ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百三手驚愕の出演決定~sideA~

 

 

 唐突に現れてハイテンションでひとりさんに話しかけていた玲さんを引きはがし、困惑している皆さんに改めて紹介します。

 

「……改めて紹介します。私の友人でピアニストの……」

「琴河玲です! よろしく! あ、開店前に来ちゃってごめんなさい。ライブハウスってあんま来たことなくて……」

「あ、ああ、いや、構わないけど……」

 

 キャスケットとサングラスを外した玲さんが挨拶をして、併せて開店前に訪れたことを謝罪すると星歌さんが戸惑いがちに言葉を返しました。

 戸惑っているのは星歌さんだけでなく他の皆さんもどう反応していいか、分からないといった感じでした。とりあえず私が促す形で皆さんも自己紹介を返しました。

 自己紹介が終わると、玲さんは改めてひとりさんに声を掛けます。

 

「さっきはごめんね。改めて、君がひとりちゃんだよね? 有紗の恋人の!」

「あっ、はい――あえ!? ちっ、ちがっ、有紗ちゃんと私は別に恋人とかじゃなくて……」

「うんうん、そっか~恋人じゃな――ううん? え? 恋人じゃない?」

「私とひとりさんは、いまは普通の友人同士ですよ」

 

 ひとりさんの発言にキョトンとする玲さんに、私も補足で説明を入れます。あくまでいまはという前提は付きますが……現時点では友人同士です。私の感覚ではすでに友達以上恋人未満の段階には進めていると思っていますが……。

 そんな私の言葉を聞いた玲さんは、心底驚いたという顔でひとりさんと私を交互に見て口を開きました。

 

「いやいや!? あんなに惚気まくってたのに、恋人じゃないの!? え? でも、結婚するとか言ってなかったっけ?」

「ええ、私の中では将来ひとりさんと結婚することは既に確定しているのですが、現時点ではあくまで友人です」

「………………ひとりちゃんもさ、有紗のこと結構分かってると思うんだけど……有紗って普段は凄く落ち着いてて冷静なのに、時々イノシシでももうちょっと曲がるだろってぐらい猪突猛進になるよね?」

「あっ、わっ、分かります。しかもそうなった時は、だいたいこっちの話聞いてくれないです」

「だよね! なんか変なスイッチあるよね!!」

 

 不思議ですね。なぜかいまの一瞬で玲さんとひとりさんが妙に意気投合したような気がしました。私という共通の知り合いの話題で盛り上がっているというか、私の失態で盛り上がっているというか……なんというか、少し微妙な気分です。

 

「う~ん。ともかくひとりちゃんはまだ有紗の恋人ではないと、でも別に有紗のこと嫌いってわけじゃないんだよね?」

「そっ、そそ、それはもちろん好きですが……あっ、あくまで友達として! そう、友達としてです!!」

「……ピンク色だ」

「あえ? かっ、髪がですか?」

「……有紗ほど真っピンクじゃないけど……脈は十分ある感じかな?」

「あっ、あの?」

「あ、ごめんごめん。なんでもないよ、気にしないで!」

 

 おそらくですがいまの玲さんの発言は、ひとりさんの髪の色に対してのことではなく声に関することだと思います。

 玲さんは共感覚があり音を色として認識することができます。なので人の声から色で感情を読み取ったりすることもあります。こればかりは本人にしかわからない感覚ですが、以前フランスに行った際にひとりさんのことを話す私の声を「凄く濃いピンク色」と称したことがありましたので、似たような感情をひとりさんから感じ取ったのかもしれません。

 

「……ところで、改めて聞きますけど、玲さんはなぜSTARRYに?」

「ああ、さっきも少し言ったけど、年末に日本でコンサートやる予定でコンサートホールの下見に来たんだ。今回は下見だけだから、すぐフランスに戻るんだけど12月はスケジュールに結構余裕があってさ、有紗から聞いてた結束バンドのライブを直接見たいな~って思って、ライブ予定を聞きに来たんだ」

「なるほど、それで偶然私たちが居たというわけですね」

「うん。有紗が居たのはラッキーだったね。おかげで話がスムーズだよ。だから12月のライブ予定を教えてもらいたいんだ。まだ決まってなければ大体の日でもいいよ」

 

 結束バンドのライブを見たいという玲さんの言葉を聞いて、私はチラリと虹夏さんに視線を向けます。現状結束バンドはクリスマスに自主企画ライブをやる予定ではありますが、その企画が難航している状態です。

 最悪出演バンドが集まらなくてキャンセルということも視野に入れておくべきですし、今の段階で伝えていいかどうかはリーダーである虹夏さんの判断に委ねようと思います。

 私の視線からそれを察した虹夏さんは一度頷いたあと、やや緊張した様子で玲さんに声を掛けます。

 

「……えっと、琴河さん。ライブの日程ですよね?」

「うん。えっと、たしか……虹夏ちゃんだね! あ、ボクのことは玲って名前で呼んでくれていいし、敬語じゃなくて大丈夫だよ。というか、虹夏ちゃんの方が年上だし、ボクが敬語使うべきだよね?」

「あ、いや、敬語は大丈夫。じゃあ、玲ちゃんって呼ばせてもらうね。12月のライブの日程だけど、いちおうクリスマスイブ……12月24日に自主企画ライブをやる予定だから、ライブ日はその日になると思う。とはいえ、まだバンド集めで苦戦してる状態で、最悪ワンマンライブとかになる可能性もあるので、出演時間とかはまだ決まってないんだ」

「……自主企画ライブ? えっと……有紗~普通のライブとどう違うの?」

「自主企画ライブというのは……」

 

