ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十七手称揚の大観覧車

 

 

 ひとりさんと一緒にフラワーガーデンにやってきて、カフェで休憩しつつ美しい花々を堪能しました。一休みしたあとは花で出来たシャンデリアや、デジタルアートを一通り見て回り、改めてよみ瓜ランドに連絡通路を通って戻りました。

 

「あっ、コーヒーカップは久しぶりな気がします。むっ、昔家族で遊園地に行った時以来のような……」

「私も久々です。イメージより動きが早いんですよね」

「あっ、ですです。なんか、思ったよりよく動くんですよね。あっ、有紗ちゃんは、遊園地とかよく行くんですか?」

「国内より国外の方がよく行く印象ですね。お母様がテーマパークが好きなので」

 

 お母様は旅行も好きですが、遊園地も大好きで、それこそ本当に世界中の遊園地に連れて行ってもらった覚えがあります。あちこちを周って楽しむというのが、お母様の性に合っているのかもしれませんね。

 

「ひとりさんは、どうですか?」

「あっ、私は小さい時に何度か行ったぐらいです。その後は全然……あっ、でも、最近はふたりが大きくなったのでまた行こうかみたいな話を、お父さんたちがしていた気がします」

「確かに、ふたりさんもいまの年齢になれば乗れるアトラクションも増えてくるでしょうし、いいタイミングかもしれませんね」

 

 ふたりさんは活発ですし遊園地は好きそうです。子供の頃に家族と行く遊園地はとてもいい思い出になりますし、家族全員で行くのは本当にいいと思います。

 私も将来の家族という意味で同行したいという気持ちはありますが、そこはあくまで「将来の」が付くので、正式に家族の一員になるまでは我慢ですね。お誘いがあった場合には、喜んで同行しますが……。

 

 そうこうしているうちにコーヒーカップは終わり、私とひとりさんは再び腕を組んで園内を歩き出します。ひとりさんもある程度慣れてきたのか、腕を組んだ状態でも表情から緊張が抜けてきたような気がします。

 

「そういえば、話は変わりますが……作曲の方は順調ですか?」

「あっ、けっ、結構いい感じです。今日も遊んでてよさそうなフレーズを思いついたらスマホにメモしてますし、ある程度形になったらまた有紗ちゃんに意見が貰いたいです」

「ええ、私で協力できることでしたらいくらでも……さて、ひとりさん次はどのアトラクションに行きましょうか?」

「あっ、えっと、お母さんにオススメされたのがあって、ジャイアントスカイリバーっていうのが凄いってテレビでやってたとか……」

「……ジャイアントスカイリバー?」

 

 ひとりさんの話を聞いてすぐにスマートフォンでアトラクションを確認すると、大型のウォータースライダーのようでした。洋服を着たままでも乗れる設計になっているみたいで、全長400メートル近いスライダーをボートで下る形式のようです。

 

「う~ん。ひとりさん、大丈夫ですか? これは、ジェットコースターほどではないにせよ、スリルのある類のアトラクションだと思いますが?」

「あっ、えっと、なんか絶叫マシンが苦手な人でも楽しめるアトラクションらしいですよ」

「なるほど……では、行ってみましょうか」

 

 たしかにウォータースライダーであれば、ジェットコースター程の速度は出ませんし、独特の浮遊感もないので苦手な人でも楽しみやすいかもしれません。

 

 そんなわけで、ひとりさんが提案したジャイアントスカイリバーにやってきたのですが……。

 

「……あっ、ああ、あの、有紗ちゃん? こっ、ここ、高くないですか?」

「巨大なウォータースライダーという形式上、どうしてもスタート地点は高い位置になりますね。スピードはどうですか? ここからなら、他の人が乗っている様子が見えますが……」

「あっ、えっと……あっ、アレぐらいのスピードなら、そこまで怖くないので大丈夫です」

 

