ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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百三手驚愕の出演決定~sideB~

 

 

 STARRYに突然現れた世界的ピアニストにして有紗の友人である琴河玲。彼女が結束バンドの自主企画ライブに参加すると言い出した時はかなり困惑していた面々だったが、少し経てば玲の持ち前の明るさもあってすっかり馴染んでいた。

 

「はい、じゃあ、撮りますよ~」

 

 PAが喜多のスマホを持って結束バンドと有紗、玲の6人が並んでいる写真を撮影し、スマホを返すと喜多ははしゃいだ様子で玲に声をかける。

 

「琴河さん、イソスタに上げてもいいの?」

「いいよ~でも、ボクが帰ってからにしてね。あとあと、年末のコンサートのことはまだ内緒でよろしく」

 

 玲はメディア露出の機会も多い世界的ピアニストであり、活動拠点はパリであるものの日本でもかなり有名人と言っていい。そんな有名人と写真が撮れ、イソスタに上げる許可も貰った喜多は大いにはしゃいでいた。

 そんな様子を見つつ、ひとりは有紗に声をかける。

 

「あっ、なんか、本当にテレビで見る時と雰囲気が全然違いますね」

「テレビの時はキャラクターを作ってますからね。というよりは、マネージャーさんがしっかり指導した上で、口を酸っぱく余計なことを言わないようにと釘を刺しているので……」

「……ボクってそんなに信用無いかなぁ?」

「ピアノ以外に関しては、不安点が多いのは否定できませんね」

 

 事実として玲は本人も認めるようにピアノ……もとい音楽関連以外はポンコツと言っていい。

 

「しょっちゅう言われるんだよねぇ、ピアノ以外はポンコツだって……いやまぁ、自覚あるけどさ」

「ぽっ、ポンコツ?」

「ええ、テレビなどで見た雰囲気ではしっかりしているように見えるかもしれませんが、玲さんはピアノに関わらないことはイマイチというか初めから捨ててるような感じですね。ピアノが関わりさえすれば違うんですよ。コンサートホールの広さや音の反響も計算して、ピアノの位置を細かく指示したりもしますし……ただピアノが関わらないと、もしかすると以前のひとりさんより学力が低いというレベルかもしれません」

「あぇ? そっ、そうなんですか? そっ、その、自分で言うのもなんですけど、有紗ちゃんに教わる前の私って、相当ひどいですよ?」

 

 ひとりは有紗に勉強を教わる前は、全力でやって5教科合計1桁クラスというそれはもう壊滅的な学力であり、そもそも進学はおろか進級が可能なのか疑問に思うレベルだった。

 そんな己より学力が低いかもしれないという言葉に、ひとりは心底驚いたような表情を浮かべる。

 

「ボクの最終学歴って中卒だしね。中学の時の成績表も音楽だけ5であとはお情けの2だったよ」

「玲さんは中学を出てすぐにピアニストとして本格的に活動するためにフランスに移り住みましたからね。頭の出来自体が悪いわけではないんですよ。フランス語もすぐに覚えたので……ただ、それはピアノに必要だったからで、ピアノに必要でないことはまったく覚えませんね」

「ボクはピアノに全振りしてるからね。他は全部ポンコツでOK。その代わりにピアノではボクが世界一だからね」

 

 そうあっさり言ってのける玲は独特の凄みがあり、ひとりだけでなく近くで聞いていた結束バンドの面々も息を飲んだ。

 それは、それほど多くの言葉を交わさなくても理解できたから……玲の言葉が嘘偽りない真実であり、彼女は本当にピアノに全てのリソースをつぎ込んでおり、その自負があるからこその自信だと感じた。

 

「……ところで玲さん、時間は大丈夫なんですか?」

「うぇっ!? あ、えっと……やばっ!? またマネージャーに怒られる!?」

 

 しかし、有紗が一声かければ先ほどまでの凄みはどこかへ消え、時計を見て慌てるちょっと抜けた小柄な少女にしか見えなかった。

 

「あ、それじゃあ、ボクはそろそろ帰るね。皆、今日はありがと~また12月によろしくね! あ、そうだ。皆のこともコンサートに招待したいから、12月29日の予定空けといてね! それじゃ、有紗、また連絡するね!」

「分かりました……とりあえず、先にマネージャーさんに電話をした方がいいですよ」

「了解~。それじゃ、お邪魔しました~!」

 

 そう言ってやや慌てた様子でSTARRYから去っていく玲を見送った後、有紗は軽くため息を吐いてSTARRYに居た面々に謝罪した。

 

「友人がお騒がせしました」

「あっ、いっ、いえ……なっ、なんか嵐みたいな人でしたね」

 

 謝罪する有紗に苦笑しつつ、ひとりは先ほど遭遇した玲のことを考える。自分以上に有紗と付き合いの長い親友……そういう点では、少しもやっとする部分も無いとは言い切れないが、あまり嫉妬心のような感情は湧いてこなかった。

 それは、玲が有紗を恋愛対象として見てはおらず、純粋に親友の恋愛を応援しているのが伝わってきたから……だからこそ、ひとりは少し安心していた。

 

(……いっ、いや、待って!? おかしい! だっ、だって、それだとまるで私が……あぅぅぅ)

 

 

****

 

 

 玲の唐突な襲来から数日経ち結束バンドの面々は、新年からのリリースについての打ち合わせのためにストレイビートにやってきていた。

 

「今日集まっていただいたのは、楽曲リリースのプロモーションの件です。2日間のレコ発ライブを考えているんですが……」

「レコ発!?」

「ええ、もちろん結束バンドさんでのワンマンライブは、絶対に無理とは言いませんがまだ厳しいとも思いますので弊社所属のアーティストもゲストで出る形にはなります」

 

