ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十四手当選のペアチケット~sideB~

 

 

 9月に入って2週間近く経過し、夏休みの感覚も抜けてきたころ、ひとりは家から少し離れた場所にある店に買い物に来ていた。

 目的はギターヒーローとしての活動で使うパソコンの周辺機器の購入であり、小さなものだったので通販で買うより近場の店で買った方が早いと判断した結果だった。

 

(わっ、私も日々成長してる……この辺はあんまり普段は来ないからちょっとは緊張してるけど……だっ、大丈夫だ。いまはコンビニにひとりで行っても、ほぼ緊張はしないようになるぐらい成長したんだ。買い物ぐらい余裕……余裕……あっ、でも、お願いだから店員さんとか話しかけてこないで……)

 

 ひとりは人見知りでありコミュ症である。ただ、高校に入ってから1年半でかなり改善されており、ひとり自身が考える通り、確かに間違いなく成長している。

 ただそれでも普段行き慣れていない場所に行く際は少しビクビクとしてしまうので、まだ完全に克服したというわけではない様子だった。

 

 とはいえ、買う物自体は最初から分かっていたので特に時間がかかるわけでもなく、問題なく買い物を終え……。

 

「お客様! こちらをどうぞ~」

「ぴぃっ!? はっ、はい。すっ、すみませ……え? あっ、えっと……これは?」

 

 会計が終わった際に店員から不意になにかを渡されて、驚きつつも首を傾げる。渡されたのは「抽選券」と書かれた紙だった。

 

「はい! ただいま、お客様感謝キャンペーン中でして、1万円以上お買い上げのお客様にお渡ししています。一階で抽選会を行っておりますので、よろしければご参加ください」

「あっ、はい。ありがとうございます」

 

 店員の説明を聞いて納得したひとりは、頷いてその場から離れつつ手に持った抽選券を見る。

 

(……びっ、びっくりした。急に話しかけられるのは本当に心臓に悪い。けど、抽選会……どうせ帰る時に1階は通るし、せっかくだから……まっ、まぁ、当たるようなものじゃないけど……)

 

 せっかくもらったのだからと帰る際に1階の抽選会場にやってきた。景品の書かれたボードを見てみると、特賞の大型液晶テレビなどを始めとして豪華な景品が並んでいた。

 そこまで並んでいる人は多くなかったので、すぐにひとりの順番はやってきて、ひとりは明るい雰囲気の抽選会に気圧されつつガラポンを回す。

 

「……あっ、え? 銀色の玉?」

「おめでとうございます!!」

「ひぃっ!? あっ、え? えっと……」

「2等賞! よみ瓜ランドペアチケット当選です!!」

 

 まさか当たるとは予想だにしておらず、鳴り響くハンドベルの音に怯え、勢いよく声をかけてくる店員にビクビクして、思わず一歩後ずさる。

 そのまま戸惑うひとりに景品のチケットが渡されたが、ひとりはあまりの急展開に思考が追い付かず、無言で受け取って一礼してその場を早足で去った。とにかく注目を集めている状況から抜け出したい気持ちで一杯であり、急いで電気屋を出てある程度歩いてからようやく落ち着いたのか、手に持ったペアチケットの入った封筒を見る。

 

(……あっ、当たった? しかも2等!? すっ、凄いけど……どうせ当たるなら液晶テレビとかゲーム機の方が……陰キャに遊園地のペアチケットなんて渡されても……ペアチケット……ペア……)

 

 その時ひとりの頭に思い浮かんだのは、微笑みを浮かべている有紗だった。やはりひとりにとって、ペアと言って一番初めに思い浮かぶ相手は有紗であり、頭の中ではすでに有紗と一緒に遊園地に行くことを考え始めていた。

 

(……有紗ちゃんと一緒に遊園地は、楽しそう。まっ、前にも遊園地にはいったけど、有紗ちゃんとふたりで行ったわけじゃなかったし……ふたりで行けば、きっと楽しいと思うし……いっ、いつも有紗ちゃんにお世話になってるし、こういう時ぐらい私が……)

 

 以前に結束バンドの面々と大人3人で遊園地に行ったことはあるが、その際には有紗とふたりで遊ぶ時間はそれほど多くは無かった。もちろん皆でワイワイ遊ぶのも楽しかったが、気心知れた有紗とふたりであれば間違いなく楽しく過ごせるという確信があったので、この時点でひとりの気持ちとしては有紗と一緒に遊園地に行きたいという方向に傾いていた。

 ただひとつ、誘うのがなんとも気恥ずかしいという点だけが問題ではあったが……。

 

 

****

 

 

 家に戻り、自室でペアチケットを見つめながらどうやって有紗を誘おうかと考えていると、不意に声をかけられた。

 

「ひとり、なにを見てるんだい?」

「あっ、お父さん……いや、さっき買い物の福引で遊園地のチケットが当たって……」

「おぉ、凄いじゃないか! へ~よみ瓜ランドのペアチケットか、夏休みも明けたばっかりだし、シルバーウィーク前だしで、いまのタイミングなら土日も少しは空いてていいかもしれないな。有紗ちゃんと一緒に行くんだろ?」

「うん、そのつもり……」

 

 父である直樹の言葉に、ひとりは特に否定することもなく頷いた。ひとりと有紗の仲の良さは後藤家では周知の事実ではあるし、この状況でひとりが誰を誘うかなどはわざわざ考える必要も無いものだった。

 