 ひとりさんが無理そうなら他に行こうかと思いましたが、そこまで問題ではないみたいです。ひとりさんは特に高所が駄目というわけではないのは知っています。ジェットコースターを怖がるのは、単純にスピードが速いからであり、速度が控え目であれば大丈夫なようです。

 

 会話をしつつ順番を待って、最大四人まで乗れるボートに2人で乗り込みます。

 

「あっ、いっ、いざとなるとちょっと怖いかもしれないです。こっ、これ、向かい合う形で座らないと駄目なんですかね?」

「バランス的には向かい合う形で体重を分散させるのがいいと思いますが、ひとりで乗っている方も見かけたので、ある程度は偏っても大丈夫な設計になってると思いますよ」

 

 円形のボートであり、カーブなどでのバランスを考えると向かい合う形が最適ですが、ひとりさんとしては私と離れた位置に座るのが不安な様子でした。

 ボートの大きさを考える限り、仮に最大人数の4人が片側に偏ったとしても問題は無いように計算されているとは思います。

 

「とっ、隣に行ってもいいですか?」

「はい。大丈夫ですが、急いでください。もうそろそろスタートですよ」

「あっ、はい――ひゃっ!?」

「ひとりさん!?」

 

 私の隣の席に移動しようとしていたひとりさんですが、ボートの上という足場の悪さもあってバランスを崩してしまいました。

 なので咄嗟にひとりさんの手を掴み、私の方に抱き寄せて胸に抱えるように抱きしめました。この姿勢で大丈夫だろうかと、チラリとスタート地点に居る係員さんに視線を送ると、問題ないというようにサムズアップをしたあとで「手すりはしっかり持っておいてください」と告げて送り出してくれました。

 

「ひとりさん、片手でここの手すりをしっかり持ってください」

「あっ、はっ、はい!」

「そして残った手で私にしっかり掴まっておいてください」

「わっ、分かりました」

 

 ……まぁ、手すりさえ持っていれば落下したり転倒するようなスピードではありませんが、バランスを安定させる意味でも、私の幸福的な意味でもできるだけ密着しておいた方がいいです。

 ぎゅっと抱き着いてくるひとりさんを片手で抱き返し、もう片方の手で手すりを掴みます。

 

「ひとりさん、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。あんまり早くないのと……あっ、有紗ちゃんが近くに居るので安心です」

「それならよかった。景色もいいですよ」

「あっ、本当ですね。すごい……あっ、もう大丈夫そうなので席に……」

「いえ、途中で場所を動くのは危険なのでこのまま最後まで行きましょう」

「え? あっ、でも、立ち上がったりする必要も無くて有紗ちゃんの隣に座るだけ……」

「このままがいいと思います」

「あっ、はい」

 

 姿勢を直そうとするひとりさんを説得して、そのまま抱き合ったままでウォータースライダーを堪能しました。

 

 

****

 

 

 ウォータースライダーの後もいくつかのアトラクションを楽しんでいると、日が沈んできて園内がイルミネーションによって綺麗に彩られてきました。

 ちょうどいいタイミングなので、ひとりさんと一緒に大観覧車へ向かいます。夜景とイルミネーションが同時に楽しめる最高のタイミングですね。

 

「……なっ、なんか、観覧車に乗ると締めって雰囲気がありますね」

「確かに、遊園地の締めくくりのような印象はあるかもしれませんね」

 

 隣同士に座って腕を組みながら景色を眺めます。流れる時間が心地よく、腕に感じる微かな温もりに心の中まで温かくなるようでした。

 

「……あっ、あの……有紗ちゃん?」

「はい?」

「へっ、変なこと……聞いても、いいですか?」

「なんでしょうか?」

「あっ、えっと、有紗ちゃんって……私のどこがそんなに好きなんですか? あっ、えっと、ほら、私ってコミュ症で陰キャで、情けないとこ多くて、唯一の取り柄のギターも人前では完璧に実力が出せなくて、ダメダメなのに……どこを好きになってくれたのかなぁって……」

 

 呟くように告げられたひとりさんの言葉に、私は少し考えます。むしろひとりさんの好きでない部分を探す方が大変なぐらいには、ひとりさんのことが好きなのですが……改めて言語化するとしたら、どういうべきでしょうか?