 玲さんは本人が先ほど言っていたようにあまりライブハウスなどには来たことがないみたいで、自主企画ライブという意味が分かっていないようだったので、私が簡単に説明しました。

 すると、説明がすすむと玲さんの目がキラキラと輝きだして、目に見えてわかるほど笑顔になってきました……嫌な予感がします。

 

「……なるほど、面白そう! ボクも出る!!」

『はぁ!?』

 

 玲さんの言葉に当然ですが皆さんが驚愕した声を上げ、私はやはりこうなったかと軽くため息を吐きました。目を輝かせ始めた時点で嫌な予感はしていました。

 玲さんは子供っぽいところがあり、そういった楽しそうなイベントは大好きです。毎年の音楽の日を楽しみにしていますし……私がもっと早い段階で気付いて誤魔化すべきでした。

 

「……玲さん。単独でコンサートホールを満席に出来る貴女がライブハウスで演奏なんかしたら、大騒ぎになるでしょう」

「ボクだって分からなければいいんだよね? じゃあ、大丈夫! 変装するし、ピアノじゃなくてサックスで演奏するから、それならいいでしょ? ね?」

「う、う~ん」

 

 たしかに玲さんはサックスも演奏できますし、音楽の日などにサックスを披露することもありますが、ピアノに比べればずっと演奏レベルは低いです。もちろん玲さん自身の音楽センスの高さもあって、かなり上手いのですがピアノほどの凄まじさはないので、演奏で玲さんと気付かれる可能性はほぼ無いです。

 そしてなにより面倒なのは、一度こうなった玲さんはかなり頑固で駄々をこねることも多いので説得が困難ということです。

 

「……虹夏さん、どうしますか? たしかにサックスなら、玲さんと気付かれて騒ぎになる可能性は低いですし、ロックンロールやプログレッシブロックなどのライブハウス向きの演奏もできるとは思いますが……いちおう腕前に関しては保証します」

「た、確かに出演バンドどうしようって悩んでたし、有りと言えば有りな気もする」

「私も有りだと思う。有紗が腕を保証するぐらいだから、結構なレベルだと思うし、ジャンル的にも喧嘩しない。あと単純に、出演バンドを探す手間がひとつ減る」

 

 虹夏さんが意見を求めるように向けた視線の先のリョウさんが賛成したことで、比較的玲さんの参加に好意的な流れになっていきました。

 そのまま玲さんの出演にひと枠取り、細かな連絡が私が行うということで話がまとまりかけたタイミングで、玲さんが再び口を開きました。

 

「あ、そうだ! せっかくだし、有紗も一緒に出ようよ! 有紗がキーボード、ボクがサックスで!」

「……演奏のバランスはいいかもしれませんが……」

 

 たしかに私は結束バンドの演奏メンバーではないので、出演できる余裕はありますし、サックス単体よりはサックスとキーボードの方がバランスもいいのは確かです。

 

「ひとりちゃんも、有紗がステージで演奏するとこ見たいよね?」

「あっ、そっ、それはたしかに見たいです」

「うぐっ……」

 

 さすが付き合いの長い友人というべきか、玲さんは私の扱いをよく心得ているようです。いまも私がイマイチ乗り気ではないのをすぐに察して、ひとりさんを味方に付ける方向に動きました。

 ひとりさんに期待するような目を向けられてしまえば、当然私の頭の中からNOという選択肢は消えるわけで……。

 

「……分かりました。それで構いませんよ」

「やった~!」

 

 両手を上げてはしゃぐ玲さんを見て、私は軽くため息を吐きます。妙な流れになったものだと……すると、ひとりさんが私に近付いて来て不安そうな表情で声をかけてきました。

 

「……あっ、有紗ちゃん……嫌でした?」

「ああ、いえ、そんなことはないですよ。唐突な流れに少し驚いたというか、相変わらずの玲さんに少々呆れただけです。むしろ、ひとりさんに演奏を披露できるのは楽しみでもありますね」

「あっ、わっ、私も有紗ちゃんの演奏は凄く楽しみです。ふっ、普段は私がステージで演奏して有紗ちゃんが聞いてるパターンなので、その逆ですし……たっ、たぶん、ステージに立つ有紗ちゃんはカッコいいんだろうって思いますし……えへへ、なっ、なんか、変に期待しちゃいます」

「ひとりさんの期待に応えられるように頑張りますね」

「あっ、はい。がっ、頑張ってください! あっ、こっ、コレもいつもと逆ですね。えへへ」

「ふふふ、確かにそうですね」

 

 たしかに普段は演奏に向かうひとりさんを私が応援するという形だったので、こうしてひとりさんに応援されるのは新鮮ですね。

 なんだか、ひとりさんに応援されると本当に何でもできるような気分になるので不思議です。

 

「……ねぇねぇ、虹夏ちゃん。これツッコミ待ちなのかな? あのふたりって、あの空気で付き合ってないとかほざいてるの?」

「ああ、玲ちゃんはあんまり馴染みないかもだけど、これ本当にいつもの感じだから……」

「え? これいつも? ……なんていうか、皆大変だね」

「……あれ? 急に玲ちゃんと仲良くなれる気がしてきた」

 

 

 




時花有紗:ひょんな流れでクリスマスライブに出演確定。なんだかんだでひとりが喜んでくれるならいいかなと思っている。

後藤ひとり:玲いわく、有紗のことを話す際のひとりの声はピンク色……どうも、恋愛感情が籠った声だと、そういう色に見えるらしい。変な流れにはなったが、ライブで演奏する有紗を見るのはとても楽しみ。

琴河玲:やっぱり有紗の親友だけあって、行動力が高いのは一緒。有紗とひとりの様子を見て、チベスナ三銃士と仲良くなった模様。
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