ストレイビート主導で製作することになるミニアルバムに収録予定の曲も完成し、都さんのOKも出たためいよいよ間もなく本格的なレコーディングとなります。
「へぇ~じゃあ最近はぼっちちゃんが大山さんにギター教えてるんだね」
「あっ、私だけじゃなくてリョウさんもですけど……」
「まぁ、合間合間に少しだけね」
虹夏さんの言葉にひとりさんとリョウさんが頷きます。猫々さんはギターを購入しましたが、まだまだ完全に初心者といっていい段階であり、ひとりさんやリョウさんに教えを乞うている状態です。
喜多さんもギターは弾けるのですが、やはりひとりさんやリョウさんほど知識はないので、まだ人に教えられるほどではないと本人は言っていました。
まぁ、私の見立てでは喜多さんは実力だけなら指導できるレベルではあると思いますが、どうしても知識不足な部分があるので本人的に乗り気ではないのかもしれません。喜多さんはギターと共にボーカルも練習しているので、やることが多い分上達が遅れがちになるのは必然です。
ですが、ボーカルに関してはインディーズバンドでは上の方といっていいほどに成長してますし、歌唱力という部分では教えている側の私が追い抜かれる日もそう遠くないと思います。
「けど、大山さんはグイグイ教わりにきそうじゃない?」
「ああ、最初はそうでしたがその辺りは私が一通り話をしましたので……」
「あの子、有紗のいうことには滅茶苦茶従順に従うから……」
喜多さんの想像通り、最初はバイト先でも学校でもひとりさんの元にギターを教わりに頻繁に来ていたようで、ひとりさんが疲れ気味だったので私が話をして教わる日や時間を、ひとりさんと猫々さんの予定を聞きつつ取り決めることにしました。教える側も教わる側も楽しくできるのが一番ですからね。
猫々さんは素直な方なので、そうやって話をすればちゃんとその通りにしてくれるので問題はありません。
「あれ? そういえば、リョウは有紗ちゃんにもベース教えてるんじゃないっけ?」
「……教えて『いた』が正しい。有紗は駄目だ」
「え? あっ、有紗ちゃん、ベースは駄目なんですか? まっ、前にセッションした時は結構上手く……」
「いや、そうじゃなくて、覚えが早すぎて教えがいがない。もう教えることないし、なんならもうその辺の木っ端バンドのベーシストよりよっぽど上手い。チート過ぎるだろ有紗、経験値10倍とか、そんな感じの能力持ってそう」
「リョウさんの教え方が上手かったおかげですよ。リョウさんは音楽知識が豊富ですし、相手に合わせた指導ができるので、案外指導者に向いている気がしますね」
ベースをリョウさんから1本買い取ったあとに一通り教わりましたが、リョウさんは指導上手といった感じでした。口数は少ないですが、知識が深く相手が躓きやすい場所をしっかり分かっていて、それに合わせた指導をしてくれます。
本人は「適当に教えてるだけ」と言っていましたが、なんだかんだで面倒見がいいところもあるので、本当に指導には向いていると思います。
そんなことを考えていると、喜多さんがふと私が操作しているノートパソコンを見て首を傾げました。
「あれ? そういえば、有紗ちゃんはなにしてるの? また物販関係?」
「ああいえ、今回はミニアルバムのジャケットデザインですね。前に配布CD用に作った5つの結束バンドが並ぶデザインを都さんも気に入ってくださったので、それを少しアレンジしているところです」
「あ~あれ、可愛かったし、いいわね! アレンジっていうと?」
「皆さんをイメージした小物を背景にさり気なく混ぜたりですね」
このジャケットは宣伝用の配布CDに使ったものでしたが、結束バンドっぽい雰囲気がいいと皆さんや都さんも気に入ってくださったので、ミニアルバムのジャケットにはこれを直したものを使う予定です。
ひとりさんの髪飾りや虹夏さんが愛用している大き目のリボンなどを、背景にさり気なく混ぜて全体のデザインを整えていく形で調整しています。
「まぁ、けどレコーディング楽しみだね。本格的な日程はこれから司馬さんと相談する形になるけど、だいたい4日間かけて5曲録る形になるみたいだから、土日でやるとして2週間かな?」
「いっ、いよいよですね」
「プロのエンジニアさんもいるし、4日でレコーディング代20万をレーベルさんが出してくれるし……本当に頑張ろうね」
「いざとなれば、有紗に土下座して追加で予算出してもらおう」
「ふふふ、なんならストレイビートさんに働きかけましょうか? もう株は11%ほどは抑えているので、予算アップぐらいでしたらすぐに通せると思いますよ」
ストレイビートを有する会社の株は念のために多めに購入して、主要大株主となれる10%の基準は超えています。まぁ、現状は特に口を出したりはしていませんしする気も無いのですが、その気になれば予算アップ程度は即通せるとは思います。
「あ、あはは、有紗ちゃんの冗談は面白いな~……冗談だよね?」
「あっ、えっと……たぶん本当に持ってそうです」
まぁ、本当に最後の手段といいますか、基本的には変な横やりは入れるべきではないのでレコーディングに関しては、特になにかをするつもりはないです。
そんなことをしなくても、皆さんなら問題なく乗り切れると思っていますからね。
「ま、まぁ、ともかく、レコーディングに向けてひたすら練習あるのみだよ! 頑張ろう!!」
気を取り直すように告げた虹夏さんの掛け声で、皆さんは熱を入れて練習を始め、それを聞きながら私はジャケットのデザインの修正を続けました。
