ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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九十八手娯楽のゲームプレイ~sideB~

 

 

 STARRYの店内では、店長である星歌がノートパソコンを操作して仕事をしており、その近くで仕事とは全く関係のないきくりが酒を飲んでいた。

 きくりがふらっとやってきて開店前の店内で酒を飲んでいるのは度々ある光景であり、星歌もPAも慣れたのかもはやノーリアクションだった。

 するとそんな中できくりが、ふと思いついたように口を開いてゆるい口調で星歌に声をかける。

 

「あ~先輩。私今日誕生日なんですよ~なんかください」

「うん? ああ、そうか、おめでとう……じゃ、ドリンクコーナーにある水道で水を一杯だけ飲んでいいぞ」

 

 本日9月28日が誕生日であると告げるきくりに、星歌は視線はノートパソコンに向けたままで答える。

 

「え~誕プレが水道水って、先輩相変わらずツンがきつ過ぎません? 可愛い後輩ですよぉ、私はちゃんと先輩の誕生日お祝いしたのに……」

「お前、自分が私になんの誕生日プレゼント渡したか思い出してみろ」

「え~と……お酒でしたっけ?」

「それは有紗ちゃんにだろうが! お前が渡してきたのは、変な期限切れのシールじゃねぇか。お前と山田はほぼタダ飯食いに来ただけで、プレゼントはワースト争いだからな。いや、むしろまだ山田のプレゼントの方がマシだったレベルだ」

「あ~そう言われればそうだったような、あはは……」

 

 呆れたように告げる星歌の言葉を聞いて、きくりは苦笑しながらドリンクコーナーに向かい、星歌が言った通り水道水を一杯だけ汲んで戻ってきた。

 そして、今度は少し離れた場所に居たPAに対して声をかける。

 

「PAさんは? ほら、私たち仲良くしてるよね? 結束バンドの皆にやさぐれ三銃士ってひとまとめにされてるぐらいだし……」

「むしろ私としては不名誉なんですが……ん~そうですねぇ」

 

 きくりの言葉に嫌そうな表情を浮かべたあとで少し考えると、PAはドリンクコーナーに移動して冷凍庫から氷をふたつほど持ってきてきくりが手に持つコップに入れた。

 

「誕生日おめでとうございます」

「わ~い、これで冷たい水が飲める……私の扱い雑じゃない?」

「むしろ好待遇なレベルだろ」

 

 文句を言うきくりに星歌が呆れたように返し、そのタイミングでPAがボソッと小さな声で呟いた。

 

「……まぁ、おふたりとも私の誕生日にはプレゼントはおろか、おめでとうの一言すらなかったですけどね」

「「……」」

 

 その感覚はなんと表現するべきだろうか……迂闊にも地雷を踏んでしまったことを自覚したとでも言うべきか、星歌ときくりはなんとも気まずそうな表情でPAを見る。

 PAは微笑みを浮かべていたが、心なしかその笑顔は黒いような……そんな気がした。

 

「……あ、いや、私はそのPAさんの誕生日知らないし……せ、先輩は?」

「あ、えっと、た、たしか11月だ……そう、11月の……えっと……」

「……」

 

 きくりはPAの誕生日を知らないし聞いたことも無かった。では星歌はというと、確かに聞いた覚えはあった。おぼろげに11月であることは記憶している。

 だが、正確な日付が出てこない。無言で微笑むPAをチラリとみて青ざめながら、星歌は自信なさげに呟く。

 

「……18日とかだったっけ?」

「11日です」

「す、すまん。今年は絶対忘れない……」

 

 とりあえず状況が悪すぎる。なにせPAはちゃんと星歌の誕生日パーティに参加していたし、プレゼントも渡してくれたのだ。どう取り繕おうと、PAの誕生日を祝っていない事実が消えるわけではないので平謝りするほかなかった。

 

「……あ~でも、た、たぶん、私たち以外も知らないんじゃないかな~ほらPAさんとあんまりそういう話はしないし、実際他の子たちも……」

「有紗さんは誕生日プレゼントをくれましたけどね」

「……すみませんでした」

 

 自分たちだけでなく他の人たちも祝いをしていないのではないかと思ったが、有紗はしっかり誕生日を祝っていたようだった。

 

「……まぁ、本当に有紗さんだけでしたけどね。あとはグローバルな友人たちが祝ってくれたぐらいで……他は完全スルーどころか、私の誕生日を知りもしない雰囲気でしたね。ふふ、所詮私は影の薄い女ですよ」

「せ、先輩、PAさんが闇背負ってるんですけど……」

「お、落ち着け、今年は絶対祝うから……」

 

 余談ではあるがPAがいうグローバルな友人というのは、音戯アルトという名で活動している動画配信で誕生日企画を行ったという話であり、実際にちゃんと誕生日を祝ってくれたのは有紗だけである。

 若干の負のオーラを纏ったPAを、星歌ときくりはしばし必死に慰めていた。

 

 

****

 

 

 STARRYである意味緊張感のある空気が出来上がっていた頃、虹夏はストレイビートの事務所で都と打ち合わせをしていた。

 

「いよいよスタジオでのレコーディングです。来週と再来週の土日4日間で5曲録り終えてください。現場には私も同行しますので、当日までに万全の準備をお願いしますね」

「はい!」

「ところで、話は変わりますが皆さんの学生生活の方はどうですか? そろそろ中間テストの時期でしょうし、伊地知さんは受験勉強もあるでしょう?」

「あ、私は問題ないです。模試もA判定ですし……他は、リョウがアルバム制作のせいにして全然勉強してないのが心配ですね」

「ふむ、時花さんはおそらく心配ないでしょうが、後藤さんと喜多さんは大丈夫そうでしょうか?」

 

