、有紗ちゃんは別の学校なんだしいないのは当たり前だけど……凄く楽しい気分だから、有紗ちゃんに近くに居て欲しいって気持ちも……なっ、なんだろうこれ?)

 

 それは言ってみれば、好きな相手と楽しい気持ちを共有したいという感情なのだが、そういった類に疎いひとりはやや戸惑っていた。

 ただそれでも嫌な気持ちではなく、有紗のことを考えると楽しい気持ちがより大きくなったように感じられた。

 

 

****

 

 

 カラオケでワイワイとクラスメイト達と楽しんだ祝勝会も終わり、解散となったが……喜多や英子といったノリのいいメンバーはまだ満足しておらず、そのまま仲のいいメンツで2次会にという話になった。

 カラオケで歌って消費したカロリーを補充しようとばかりに、カラオケから近い場所にあり雑誌等でもそれなりに有名なスイーツビュッフェに向かうことに決まった。

 

 そのスイーツビュッフェで偶然有紗と遭遇し、一緒に楽しむことになってから、ひとりはそれまで以上に上機嫌だった。

 

(やっぱり、有紗ちゃんが一緒だと楽しいな。あっ、いや、もちろんさっきまでも楽しかったけど、有紗ちゃんが居るとなんか違うっていうか……自然と笑顔になれる気がする)

 

 ひとり自身上手く言語化するのは難しいが、カラオケの際に有紗が居たらと思ったように、有紗が傍にいて楽しい気持ちを共有すると、楽しさがより大きくなるような感覚だった。

 実際スイーツビュッフェに関しても、最初はお洒落過ぎる雰囲気に気圧され気味だったのだが、有紗と出会ってからは喜びの感情が勝っているのか、まったく気にならなくなっていた。

 

「ひとりさん、このスイーツはなかなかいいですよ。よろしければ、どうぞ」

「あっ、いただきます。あむ……あっ、食感が面白いですね。あっ、そっ、そうだ。これ、美味しかったので、有紗ちゃんも……」

「ありがとうございます。フルーツソースがとても美味しいですね」

 

 有紗が登場して10分ほど、ひとりが明らかにテンションが上がっているのは周囲から見ても分かりやすく、有紗と仲睦まじいのは言うまでもない。

 英子と美子は、その光景を微笑ましそうに見つつ……時折チラチラと互いを見る。端的に言ってしまえば、ふたりとも有紗とひとりと同じように食べさせ合いをしたいという気持ちがあるのだが、どうにも気恥ずかしさが勝っており切り出しにくい。

 

 だが、それでも有紗とひとりがそういった甘い雰囲気を形成しているのは、ある意味で背中を押す展開というべきか、同じようなことをしやすい空気はあるので千載一遇のチャンスでもあった。

 しばらく悩んだ末に、英子は目を泳がせながら努めて明るく美子に声をかける。

 

「あ、Bちゃんそのケーキ美味しそうだね。わ、私にも一口ちょーだい」

 

 少し声が上ずってはしまったが、それでもしっかり言い切った。その言葉を聞いた美子は一瞬皿ごと英子に渡そうと思ったが、すぐに思い直して自分のフォークで一口サイズにケーキを切って、軽く手を添えて差し出した。

 

「……ほら」

「あ、ありがと~! お返しにこのケーキを一口あげるね!」

「……んっ、ありがと」

 

 少し頬を赤くしながら差し出されたケーキを、英子は嬉しそうに食べ、お返しとして同じように手を添えてケーキを差し出して美子に食べさせる。有紗とひとりのような甘い空気ではないが、どこか初々しい甘酸っぱさを感じる空気を醸し出すふたりを見て、次子は思わず苦笑した。

 

「おやおや、本当に口の中が甘くなってきたわ。いつもこんな感じなん?」

「だいたいね~」

「せっかくだしうちらもやる? ほれ、喜多、餌だよ~」

「餌って……はいはい、ありがと」

「可愛げが無いな~もっと照れたまえよチミ」

「言ってろ~」

 

 差し出したスイーツを普通の顔で食べる喜多に、次子が若干不満そうに文句を言って喜多は苦笑を浮かべる。こちらもこちらで、互いに気心知れているからこその気安い関係というべきか、なんだかんだでその空気感を楽しんでいる様子だった。

 

 

 




時花有紗:登場して10分立たずにぼっちちゃんといちゃいちゃし始めた。その甘い空気に触発されて他の百合たちも動き出すという、百合相乗効果を発生させていた。

後藤ひとり:クラスに普通に馴染んでいるぼっちちゃん。カラオケも歌えるし、演奏も少し緊張しつつもできるし、祝勝会も普通に楽しめてる。陰キャは陰キャだが、コミュ症はかなり克服している模様。ただやはり、有紗が居るとテンションが全然違う。
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