ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九手歓迎の後藤家集合~sideB~

 

 

 ひとりの両親である美智代と直樹が買い物から戻り、簡単な挨拶のあとで虹夏と喜多は一階のリビングへ案内された。

 遊びに来てくれたふたりを歓迎という名目で、次々と飲み物や食べ物が用意されていく中で、ソファーに座りながら虹夏は喜多に声をかける。

 

「……ねぇ、喜多ちゃん、確認していいかな? ぼっちちゃんの家だよね?」

「……そうです。間違いなく」

 

 虹夏の言葉の意味は喜多もすぐに察することができて、ふたりそろって台所の方に視線を向ける。するとそこでは、美智代と直樹と共にエプロンを付けて調理をしている有紗の姿があった。

 

「お義母様、盛り付けは問題ないでしょうか?」

「ええ、流石有紗ちゃんは料理上手ね」

「いえ、お義母様とお義父様のご指導の賜物です」

「有紗おねーちゃん、ふたりも手伝う!」

「ありがとうございます。それでは、こちらをテーブルに運んでもらえますか? 転ぶと危ないので、足元には注意してくださいね」

「はーい」

 

 和気藹々とした雰囲気で調理をする有紗を見たあとで、ふたりは自分たちと同じようにソファーに座っているひとりの方に視線を向けた。

 

「あの、ぼっちちゃん? なんか、有紗ちゃんが当たり前のように調理してるんだけど……よくあるの?」

「え? あっ、はい。よくやってますね。それこそ、有紗ちゃん用のエプロンが台所に常備されてるぐらいは……」

「……もうふたりは結婚してたっけ?」

「しっ、してないです!?」

 

 有紗はひとりの家にはよく遊びに来ており、ふたりはもちろん美智代や直樹とも非常に仲がよく、今回の様に家事などを手伝うことも度々あった。

 本人的には花嫁修業の一環のつもりらしい。最初はひとりも、現在の虹夏や喜多と同様に戸惑っていたが……もうある程度慣れてしまって、さほど疑問を感じなくなっていた。

 

(……ぼっちちゃん。本人が気付いてるかどうかはさておいて、順調に外堀埋められてる感じだよ?)

 

 そんなひとりの様子を見て、虹夏はなんとも言えない表情で苦笑を浮かべていた。

 

 

****

 

 

 美智代や直樹、後藤家の歓迎を受け喜多が持って来ていた映画などを見たり、ゲームで遊んだりしていたりすると時刻は夕方になっており、Tシャツのデザインが決まっていないということでやや焦りつつひとりの部屋に戻ってきた面々。

 改めてTシャツのデザインを考えようという場面ではあるが、虹夏と喜多はなんとも言えない表情を浮かべて有紗に膝枕をされているひとりの方を向いた。

 

「……えっと、時花さん? 後藤さんは、大丈夫?」

「映画に青春コンプレックスを刺激されただけなので、あと10分ほどで元に戻ると思いますよ」

「……まぁ、ぼっちちゃんは、有紗ちゃんに任せようか……なんか慣れてる感じだし、私たちはTシャツのデザインを……おっと、リョウからデザイン案が届いたみたいだね」

 

 喜多が持って来た青春胸キュン映画によって青春コンプレックスを刺激されてダメージを受けたひとりは、有紗が慣れた様子で介抱しており、対応はそちらに任せることにして虹夏と喜多はリョウから送られてきた画像を確認する。

 尤もそれはデザイン案などではなく、夕食にカレーと寿司、どちらがいいかという極めて個人的な質問だった。

 

 呆れたような空気になりかけたタイミングで有紗に膝枕されていたひとりが復活し、スケッチブックを手に立ち上がった。

 

「あっ、あの……私のデザインも、見てくださればと……」

「おっ、できたの? 見せて見せて」

 

 どこか少し自信ありげな様子でひとりがスケッチブックを開くと、そこには中学生男子が好むような謎フォントが描かれ、山のようなファスナーや鎖が付いた……中二感あふれるTシャツの絵が描かれていた。

 

(だ、だせぇ……)

 

 思わず虹夏が心の中でそう思ってしまうほど、なんとも言えない絶妙なダサさのあるTシャツだった。いちおう確認すると、ファスナーはピック入れ、鎖はギターストラップとしても使えると実用性も考慮はしているみたいだが、言いようのないダサさが薄れるわけでは無い。

 しかし、かといってせっかく積極的に提案してくれた案を一蹴すればひとりを傷つけてしまうかもしれない。対応に悩んだ虹夏は、チラリと有紗の方を向いた。

 「なんとか、ぼっちちゃんを傷つけずに上手く却下してほしい」という虹夏の視線に気づいた有紗は、その意図を読み取って軽く頷いてからひとりに声をかける。

 

「ひとりさん、とても素敵なデザインだとは思うのですが、そのTシャツの感じだとパンクロックやメタル系に近いイメージなので、結束バンドのジャンルとは少し違ってくるのではないでしょうか?」