 都もそれなりに結束バンドの面々のことは把握してきており、有紗に関しては成績の心配をする必要はないと感じていた。実際それは正解であり、ひとりや喜多を心配する気持ちも理解できるのか、虹夏は苦笑を浮かべつつ頷く。

 

「大丈夫です。そのふたりには有紗ちゃんが毎回勉強を教えてるので、喜多ちゃんは成績上位ですし、ぼっちちゃんも安定してますよ」

「なるほど……おふたりに指導できる余裕があるということは、やはり時花さんは学力も高いんですか?」

「本人は全然普通みたいな顔してますけど、滅茶苦茶頭いいですね。なんなら、私よりいいので時々受験勉強で分からないところを教えてもらったりしてますし……」

「それは凄いですね。ともかく、学業に影響が出ていないのならよかったです」

 

 レーベル側の都としてはもちろんアルバム制作に全力を出してくれるのはありがたいが、それで高校生活に影響が出てしまったら本末転倒とも考えており、その辺りが問題なさそうなのでホッとしていた。

 するとそのタイミングで、お茶を持ってきた愛子が虹夏に尋ねる。

 

「そういえば、レコーディングには有紗さんは来るの?」

「ええ、来ますよ。有紗ちゃんは演奏メンバーじゃないですけど、耳が凄くよくて音楽センスもあるのでよく意見とか出してもらってますし……あとなにより、有紗ちゃんが居るといないとじゃぼっちちゃんの調子がまったく違うので……」

「あのおふたりは本当に仲が良いですよね」

「あはは、バカップルですよバカップル」

 

 そうして他愛のない話をしつつ、レコーディング当日の予定などをしばし話し合っていった。

 

 

****

 

 

 時を同じくして後藤家のひとりの部屋では、ひとりが若干戸惑った表情を浮かべていた。

 

「……あっ、あの、有紗ちゃん?」

「はい?」

「なっ、なんで私は、いまこんな状態に?」

 

 現在のひとりは、有紗の膝枕に横になっており頭を撫でられていた。いや、体勢自体はそこまで問題ではない。過去にも膝枕をしてもらったことはあるし、なんだかんだで有紗の膝枕は安心できるという思いもある。

 しかし、いつ家族が来るか分からない自宅でこの状態というのは少々落ち着かない部分があった。

 

「なぜと言われると、ひとりさんが勉強を教えたお礼に私の要望を聞いてくださるということだったので、この状態になってるわけですね」

「……でっ、ですよね? 私がお礼する側だったはずなんですけど……」

 

 そう、事の発端は中間テストに関わることだった。今回も有紗に指導してもらったおかげで、無事全教科平均点を超える安定した得点を獲得することができた。

 そのお礼ということで、今日遊びに来ていた有紗になにかお礼に出来ることがあればと尋ねた結果、有紗に膝枕される形となった。

 

「……うっ、う~ん。有紗ちゃんは、これでいいんですか?」

「はい。こうしてひとりさんが、私の腿に頭を乗せていて、その頭を撫でられるのもいいですし……そうやって見上げてくれたひとりさんと目が合うのも嬉しいです」

「あぅ……そっ、そうですか、まぁ、有紗ちゃんがいいなら……」

 

 ひとりとしては、有紗にお礼をしたかったので若干の不完全燃焼感はあったが、有紗の声は非常に楽しそうであり、ひとりを膝枕することを喜んでいるのが伝わってきた。

 なので、有紗が喜んでいるのならいいかとひとりが気を緩めた瞬間、ふっと有紗がひとりの首筋を優しく撫でた。

 

「はひゃんっ!? あっ、ああ、有紗ちゃん!?」

「ふふ、申し訳ありません。つい、イタズラ心が湧いてきてしまって」

「もっ、もぅ、ビックリするじゃないですか……」

「でもひとりさんがこちらを向いてくれたのは、なんだか嬉しいですね」

 

 首を撫でられてビックリしたひとりが有紗の方を向くと、有紗は謝罪したあとで楽し気にひとりの頬を撫でたりといった行動をとる。

 

(うぅ、なんかくすぐったいというか……優しく頬を撫でられるのはドキドキして心臓に悪いというか……でっ、でも、有紗ちゃんが幸せそうで文句も言い辛い……うぅ、有紗ちゃんへのお礼だし、しばらく恥ずかしさは我慢しよう)

 

 愛おしそうな表情で顔を撫でてくるのはなかなか破壊力があり、ひとりの顔は既に真っ赤にはなっていたが、それでも有紗へのお礼という部分が大きいのか、文句を言ったりすることは無かった。

 高鳴る胸の音と、優しい手の感触にまるで風呂場でのぼせるかのような、そんな落ち着かない気持ちを感じつつ……それでも心のどこかで、こうして有紗といちゃついているかのような状況を喜んでいる気持ちも、僅かではあるが確実に感じていた。

 

 そのまま、奇なことにふたりは、同じタイミングで虹夏が都に語っていた通りバカップルのような雰囲気で、しばらくじゃれ合うように甘い空気を醸し出していた。

 それはもう途中で飲み物を持ってきた美智代が、部屋の入口の襖を少し開けてすぐに閉じたぐらいには仲睦まじい様子だった。

 

 

 




時花有紗:バカップルしてた。ひとりを膝枕するのはかなり好きなのだが、ひとりが結構恥ずかしがるため、こういった際のお礼を利用して実行している。

後藤ひとり:バカップルしてる。こんな姿を家族に見られたらどう言い訳しようと考えているが……そもそも言い訳する必要も無いぐらいには、家族公認の仲である。

廣井きくり:誕生日は9月28日。

PAさん:誕生日は11月11日、アニメの設定資料で判明。
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