ハードオプでジャンク品を探す方向で話はまとまり、結束バンドの面々は猫々のギターを探すために街にくり出した。
ハードオプ自体はあちこちにあるが、せっかくだからジャンク品以外の楽器屋も参考に見てみようという話になり場所を話し合うことになった。
以前ひとりのギターを購入する際に行った御茶ノ水が最有力ではあったが、そこに猫々と喜多の陽キャ組の意見が入った。
「渋谷にもあるならこっちがいいです!」
「あ、賛成! 帰りに108寄りましょう、洋服みたい~!」
「ウチもスニーカー見たいです!!」
若者の街……ひいては陽キャの街と表現しても間違いではない渋谷。あくまで今回の主役は猫々なので、猫々の希望であればそれを断る理由は無いが、渋谷と聞いた瞬間リョウは若干面倒臭そうな表情に変わった。
「渋谷か……いや、楽器屋もハードオプもあるけど、陽キャの街は私たちにはしんどいな、ぼっち?」
「え? あっ、そっ、そうですね……あっ、有紗ちゃん。もしやってたら、帰りに前に行ったアイス屋に寄りませんか?」
「いいですね。まだ暑い季節ですし、あそこのアイスクリームは美味しかったですよね」
陰キャ仲間であるひとりに同意を求めようとしたリョウだったが、期待に反してひとりは渋谷をあまり嫌がっている感じは無く、有紗と楽し気に会話をしていた。
「……ぼっちが陽キャの仲間入りしてる」
「渋谷と聞いても特に動揺した感じが無いから、たぶん有紗ちゃんと度々行ってるね。いや~、新宿にビビりまくってた時を思うと、成長が著しいね~」
以前は新宿に行くというだけで、有紗の背の後ろに隠れてビクビクしていたひとりだったが、いまとなっては比較的外出に慣れているおかげで落ち着いているように見えた。
そんな風に話しながらワイワイと移動して、渋谷に到着すると虹夏が隣を歩いていたリョウに声をかける。
「で、リョウ。どこからいけばいいのかな?」
「最初は普通の楽器屋がいいんじゃない? 駅近のギターショップならイシバシとかイケシブが品揃えもよくていいと思う。まぁ、あくまで普通のギターがどんなものか見るだけだし、どっちかだけでいいと思う」
「さっすがマニア、すぐに店名とか出てくるし、こういう時は頼りになるね~」
リョウは渋谷自体は面倒だと思っているが、楽器屋巡りは好きなのでひとりで渋谷の楽器屋などにも来ることは多く、店の位置なども把握している。
リョウの案内で近場の楽器店に移動すると、ズラリと並ぶギターを見て猫々が興奮気味の表情を浮かべる。
「うぉ~~~! 圧巻~!」
「猫々さん、他のお客さんの迷惑になるので声はもう少し抑えてください」
「はい」
大きな声を出す猫々に有紗がやんわりと注意すると、猫々は即座に指示に従って声のボリュームを落とす。バイトの指導を受けた影響か、有紗の指示には従順かつ迅速に従っていた。
大人しくなった猫々と一緒に店内をぐるりと見て回っていると、虹夏がふと思いついたように尋ねる。
「値段をまったく気にしないなら、大山さんはどんなギターが欲しい?」
「派手でとにかく目立てるギターがいいです! ウチ、目立ちたがり屋なんで……見せた瞬間に意表をつけるような攻撃力に特化したギター……あ! こういうのです! 映え先輩、これなんてギターですか!?」
「え? わ、私? えっと……ツインネックギターってやつじゃないかな? ひとりちゃん、これなんてギター?」
「あっ、えっと、それはネックが4本なのでマルチネックギターです」
猫々に話を振られたが、喜多は正直そこまでギターに詳しくは無い。結局ひとりに説明を求める形になった。
「ふっ、素人どもめ……攻撃力と言うなら、シモンズのアックスベースに決まってるだろ」
「それは物理的攻撃力が高そうなギターじゃん? というか、大山さんは自分が目立ちたいんだよね? 奇形ギターだとギターの方ばっかり目立って、大山さんに注目は集まらないんじゃない?」
「それは困ります! えっと、じゃあ、え~と……バ、バイトリーダー! どんなギターを選べば……」
「難しく考えすぎずに、最初は好きな色あたりで大まかに選んで見るのがいいですね。あと、猫々さんが演奏する際の服に色合いを合わせるというのもいいと思います」
「なるほど、う~ん、好きな色だと……」
この店でギターを購入するわけではないが、ハードオプを巡る前の参考ということでしばし猫々の意見を聞きつつ楽器店を見て回った。
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楽器店を出たあとは当初の予定通りジャンク品を取り扱っている店を中心に見て回り、安価で手に入るギターかつ猫々の希望に沿う品を探した。
それなりに時間はかかったが、楽器知識に優れるリョウや、ギタリストのひとり、知識や審美眼にも優れる有紗といった頼りになるメンバーもいたおかげで、無事にいい品を見つけることができた。
「先輩たちありがとーございます!! まさか、5000円でこんなカッコいいギターが買えるなんて!」
「新品なら5万は余裕で越えるギターだからいい掘り出し物。故障もすぐ直せるレベルだから、明日には問題なく演奏できるようにしとく」
「はい! 無口先輩、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
今回購入したギターはリョウが預かって修理をするという話になっており、猫々はリョウに深く頭を下げてお礼を言う。
そんな様子を苦笑しながら見ていた有紗は、ふと腕時計を確認したあとで口を開いた。