 レコード発売記念ライブを行うという都の言葉に、虹夏を始めとした面々は明るい表情を浮かべる。もちろんCDの売り上げに関わる重要なライブではあるのだが、楽しみという気持ちも強いようだった。

 特に喜多ははしゃいでいる様子で、明るい笑顔で口を開く。

 

「有名なアーティストの人たちと友達になれますかね~!」

「……この前なったじゃん」

 

 有名人と交流が持てるかもとはしゃぐ喜多に、つい先日世界的ピアニストと知り合っただろうとリョウがツッコミを入れる。

 そのやりとりに少し首を傾げつつ、都は話を継続していく。

 

「伊地知さんの大学受験の後にするので、それまでは受験勉強に集中してください」

「はい!」

「それと、他に伝えることは……」

「あ、紙落としましたよ」

「……えーと……」

 

 結束バンドへの連絡事項の書かれた紙を探し出す都だが、普段のキリッとした雰囲気からは想像もできない雑な様子でテーブルの上をポイポイと放り投げながら探しており、それを見た愛子が深いため息を吐いた。

 その様子になんとなく違和感を覚えた面々はさり気なく事務所内を見てみると、打ち合わせを行う部屋からは見えにくい位置に何度も出し忘れたであろうゴミや、絶対に必要ないと思える山のような書類などが置いてあった。

 

「……ちょっと失礼」

「あ、そっちは……ちょっと散らかってますよ」

「ぎゃぁぁぁ!?」

 

 虹夏が普段は利用することがない部屋を確認してみると、そこにある都のデスクは中々に悲惨であり、机の上はゴチャゴチャで、食事などの空容器がそのまま積まれていて、まったく清掃している様子が無かったため、虹夏は思わず悲鳴を上げた。

 

「いつもよりは、ましな方なんですが……」

「念のために少し片づけておいてよかったわね~」

「これ隠蔽したあとなんですか!?」

 

 酷い惨状ではあったがこれでも、普段よりはマシだと語る都と愛子を見て虹夏は信じられないといった表情を浮かべた。

 

「……司馬さんって片付けられない人だったんですね」

「はい」

 

 キリッとした表情で虹夏の言葉を肯定する都を見て、虹夏たちはそっと都を心の中できくりたちと同じ駄目な大人の項目に分類した。

 さすがにあまりの惨状に見ていられないということもあって、全員で清掃をすることになった。家事などで掃除に慣れている虹夏が指揮を執って、それぞれ持ち場に分かれて作業を行っていく。

 

「……複数必要とは思えない書類が複数あるということは、印刷したあとどこに置いたか分からなくなって再印刷することが何度もあるみたいですね」

「あっ、えっと、有紗ちゃん。この辺のは全部まとめていいですかね?」

「ええ、重要そうなものは私が省くので……ひとりさんは手際がいいですね」

「え? えへへ、そっ、そうですか? こっ、こういう単純作業は結構得意です。小学校の頃にベロマーク集計が早くて先生に褒められたこともあります」

「それは素晴らしいですね。単純作業を得意とする方は、特に集中力や忍耐力に優れていると言われていますし、そういった部分がひとりさんのギターの腕前に活かされているのかもしれませんね」

「えへへ、そっ、そんな、褒めすぎですよ……でっ、でも、有紗ちゃんはやっぱり凄いです。テキパキ動いてて、かっ、カッコいいです」

「ありがとうございます。ふふ、ひとりさんにそう言って褒めてもらえると、心が温かくなりますね」

「あっ、わっ、私も一緒です……えへへ」

 

 穏やかな笑顔で有紗が褒めてくれるので、ひとりは非常に嬉しそうであり顔を緩ませながらどこか楽しそうに作業を行っていた。

 そんなふたりの様子を少し離れた場所でチベットスナギツネのような顔で見ていた虹夏に、喜多が声をかける。

 

「……なんていうか、安定のバカップルですよね」

「うん。でも、いちゃつきながらの有紗ちゃんの作業スピード爆速だし、ぼっちちゃんもかなり早くてテキパキ作業が進んでるから文句も言いにくい。まぁ、見ない振りが吉かな?」

 

 いちゃついていて掃除が遅れているのなら文句のつけようもあったのだが、単純に有紗のハイスペックと単純作業が得意なひとり、更にふたりの息が抜群に合っていることもあって、掃除の進みは非常に早い。

 しかも、虹夏が特に指示を出さなくても有紗が次に必要な工程を考えて、ひとりに指示しつつ動いてくれるので、虹夏としても非常に助かる。それを思えば、多少空気を甘くするぐらい目を瞑るかと、そう結論付けた。

 

「虹夏、もう疲れた。休憩してきていい?」

「そんなこというやつには特別に力仕事をくれてやる。そこに積んであるゴミ袋を全部ゴミ捨て場に運べ」

「……鬼、悪魔、虹夏」

 

 

 




時花有紗:相変わらずぼっちちゃんといちゃいちゃしている。この子は本当にブレないというか、ある意味安定している。

後藤ひとり:特にジェラったりとかはしなかった。理由は単純で、そもそも当の有紗から溢れんばかりの……溢れすぎてて困るぐらいにLOVEの感情を向けられているのと、玲が積極的に有紗とひとりを応援している感じだったから。ただ、どうも、いい加減見て見ぬふりはできなくなってそうな印象。

司馬都:片付けられない女。家が汚すぎて事務所で寝泊まりしてるとか? 虹夏は頭の中でやさぐれ三銃士の枠に放り込んでいた。

14歳(仮):登場機会のそこそこある大人キャラでは極めて珍しく、駄目な大人判定を受けていない。14歳関連の言動以外は、作中でも屈指レベルの常識人。
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