 

「う~ん。改めて言語化するというのはなかなか難しいですね。一番初めの切っ掛けを語るなら、最初は一目惚れだったわけなので、その時点ではひとりさんの容姿に惹かれたと表現するのが適切かもしれませんね」

「あっ、あの時は、ビックリしました」

「ふふ、私もつい衝動的に行動してしまいました。まぁ、ともかく最初の時点では容姿が好みだったというのが大きいのは間違いないでしょう。次に惹かれたのは、ひとりさんの優しさですかね」

「あっ、優しさ、ですか?」

 

 一番初めは一目惚れなので、どこを好きになったかと言われれば容姿と答えるのが適切です。ひとりさんは私にとってまさに理想そのものですしね。

 

「ええ、出会ったばかりの頃はひとりさんが部屋でギターの練習をして、私が本を読みながらそれを眺めているということが多かったですよね?」

「あっ、はい」

「その際にもひとりさんは、私のことをよく気にしてくれていました。練習の合間などに、一生懸命話しかけてくれたり、私が退屈してくれないか気を使ってくれたり……そんな自然な優しさに触れて、ひとりさんの内面もどんどん好きになっていきましたね」

「……あっ、あぅ」

「それ以外の面でも、ギターを演奏している際の楽しそうな姿も心惹かれますし、茶目っ気のある行動も愛らしいです。バンドの活動に話を移してもそうですね。ひとりさんは、本当に勇気を出すべきところでは、逃げずにしっかり前を向いて立ち向かえる人です。結束バンドとしての初ライブの時も、文化祭で演奏を立て直した時も、とてもカッコよくて素敵でしたよ」

「はぅぅぅ……」

 

 一度言葉にし始めると、次々に出てきます。それこそひとりさんの好きなところを語るのであれば、一晩中でも話し続けられる自信があるほどです。

 いまは、それほどたくさん時間があるわけではないので大雑把に言っていますが、いま語った部分に関して……例えば容姿にしても、細かな好きポイントはたくさんあるので、本気で語るとしたらそれだけで終わってしまいそうです。

 

「さらに、前を向いて成長していく姿も素敵です。出会ったばかりの頃は重度といっていい人見知りだったのも、少しずつ改善して自分から話しかけたり、行動を起こすことも増えてきました。言葉にすれば簡単かもしれませんが、自分を変えるというのは本当に難しいものです。それに合わせて、自分の足りない部分を足りないとしっかり見つめて改善できるのもひとりさんの良さですね。細かな部分で言えば、あの時の……さらにはあの部分も……一緒に……他にも……」

「まっ、待ってください! 有紗ちゃん! もっ、もうわかりました! 十分すぎるほどに分かりましたから!!」

「え? まだまだたくさんあるのですが……」

「もっ、もう勘弁してください……顔が沸騰します……」

 

 話がノッてきて軽快に話していた私を、真っ赤な顔になったひとりさんが止めました。私としてはまだまだ語り足りないのですが……。

 

「……本当にもぅ……有紗ちゃんは……」

 

 そんな風に小さく呟いたあとで、ひとりさんは私に寄り掛かるように体重を預けてきました。言葉はそれ以上ありませんでしたが、なんとなく今まで以上にひとりさんとの心の距離が縮んだような……そんな気がしました。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんのことは大体全部好きだし、語ろうと思えばいくらでも好きな部分は語れる模様。本人的にはほぼ平常運転である。

後藤ひとり:興味本位で聞いてみた結果、褒め殺し+これでもかというほど好意が伝わってきて照れまくって茹蛸に……尤も、恥ずかしそうではあったが嬉しそうでもあった。
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