「そろそろ夕食時ですし、せっかくですからこのまま全員で夕食でも食べに行きましょうか? 猫々さんはなにか食べたいものはありますか?」
「え? あ、いや、でも、ウチ……このギターでお小遣い全部……」
「ああ、気にしないでください。今回は猫々さんの歓迎会も兼ねて私が出しますので……それで、なにが食べたいですか?」
「えっと、お肉とか……あ、いや、全然ファミレスとかで! お気持ちだけで、滅茶苦茶嬉しいですし!!」
猫々の歓迎会も兼ねて食事に行こうという有紗の提案に、猫々は若干遠慮しつつも嬉しそうな表情を浮かべる。そして、他のメンバーも賛成したことで本格的に店選びとなり、そのタイミングで有紗が口を開く。
「お肉でしたら、焼肉とかでも大丈夫ですか? 渋谷でしたら、近場にいい店があるので……」
「はい! ご馳走になります!!」
有紗の提案に猫々は大きな声で頭を下げ、残る面々は少々考えるような表情を浮かべていた。
「……ねぇ、ぼっちちゃん。これヤバい店来ると思う?」
「あっ、確実に来ます。いい店って言いましたので、たっ、たぶんブランド和牛とかそういうのが出てくる店です」
「やったぜ」
「……映えそう」
他の面々は有紗が凄まじく金持ちなのをよく知っており、この場合はチェーン店などではなく高級焼肉店が選ばれるであろうことは理解していた。
ただ、残念ながら猫々はまだ付き合いも浅いためか分かってない様子で、チェーン店の食べ放題のような店だろうと考えて、気楽そうな笑顔を浮かべていた。
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有紗の案内で辿り着いた店で個室に通され、猫々はガタガタと震えながらメニューや店内に落ち着きなく視線を動かしていた。
普段の元気さはどこに消えたのかというほど動揺しているのは、漂う高級店オーラとメニューにあった。
「あ、ああ、あの、バイトリーダー? こ、この、メニュー金額がおかしくないですか、な、なんか、ウチが買ったギターより高い値段がゴロゴロ書いてあるんですけど……」
「ああ、気にせず好きなものをお腹いっぱい食べてくださいね」
「……ぱえ?」
「あっ、思考が追い付いてないです。きっ、気持ちは凄くよく分かります」
異常な値段がずらりと並ぶメニューを見て思考がまったく追い付いていない様子の猫々を見て、ひとりがしみじみと頷く。自分もかつて通った道だと、そんな雰囲気を出しつつ……。
「有紗、シャトーブリアン頼んでいい?」
「無口先輩!? それ、1人前2万円とか書いてあるんですけど!!!」
「ええ、皆さんも好きなものを頼んでください」
「バイトリーダーはなんでそんな余裕そうなんですか!?!?」
心の底から戦慄しているような表情で叫ぶ猫々を見て、虹夏は苦笑を浮かべつつ声をかける。
「大山さん、言ったでしょ? 有紗ちゃんは5つぐらい次元が違うんだって……いまのリョウの言葉も、有紗ちゃんにとってはファミレスで『ポテト頼んでいい?』って聞かれたようなものだからね」
「あっ、ですね。なっ、なので、気にせず好きなだけ食べていいと思います」
「い、いやいや、でも、それだととんでもない金額に……」
高級焼肉に完全に尻込みしている様子の猫々だが、そんな猫々に対して有紗は優しく微笑みながら告げる。
「猫々さん、時として遠慮は望まれない場合もあります。いまこの場においては、私は猫々さんが気にせずにお腹いっぱい食べてくれた方が嬉しいですよ。だから私のことを思うのであれば、金額は気にせず好きに食べてください」
「バイトリーダー……わ、分かりました! そ、それじゃあ、ご馳走になります!!!!」
「ええ、どうぞ遠慮なく」
猫々がお腹いっぱい食べてくれた方が嬉しいという有紗に、猫々は感動したような表情を浮かべる。そして、彼女は切り替えの早い性格だ。
しっかりと、切り替えて有紗に言われた通り値段は気にせず、高級な焼肉を心行くまで楽しんだ。
そして会計時に、店員が有紗に渡した伝票を見て絶叫し、それを何事もないように支払う有紗に畏敬の念に染まった表情を浮かべていた。
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明けて翌日STARRYにて開店準備の清掃をしていた猫々は、有紗がやってくるとビシッと背筋を伸ばして美しさすら感じる角度で一礼した。
「おはようございます! バイトリーダー!! あ、喉渇いてないですか? あれでしたら、ウチが自動販売機までひとっ走り買いに行ってきますよ!!」
「こんにちは、猫々さんは今日も元気ですね。お気遣いだけ、頂いておきますね。ありがとうございます」
どこか暑苦しさすら感じる猫々の様子を遠目に見ていた星歌は、たまたま近くに居た虹夏に尋ねる。
「……なんか、前より暑苦しいんだけど……舎弟みたいになってね?」
「財力で格の違いをわからせられたから……かな?」
どことなく舎弟っぽい雰囲気を出している猫々を見て、星歌と虹夏はなんとも言えない表情で苦笑を浮かべていた。
時花有紗:相変わらずのチート財力、ぼっちちゃんと渋谷デートもしてることが判明。
後藤ひとり:有紗とあちこち行ってるせいか外出慣れしており、渋谷に全く動じていない。たぶん、それなりの頻度でデートしてやがるなコイツ……。
猫々てゃ:金銭感覚は至極真っ当な子。バイトの指導を受ける際の実務能力、楽器を探す際の知力、圧倒的な財力と様々な要素でわからされた結果、完全に有紗が格上の存在であると認識し、体育会系のノリも合わさってなんか舎弟みたいなムーブに……。