「あっ……そう言われれば、そうですね。たしかにこれだと、パンクやメタルっぽい感じですね」

「ええ、なので、結束バンドのライブで着るならもう少しシンプルでシャープなデザインの方がいいのではないでしょうか?」

「たっ、確かに……バンドの雰囲気と合わせるのって、大事ですしね。考え直してみます」

 

 有紗の言葉にひとりは納得した様子で頷いてスケッチブックの新しいページを開き、改めてデザインを考え始めた。ひとりの自尊心を傷つけることなく、上手くコントロールして納得させたうえで案を下げさせた有紗の手腕を、虹夏は感心した様子で見ていた。

 

(上手いなぁ。今後ぼっちちゃんが、変なこと言い出した時は有紗ちゃんになんとかしてもらおう)

 

 そんなことを考えていた虹夏だったが、ふとあることを思い出してひとりの方を向いて口を開く、

 

「そういえばぼっちちゃんって、私服もさっきのTシャツみたいな感じなの?」

「あっ、服はお母さんが買って来てくれるから違います……好みじゃないので、一度も着たことないですけど」

「え~見てみたい!」

「私もジャージ以外の後藤さん、見たことないです!」

「……そういえば、私も無いですね」

 

 ひとりの私服を見てみたいと告げる虹夏に、喜多も同調し、有紗もジャージ以外の服を着ているのを見たことは無く興味がある様子だった。

 そして、ひとりの性格上三人の圧から逃れられるはずもなく、そのままなし崩しに私服に着替えることとなった。

 

「「可愛い~!!」」

 

 さすがにその場で着替えるのは恥ずかしく、場所を変えて着替えてきたひとりは、普段のジャージとは違う清楚っぽい服装に身を包んでおり、いつもとは違った雰囲気があった。

 

「そうだよ! ぼっちちゃんは可愛いんだよ!」

「普段の奇行で忘れるところでしたね!」

「有紗ちゃんもそう思うでしょ……あれ? 有紗ちゃん?」

 

 興奮気味に話す虹夏と喜多だが、そこでふと一番反応しそうな人物が一言もしゃべっていないことに気付き視線を動かす。

 ひとりの可愛らしい私服とあれば真っ先に食い付いていそうな有紗だが、なぜか少し離れた場所でスマートフォンを手に持ち電話をしている様子だった。

 意外に冷静に見えるその様子に虹夏と喜多は少し不思議そうな表情で顔を見合わせたが、直後に聞こえてきた言葉に唖然とすることになる。

 

「……ええ、なので、至急式場とドレスの手配とカメラマンを5人以上……あと、ミュージアムを建てるのですべて含めた費用の見積もりを!!」

「うぉぉっ、ちょっと有紗ちゃん!? 落ち着いて!」

「静かだと思ったら、とんでもない暴走を……時花さん、ストップ!」

 

 意外に冷静どころか、一番ぶっ飛んだ暴走をしていた有紗を慌てて止める。なにが恐ろしいかといえば、有紗であれば冗談でもなんでもなく、その発言を実現できてしまうのではないかという恐怖があった。

 虹夏と喜多の説得を受け、有紗はすぐに冷静さを取り戻したのかどこか申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「……も、申し訳ありません。あまりの愛らしさに、少し我を失いました」

「……少し、なんだ。ま、まぁ、落ち着いてくれてよかったよ」

「あっ、あの……もう脱いでも……」

 

 有紗が落ち着いたことにホッと胸を撫で下ろした虹夏に、顔を俯かせながらひとりが声をかける。彼女としてはいまの格好は恥ずかしくてたまらないので、一刻も早く脱ぎたいところだったのだが……。

 

「待って待って! ん~そうだ! 前髪も上げなよ、絶対そっちの方がいいって!」

「……へ?」

「伸ばしてるの?」

「あっ、美容室行けないから伸びてるだけで……」

「じゃあ、私がセットしてあげるよ!」

「あっ、いや、大丈夫ですっ!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべてどこからともなくヘアブラシを取り出した虹夏が迫り、ひとりが引き攣ったような表情を浮かべた。

 そして、虹夏が伸ばした手がひとりの髪に触れようとしたタイミングで、それを制するように有紗が割って入って来た。

 

「待ってください、虹夏さん」

「はえ? 有紗ちゃん」

「ひとりさんはもういっぱいいっぱいですし、これ以上精神に負荷をかけると気を失ってしまいますよ」

「あっ、有紗ちゃんっ……」

 

 先ほどは私服姿のひとりを始めて見た衝撃で暴走気味だったが、一度落ち着けば基本的に有紗は優しくひとりの気持ちを最優先にする人物だ。

 だからこそ、ひとりが嫌がっているが拒否できない状況と見るや、即座に割って入って来てひとりを庇った。その行動にホッとしたような表情を浮かべたひとりは、素早い動きで有紗の背の後ろに隠れた。

 

