ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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sideA=有紗主体の一人称

sideB=ぼっち主体の三人称


初手必殺のプロポーズ~sideB~

 

 

 秀華高校に通う高校一年生後藤ひとりは高校からの帰り道を、トボトボと俯きながら歩いていた。地元の中学では友達のひとりも出来ず、本人にしてみればトラウマとなるやらかしもあって、自宅から片道2時間かかる高校に進学し、高校デビューを夢見ていた彼女ではあるが、儚くもスタートダッシュに盛大に失敗し、高校入学から2週間が経っても、友達はおろか同級生との会話すらほぼ皆無の状態だった。

 

 彼女は中学時代からギターを始めて、毎日コツコツと練習を積み重ね、いつかバンドをやりたいと願ってはいるものの、極端な人見知り……俗に言うコミュ症であり、筋金入りの陰キャでもある彼女は、人との会話はおろか目を合わせることすらできないというありさまであり、当然ながら高校でも友達0人状態を継続中だった。

 いまの彼女の支えは「guitarhero」というハンドルネームで投稿している動画の評価のみであり、いまも早く家に帰ってパソコンで動画コメントを確認しようと考えていた。

 

(……高校に入って2週間。もう周りは仲良しグループを作ってる。自分からそこに入っていくのは……無理。このままだと中学の二の舞に……で、でも、どうすれば……なんで皆、当たり前のように友達とか作れるの? うぅ……考えるのはやめよう。とりあえず、明日から2連休だし、ギター弾いて動画アップして……荒んだ心を癒そう)

 

 辛い現実はとりあえず忘れてネットに逃避しようと、そんな風に考えつつ歩いていたひとりだが、現実とは彼女が想像しているよりも遥かに唐突にとてつもない出来事を発生させた。

 

「あの、突然すみません」

「ッ!?!?」

 

 突然聞こえてきた綺麗な声に、ひとりは飛び跳ねるほどに驚愕する。まさか、道を歩いていていきなり声を掛けられるとは思っておらず、下げていた視線を声のする方に向けて……再び驚愕した。

 

(ど、どえらい美少女が話しかけてきた!? え、えぇ、私? い、いや、人違いでは……)

 

 ひとりの目に映ったのは、煌めくような銀のセミロングストレートヘアーに金色の瞳の絶世の美少女と呼べるような存在であり、上品で高級感のある制服、あまりにも整った容姿とプロポーション……見るからにお嬢様感が凄い相手だった。

 間違っても陰キャの己に話しかけてくるような相手ではないと、ひとりは慌てて周囲を見渡すが、どう見ても目の前の女性が話しかけているのは己で間違いなかった。

 

「私は時花有紗と申します。是非、貴女のお名前を教えていただけませんでしょうか?」

「……あっ、後藤ひとり……です」

「後藤ひとりさん……素敵なお名前ですね。ひとりさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「あっ、は、はい」

 

 ひとりの理解が追い付かないうちに自己紹介し合うこととなり、ひとりの名前をしった女性…‥有紗は、同性であるひとりも思わず見とれてしまうような笑顔を浮かべる。

 元々の整い過ぎた顔立ちもあり、眩しさすら感じる笑顔を浮かべながら有紗は言葉を紡ぐ。

 

「ひとりさん……突然のことではあるのですが……」

「あっ、はい」

「結婚してください!!」

「ふぁっ!?」

 

 予想だにしない言葉に思わず叫んでしまったひとりを誰が責めることができるだろうか。見ず知らずの美少女が街中でいきなり初対面の自分にプロポーズをしてくるなど、想像しろという方が無理な話である。

 

(結婚? はえ? な、なに、この人いきなりなにを……完全に人違いでは? それとも私が忘れてるだけで、幼い頃に結婚の約束をしていたとか……いや、昔から友達いたことないから違うか……え? え? なにこれ、ドッキリ?)

