ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十四手当選のペアチケット~sideA~

 

 

 結束バンドの新曲作りは順調で、ミニアルバムに収録予定のひとりさん作曲の曲も順調に進行しています。やはり、これまで何曲も意見を出し合って作ってきたおかげもあって、それぞれに経験値が溜まっているのでしょうね。

 特に未確認ライオットで結果を出してからは、全員の演奏レベルが少しではありますが確実に上がっているように感じますし、いまは非常にいい流れですね。

 とはいえ、順調な時にこそ注意をするものです。勢いのある時は思わぬところで躓く可能性もあるので、適度に息抜きなどを挟んでリフレッシュなどもして行けたらいいなぁとは思いますね。

 

「皆さん、こんにちは」

「あっ、有紗ちゃん。こんにちは……」

 

 スタジオ練習をしている皆さんのところに顔を出すと、ひとりさんが嬉しそうに駆け寄ってきてくれて、他の皆さんも口々に挨拶を返してくれます。

 新曲の練習をしていたであろう皆さんの邪魔にならない位置に折り畳み式の机を持って移動し、ノートパソコンを起動させつつ、鞄から紙袋を取り出します。

 

「リョウさん、まだもう少し先ですが誕生日おめでとうございます。プレゼントは迷ったのですが、前回のものを気に入ってもらえていたようなので、今回は前回とは違うホテルのものを用意しました。こちらは半年間有効ですので……」

「有紗、本当に愛してる。有紗が居てくれるおかげで、私は飢えなくて済んでる。心から、感謝」

 

 もうすぐ9月18日、リョウさんの誕生日が近いので今日はプレゼントを持って来ました。前回のホテルビュッフェの定期カードを非常に気に入ってくれていたみたいなので、今回も同じものを……ただし、変化は欲しいので別のホテルのものにしました。

 前回購入したホテルビュッフェのフリーパスは、最大3ヶ月分までしかなかったのですが、今回のホテルは半年分のものもあったので、期間は長い方がいいだろうとそちらにしました。

 リョウさんも気に入ってくれたようで、両手を合わせて拝むような姿勢で感謝してくれました。喜んでもらえるのは嬉しいですね。

 

「いや、サラッと言ってるけど、ビュッフェ食べ放題半年分だよ。有紗ちゃんは相変わらず凄いなぁ……」

「あはは、金銭感覚麻痺しそうですね。ただ恐ろしい部分もありますよ。私も有紗ちゃんに貰ったプレゼントで、高級エステを年間パスで利用してますけど、すっごく良くて……1年経った後に、もうあのエステが無いと駄目な体になってそうで……でも、自前で買うには高すぎるので……」

 

 そんな会話が聞こえてきました。喜多さんもプレゼントを気に入ってくれているようでよかったです。また来年の誕生日が近くなったら、同じパスがいいかどうか聞いてみることにしましょう。

 そんなことを考えつつ、皆さんと少し雑談して、新曲の練習を始めた辺りでノートパソコンを操作して物販関連の作業を進めます。

 

 結束バンドは動画サイトの再生数なども好評なので、一部の物販商品を通信販売ができないかという話になったので、その辺りの調整をメインに行っていきます。

 委託という形で同様にインディーズバンドのグッズなどを取り扱っている企業などに依頼できればいいのですが、あまり物販に力を入れすぎるのもそれはそれで利点ばかりとはいかないので、程度が大事ですね。

 

 

****

 

 

 STARRYでのスタジオ練習を終えて、ひとりさんと一緒に下北沢の街を歩きます。今日は比較的早い時間に練習が終わったこともあって、ある程度時間があるのでこのままどこかに寄っていこうかという話に持っていけそうな気がします。

 ひとりさんとデートしたいという気持ちは非常に強いのですし、ひとりさんも今日は練習が短めだったのであまり疲れている感じはありません。

 ならば誘うのは絶好の機会です。軽くどこかでお茶をしてから……。

 

「あっ、あの、有紗ちゃん?」

「はい? どうしましたか?」

 

 ひとりさんをデートにどう誘おうかと考えていると、ひとりさんが話かけてきました。なにやら表情はやや緊張しているように見えますね。ただ、緊張し過ぎていたりする感じではないので、この雰囲気ですと……なにかを提案しようとしている感じですかね?

 もしかして、ひとりさんの方からデートの誘いがあるかもしれません。そうなったら嬉しい……。

 

「あっ、そっ、その……あっ、明日の休日とかって、その、予定が空いてたりしますか?」

「え? ええ、特に予定はありませんが……」

 

 おや? この切り出し方は、もしかすると本当にデートに誘ってもらえるかもしれません。幸い明日も明後日も急ぐ予定はありませんので、泊りがけでも大丈夫ですが……果たして……。

 期待に胸が高鳴るのを感じつつひとりさんの言葉を待っていると、ひとりさんは少し躊躇うような……恥ずかしがる素振りを見せたあとで、意を決するように口を開きました。

 

「わっ、私と一緒に遊園地に行きませんか?」

「遊園地、ですか?」

「あっ、はっ、はい。だっ、駄目でしょうか?」

「いえ! むしろ、喜んで……ただすみません。まさか、ひとりさんが遊園地に誘ってくれるとは予想していなかったので、驚いて言葉に詰まってしまいました」

 

 まさかの遊園地デートのお誘いでした。とんでもない幸福です。以前にも一緒に遊園地には行きましたが、あの時はひとりさんとふたりきりではなく、あくまでSTARRYの慰安の一環でした。ですが、今回の口振りや、STARRYではなくここで切り出したということは、ふたりきりでということ……思わず顔がにやけてしまいそうなほど嬉しいです。

