ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十六手親密の遊園地デート~sideB~

 

 

 昼食を食べ終えたあと、例によって手を繋いで遊園地を歩く有紗とひとりは、次のアトラクションに向かいながら言葉を交わす。

 

「……ひとりさん、ふと疑問に思うのですが……」

「あっ、はい?」

「恋人っぽいことって、具体的にどんなことでしょうか?」

「のっ、ノープランなんですか!?」

 

 有紗は先ほどのフードコートで、今日はひとりと恋人っぽいことをしたいと宣言し、それを実行すると決意を固めた。

 そこまではいい。まぁ、ひとりにしてみればいったいなにをしてくるのかという不安はあるが……それはいい。

 問題は、いざ考えてみても具体的になにをするということが思いつかなかったという点である。

 

「いえ、いざ考えてみると中々難しいものがありまして……私がやりたいのは友達同士がしてもおかしくは無く、それでいて恋人っぽいことです。よくある表現を使うなら、友達以上恋人未満のような印象ですかね?」

「あっ、はい。たっ、確かに時々聞くフレーズですね」

「ええ……ただ、具体的に思いつかないんですよね。例えば、ひとりさんは恋人っぽい行動というとなにを思い浮かべますか?」

「…‥うっ、う~ん」

 

 有紗の問いかけを聞いて、ひとりも考えるように思考を巡らせる。絶対に恋人でなければやらないというわけではないが、恋人っぽい行動……確かに、考えてみれば少し難しいかもしれない。

 

「あっ、えっと……手を繋いでデートするとか?」

「いましてますね」

「あっ、そうですね。料理の食べさせ合い……も、しましたね」

 

 とりあえずパッと頭に恋人っぽい行動を思い浮かべてみるひとりだったが、そうやって考えてみると有紗がなにに悩んでいたかが分かった気がした。

 

「すっ、砂浜で追いかけっことか、水の掛け合い」

「以前海でしましたね」

「ひっ、膝枕して耳かきとか、一緒に入浴したりとか、おっ、同じ布団で寝たりとか……」

「全部しましたね」

「……たっ、確かに全部してますね」

 

 そう、思い浮かぶ恋人っぽい行動は……既に経験済みのことばかりなのである。

 

(いっ、言われてみれば全部してるような? カップル専用ドリンクっぽい感じで、同じジュースをふたりで飲んだりもしたし、一緒に旅行に行ったりも……というか、思い浮かぶ恋人っぽい行動は大抵有紗ちゃんとしてるような……というか、これもう、実質有紗ちゃんが恋人みたいな……まっ、まった、駄目だ! それ以上その方向で思考を広げたら、せっかく気付かない振りしてる意味が……うぅぅ)

 

 とても大きな真実に……周りから見れば周知のと言えるようなことに気付きそうになったひとりだったが、若干慌てた様子で首を横に振って思考を霧散させた。

 いまはまだその気持ちに向かい合う勇気がないので、しっかり認識してしまえば挙動不審になるのが分かり切っていたので、必死に思考を追い出す。

 

「あっ、えっ、えっと、別に新しいことを無理にしなくてもいいのでは?」

「ふむ、なるほど……確かに、新しいことをしなければ恋人っぽくないということもないですね」

「あっ、そっ、そうです。ほっ、ほら、さっきの食事の時もいままでやったことがあることでしたし……」

「ッ!? そ、そういうことですね! 分かりました。つまり、先ほどの食べさせ合いのように、既に経験があることでも一歩進むことで新しい発見があるかもしれないということですね!」

「えっ、あぇ? そっ、そういう話でしたっけ? あっ、あれぇ?」

 

 ひとりの言葉を聞いて有紗は目を輝かせた。なるほど、盲点だったと……どうしても、新しいものへ目を向けがちになってしまうのが人の性ではあるが、決してそれが全てではなく過去の行いを振り返ることで新たな境地に辿り着くことができる。

 先ほど「あ~ん」という単純な発声を付け加えることで、幸福度が上がったように他にもそういったものがあるはずだと……。

 

「というわけでひとりさん、腕を組んで歩きましょう」

「なっ、なにがいったいどういうわけなんですか!?」

「いままでよくこうして手を繋いで歩くことはありましたが、腕を組んで歩いた経験は少なかったと思いまして……せっかくの機会なので、ひとりさんと腕を組んで歩きたいです」

「うっ、あぅ……」

 

 有紗は基本的に己の感情に素直で、ひとりに対する好意も真っ直ぐである。故にいまも、ひとりと腕を組んで歩きたいという思いを真っ直ぐ伝えてきている。

 その好意溢れる期待の目を向けられると、ひとりとしては弱かった。なにせ、ひとり自身は自覚していない……いや、無理やり自覚しないように目を逸らしているが、ひとりの有紗に対する好感度は極めて高い。それこそ、有紗の願いならなんでも叶えてあげたいと思うぐらいには……。

 なので、こうして真っ直ぐに頼まれると、NOという返答は選べなかった。そもそも、ひとり自身別に腕を組むのが嫌なだけではなく、気恥ずかしいという理由で躊躇っているだけなので、拒否の感情が強くないというのも要因のひとつだろう。

 

「ところで、腕を組むという形状だと、どちらかが寄りかかる形になるかと思いますが……ひとりさんはどちらがいいですか?」

「あっ、えっと……有紗ちゃんの方が背が高いですし、私が寄りかかる方が自然な気がします」

「なるほど、確かにそうですね。では、どうぞ」

「……あっ、あれ? いつの間にか、腕組むことが決定してる!?」

 