 

 明らかな異常事態と言っていい状況ではあるが、悲しいかなコミュ症の彼女にとって即座に対応することは難しい。

 いや、仮にコミュ症でなかったとしても、このようなことを突然言われて即座に切り返すのも困難ではあるが……。

 

「……あっ、ああ、あの……いい、いきなり……なにを!?」

「貴女に一目惚れしました。結婚を前提としたお付き合いをお願いします」

「へぅっ!?」

 

 とりあえず言葉を返そうとしたものの、戸惑うひとりに対して有紗は一切動揺したりする様子もなくグイグイと話を進めてくる。

 

(ど、どうなってるの!? どういう状況? あと顔がよすぎて直視できない……が、顔面戦闘力の暴力が眩しすぎる)

 

 なにかを言わなければこのまま押し切られてしまう気がするが、なにかを言おうにも思考が追い付かずに言葉にならない。

 体中から汗が噴き出し、頭もパンクしそうなほどではあるがなにもできず、ただアワアワとしているだけのひとりだったが、有紗の方がなにかに気付いた様子で表情を申し訳なさそうなものに変えた。

 

「申し訳ありません、ひとりさん。私は少々急ぎ過ぎてしまっていたかもしれません」

「あっ、えっと……そ、そうですか……」

 

 ひとりの感想としては、少々急ぐどころか音も置き去りにして暴走しているように思えたのだが、それでも気付いて踏みとどまってくれたのは幸いだった。

 たぶんなにか変な誤解があったのだろうと、そう考えつつ胸を撫で下ろしかけたが……。

 

「大変失礼いたしました。『指輪』も用意せずに結婚を申し込むなど、無作法でした。恐れ入りますが、左手の薬指のサイズを測らせていただいてもよろしいでしょうか? 早急に婚約指輪を用意いたしますので」

「あぇぇぇ!?」

 

 ……なにも、まったく分かってはいなかった。人と人はこれほどまでに認識が食い違うものなのだろうか? まるで、地上と宇宙で会話でもしているのではないかというような衝撃だった。

 

(ど、どうしよう。陽キャってこんなにグイグイ来るものなの? 所詮陽キャと陰キャで意思疎通するのは不可能……いや、この人に関しては、陽キャとかそういう問題ではない気がするけど……えっと、とにかく、なにかを言わなくちゃ! このままだと、さ、攫われて拉致監禁コースなのでは!?)

 

 被害妄想極まれりではあるが、混乱したひとりはこのままでは拉致監禁されてしまうという謎の結論に辿り着き、己の身の安全のために必死に言葉を紡いだ。

 

「……あっ、あの……その、ですね。しょっ、初対面で、いっ、いきなり結婚とかは、はは、早すぎるといいますか……こ、ここ、困るといいますか……」

「ふむ。なるほど……」

「もも、もう少し段階を踏んで……」

 

 しどろもどろではあったが、なんとか気持ちを伝えるひとりの言葉に対し、有紗は納得した様子で頷いていた。そうして、少し考えるような表情を浮かべたあとで頭を下げた。

 

「……たしかに、ひとりさんの仰る通りかもしれません。こういったことは、しっかりと段階を踏むべきでしたね。謝罪いたします」

「あっ、い、いえ、分かってもらえたなら……」

 

 ひとりの言い分を認め、謝罪の言葉を口にする有紗にひとりはホッと胸を撫で下ろした。なんだ、話せばちゃんと分かってくれるじゃないかと、そう安心した直後、有紗はひとりの手を握りグイっと顔を近づけてきた。

 

「ではまずはお友達からということで! 是非、ひとりさんの連絡先を教えていただけませんでしょうか!!」

「はひっ!? かっ、顔近っ……わわ、分かりました!?」

 

 吸い込まれそうな金色の美しい瞳に、あまりにも整った顔が急接近してきては同性であっても冷静ではいられない。

 

(はぇぇぇ!? な、なんなのこの人ぉぉぉ……止めて、その異常な戦闘力の顔面を近づけないで、なんか上品でいい香りするし……ひえぇぇぇ、誰か、助けてぇぇぇ)

 

 ここに来てひとりの混乱は最高潮に達しており、なんとかこの場から逃れるために必死に相手の求める情報を提示する。

 完全にテンパっていたひとりは、電話番号などだけでなく自宅の住所まで伝えてしまっていたのだが、幸か不幸かそれに気付くことは無かった。

 

 その後は電車の時間を理由に逃げるように有紗の元を去って、長い時間をかけて家に帰ってから疲れ切った表情で畳の上に倒れた。

 

(……つ、疲れたぁ。いきなりあんな美少女にプロポーズされるとか普通あり得ないよ……え、えへへ、もしかして、私のバンドマンとしてのオーラが惹きつけたとか……あ、あんな、凄いお嬢様っぽい美少女を虜にしちゃうなんて、ギターってやっぱりすご……あれ? でも、私、ギター持ってなかったよね?)