 

 ただ、それはそれとして意外ではあります。ひとりさんも最近はかなり人見知りを克服してきてはいますが、それでも人の多い場所などは敬遠することが多いです。

 そんなひとりさんが休日の遊園地を提案してくるのは、流石に予想外でした。

 

「あっ、えっと、実はその……福引で、チケットが当たって……そっ、その、ペアチケットだったので、有紗ちゃんと行けたらなぁって……」

「そうだったんですね。私としては本当に嬉しいです。ひとりさんとふたりきりで遊園地デートと思うと、いまから気分が高揚します」

「あっ、いや、普通に遊びに行くだけで、デートじゃ――」

「デートです!」

「――あっ、はい。デートです」

 

 遊園地デート、これは大変素晴らしいです。一緒にアトラクションを楽しんだり、園内で食べ歩きを楽しんだり、パレードを見たり……本当に想像するだけで楽しみです。

 

 

****

 

 

 一夜明け、ひとりさんとの遊園地デートの日となりました。偶然ではありますがひとりさんが福引で当てたチケットは、以前STARRYの慰労で行ったよみ瓜ランドでした。

 私もひとりさんも二度目の来園となるためある程度気楽というのはありがたいです。デートを楽しむことに集中できそうです。

 そう思いつつ、ひとりさんと待ち合わせ場所で合流したのですが……驚くべきことに、ひとりさんの服装はいつものジャージ姿ではなく、以前一緒にハイブランドを買いに行った際にジャージとは別で購入していた服でした。

 

「ひとりさん、今日はその服装なんですね」

「あっ、はい。えっ、えっと、せっかく買ったんだし、着ないのも勿体ないですし……そっ、その、変じゃないですか?」

「最高に可愛いですし、とても似合っています! まず根本的にひとりさんはどんな服を着ても似合いますが、質のいい服はそれだけひとりさんの魅力を引き立ててくれると言っても過言ではありません。上品さと愛らしさが一体となったその姿は、まさに美の化身といっていいものであり、ファッション誌などを見ても果たしてこれほどのレベルの美貌を持つ存在が見つかるかどうかというレベルです」

「あっ、かっ、過言です。例によってもの凄く過言……あっ、あと、これ、また心の声が全部表に出てる感じですよね? あっ、あの有紗ちゃん?」

「むしろ一目見て衝動的に抱きしめなかった己の自制心を褒めてあげたいぐらいです。ただ、果たしてこの先耐え忍べるかと言われれば、無理でしょうし……ここは一度抱きしめておきたいところです。ただ、待ち合わせで合流しただけであり、特に抱きしめる理由が無いですし難し……別に理由は必要ないのでは? いえ、むしろ、私がひとりさんを抱きしめたいというのがすでに十分な理由です。そもそもそれ以前に、ひとりさんが可愛いという時点で理由としては完璧に成立している気もします」

「とんでもない理論を展開し始めた!? あっ、有紗ちゃん、落ち着いて、冷静に……あっ、あの、なんで近寄ってきてるんですか……」

 

 顔を赤くして慌てるひとりさんを見て、我に返りました。危ないところでした欲に突き動かされるまま、大きな失態を犯すところでした。

 

「……申し訳ありません、ひとりさん。少し冷静さを失っていたようです」

「あっ、よっ、よかった、冷静になって……」

「事前に断りも入れずに抱きしめようとするなど礼節が欠けていました。というわけで、いまから抱きしめますね」

「全然冷静になってなかった!? あっ、ちょっ……」

「失礼します」

「ひゃぅっ!?」

 

 なにも言わずに抱きしめてしまってはひとりさんも驚いてしまうでしょうし、一言断りを入れるのは大切です。親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったものです。

 それはそれとして、これはまた素晴らしい。ジャージの時とは服装が違うからか、抱きしめた感覚もまた少し違うような気がします。

 もちろんそれは優劣があるものではありません。至高と最高のどちらが優れているかを議論する意味など無いように、どちらも違って最高に素晴らしいのです。

 

「有紗ちゃん!? ここ、駅なんですけど!!」

「私は気にしませんが?」

「メンタルつよっ!? いっ、いや、私が気にするんです!」

「む、そう言われてしまうと……名残惜しいですが……」

 

 さすがにひとりさんに嫌な思いをさせてまでハグを続けようとは思いませんので、名残惜しさは感じつつも手を解いてひとりさんから離れます。

 

「こっ、こういうのは、他に人が居ない時にしてください……はっ、恥ずかしいので」

「申し訳ありません。つい、気持ちが抑えられず……うん?」

「うん?」

「ああ、いえ、なんでもありません。改めて出発しましょうか」

「あっ、はい」

 

 気のせいでしょうか? いま、他に人が居なければ抱きしめてもいいと許可が出たような気もします。とりあえず、どこかでふたりきりになれるタイミングがあれば、そこでもう一度断りを入れて抱きしめてみることにしましょう。

 

 

 




時花有紗:ひとりの方から遊園地デートに誘ってくれるという事態に、非常に舞い上がっておりウキウキだし、いつも以上にニコニコしてる。相変わらず、ぼっちちゃん関連でだけは自制が効かない。

後藤ひとり:たまたま福引でペアチケットを当てて、誘う相手は有紗以外に思いつかなかった。遊園地に誘うわ、当日はいつものジャージじゃなくて綺麗な服着ているわと……これでよくただ遊びに行くだけと言えたものである。
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