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とまぁ、皆さん気合を入れて練習を行ったのはよかったのですが、金曜日ということもあって遅くまで練習しても大丈夫という雰囲気で練習を続けた結果、いつもよりかなり遅い時間になってしまいました。
「……あちゃ~、うっかりしてたね。ぼっちちゃんの終電がもうないや」
「あっ、そっ、そうですね。うっかりしてました」
「では、ひとりさんは今日はうちに泊まってください。明日また家に送っていきますので……」
「あっ、はい。ありがとうございます」
比較的家が近いリョウさんや喜多さんはまだ問題なく電車に間に合いますが、ひとりさんは自宅の最寄り駅まで2時間近くかかるので、当然ですが終電も他の皆さんより早いです。
念のためにリョウさんと喜多さんを見送るついでに全員で駅まで来て時間を確認してみましたが、やはりもうひとりさんの家の最寄り駅まで行ける電車は無いようでした。
私が早い段階で気付ければよかったのですが、ジャケットの作業が大詰めで集中していて気付くのが遅れてしまいました。
とはいえ、ひとりさんは私の家に何度も泊まっていますし、今回もそのようにすれば問題はありません。実際、ひとりさんも私が声をかけると微笑みながら頷いてくれました。
これで朝までひとりさんと一緒と思うと嬉しいですね。ああ、いえ、もちろんそれを目的にワザと伝えなかったとかではなく、本当に気付かなかったのですが……。
「では、迎えの車を呼びますね」
「あ、それならふたりとも、迎えがくるまでうちに来なよ。お茶でも出すよ!」
「ありがとうございます。それでは、せっかくですしご厚意に甘えさせてもらいましょうか……」
「あっ、はい。それじゃあ、お邪魔しますね」
「ちょっと小腹も空いてるし、コンビニでお菓子とジュースでも買って行こ!」
迎えの車は呼べば30分かからず来ますが、虹夏さんは私とひとりさんが遊びに来るというシチュエーションを楽しんでいる様子でした。それなら、少し時間を空けた方がいいですね。
「それでしたら、迎えはあとでタイミングを見て呼びますね」
「うんうん。せっかくだし、3人でちょっと遊ぼうよ。ゲームとかもあるよ!」
「にっ、虹夏ちゃんの家に行くのって初めてですね」
「別に特別ななにかがあるわけでもないけどね~」
楽し気に話しながら移動して、途中のコンビニで飲み物や食べ物を少し購入してSTARRYの入っている建物の3階にある、虹夏さんの家にお邪魔することになりました。
「ささ、ふたりとも入って!」
「お邪魔します」
「おっ、お邪魔します」
虹夏さんに促されて家に入り、最初にリビングに向かうと……そこには以前私とひとりさんがプレゼントした巨大なテディベアにもたれ掛かり、小型のテディベアを抱きしめてテレビを見ている部屋着の星歌さんが居ました。
「うん? 虹夏戻ったの――かっ!? ぼ、ぼっちちゃんと、有紗ちゃん!? な、なな、なんで……」
「こんばんは、星歌さん。ひとりさんの終電が無くなりまして、私の家に泊ることになったのですが迎えが車で少し時間がありまして、虹夏さんの勧めもあってお邪魔させてもらいました」
「そ、そそ、そうか……ま、まぁ、ゆっくりしていけ」
「はい。ありがとうございます」
星歌さんはおそらく気恥ずかしさから、慌てた様子で手に持っていたテディベアを隠そうとしましたが……少しして、そもそもそのテディベアを贈ったのが私とひとりさんだったことを思い出したのか、若干恥ずかし気に顔を逸らしながらゆっくりしていくといいと言ってくれました。
「お姉ちゃん、ゲームしたいからテレビ使っていい?」
「ああ、別にいいがなんのゲームやるんだ? 私はホラー系はNGな」
「え? お姉ちゃんも参加する気なの?」
「……あ、いや、別にそういうわけじゃ……」
虹夏さんに突っ込まれた星歌さんは気まずそうに視線を逸らしましたが、なんとなく一緒に遊びたいという雰囲気が伝わってきました。
「虹夏さん、せっかくですし星歌さんにも入ってもらいませんか? 3人よりは4人の方がチーム分けが出来て遊びやすいと思うのですが……」
「有紗ちゃん……」
「あ~たしかに、そうかも、じゃあ4人で遊べるゲームしよう! リョウとよくやる陣取りゲームが4人で出来たはずだから、これにしよう!」
「あっ、はい」
そう言って虹夏さんが笑顔で取り出したのは、非常に有名な陣取りゲームでひとりさんの家にもあって一緒にプレイした覚えがありますね。
「ふたりとも、このゲームやったことある? お姉ちゃん滅茶苦茶下手だけど……」
「うるせぇ、難しいんだよこれ……」
「ひとりさんの家にあるので、少しだけ経験はあります。とはいえ、まだ素人なのでお手柔らかにお願いします」
「あっ、虹夏ちゃん。有紗ちゃん…‥鬼強いです」
「うん。いまなんとなくそんな気がした。まぁ、でも私も結構強いから、いい勝負はできると思うよ!」
そうしてひょんなことから始まった4人でのゲームは思いのほか盛り上がり、再び時間を忘れて熱中してしまいました。
時花有紗:なんでもできるので、ゲームも鬼強い。そもそも基礎スペックがチート級なので、大抵のことは一度やればすぐコツを掴む。
後藤ひとり:手先は器用なのでゲームの腕はそこそこ、有紗にくじで当てたトゥイッチを貰ったので、たまに一緒にゲームで遊んだりしている。
伊地知虹夏:リョウとよく遊ぶのでゲームの腕前は高い。なんだかんだで有紗とひとりが遊びに来て楽しそう。
伊地知星歌:有紗とぼっちちゃんから貰ったテディベアを愛用している。ゲームは下手。