ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十五手遊戯のアトラクション~sideB~

 

 

 ひとりと有紗のふたりは、ゴーカートを乗り終えたあともいくつかのアトラクションを楽しみつつ、遊園地を周っていた。その最中にひとりがふと、ある店を発見する。

 

「あっ、有紗ちゃん。チュロスです。チュロスが売ってます」

「遊園地の定番ですね。せっかくですし、買って行きましょうか?」

「あっ、そうですね。小腹も空きましたし、丁度いいですね」

 

 たまたま見つけた屋台でチュロスを購入し、片手を繋いだまま食べ歩きを行う。それぞれプレーンとチョコレートの味を選び、時折食べさせ合いながら歩く姿は非常に仲睦まじいものだった。

 そんな風にチュロスを楽しんでいると、ふとひとりが不思議そうに首を傾げながら口を開いた。

 

「あっ、そういえば、チュロスってなんで遊園地とかだと定番なんですかね?」

「単純に安価で食べ歩きにむいた形状だからだと思いますよ」

「なっ、なるほど、ちなみにチュロスってどこのお菓子なんですか?」

「発祥はスペインやポルトガルという説が有力ですね。ただ、諸説あって中国やアラブが発祥という説もあるので、難しいところですが……一般的にはスペインのお菓子と認識しておいて問題ないと思います」

「あっ、スペインなんですね」

 

 博識な有紗の説明に感心したように頷きつつ、ひとりは手に持っていたチュロスを食べ終えて視線を動かす。

 

「あっ、この辺は前にも来たエリアですね。射的とかがあった覚えがあります」

「ここは比較的体験型のアトラクションが多い気がしますね」

「あっ、ですね。パンフレットにもいろいろ……あっ、これって……」

「ヒーロートレーニングセンターですか?」

 

 ひとりがパンフレットを見て興味をもったアトラクションは、ヒーロートレーニングという体験型のアトラクションだった。ひとりもギターヒーローというアカウントで活動しているからシンパシーを覚えたのかもしれない。

 

「せっかくですし行ってみますか? ただ、これはおそらく体を動かす類のアトラクションだと思いますが……」

「あっ、でっ、でも、3歳以上から挑戦できるみたいですし、2人でチャレンジもできるみたいなので、よっ、余裕ですよ」

「ふむ……では、せっかくですし行ってみましょうか」

 

 有紗はなんとなくひとりが楽観視していることを感じつつも、あくまでアトラクションなので気軽に楽しめばいいと、特に指摘することもなく頷いて一緒にヒーロートレーニングに向かった。

 そのアトラクションでは、8つのトレーニングを順にこなしていくようで、ひとりのいった通りふたりで挑戦することもできるみたいだった。

 

 そして入った最初のアトラクションは、スピードトレーニング。壁にたくさんのボタンが取り付けられており、光ったボタンを素早く押し、制限時間30秒以内にノルマの回数分ボタンを押せばクリアというシンプルなものだった。

 残った秒数は後のアトラクションに持ち越せるため、早くクリアすればするだけ有利になる。そのアトラクションに意気揚々と挑み……。

 

「……はぁ……はぁ……いっ、イキってすみません……」

「大丈夫ですか? まず落ち着いて息を整えてくださいね」

 

 有紗は余裕そうだったが、ひとりは早々に己の認識の甘さを呪っていた。思ったよりノルマがシビアで、仮にひとりが単独で挑戦したとしたらクリアはできなかったと思えるほどだった。失敗しても次には進めるのだが、全てのトレーニングをクリアしないと完全クリアとはならない。

 なお、今回に関して言えば、有紗の身体能力が圧倒的でひとりの運動音痴をカバーしても余りあるほどだったため、問題なくクリアできている。

 

 続けて2つ目のトレーニングはカンサツトレーニング。部屋の中央に立って8方向から、8種類の動物の鳴き声が一斉に聞こえてきて、モニターに指定された3匹の動物がどの方向のモニターであるかを当てるゲームだった。

 普通に挑戦すれば8方向の聞き分けというのは極めて難しいのだが、有紗が非常に耳がよく容易く聞き分けてしまったので、まったく苦戦することなくかなり時間に余裕を残してクリアできた。

 

「次が3つ目ですね……おや? これは……」

「あっ、完全に体動かすやつ……どっ、どう見てもあのサンドバック殴るんですよね?」

 

 3つ目のトレーニングはアタックトレーニング。サンドバックを殴りながら足元の床を足踏みし、パンチと足踏みでカウントを稼ぐアトラクションだった。

 なおパンチは一定以下の力ではカウントされないようで、例によってひとりは大苦戦していたが、有紗が圧倒的なスピードでカウントを稼いでこちらもある程度の時間を残してクリアとなった。

 

「……はひ……あひ……あっ、足手まといですみません」

「そんなことないですよ。ひとりさんもちゃんとカウントを稼いでいましたし、ふたりで協力し合った結果ですよ。さっ、次に行きましょう」

「……あっ、あと、5個も……ひぃぃ」

 

 続けて辿り着いた4つ目のトレーニングはブレイントレーニング、コンピューターが設定した3桁の数字を当てるというもので、いくつかのヒントを元にその数字を当てるゲームだ。

 制限時間はここまでの3つのアトラクションの残り秒数+30秒であり、このステージをクリアできないと次に進めずゲームオーバーとなるようだった。

 

(あっ、つまりここで失敗すればもう外に出れ……だっ、駄目だ! 有紗ちゃんが頑張ってくれてるんだから……ちゃんとクリアしないと……)

 

