ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百二手襲来のピアニスト~sideA~

 

 

 それは10月も終わりに差し掛かった日のことでした。いつものようにSTARRYにて練習のあとで打ち合わせを行っていた際に、虹夏さんがテンション高めに提案してきました。

 

「今年のクリスマスは自主企画ライブをしよーと思います!」

「自主企画?」

「ブッカーやライブハウス主体ではなく、バンド側がライブハウスの枠を1日貸し切って行うライブです。自由度が高くいろいろなことができる代わりに、出演者の選定や宣伝まで全て私たちで行う必要があるので大変ではありますね」

 

 虹夏さんの言葉に首を傾げていた喜多さんに簡単に説明します。しかし、自主企画ライブですか……クリスマスということは、星歌さんの誕生日も関係しているのかもしれません。

 その考えを肯定するように、虹夏さんが笑顔で告げます。

 

「お姉ちゃんの31歳の誕生日だし、それも兼ねてやろうと思ってるんだよ!」

「へ~楽しそうですね」

「イベント名は題して……『結束バンド初企画ライブ生誕31年クリスマスライブ!』かな!」

「私たちがとんでもないベテランバンドみたいになってませんか!?」

 

 たしかに虹夏さんが提案したイベント名だと、結束バンドが結成31年目のように聞こえますね。まぁ、その辺りはあくまで仮のものですし、今後の話し合いで調整すればいいでしょう。

 

「確かに結束バンドの人気もそろそろワンマンライブを視野に入れてもいいぐらいになっていますし、新年の新曲リリース前の宣伝にも適していますね。ただ、よくクリスマス当日を押さえられましたね?」

「ああ、ダメ元だったんだけどなぜかこの日だけはぽっかり空いてたんだよね~」

 

 クリスマスは当然ながら大きなイベントシーズンですし、ライブハウス側としても稼ぎ時ではあります。そこが丸々空いていたと考えると……偶然ではなく、確実に意図的に空けていたんでしょうね。星歌さんはサプライズが好きなようですし、こういった企画を待ち望んでいたのでしょう。

 

「まぁ、ともかくそんなわけでいつもより準備が多くて大変だけど、きっとやりがいは十分あるから皆で頑張ろ~!」

「お~!」

 

 とりあえず皆さんも乗り気な様子で、虹夏さんと喜多さんを中心にあれこれと案を考え始めました。ひとりさんもソワソワとしており、少し楽し気な雰囲気を感じます。

 ただ、果たしてそう上手くいくでしょうか……クリスマスとなると、当たり前ですが他でもイベントは多いですし……。

 

「……ねぇ、有紗。これ大丈夫だと思う?」

「う~ん。おそらく苦戦はすると思いますね。ブッキングライブに参加するのと、企画から主体で行うのではまったく変わってきますし……リョウさんも不安ですか?」

「というか、虹夏がハイテンションで突っ走る時は、だいたい楽観視してるっていうか……失敗フラグ」

 

 結束バンドの人気はたしかにかなり上がっていますが、バンド同士の横の繋がりはあまり多くないので、問題は果たして十分な演者を確保できるかどうかですね。

 まぁ、とはいえ否定的なことばかりを考えても仕方がないですし、乗り気な雰囲気に水を差すのもよくないので、細かな問題は後々詰めていきましょう。

 

「じゃ、なにか提案ある人~!」

「はいは~い、サンタコスしたいです」

「コスするなら、限定ブロマイドも出そう。絶対売れる」

「あっ……うっ……」

 

 盛り上がっている虹夏さん、喜多さん、リョウさんの3人の横で、ひとりさんが話に加わる切っ掛けがつかめず困惑していたので、それを助けるために私はひとりさんに声をかけます。

 

「ひとりさんはどうですか、なにかクリスマスらしい案などはありますか?」

「あっ、有紗ちゃん……あっ、えっと、クリスマスっぽい曲とか……」

「なるほど、クリスマスソングのカバーなどもいいかもしれませんね。クリスマスソングには著作権フリーの楽曲も多いので、ロックアレンジなどをしてもいいかもしれませんね」