「いや~しかし、あのひとりが友達と遊園地に行くようになるなんて……感動だなぁ」

「おっ、大袈裟な……」

「ああ、そういえば全然話は変わるけど、ひとりも高校2年生だしそろそろ進路調査とかあるんじゃないか?」

「え? そうなの?」

「学校によるけど、お父さんが高校に行ってた時は2年の年末ぐらいにあった気がするな。まぁ、2年生の時の進路調査は軽いもので、紙に書いて出すだけで未定とかでもOKだったけどね」

「へぇ……進路か……」

 

 直樹の言葉を聞いて、ひとりはぼんやりと呟くように返す。進路に関してはあまり考えたことが無かったからだ。漠然と将来メジャーデビューして、売れっ子になりたいという夢はあるが、本当に漠然としたものである。

 

「ちなみにひとりは、高校卒業したらどうしたいとかって考えてたりするのか?」

「う~ん。前までは学力的に進学は絶対無理だから、選択肢はほぼ無いようなものだったんだけど……」

「そうだなぁ、いまはそれこそレベルの高いところじゃなければ普通に大学も入れそうな感じではあるよな」

 

 呟くように告げるひとりの言葉を聞いて直樹は苦笑を浮かべる。実際中学時代までのことを考えると、そもそも高校に合格したのも定員割れのおかげであり、大学は確実に無理だろうとひとりだけでなく家族全員が思っていた。

 しかし、いまは有紗が度々勉強を教えてくれているおかげもあって、ひとりの学力や成績は中の上程度には上がっており、そこそこの大学であれば十分合格を狙えるぐらいにはなっている。

 

「まぁ、難しく考えなくてもひとりの好きな進路を選べばいいさ。大学に進学してもいいし、バンド活動に集中してもいいし、卒業と同時に有紗ちゃんと結婚してもいいし……」

「最後のは関係ないでしょ!? なっ、なな、なんでそんな話に!! とっ、というか、そういうのって普通は親は反対したりするもんなんじゃ……」

「うん? 反対? ……反対する要素、無くないか?」

 

 明らかに焦った様子で、それでもやはりどこか意識しているのか顔を赤くしながら叫ぶひとりを見て、直樹はなんとも楽しそうに苦笑を浮かべた。娘とこういうやりとりをするのが楽しくてたまらないといった感じである。

 

「いや、もちろんひとりが不幸になるような相手だったら、父親として断固反対するけど有紗ちゃん相手ならその心配は無いしね。いや、最初はもちろん驚いたよ。なにせ、初対面からお義父様って呼ばれてたしね」

「あっ、あはは……そういえば、そうだった。いまはもうすっかり馴染んじゃったけど、そういえば最初はそんな感じだったっけ」

 

 初めて有紗が家に来た時のことを思い出して、ひとりは思わず苦笑を浮かべた。そういえば最初は美人局ではないかとか、そんな風に怯えていたこともあったなぁと懐かしむように……。

 

「……けど、有紗ちゃんと仲良くなって、ひとりはどんどんいい変化をしていったと思う。なにより楽しそうに笑ってることが増えたしね。もちろんすべてが有紗ちゃんのおかげでは無くて、ひとりが頑張ったからって部分もあるだろうけど、やっぱり有紗ちゃんの影響は大きいなって思うよ」

「そっ、それはまぁ、その通り……」

 

 実際有紗と友達になってから、ひとりの変化は著しかった。およそ一月後には念願だったバンドにも所属し、どんどん交友を広げていったし、明るい表情を浮かべることも多くなった。

 少なくとも、中学時代に浮かべていたような寂しげな表情はほとんど見なくなり、いまを楽しく幸せだと思っているのが分かる顔をするようになった。そんな風にひとりを変えてくれた有紗には、直樹も心から感謝していた。

 

「だから、お父さんとしては有紗ちゃんが相手ならなんの文句も無いよ。それに、そういうのを抜きにしても、有紗ちゃん以上の相手ってそうそういないと思うぞ。顔も性格もよくて、お金持ちで頭もいいし、ひとりのことを大切に思ってくれて……正直欠点無くないか?」

「……うっ、うん。まっ、まぁ、それに関しても異論はないよ。有紗ちゃんは本当に凄くて、可愛くてカッコいいし、いつも優しくて温かいし、私のこと大切に思ってくれてるのが伝わってきてくすぐったいけど嬉しいし、一緒にいるとすごく楽しいし……音楽のこととかで話すのも、セッションするのも楽しくて……」

 

 有紗への好意が隠し切れないといった感じで、饒舌に語るひとりを見て直樹はなんとも微笑まし気な表情を浮かべる。

 そしてひとりがある程度話したタイミングで、しみじみとした様子で口を開いた。

 

「……そうか、ひとり……幸せになるんだぞ」

「うん……うん? 待って、お父さん!? 話が変!! なんか、有紗ちゃんと結婚する前提で話が進んでるんだけど!! 私と有紗ちゃんはいまはまだ、普通の友達であって……」

「へ~いまはまだか~」

「~~~~!?!?!? おっ、お父さんの馬鹿!!」

 

 その後直樹は、顔を真っ赤にしたひとりによって部屋から追い出されることになるのだが、終始楽し気な表情を浮かべたままだった。

 

 

 




時花有紗:容姿◎、性格◎、能力◎、財力◎……実際問題、純粋なスペックだけを考えても有紗を超える結婚相手は、まず見つからないと言っていいほどの優良物件である。

後藤ひとり:もう全く有紗への好意を隠せてないというか、少なくとも家族にはバレバレの模様。遊園地のペアチケットが当たって即、頭に思い浮かべているのが有紗な時点で完全にLOVEである。
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