 一瞬、ワザと失敗してリタイアしようと考えたひとりだったが、すぐにその考えを首を振って引っ込め、問題に挑戦する。

 有紗からのアドバイスを貰いつつも、しっかりひとりが考え……見事正解して、後半ステージに進むことができた。

 

 たどり着いた5つ目のトレーニングはアイアンハートトレーニング、椅子に座って30秒間動かなければクリアというものであり、驚かすための仕掛けがいくつも隠されている耐久型のアトラクションである。

 ここの制限時間は特殊で、クリアできれば30秒追加で最終トレーニングに持ち越せる仕様となっている。

 

「あっ、これは、大丈夫です」

「おそらくいくつか、驚かすような仕掛けがあると思いますよ。スピーカーのようなものも見えますし……」

「あっ、外部の情報をシャットアウトして、閉じこもっているのは得意なので……」

 

 中学時代や高校で友達ができるまでの間は、休み時間も己の席で気配を完全に断っていたひとりにとって、動かないというのは非常に楽なアトラクションだった。

 外界の情報を全てシャットアウトして己の殻に閉じこもれば、叫び声やエアー噴出などにもまったく微動だにせず虚無の表情を貫いており……結果としてひとりは、余裕で30秒を耐えきった。

 

 続けて6つ目のトレーニングはコード記憶トレーニング。8桁の数字を覚えて入力するというものだが、これは有紗が得意とする内容であるため、まったく苦戦することなく一瞬でクリアできたため、5つ目と合わせてかなりの時間を持ち越せていた。

 

 そしてここまでの時間を使って、7つ目のアジト潜入トレーニングに挑むことになる。内容自体はシンプルで障害物のあるアトラクションを進み、「誰かいるのか?」という機械音声が聞こえたら、瞬時に物陰に隠れなければ失敗。

 部屋の中の3つのボタンを押し切ればクリアというものだった。「誰かいるのか?」というセンサー判定のタイミングはランダムであり、欲をかいて進み過ぎていると周囲に障害物の無い場所で判定を喰らって失敗となってしまう。

 

 ここをクリアできれば最終ステージに進み、失敗するとゲームオーバーとなる。

 

「あっ、えっと、慎重に――」

『誰かいるのか?』

「ひとりさん!」

「ひゃぅっ!?」

 

 完全に反応が遅れていたひとりだったが、有紗が素早くひとりを抱き寄せて物陰に隠れたためなんとか判定に引っかかることは無かった。

 もっとも、いきなり抱き寄せられて胸に抱かれる形になったひとりの動揺はすさまじかったが……。

 

(あっ、あれ? なっ、なんで私、有紗ちゃんに抱きしめられてるの? あっ、有紗ちゃんの真面目な顔……カッコいい……じゃなくて、あっ、えっと、動かないと……)

 

 動揺で混乱しており、完全に冷静さを欠いていたひとりだったが、有紗がフッと微笑みを浮かべて軽くひとりの頭を撫でて告げる。

 

「ひとりさん、大丈夫です。私にしっかり掴まって、ついてきてください……必ずクリアして見せます」

「あっ、はぃ……」

 

 キリッとした表情で告げる有紗は頼りがいがあり、どこか凛々しさも感じ……ひとりは己の胸が大きく脈打ち顔に血が集まっていくのを感じた。

 ひとりはとにかく凛々しい有紗に弱いところがあり、真っ赤に頬を染めながら潤んだ目で有紗を見ていた。幸いだったのは、潜入をテーマにしたアトラクションで、室内がやや暗めで赤い顔に気付かれにくいことだろうか……。

 

(うぅぅ、あっ、有紗ちゃんがカッコよすぎてズルい。こっ、こんなのドキドキしちゃうに決まってるし……うぅ、有紗ちゃんのこういう頼りがいのあるとこ好きだし……かっ、顔熱い……)

 

 どこか熱にうなされるような感覚ながら、それでも従順に有紗の指示に従って進んだ結果、無事に7つ目のトレーニングをクリアして最後のステージに進むことができた。

 

 最後のジャッジメントトレーニングは簡単ながら少し頭を使うゲームであり、若干苦戦はしたが有紗と協力して無事にクリアすることができた。

 

「あっ、かっ、完全クリアですね」

「ええ、やりましたね。私とひとりさんのコンビネーションの賜物ですね」

「あっ、いっ、いや、有紗ちゃんがいてくれたおかげです。私ひとりだと絶対無理でした……あっ、やっ、やっぱり、有紗ちゃんは頼りになって……かっ、カッコよかったです」

「ふふ、ありがとうございます。そう言ってもらえると、嬉しいです。でも、ひとりさんもしっかり頑張ってましたし、4つ目の問題を解く際などは素敵でしたよ」

「あっ、えへへ……そっ、そう言われると照れちゃいます」

 

 有紗に褒められたのが嬉しかったのはひとりは顔を綻ばせ、それを見た有紗も楽しそうに笑う。その後はふたりで結果の書かれた紙を受け取って、アトラクションを後にした。

 

 

 




時花有紗:スペックが超人なので、単独でも余裕で完全クリアできた。なんなら、ひとりのフォローをしながら完全クリアして見せた。

後藤ひとり:カッコいい有紗ちゃんに割とメロメロになってた。いちおういくつかのトレーニングで活躍はあった。単独だと最初のトレーニングで体力の限界を迎えていた可能性が高い。

ヒーロートレーニング:実際によみうりランドにあるアトラクション。最終ステージは公式でも内緒になっているので、内緒。少し頭を使うゲーム……リニューアルされていて、リニューアル前は最終ステージはもっと難しかったとか? 正直2つ目の聞き分けが一番難しいと思う。
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