「お、いいじゃん! たのしそ~。ぼっちちゃんは、クリスマスソングとかも弾ける?」

「あっ、はい。一度聞けば大体は……」

 

 ひとりさんがおずおずと提案した案に虹夏さんも乗り気で、クリスマスソングのロックアレンジをやろうという方向で話が進んでいきます。

 ちなみに、ひとりさんはクリスマスソングも一通り弾くことはできますが、青春コンプレックスを刺激するとかでギターヒーローのアカウントでもクリスマスソングのカバーは行っていなかったみたいです。

 ただ、最近は青春コンプレックスはほぼ克服したようで……実は、今年は一緒にクリスマスソングのカバーを演奏して投稿しようという話になっていたりします。

 

「なんかおもしろそーな話してますね!!」

「えれたちも混ぜてくださーい」

「そうですね。猫々さんや恵恋奈さんの意見も聞かせてもらえれば助かります」

 

 私たちの話に興味を持った猫々さんと恵恋奈さんが近づいて話に参加してきました。もちろんSTARRYのスタッフでもあるおふたりの協力も必要になってくるので、話に参加してもらうことになりました。

 

「えれも集客なら協力できますよ。宣伝チラシとか作るの得意なので~」

「わー助かるわ」

 

 恵恋奈さんは推し活でうちわなどを作る機会もあるとのことで、チラシなどの作成や宣伝を手伝ってくれることになりました。

 恵恋奈さんは交流関係も広いですし、そういった分野には非常に強そうです。ただそうなると、猫々さんはこれといったやることが見つからないのか、落ち着きなく視線を動かしてから決意を込めた目で立ち上がりました。

 

「じゃあ、ウチはさっそく外で呼び込みしてきます!!」

「それはいいかな……」

 

 当日であるならともかくとして、現時点で外での呼び込みは意味はないでしょう。ただ猫々さんとしては、なにか力になりたいのでしょうね。どこかソワソワとした様子で視線を動かしていたので、私が声をかけることにしました。

 

「……でしたら、猫々さんは当日の飾りつけに協力してください。クリスマスらしい飾りつけを行うのはそれなりに重労働ですし、飾りの買い出しなどもありますので体力に自信のある猫々さんにはそういった仕事を手伝ってもらいたいです」

「はい!! 任せてください、バイトリーダー!!」

 

 猫々さんに関しては、やる気が空回りしてしまう典型的なタイプなのである程度こちらでコントロールしてあげるのがいいです。恵恋奈さんはその辺りも強かな部分があって、抑えるべきところは抑えますが……猫々さんは良くも悪くも常に全力です。

 

「……まぁ、ですが、そういった企画以上に出演バンドを早めに決める必要があるでしょうね」

「あ~そこは大事よね。伊地知先輩、出演バンドに当たりは付いてるんですか?」

「廣井さんとかSIDEROSとかケモノリアとか、私たちと親交の深いバンドにお願いするつもりだからね」

「そんなに簡単に集まる? 自分たちのライブもあるんだし、結束バンドの企画ライブなんか優先してくれるかな?」

 

 やはりこういう時にリョウさんは冷静かつ正確に状況を把握しているので頼りになります。虹夏さんは、いまはテンションが上がってしまって少し楽観視している雰囲気があるので……。

 

「あっ、えっと、私も難しいんじゃないかなぁって……」

「え~そうかな?」

「有紗、どう思う?」

 

 ひとりさんもある程度冷静に引いて状況を見ているみたいで、自主企画ライブの成功がそう簡単ではないと認識している様子でした。

 するとそのタイミングでリョウさんが私に話を振ってきたので、軽く頷いてからそれに返答します。

 