 いつの間にか腕を組むかどうかの話ではなくなっていたことに驚愕しつつも、ひとりはなんとなくこんな展開になるとは予想していたのか、軽くため息を吐いたあとで、ワクワクとした表情で待つ有紗に腕を絡め、要望通り腕を組み、少しだけもたれ掛かる。

 

(……あっ、ヤバいこれ、思った以上にしっくりくるというか、こう、心の中から有紗ちゃんに甘えたいって気持ちが湧き上がってくる気がする。恥ずかしいし、想像よりも距離が近いけど……けっ、結構幸せなのがなんとも……)

 

 高身長である有紗と腕を組んでもたれ掛かるのは、安心感が凄かった。ひとりにとって、有紗は頼れる存在ということもあって、こうした状態になるとどうしても甘えたいという気持ちが強くなる。

 腕を組んで手を繋いでいるため、普段より密着率も高く、微かに香る香水や有紗の手の温もりが心に温もりを与えてくれて、自然と頬が緩むのを感じた。

 

「やはり、これはいいですね。いつもよりひとりさんを身近に感じますし、デートという感じがします」

「あっ、そっ、そうですね。はっ、恥ずかしいですけど……確かに、その、ちょっといいかも……しれないです」

 

 満足気に笑う有紗を見て、ひとりもはにかむような笑みを浮かべながら歩く。「確かにデートって感じの雰囲気だ」と、そんなことを考えながら……。

 

「あっ、有紗ちゃん、次はどこに行きますか? さっきは私が選んだので、次は有紗ちゃんの行きたい場所に行きましょう」

「それでしたら、遊園地に隣接するフラワーパークに行ってみませんか? 遊園地の入場券を持っていると、割引価格で行き来することができるらしいんです」

「ふっ、フラワーパーク? なっ、なんか、お洒落な感じですね」

「世界中の花や、花を用いたアートなどもある綺麗な場所らしいですよ。カフェなどもあって、花を見ながらカフェで休憩もできますので、いかがでしょう?」

「あっ、はい。大丈夫です。フラワーガーデンなんて、行くの初めてですね」

「確かに、意識して行こうとしないとなかなか行く機会はないですね」

 

 遊園地のアトラクションではなく、遊園地と隣接した施設に向かうことを希望する有紗の言葉に、ひとりは特に疑問などを持つことは無く了承して、一緒にフラワーガーデンとの連絡通路に向かって歩き出す。

 

「あっ、フラワーガーデンに行きたがるってことは、有紗ちゃんは花が好きなんですか?」

「人並みに好きではありますが、特に花に強い拘りや好みがあるわけではないですよ。単純に、事前にネットで下調べを行った際に、よみ瓜ランドのデートスポットの紹介記事に載っていたので、是非ひとりさんと一緒に行きたいと思ってました」

「あっ、あぁ、そういう感じの……」

「ひとりさんと腕を組んで、美しい花を見ながら歩くというのはとても素晴らしいと思います。美しい花々を眺めつつ、それ以上に美しいひとりさんを見られるわけですし、美しさと美しさのコラボレーションですね」

「あっ、有紗ちゃんは、いつも大袈裟です……」

 

 楽し気に話す有紗の言葉を聞いて、ひとりはどこか呆れたような……それでいて、少し嬉しそうな表情で苦笑を浮かべていた。

 

 

****

 

 

 遊園地からの連絡通路を通って目的のフラワーガーデンに辿り着くと、すぐに美しい花々が咲き誇るエリアが見えてきた。

 

「あっ、すっ、凄いですね。思った以上に大きいというか……あっ、あっちの方には塔みたいなのが見えませんか?」

「ああ、あちらは貴重な文化財などがある日本庭園風のエリアになっているみたいです。いま私たちの正面にあるのが洋風の植物園とするなら、そちらは和風の植物園といった感じですね」

「あっ、なるほど和洋で分けてるんですね。あっ、どっちから行きますか?」

「特に希望が無ければこのまま花畑の中央の道を通って、向こうの建物に行きませんか? 中にはフラワーアートやカフェがあるので、そこのカフェで少しゆっくりしましょう」

「あっ、はい。分かりました」

 

 有紗の提案に頷いて、ふたりで花畑の間の小路を歩き出す。有紗がデートスポットと言っていたように、確かにカップルっぽい雰囲気の人たちが多く、どことなく甘い空気のような気がした。

 もちろん有紗とひとりも負けず劣らずの甘い空気を出しているので、まったく場違い感などは無いのだが、当人であるひとりは若干落ち着かない様子で視線をキョロキョロと動かしていた。

 

「……ひとりさん」

「あっ、はい?」

「こうして花畑をバックに見ると、本当にひとりさんの愛らしさが際立ちますね……綺麗ですよ。すごく、すごく素敵です。美しい花畑が霞んでしまうぐらいに……」

「~~~!?!? なっ、だっ、だから、なんで有紗ちゃんはそうやって唐突に恥ずかしいことを言うんですか!?」

「心からの本心なのですが……」

「あぅぅぅ」

 

 組んでいない方の手をそっとひとりの頬に添えながらキリッとした様子で告げる有紗の顔は、ひとりにとって効果抜群だったようで、ひとりは茹蛸のように顔を真っ赤にしながら唸る。まぁ、それでもやはり、どこか……嬉しそうではあった。

 

 

 




時花有紗:ひとりとのいちゃいちゃ度がいつもより高くて非常に満足。ずっと幸せそうな笑顔を浮かべており、その圧倒的容姿も相まって破壊力は凄まじい。

後藤ひとり:ついに「あれ? 私たち実質恋人みたいなものじゃ?」と気付きかけたが、全力で目を逸らした。しっかり認識したら、たぶん恥ずかしさで気絶する。ただ、無意識なのかいちゃいちゃ度は上がった。周囲から見れば、完全にバカップル。
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