 

 ひとりになったことで心の余裕が生まれたせいか、自己肯定感を満たす妄想を展開するひとりだが、すぐに有紗と出会った際にはギターもなにも持っていなかったことを思い出した。

 

(あれ? ではなぜ? ギターを弾いていない私にプロポーズする要因とかないのでは? はっ!? ま、まさか、あれが噂に聞く……美人局というやつでは!? ホイホイついて行ったら、怖い人が出てきて……ひぃぃぃ)

 

 自己肯定感が低いせいもあってか、有紗が自分にあんなことを言ってきたのはきっとなにか裏があるという思考に思い至った。

 いま、ひとりの脳内では謎の事務所で恫喝されている己の姿が思い浮かんでおり、体を小刻みに振るわせていた。

 

「……ひとりちゃん? なんで床で震えてるの?」

「お母さん……都会は怖いところだね」

「え? なに、急に?」

 

 ひとりは今日都会の恐ろしさを知った。生き馬の目を抜く人ばかりの恐ろしい都会において、己のような陰キャが油断していればあっという間に餌として食い尽くされてしまうと……。

 2時間かかる高校に進学したのは失敗だった。今後はあの通りを通って帰るのはやめておこうか……と、しばしの間そんなことを考えていた。

 

 

****

 

 

 休日、それは学生にとっても社会人にとっても等しく与えられた癒しの時間。後藤ひとりもまた、基本は週に2日だけ訪れる至福の時をまどろみの中で過ごしていた。

 今日ばかりは全てが許される。昼前まで布団に籠っていたとしても、一日中押し入れの中でギターを弾いていたとしても、全てが許されるという素晴らしき日である。

 

「ひとりちゃ~ん! お友達が来てるわよ~」

 

 しかし、そんな彼女のまどろみは母親の声によって打ち破られることとなった。

 

(……友達? トモダチ? お母さん……なんてファンタスティックで意味不明な言葉を……)

 

 声に導かれるように布団から出て移動しつつ、ひとりは不思議そうに首を傾げた。それもそのはずである。ひとりに友達はいない。友達0人記録は未だに更新中であり、友達が訪ねてくるなどあり得ない……なぜなら、居ないのだから、存在しないものがどうやって訪ねてくるというのだろうか?

 それこそ脳内のイマジナリーフレンドが実体化でもしなければあり得ない事態であり、それが母親の冗談であると認識するのは必然であった。

 

「……もう、お母さん。私の友達が来たなんて、嘘つくにしてももう少しマシな……マシな……」

 

 ただ、呼ばれたからにはいちおう顔を出す。そんな律儀な思考で目を擦りながら玄関に移動したひとりが目にしたのは……。

 

「こんにちは、ひとりさん。朝早くから申し訳ありません。またお会いできて嬉しいです」

「ひっ、ひぇぇぇ……」

 

 満面の笑みを浮かべた有紗であった。昨日の出来事は当然のことながらひとりも覚えている。なんなら美人局ではと疑って怯えてすらいた。

 そんな相手が、翌日即座に家にやってきたとなっては、冷静でいられるわけもなかった。

 

(こ、この人……二手目でいきなり本丸(実家)に奇襲してきた!?)

 

 かつて、かの桶狭間の戦いにおいて、織田信長に奇襲された今川義元の心境とは、いまのひとりの心と同じものだったのかもしれない。

 かくして、行動力の化身ともいえる有紗の襲来によって、ひとりの至福の休日は脆くも崩れ去ることとなった。

 

 

 




後藤ひとり:ぼっちちゃん。高校入学2週間でとんでもないのに一目惚れされた。この時点では好感度は無いに等しく、むしろ有紗を恐れている段階。早くイチャイチャしてほしい。
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