「そうですね。少なくとも、いま虹夏さんが挙げた3組に関しては参加はほぼ無理だと思います」

「……え? そ、そうなの?」

「ええ、まず毎年新宿FOLTではSICKHACKのクリスマスライブを行っているという話ですし、メインであるSICKHACKの参加は確実に無理です。そして、SIDEROSもFOLTをホームとしていますし、去年も一昨年もSICKHACKのライブに出ているので、こちらに参加するのは無理でしょう。ケモノリアに関しても同様で、あれだけの人気バンドですと、クリスマスライブはほぼ確実にホームであるライブハウスで予定が組まれているはずです」

「そ、そういえばFOLT組は毎年クリスマスライブしてたんだった……ど、どうしよう……ほ、他にもある程度知り合いのバンドはいるけど……」

 

 私の説明を聞いて、どうやら虹夏さんも参加バンドを集めるのは簡単ではないと悟ったようで先ほどまでとは違って、青ざめた表情に変わりました。

 最悪ワンマンライブという手もありますが……流石にクリスマスイブという激戦時期にワンマンを行えるだけの集客力が結束バンドにあるかと言われれば……難しいですね。

 

「あっ、そっ、その、私のお父さんもいちおうバンドに入ってましたし、現役の頃のメンバーと交流もあるみたいなので、頼めば出れる可能性も?」

「……ぼ、ぼっちちゃんのお父さん?」

「ああ、虹夏さん。実力に関しては安心していいですよ。お義父様のバンドは過去に一度だけですが、ローカルCMに使用されたりもしたという話なので、実力は確かですよ」

「それならいちおう候補にはなるんじゃない?」

 

 お義父様はブランクはあるとはいえ、元々は本格的にバンド活動を行っていたので実力的には安心できます。ただ、どうしても他の参加者との年齢差はあるので即決は難しいでしょうが……。

 

「と、とりあえず当たれる伝手に声をかけてみる形で頑張ろう。ワンマンになると箱代も十数万とかになるから、ノルマひとり5万とかになっちゃう」

「まぁ、箱代に関しては別にどうとでもなるので心配しなくても大丈夫ですよ」

「確実にどうとでもできるであろう有紗ちゃんが言うと、説得力が違うわね」

 

 いざワンマンライブになったとしても、ノルマ代は別に私が支払えばいいので問題はありません。ただ、流石に初めてのワンマンライブがいきなりクリスマスイブというのはハードルが高いので、出来れば回避したいところですが……。

 ともかくひとまずは知り合いに当たりながら、結束バンドの動画サイトなども利用して宣伝をして参加バンドを募集していこうという話で纏まりかけたタイミングで、STARRYの入り口のドアが勢いよく開かれました。

 

『ここかな? おじゃましま~す! あれ? この空気、もしかしてまだ開店前?』

 

 聞こえてきたのはフランス語であり、その声に聞き覚えがあった私は慌てて振り返りました。するとそこには、キャスケットを目深に被り、サングラスをかけたラフな恰好の女性が居て、その姿を見た瞬間私は思わず立ち上がりました。

 

『あ! 有紗~!! やっほ~!!』

『な、なんで貴女が……玲さん!?』

 

 唐突にSTARRYに現れたのはパリに住んでいるはずの友人にして世界的なピアニストである琴河玲さんでした。いつの間に日本に? というか、なぜここに?

 あまりに唐突な事態に呆然とする私の視線の先で、玲さんは楽し気な笑顔を浮かべていました。

 

 

 




時花有紗:さすがの有紗ちゃんも、唐突なピアニスト登場にビックリ。ある意味ではサプライズは大成功した。

後藤ひとり:有紗のおかげで問題なく話題に参加出来て、疎外感などは感じなかった。リョウと同じくある程度は冷静に状況を把握していた。

琴河玲:年末のコンサートの打ち合わせのために一時日本に来訪して、無理やり時間を作ってSTARRYにきた。有紗を驚かせられたので、サプライズは成功である。
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