「虹夏さんたちの気持ちも分かりますが、無理強いはすべきではないかと思います。なので、ここはご容赦を……ひとりさん、着替えてきて大丈夫ですよ」

「あっ、有紗ちゃん、ありがとうございます」

 

 有紗にお礼を言ってそそくさと着替えるために部屋から出ていくひとりを見送りつつ、虹夏と喜多は仕方ないという表情を浮かべつつも、少し残念そうだった。

 

「う~ん、ちょっと残念」

「ですね。けど、時花さんの言う通り、無理強いはよくないですしね」

「ええ、それに……このままでは、デザインが決まりませんよ?」

「あっ、そ、そうだった!?」

 

 有紗の言葉で脱線していたことに気付いた虹夏は、慌てた様子でタブレットを手に取り、喜多と有紗も改めて座ってひとりの帰りを待ちつつ、Tシャツの案を考え出した。

 すると、そこでふとタブレットをいじっていた虹夏があることを思い出した様子で、顔を上げた。

 

「……そういえば有紗ちゃん、ぼっちちゃんから聞いたんだけど――」

「……え? ええ、事実ですが?」

「そっか、じゃあさ! 提案なんだけど――」

 

 有紗の返答に明るい表情を浮かべた虹夏がある提案を口にし、喜多もいい案だと明るい表情を浮かべたが……有紗は、苦笑を浮かべて首を横に振った。

 

「ありがたい提案ですが、申し訳ありません。私は――」

「……そっか、残念だけどしかたないね。あっ、もし気が変わったら、いつでも言ってね」

「ええ、分かりました」

 

 有紗の返答に少し残念そうな表情を浮かべつつも、虹夏はすぐに気を取り直すように明るい笑顔を浮かべた。そしてそのタイミングでひとりも部屋に戻ってきた。

 扉の前で先ほどの話を聞いていたのか、少し迷うような表情で有紗を見たが、なにかを言うことは無く座った。戻って来たひとりに「おかえり」と告げてから、虹夏は改めて有紗に声をかける。

 

「あっ、そうだ! ならこういうのはどうかな? 有紗ちゃんさえよければなんだけど――」

 

 虹夏が新しく告げた提案を聞き、有紗は少し驚いたような表情を浮かべていたが……少しして、苦笑と共に頷いた。

 

 

****

 

 

 数日が経ち、結局これというTシャツのデザイン案が出なかったため、最終的に虹夏が考えた黒字に白い結束バンドのマークが入ったデザインに決まった。

 STARRYに集まり、結束バンドのメンバーが衣装合わせ……完成したTシャツを試着する場に、有紗の姿もあった。

 

「……あれ? 有紗のTシャツは色違い?」

 

 首を傾げるリョウの言葉通り、有紗も結束バンドのTシャツを着ていたが、白地に黒いバンドマークという、メンバーたちが着ているものと白黒反転したデザインになっていた。

 

「ああ、あの時リョウは居なかったから説明するけど、有紗ちゃんにはサポートスタッフになってもらったんだよ。毎回ってわけじゃないけど、私たちが今後活動していく中で、4人じゃ人手が足りない場面もあるから、そういうところで助けてもらえたらな~って感じでね。有紗ちゃんは、頼りになるしね」

「ええ、そういうことですので、お手伝いできることがあれば気楽に申し付けください」

「なるほど……じゃあ、有紗。お金貸して」

「こら、そういうサポートじゃない!」

 

 有紗がサポートスタッフになること自体はリョウも特に反対する気は無い様子で、納得した様子で頷いたあと金銭面でのサポートを求めた。

 もちろん即座に虹夏がツッコミを入れたのだが、対する有紗は優しい笑顔で告げた。

 

「構いませんよ。それでは、すぐに……借用書を用意させますね」

「……え? 借用書?」

「はい。返済期間は半年ほどでいかがでしょうか? もちろん、無利子無担保で構いませんし、期限までは催促も一切しません。まぁ、期限を過ぎた場合は……回収に動かさせていただきますが」

「……あっ、その……やっぱりいい」

 

 笑顔で告げる有紗の言葉を聞いて、薄ら寒いものを感じたリョウは若干青ざめた表情で前言を撤回した。

 

「リョウ、有紗ちゃんって間違いなくお金持ちだけど……だからこそ、お金の貸し借りとかには厳しい気がするよ」

「うん。なんか、虹夏たちとは違ってガチの借金を背負いそうな気配だった」

「……私たちからなら借金じゃないみたいな言い方はやめろ」

 

 

 

 




時花有紗:ごく普通に後藤家の台所に立つ辺り、外堀はもうほぼ完璧である。最初はぼっちちゃんの私服に理性が飛んでいたが、冷静さを取り戻したあとはちゃんとぼっちちゃんを守っていた。虹夏からなにかを提案されるが断り、有事のサポートという形で結束バンドには協力。

後藤ひとり:扉の前で虹夏と有紗のやり取りは聞いていたが、有紗の意思を尊重してなにも言及することは無かった。
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